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【CEDEC2007】『真・三國無双BB』の開発と、オンラインゲーム運営体制の歴史

『クエイク』『ディアブロ』が先駆者となり、『エバークエスト』がブレイクした90年代後半。すでに国産のオンラインゲームも幾つか存在していたが、運営面に力を入れていたタイトルは皆無だった。オンラインプレイはシングルプレイの延長線上という認識で、「ゲームではなくサービス」という考え方もなかった。その結果、多くのタイトルで不幸な事態が続出した。

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『クエイク』『ディアブロ』が先駆者となり、『エバークエスト』がブレイクした90年代後半。すでに国産のオンラインゲームも幾つか存在していたが、運営面に力を入れていたタイトルは皆無だった。オンラインプレイはシングルプレイの延長線上という認識で、「ゲームではなくサービス」という考え方もなかった。その結果、多くのタイトルで不幸な事態が続出した。

その後『ファイナルファンタジーXI』や『ラグナロクオンライン』のブレイク、アイテム課金の開始など、紆余曲折を経てオンラインゲームの市場が拡大。今ではシングルプレイのおまけではなく、オンライン前提で開発されるタイトルも普通になった。また多くの企業で、オンラインゲームは開発と運営がビジネスの両輪という認識も定着した。CEDEC初日に「一騎当千の爽快感をオンラインへ」と題して行われた、コーエー藤重和博氏の講演も、こうした国産オンラインゲームの歴史を象徴するような内容だった。

コーエー ソフトウェア事業部 ソフトウェア4部長 シニアマネージャー 藤重和博氏


新しく社長に就任した松原健二氏の後任として、本年4月にソフトウェア事業部ソフトウェア4部長に就任。事実上オンラインタイトルを任せられた形の藤重氏も、もともとはR&D部門サウンド担当として1993年にコーエーに入社した一プログラマーだった。しばらくPC-9801シリーズのFM音源の制御プログラムなどを担当した後、「信長の野望」「三國志」シリーズの開発に参加。「決戦III」でディレクターデビューを飾った後、松原氏プロデュースの下で『真・三國無双BB』の開発に着手した。

ただし「真・三國無双」シリーズは、「一騎当千」の爽快感が特徴の、同社の看板ゲーム。PS2だからこそ実現したアクションゲームでもある。それまで同社がサービスインした『信長の野望Online』『大航海時代Online』も、共にアクション性の薄いMMORPGだった。そのため、これをPCのオンライン環境で実現することに、当初は少なからぬ不安もあったという。しかしユーザーが求めているのは、あくまで「真・三國無双」らしさのはず。そこで開発に際しては、「一騎当千の爽快感をオンラインへ!」をキーワードとしつつも、まずはYahoo!BB限定タイトルにすることで、インフラ面の不確定要素を下げることが決められた。

また「真・三國無双」シリーズのオンライン版ということで、周囲から「MMOスタイルのアクションゲーム」と勘違いされることも多かった。しかし、本作ではMMO+MOスタイルというユニークなシステムが採用されている。街中のMMO部分をロビーに見立てて、チャットしたりアイテム売買などを行い、実際の戦闘は4対4、最大8人で戦うMOスタイルだ。これは「一騎当千とは自分一人の活躍で戦場の劣勢も覆せること」という分析からだった。敵をバサバサ切り倒すのは楽しいが、自分が倒されるのはつまらない。そこで「やられ役」をコンピュータに一任し、人間側には思いっきりアクションを楽しんでもらうことになった。このように本作では、対戦アクションといいつつも、プレイヤー同士が直接絡み合うことの少ない、ユニークなゲームデザインが特徴となっている。

また同シリーズが大ヒットした要因として、アクションゲームの苦手な人でも楽しめる簡単な操作性があったと分析。ここはオンラインでも外せない要素だとされた。対戦と協力のどちらをメインにするかについては、対戦にこだわったとコメント。協力プレイの方が技術的には簡単だが、最初にハードルが高くても、いけるところまで対戦プレイ重視で開発することに決められた。これにはPS2版では対戦プレイだと画面分割にせざるを得ないが、オンライン版なら一画面ですむというメリットを生かすという意味もあった。他に60フレームへのこだわりも、当初から外せない要素だった。

ただし、通信環境をはじめ技術的な課題も山積していた。いくら60フレーム死守といっても、オンラインでは「光の速度」という万人に共通の限界があり、遅延が発生することは避けられない。そこでYahoo!との協力で全国規模でのレイテンシー調査を実施。サーバを全国に分散させれば、3フレーム程度の遅延に納められることがわかった。これならアクションゲームとして堪えられる。また本製作の前に検証版を作成して、技術的課題を洗い出すことも決められた。

検証版では通信方式の決定と、遅延の許容範囲の確認、そしてアクション性の確認が目的とされた。まずは1対1の対戦プレイのみで、サーバー=クライアント方式を採用、同期通信型という条件で開発がスタートした。しかし、完成した検証版は「はっきり言ってさんざんだった」(藤重氏)。アクションが重すぎてゲームにならず、どれだけ改良しても商品レベルに耐えないと予測されたのだ。藤重氏は「まじめにやりすぎた」として、同期通信ではなく、非同期通信に切り替えるなど、いくつか割り切りをした上で、プロトタイプ版の開発に着手。マーケティング・企画内容という2段階の社内審査を経て、本製作がスタートした。

その後は2006年5月に2週間のテクニカルテストを実施し、9月にプレオープン、11月に課金サービスが開始された。細かい改良が続けられた結果、Yahoo!BB以外でもサービスが可能な目処がたち、本年5月にISPを解放。Yahoo!BB以外のプロバイダでもプレイが可能になっている。コーエー3作目のオンラインタイトルであり、初のオンラインアクションとして、多くのユーザーに好評を得ているのは周知だろう。

続いて藤重氏は、運営データから見えてきたものとして、実例を元に現状を解説した。また「オンラインゲームは開発中に思い描いていたものと、実際にでてきたものの違いが数字ではっきりわかる」として、データ分析の重要性についても指摘した。

まずユーザー層については、一般のオンラインゲームでは30〜34歳がピークとなるが、本作では25〜29歳がピークとなり、平均年齢が5歳くらい若くなること。逆にPS2タイトルの『真・三國無双4』は15歳未満の割合が最も高いなど、コンソールゲームとオンラインゲームの中間的な年齢分布になっていることが示された。また既存タイトルとの比較では、『大航海時代Online』が最も平均年齢が高くて30〜34歳がピーク、『信長の野望Online』が20代後半から30代前半がピークとなり、最も若い層に遊ばれているとした。これにはコンソール版での知名度が大きく、当初から予想していた通りだとした。

(左)真・三國無双BBのユーザー層。オンラインゲーム全体と比較してズレがある(中)三國無双4との比較。こちらは10代中心で大きな違いがある(右)オンラインゲーム3タイトルでの比較。真・三國無双BBが一番若い


逆に予想が外れた例として、MOタイトルにもかかわらず、蓋を開けてみたら半数以上のユーザーがソロプレイを楽しんでいたことを上げた。藤重氏自身、平均参加プレイヤーが3.3人くらいのバランスで一番おもしろくなるように調整したつもりで、誤算だったという。そのため対策として「特務(クエスト)を充実させるなど、1人プレイの満足度を上げる」「チュートリアルを充実させるなど、対戦を楽しんでもらうための足がかりを作る」という、両面でのアップデートが行われた。ソロプレイで楽しんでもらって、徐々にマルチプレイに移行してもらおうという考えだ。これには前者の方が後者よりもアップデートが簡単という事情もあった。

対戦人数分布。圧倒的にシングルプレイが多い


また人気武器については、わざと初心者用から上級者用までバランスを調整して、うまく利用頻度で差がでるように調整しており、データでもそれが裏付けられているとした。人気の高い武器は万人向け・主役級向けで、人気の低い武器は玄人好みとなり、使いこなすと強いというわけだ。一方でマップについては、できるだけ均等に遊ばれるようにデザインしたつもりだが、実際は人気に差がついてしまった。そのため不人気なマップについてはギミックなどを改良して、バランスを調整していきたいとした。これらは実際にデータをとってみなければ、わからなかったことだ。

(左)武器使用率。なだらかに差がついているのは予想通り(右)戦場使用率。こちらは均等になるのが理想で、てこ入れを必要とした


このほかユーザーの地域分布についても、オンラインゲームの一般分布と同じく、県別の人口比に沿った形になっていることが裏付けられた。これはオフラインイベントなどを関東圏中心で行うことや、逆に地方ユーザーへの営業活動アップなどの施策に対して、数字的な裏付けとなる。このように、売りきりのパッケージゲームと異なり、オンラインゲームでは定期的にデータが採れる点が魅力となる。ユーザーの反響といった生の声とあわせて、運営面に生かしていく点が重要だと指摘した。

(左)ユーザーの地域別分布図。ほぼ県別の人口比に比例(右)ネットカフェ限定の地域分布図。こちらも同様で地方での拡大の余地がある


最後のトピックとなったのが、コーエーのオンラインゲームの歴史についてだ。まず藤重氏は、同社の主力タイトルの展開について説明。続いて「黎明期」「移行期」「現在」と3段階に分けて、開発・運営スタイルの変遷を語った。

現在コーエーが展開する主力オンラインタイトルは、『信長の野望Online』『大航海時代Online』『真・三國無双BB』、そしてプレオープンサービスが開始されたばかりの『三國志Online』の4本となる。

第一弾となった『信長の野望Online』では、海外のオンラインゲームが全盛の時代に、コーエーとして、また国産タイトルとして何ができるか考えられた結果、戦国時代を題材にしたMMORPGという概要が決まった。第二弾の『大航海時代Online』については、オフライン時代からMMORPG向きのタイトルだと言われていたことから、二番目のタイトルとして適切だった。その一方で商人や探検家など、戦闘以外の楽しみ方も提示するなど、二作目ならではのゲームデザインの挑戦が行われた。

三作目となる『真・三國無双BB』については、1対多数の無双アクションをオンラインで実現するとして、MO+MMOというユニークなスタイルを選択。そして最新作となる『三國志Online』では再びMMORPGとなり、千人規模のPVPによる大規模戦闘が中核に据えられた。このように過去の4作については、それぞれ市場面でもプレイスタイルの面でも差別化を図り、事業の幹を太くしてきたことが分かる。

一方で運営体制については、1998年にインターネット対応第一弾となるオンラインSLG『信長の野望Internet』、1999年の『三國志Internet』を経て、2000年には初のMORPGとなる『アプサラス』をリリース。藤重氏はここまでが「黎明期」だったとした。というのも当時はパッケージとして発売され、ゲーム内容もMOタイプで、「運営」という概念も存在しなかったからだ。サポート業務もチーム単位で行われていたのみだった。

続いて「移行期」となるのが『三國志Battlefield』『信長の野望Online』『大航海時代Online』だ。「開発」に加えて「運営」が始まり、サービスが意識され始めた。「信長〜」以降はゲーム内容もMMORPGとなり、運営面の重要性がさらに高まった。しかし、この時点ではプロジェクト制をとっており、同一チームが開発と運営を兼務していた。

これが『真・三國無双BB』からは、開発と運営のセクションが分離され、開発はソフトウェア事業部が行い、運営はGAMECITY事業部が担当するようになった。運営企画や販促、GMやカスタマーサポート、サーバの保守運営なども運営側の担当となる。一方で縦割りの弊害が出ないように、両セクションは新たに同一のビルにまとめられて、常にディスカッションをしながら運営が行えるように工夫されている。こうした体制作りが顧客満足度の上昇に繋がるとした。

最後に藤重氏は、コンテンツ制作とサービスはオンラインゲームの両輪で、どちらかが大きかったり、どちらかが速くてもダメで、対等の力とスキルが必要だとした。またオンラインゲームはコストとの戦いで、スタッフ全員のコスト意識への徹底が不可欠だと述べた。そのためにも、オンラインゲームにふさわしい体制作りが必要で、これがスタッフのプロ化を促進するとまとめた。これまで国内の老舗メーカーでは、ともすると運営が開発の陰に隠れがちだったが、それではユーザーの満足するサービスを提供できないというわけだ。

もっとも、この体制も状況の変化に応じて柔軟に対応していくことが必要になる。すでに『三國志Online』では、シンガポールスタジオによる開発のため、主要な開発スタッフが国内にいないという特殊な状況になっている。さらに同作はアジア圏でのサービスも当初から意識されている。また今後はPS3やXbox360などのコンソールタイトルについても、オンライン化が一般化していく。これらも含めて、今後どのような体制へと進化していくか、要注目というところだろう。

ちなみに、運営コストを節約することは、オンラインゲームを末永くサービスすることにも繋がる。『信長の野望Internet』以降、同社のオンラインタイトルは、現在でもすべてインターネット上でプレイできることを補足しておく。これらのタイトルのユーザーは、久しぶりにPCにインストールして、遊んでみると面白いかもしれない。

コーエー・オンラインタイトルの開発・運営体制一覧
《小野憲史》
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