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インターネットから自由が消える……法学者 白田秀彰氏インタビュー

ブロードバンド推進協議会のシンポジウム「仮想世界の法と経済」が7月21日に迫っています。今回、「オンラインにおける秩序の生成と法の継受」を講演する、法政大学の白田秀彰氏(法学博士)にお話しを聞きました。

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■ゲームデザイナーが作った仕組みなら「犯罪」とは呼べない

白田氏: ところで、ゲームをデザインする人っていうのは、そのゲーム空間の外まで込みで設計するんですかね。彼らが想定しているんであれば、ゲームで起きている軋轢もまた許容されるべきだ、それはゲームの一部だっていうふうに言えるわけですよね。ゲーム内のキャラクタが殺されても犯罪性はないっていうことになりますよね。ゲームクリエイターは、傷つけたり殺したりできない空間をデザインできるはずなのに、そうしていないわけですから。

だから現実世界での法律的には、ゲーム内においては、現実世界で言うところの犯罪というのは存在しないんだということになりますよね。すべてゲームデザイナーの構想の下に、またユーザーがそのゲームを行うと選択・決断した中に、ゲーム内において犯罪のように把握されるだろう軋轢が生じることを事前に了解してやっているはずだと。

でも、そのゲームで盗んだり騙したりということができるようなゲームデザインがされていても、盗まれたり騙されたりすると怒りますよね?ユーザーは。

Q: 怒りますね。このとき、起こったことをゲーム内で他の人に伝えて「こいつは悪い奴だ」ってやれば、それはゲーム内の世界で閉じるのですが、それを運営に言うんですね。それで、運営が「そういうのはいけませんよ」と言った瞬間にそれがNGになって、でもシステムとしては可能、という矛盾した状況を生んでいます。マナーという名前で、ユーザから上がってきた要望をベースにまとめた法のようなものが強制されています。

白田氏: それは別にルールブックには書いてなくて、コミュニティの中でのローカルルールとして生きているだけ?

Q: 当初はユーザー間のローカルルールだったんですが、それが規約に含まれ始めてますね。こういうことはやめましょうとか。振る舞いに対する制限っていうのが規約に入っている。そして、これこれの場合はゲームマスターに通報をしてくださいみたいに、いわゆる110番(警察)のように書かれてる。

白田氏: ユーザーが上に持っていって、上が規約化しているのか。でもゲームデザインは変更できない。

Q: 5年続いたMMOって、それなりの支持も受けて、醸成もされるんですね。ユーザー側だけの問題としても、運営者を含めてということにしても。だけど、システム的な問題とか改善というのに気が付いた時、もうそれを直せない。

白田氏: オンラインがこれまでの世界と違うのは、離脱可能性が非常に高いという点。嫌ならやめちゃえる。だから結局、残っている人は多かれ少なかれ、その中の秩序を容認しているということなんですよね。嫌ならやめればいいわけだからね。これが現実世界でも同じように「日本が嫌なら日本人をやめろ」って言われると相当大変でしょう?

Q: 確かに、アメリカでも行けばって言われると困りますね。生活の基盤とかを考えずに属せる“世界”というのは、非常に離脱しやすいですね。

白田氏: ただ、今後はセカンドライフなどを生活の基盤にする人も出てくるかも、ということが話題になっている。一般的にその人の生活の大部分がその空間で行われている時には、その空間において人権ということが言われ出すんですよ。俺はここで暮してるんだ、ここから離脱できないんだ、と。

今のところ「ゲームが嫌なら出て行け」で済む話だけど、そのゲームの中で例えば人間関係の大部分、社会生活の大部分、それから生活を維持する行為の大部分が行われるようになってきた場合には、もう出て行けとはちょっと言えないわけですよね、その人の生活基盤が破綻してしまうわけで。今のところゲーム運営事業者は、まあ比較的に自由にルールを設定してシステムを改定していくことができるわけですけど、ユーザーがそこに没入すればするほど、何ていうかこう動かせなくなっていく部分が強くなっていくでしょうね。

別にオンラインゲームユーザーに限らないんですけど、日本のネットユーザーってこう内向きっていうか、縮み志向っていうか、皆でルール作ろうよって言っても、「知らねえよ」っていう人が多くてね、あれが本当に悲しい。このままでいくと日本国政府の秩序の中にがっちりオンライン世界も組み込まれて終わり。それがいいかどうかは別として、皆さんがそれを望んでいるからそうなっているんです。

だからまさに「終わりの始まり」で、今まで維持されてきたインターネットの自由であるとか、存在してきたローカルルールであるとか、それぞれのサービスごとのルールの違いっていうのは、現実世界の政府がそこに関与してこなかったがゆえに発生してきた一時のあだ花で、そのうち統合されていっちゃうんでしょうね。

Q: オンラインゲームだけだったらゲームやめれば良かったんですけど、がっちり組み込まれると日本人をやめないとどうにもならなくなる。

白田氏: 今あるさまざまなローカルルールの状況っていうのは、その空間が立ち上がってきた20〜30年間の「あだ花」だったのかもしれないっていうことになるんでしょうね。歴史なり伝説となって「かつてこんな時代があったよ」と語られるような。

Q: ワイルドウェスタンみたいなもんですね。

白田氏: 多分そう。そうしないというオプションもまだ残ってるんだけど、このままでいくとそのオプションがなくなってしまう。そうするとゲームクリエイターにしても、オンラインゲームなのに現実世界との関連性が強過ぎて、ちっとも自由じゃなくなってしまう。ゲームがだんだん好き勝手に作れなくなっていってしまう、ということにもなりかねない。

Q:講演、楽しみにしています。ありがとうございました。

《伊藤雅俊》
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