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開発元社長もちゃんとダイエット成功〜『健康検定』開発舞台裏

東京大学で26日、日本デジタルゲーム学会は「『健康検定』に見る日本のシリアスゲーム」と題した定例会を行い、11月15日に発売予定のニンテンドーDS用ソフト『健康検定』の開発事例について講演を行った。講演者は同ソフトの開発・販売を手がけるユードーの南雲玲生社長と、横山貴敏プロデューサー。

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東京大学で26日、日本デジタルゲーム学会は「『健康検定』に見る日本のシリアスゲーム」と題した定例会を行い、11月15日に発売予定のニンテンドーDS用ソフト『健康検定』の開発事例について講演を行った。講演者は同ソフトの開発・販売を手がけるユードーの南雲玲生社長と、横山貴敏プロデューサー。

講演では初めに南雲社長がユードーの企業戦略について説明し、後半で横山氏が『健康検定』の開発談や、シリアスゲーム開発におけるポイントなどを話した。

南雲氏はコナミで初代ビートマニア開発などにサウンドエンジニアとして参加後、2003年に独立してユードーを設立し、ゲームの枠にとらわれない製品開発を行ってきた。これまで関わったプロジェクトには、カバヤ食品から発売された食玩「ゲーム天国」や、携帯サイト「なびんちょ横浜」、慶応大学との共同研究による「映像のないゲーム」、環境音楽にこだわった六本木の会員制レストラン「ネヴィ」などがある。

ユードー・南雲玲生社長


こうした背景として南雲氏は、2000年前後のゲーム不況の中で、10年・20年先も1クリエイターとしてゲーム開発が続けられるのか、という不安があったと述べた。そこで独立と同時に大学の経済学部に進学しなおし、ゲーム業界を客観的な視点から見つめ直すことを選択した。現在、南雲氏は会社経営を行う傍ら、自身でも作曲をするなど、クリエイターとしての活動も行っている。「僕らは『ビートマニア』で音楽とゲームの融合をはたした。同じように今も新しいモノを作る必要性を感じている」という。

南雲氏は市場の成熟と共に、ライフスタイルの多様化への対応や、社会との関係性を意識しながらのゲーム開発が必要だと分析した。求められるのはゲーム以外の業種・業態との提携を通して、焦点を絞り込んだ製品開発だ。具体的には「音楽・健康・教育」の3分野を事業領域として、ゲーム開発で培ったエンタテインメント性やインターフェースの技術を注入し、新しい商品を開発していくと述べた。

続いて横山氏が、DS用ソフト『健康検定』の開発について解説した。

本ソフトには、クイズ形式で健康知識を学習するモードと、ウエストサイズや体重、BMI値を毎日記録していく2つのモードが搭載されている。純粋な「ゲーム」ではなく、メタボリック症候群の対策を行う実用ソフトだ。ユーザーもゲーマーではなく、生活が不規則な人や、メタボ対策が気になりはじめた人向けに絞り込んでいる。

ユードー・横山貴敏プロデューサー


開発が始まったのは2年前だ。知人の医療関係者から健康法が改正され、2008年4月から企業の健康診断が大きく変化すると知らされた。これまでの健康診断は結果の通知だけで終わっていたが、来年からは検診でメタボと診断されると、レベルによって個別面談や、食事や運動の支援プログラムを受けたり、成果を電話や面談で確認されるようになる。この背景の一つが国民健康保険制度の破綻。高齢化社会の進展に伴い、日々の健康増進を進めることで、医療費の増大を抑えるというわけだ。国の統計によると40歳以上の男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボ該当者・予備軍だという。

メタボ予防に伴い健康診断が大きく変わる


また薬事法の改正によって、コンビニエンスストアでも薬が扱えるようになる。これに危機感を抱いているのがドラッグストア業界だ。一方でドラッグストアは健康に関心のある人が多く集まる場所である。ここにビジネスチャンスを見た同社では、ゲーム流通以外にドラッグストアでの販売を目標に、健康に関する正しい知識を習得できるソフトをコンセプトとして、プロジェクトをスタートした。

ゲームの基本となる「知識」面については、厚生労働省と農林水産省が決定した「食事バランスガイド」や、厚生労働省が決定した「健康づくりのための運動指針2006(エクササイズガイド)」を元にしている。これを下敷きに1400問のクイズが作成された。ゲームの監修も国立健康・栄養研究所の吉池信男氏・田畑泉氏が監修しており、クイズ作成は日経新聞で連載中の作家・仲野隆也氏が担当している。「脳トレ」ブームが地ならしとなって、折衝や交渉もスムーズに進んだとのことだ。

健康検定における市場動向


ソフトの開発面では「おもしろく、かつ正しい情報を提示する」ことが最大の苦労点だった。そのため開発段階では試行錯誤があったが、最終的に「ゲーム」ではなく、実用ソフトに割り切った仕様に落ち着いたという。「飽きずに楽しませる」よりは、「メタボ対策が必要な人」に対象を絞り込むことで、ゲーム的な部分を最低限に抑えたというわけだ。逆に40代以上の非ゲーマー層でもすぐに理解できるように、画面の派手さよりもメニューの視認性を高めたり、操作のリズム感を重視するなど、インターフェースデザインに気を配ったという。

ただし南雲氏は「ゲーム開発で苦労するのは、どんなタイトルでも当たり前」とした上で、本作については「対人コミュニケーション」に最も苦労したと述べた。医療関係者や学術研究者、ドラッグストア流通など、異業種とのコラボレーションを進める上では、他の分野の商習慣を尊重することが大切というわけだ。その上で最初に契約をしっかり交わし、事業主体がどちらにあるかを明確にすることが重要だとした。その上で打ち合わせや食事などで同じ時間を共有するという、ウェットな部分も欠かせないとした。

本作はDS以外に、書籍版、携帯コンテンツ版も同時展開することが決定している。これらを併せてコストを回収するというわけだ。携帯版ではサプリメント大手のファンケルとも提携し、女性向けに「美容」面も考慮した内容にする。意外だったのは開発版をドラッグストアのバイヤーに見せたところ、薬剤師向けに教育ソフトとしても使えるとして歓迎されたこと。メタボ対策でお客様から健康相談をされても、これまでは対応が難しかったが、こうしたソフトがあれば勉強になるというわけだ。他に病院や保険組合などへの導入もめざしている。

また当初は外部デバイスをつけて、実際に体を動かして楽しむものも検討されていたが、健康がテーマという点で、使用中に転倒や筋肉痛、それこそ心臓発作などが起きたらどうするのか、といった問題も持ち上がった。最終的にメーカーとしての責任がとれないという点で、最終的にDSソフトの開発に落ち着いたという。ただし「楽しくトレーニングする」要素が欲しいのも事実。そのため本作をステップとして、今後はWii Fitなどへの対応についても意欲を見せた。

ちなみにユードーでは、財務担当者(CFO)が社労士の資格を所有しており、徹夜作業などはさせない方針を徹底しているという。また会社でお米を炊き、総菜などを買ってきて、みんなで昼食を取る習慣があり、これが仕事に対する連帯感や社内のコミュニケーション増進に大きく役立っているとのことだ。南雲氏もプロジェクトの立ち上げ時にはストレスで体重が増えたが、完成が近づいてゲームのテストプレイを重ねるうちに、自然にダイエットできたという話を披露した。開発スタッフの中でも健康に関する知識や姿勢が高まったという。

伝染病の予防に公衆衛生に対する教育・啓蒙が不可欠だったように、メタボ予防にも正しい食事や運動の知識が必須だ。南雲氏も「正しい知識を身につけると、一生使える宝になる」と語る。ゲーム業界に健康ブームが到来しそうな中、『健康検定』が追い風に乗れるか否か要注目だ。

健康検定にはクイズと記録の2モードを搭載
《小野憲史》
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