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体験型エンタテインメントの市場を広げる方法とは?事例から探る SIG-ARG04レポート

ゲームビジネス 人材

会場の東洋美術学校には講演者やスタッフを含めて60名近い参加者が見られた。
  • 会場の東洋美術学校には講演者やスタッフを含めて60名近い参加者が見られた。
  • SIG-ARG正世話人の八重尾昌輝氏
  • 読売テレビエンタープライズの田中宏明氏
  • Production I.Gの鈴木哲史氏
  • ラ・シタデールの竹内ゆうすけ氏
  • 読売広告社の太田理奈子氏
  • SIG-ARG副正世話人の澤田典宏氏
  • 終了後は世話人も交えて熱心なパネルディスカッションが行われた
国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代替現実ゲーム専門部会(SIG-ARG)は、東洋美術学校で10月20日、第4回研究会「体験型企画の参加者層を拡げるための10の方法」を開催しました。セミナーでは「伊豆ぐらんぱる探検隊」「劇場版 BLOOD-C The Last Dark ARG 『SIRRUT.NET』」「明治 果汁グミ メグミとタイヨウ」の各事例を紹介。世話人と講演者によるパネルディスカッションも開催されました。

ゲームの定義が人によってまちまちなように(学術界でも「ゲーム」の定義は研究者で異なります)、代替現実ゲーム(ARG)もまた、確固たる定義はありません。映画『ダークナイト』のプロモーションARG『Why So Serious?』をはじめ、北米を中心にプロモーションイベントとしてのARGが拡大する一方で、書籍「幸せな未来は『ゲーム』が創る」では、社会実験的な参加型コンテンツもまた、ARGとして紹介されています。

また日本では「リアル脱出ゲーム」に代表される参加型謎解きイベントが静かなブームとなっています。CEDEC2011ではSIG-ARGにより講演「ARG:プラットフォームに依存しない新しい遊び方」が行われ、会場内でARGが展開されるという、前代未聞の講演も行われました。いずれにせよ、ARGは従来のメディアやジャンルに収まらない、新しいエンタテインメントの可能性を指し示していると言えるでしょう。

一方で日本では、体験型企画(ARG的な要素を持つ参加型イベント)を商業面で捉えた場合、早くも市場が頭打ちになっているのではないか・・・。こうした懸念点も囁かれるようになりました。個々の商業イベントで参加者数が上がらない一方で、インディーズも含めれば無数の体験型企画が存在し、早くも細分化の傾向が見られるためです。そこで本セミナーでは、日本でもようやく根付き始めたARG市場を、より広げていくためには、どのような方法論が考えられるか、さまざまな議論が行われました。

■テーマパークによるARG「伊豆ぐらんぱる探検隊」

事例その1として紹介されたのは、通称「伊豆謎」と呼ばれる「伊豆ぐらんぱる探検隊」「伊豆シャボテン特捜隊」です。それぞれ伊豆ぐらんぱる公園・伊豆シャボテン公園で行われている体験型謎解きアトラクション。参加者は園内を舞台に、時間内に謎やミッションをクリアし、ゴールに到達しなければなりません。壇上にはプロデューサーを務めた読売テレビエンタープライズの田中宏明氏が上がり、振り返りを行いました。

「伊豆ぐらんぱる探検隊」はVol.1が今年3月開始。7月からはVol.2がスタートし、同時に「伊豆シャボテン特捜隊」も始まりました。前者はGPS探知機を利用して園内の宝箱を探し、その中に記されている謎を解いてヒントを集め、海賊が隠した財宝を発見するというものです。後者は園内の動物と触れ合いながらヒントを集め、黄金のカピバラを探し出すという内容。ファミリー層が対象で、現在までにのべ1万人以上が参加しています。

田中氏はテーマパークでARGを開催するメリットとして「お客様を園内の様々な地点(てこ入れしたいアトラクションなど)に誘導できる」「設備投資が不要」「既存スタッフの活用」を提示。一方デメリットとしては「イベントを実施してみなければ、おもしろいか不明(上司やクライアントを説得しづらい)」という点を上げました。その上で両テーマパークが位置する「伊東温泉」という地理的特性から、宿泊客が市内を観光する約4時間に着目。伊豆急行の各駅に総計5万枚のチラシを配布し、車内の中吊り広告も打つなどの宣伝が行われました。

本イベントの特徴は、参加者が園内を歩き回る点にあります。そのため体力や集中力からイベントは約1時間が目安。いわば「伊豆謎」は60分一本勝負のジェットコースター・・・田中氏はそう説明しました。

謎の設計のために、全国で開催されている様々な「一時間モノの体験型イベント」にも参加。共通点として▽行動とリアクションが明快▽途中でくじける要素が少ない▽参加者の大半が最後の謎まで到達できる▽ただし、最後の謎は解けなくて当たり前▽すべての謎が解けたら、みんなの前で賞賛される▽失敗の原因が自分にあると納得できる▽参加者間で体験を分かち合える--の7点を分析。『伊豆謎』でも参考にしたと言います。

また田中氏はかつて、あるドラマの謎解きキャンペーンをプロデュースした経験もあり、その際に「ARGファンや謎解きファンに加えて、主演の俳優ファンが熱心に参加してくれた」という経験から、『伊豆謎』でも「GPS連動の宝探しなど、付帯的な要素を盛り込み、謎を主軸にしない」ことに注力。他に運営方針として「わかりやすさを最優先する」「あえてアバウトな設計にして、現地スタッフのモチベーションを引き出す」「奇をてらったことはしない」という方針を掲げたと説明されました。

■アニメ映画と連動するARG「SIRRUT.NET」

続いて紹介されたのは「劇場版 BLOOD-C The Last Dark ARG 『SIRRUT.NET』」の事例です。タイトルからも分かるとおり、アニメ映画のプロモーション施策の一環として行われた本ARGでは、専用サイト「SIRRUT」とスマートフォンアプリ『SIRRUT HACKING CLOUD』を中心に、劇場・イベント・ウェブ・グッズなど、さまざまなメディアで代替現実ゲームが展開されていきます。事例紹介は映画の宣伝を務めたProduction I.Gの鈴木哲史氏と、実際にARGを制作したラ・シタデールの竹内ゆうすけ氏が務めました。

本作におけるプレイヤーは、劇中に登場する正義のハッカー集団「サーラット」の一員という設定です。プレイヤーは映画に関するさまざまなメディアに触れたり、スマートフォンアプリのゲームプレイを通して情報コードを入手。特設サイト「SIRRUT.NET」の検索窓に入力すると、対応する背景ストーリーが表示される仕組みです。ストーリーは週3回更新され、プレイヤーは日常世界と劇中世界が交錯する、ARG的な体験が楽しめるという内容になっています。

はじめに鈴木氏と竹内氏は、劇場映画の宣伝スキームについて解説しました。劇場映画は製作・配給・興業に分かれており、本ARGは製作委員会が管轄する製作宣伝費から計上されます。ただし宣伝予算は用途やスケジュールが大枠で決まっており、自由に使える訳ではありません。また公開後も集客に応じて上映館の増減が行われ、不人気な場合は上映が打ち切られることも。すなわち公開初週にできるだけ盛り上がるように、映画の宣伝戦略に寄生する形で、「広く浅く」をめざした設計が行われました。

このように、本ARGのメインターゲットはずばり、テレビシリーズのファン。彼らを再び掘り起こし、劇場に足を運んでもらうことがミッションとなります。

もっとも「全体スケジュールが遅れた結果、ARGも予定がなかなか立たない」「一方で突然、まったく新しい施策が突発的に決まる」「にもかかわらず宣伝の人員体制が複雑で、メディアごとの縦割りになっており、機敏な対応が難しい」という問題も発生。その結果、当初予想していたアイディアが実現できなかったこともあったとか。その中でも本案件では、アニメ製作会社(Production I.G)内に担当者(鈴木氏)がいたこと。すなわちARG側から見れば「制作現場と一緒に作れた」ことが実施の成功につながったと言います。

もっとも鈴木氏・竹内氏をはじめ、関係スタッフは他の宣伝業務も行っています。つまり本ARGの分だけ仕事が増えたことになります。その結果、ミーティングが深夜になることも珍しくなかったとか。みな体力の限界を感じたとのことでした。

では、今回の施策は従来型のプロモーション、特にテレビCMと比べて、どの程度コスト効率があったのでしょうか。鈴木氏はある程度の効果は見られたとしながらも、残念ながら未達だったと振り返りました。

確かに、アニメ系ニュースサイトやIT系サイトで施策が取り上げられるなど、新たなファン層の掘り起こしにはつながりました。しかしメディアの分散に伴い、お客様がすべての情報を追いかけられなかったり、ウェブやアプリを更新した直後は盛り上がっても、継続できなかったり、などの課題点も見られました。この対策として鈴木氏・竹内氏は、「ARGファンの裾野拡大」「製作コストの軽減」を上げていました。

■「メグミとタイヨウ」そしてパネルディスカッション

第3の事例として紹介されたのが、ツイッター連動型企画『明治 果汁グミ メグミとタイヨウ』。企画を主導した読売広告社の太田理奈子氏から、解説と振り返りが行われました。

本キャンペーンは「Tweet Love Story」「Tweet Mystery - 消えたサファイアロマンの謎」「Tweet Fantasy - タイムラインワールド」の全3部作で実施され、1作目では商品売り上げが前年比で165%も増加。第65回電通広告賞のインターネット広告部門に輝きました。ARGのみならず、ソーシャルメディアを用いた新しいスタイルのプロモーション施策として、広告業界から大きな注目を集めた事例となりました。

本キャンペーンの特徴は、主人公の青年タイヨウ (@gummi_taiyo)と、恋人メグミ (@gummi_megumi) のツイッターアカウントがあり、フォロワーとのやりとりで進行する点です(ただしタイヨウはフォロワーからのメンションに反応し、メグミは一切反応しません)。三部作ともはじめにマッドハウス製作のテレビCMからスタートし、ツイッターで進行した後で、最後にウェブ限定のエンディングムービーで終結するスタイルをとっています。

太田氏はファミリー層中心の果汁グミの市場を若者向けに広げるために、Twitterでのラブストーリーを企画。当初狙っていた18歳から24歳の男女に加えて、主婦層にも商品のブランドを広げられたと振り返りました。また、第二部では「リアル脱出ゲーム」で有名なスクラップとタッグを組み、謎解きファンのクラスターを開拓。第三部では参加者全員でキーワードをツイートするとクリアできるなどの要素を加えて、ゲームファンを開拓するなど、戦略的に参加者層を広げていったと説明されました。

また事例紹介に先立つ形で、副世話人の澤田典宏氏より、体験型エンターテインメントの現状整理が行われました。

澤田氏は「ゲーム人口の増加」「ジャンルの細分化と、それに伴う熱中度の高まり」「インターネットの普及」を背景に、テーマパークやテレビゲームといったエンタテインメントをクロスオーバーする形で体験型エンタテインメントが登場。海外では映画プロモーションなどと融合する形でARG型、日本ではイベントと融合する形で謎解き型が主流になっていると分析しました。

このほかパネルディスカッションでは、『果汁グミ メグミとタイヨウ』の製作にも参加した植田祐介氏も参加して、ARGに謎やストーリーを取り込むことのメリット・デメリットなどが議論されました。謎解きはコストパフォーマンスが高く、協力して解くことで連帯感が得られ、判定がデジタルでカタルシスも得やすいが、世界観やストーリーとの整合性に注意が必要で、近く謎自体がパターン化する恐れも強いこと。またストーリーは様々な体験を縦につなぐことができ、ファンを強く引き込めるが、製作にコストがかかることなどが上げられました。

このほか同じARGといっても、隙間時間で楽しめるライトなものから、何ヶ月もかけてじっくり楽しむヘビーなものに、ますます分化していくことが予想されること。そのうえでARGの中だけでイノベーションをおこすのではなく、さまざまな業界やジャンルとコラボレーションをおこすことで、参加者を広げていくことが重要だとまとめられました。
《小野憲史》

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