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【CEDEC2012】『Child of Eden』『ルミネス エレクトロニックシンフォニー』から見る音とビジュアルの関係

CEDEC2012、2日目のセッションでは、キューエンタテインメントの『Child of Eden』と『ルミネス』のメイキング及び、同社が提案するサウンドとビジュアルのシナスタジア(共感覚)を体験させるゲームデザインについて発表しました。

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CEDEC2012、2日目のセッションでは、キューエンタテインメントの『Child of Eden』と『ルミネス』のメイキング及び、同社が提案するサウンドとビジュアルのシナスタジア(共感覚)を体験させるゲームデザインについて発表しました。

まず同社グラフィックデザインセクションリーダーである高梨真氏が、キューエンタテインメント社についての簡単な紹介を行ないました。同社の代表取締役の水口哲也氏は、サウンドとビジュアルが融合したシューティングゲーム『Rez』などで有名なクリエイター。アーティスティックなゲームを発表してきた水口氏のイメージが色濃い会社と思われているが、昨今ではコンシューマ向けのコンテンツに限らず、PCでのMMORPGの開発・運営、モバイルにおけるソーシャルゲームの企画・開発・運営など様々な事業を展開している。また水口氏は音楽ユニット「元気ロケッツ」などのプロデュースも手がけており、幅広いエンターテインメントに精通したマルチタレントな開発スタジオであると、高梨氏は述べました。

次にスピーカーは『Child of Eden』の開発に携わった浅地義太氏に交代し、同タイトルのメイキングについて説明されました。『Child of Eden』はXbox360やPS3用のタイトルで、ジャンルは「シナスタジアシューター」と名付けられています。「シナスタジア」とは日本語に訳すと「共感覚」を意味し、ひとつの感覚刺激が別の感覚を引き起こす能力のことを示します。浅地氏はもともとモーションデザイナーとして同タイトルのスタッフに参加しましたが、ディレクター水口氏の「光の動きだってモーションだよね?」の一言で、「シナスタデザイン」を担当することに決められました。

そこでゴールとして設定された課題は、ダンスやミュージカル、ミュージックビデオのように、ゲーム中のグラフィックとサウンドが気持よくシンクロする総合的なデザインを行なうことでした。単純に楽曲に合わせてCGツールでアニメーションを制作すると、データ量も作業も膨大なものになるため、浅地氏は独自の方法を模索しました。

まず描画されるグラフィックを操作し、モーションを作り上げるために、役に立ちそうな音楽データから(1)オーディオ波形、(2)MIDIデータ、(3)プリセット関数に注目しました。そして、それらの音楽パラメータによって描画物を動かすという発想から、音楽データのアクティブパラメータと描画物を結びつけるRegファイルというデータをXMLで構築しました。

セッションでは、そのRegファイルの実際の操作が行われ、Regファイルを変更することで、音楽データが描画物にどのような効果をもたらされるかが参加者にデモンストレーションされました。豆のようなキャラクターが、バスドラムの音に合わせて伸び縮みし、双葉を小節に合わせて回転するなど、音楽と同期する形で描画物のモーションが作られました。

デモの後、上記であげた音楽データをいかに描画に結びつけたかについての詳細が述べられました。まずオーディオ波形は低域から高域を64の段階に分け、そのデータをリアルタイムにグラフィックイコライザーのような形で利用しました。この方法を用いると、通常のアニメーションのようにキーフレームを用いた作業を行わなくても、音楽に合わせてモーションが変更されるというメリットがあったといいます。またデメリットとしては、オーディオ波形にフィルタ処理をかましても、ノイズが多い表現になるため、正確に同期したリズムを生み出すモーションは得られなかったことだと、浅地氏は振り返りました。また、オーディオ波形のデータには人間が感じるサビのような概念がないため、ここぞという盛り上がりをモーションで表現することもできなかったといいます。

次にMIDIデータの利用は、キーフレームアニメーションの代わりとして機能し、市販のソフトやフリーのシーケンスソフトで簡単に編集できるため、独自のツールを開発する必要がなかったことがメリットとして挙げられました。また曲を聞きながら動的に編集可能であり、曲が変わってもすぐさま対応したモーションを生み出すことが実現されました。デメリットとして、コントロールチェンジの値が128段階しか使えないことがあると、浅地氏は振り返りました。

最後にプリセット関数について、再びデモンストレーションを行ないながら説明されました。プリセット関数とは、サイン波形や正比例などプログラムで生成される値のことでありますが、これをモーションの演出のためのアクティブパラメータとして利用しました。メリットはMIDIと違って128段階のデータに縛られず、自由な表現が可能であること、プレイ情報を取得することで、様々な状況において演出のトリガーとして利用できることが挙げられました。他方、デメリットとしては、キーフレームアニメーションのような動きを付けることが難しいことが挙げられました。

これらのRegファイルを構成することで、同じ曲に対しても複数の演出を表現できることが可能になり、プレイヤーのスキルに応じて、動的に演出を変更するような表現も可能になりました。そして、ゲームプレイとデザインとサウンドという3つのデータ間におけるインタラクションを作り上げることを可能にし、シナスタジアをテーマとした「感覚と身体性の交差」が実現できたのではないかと、浅地氏は全体を振り返りました。実際に、『Child of Eden』では、楽曲やゲームプレイからの情報を用いて4つのコントローラーにバイブレーションのフィードバックを与えるなど、極めて実験敵な試みがなされているそうです。

次にスピーカーは小林賢五氏に交代し、以上の方法論を受け継ぐ形で開発した『ルミネス エレクトロニックシンフォニー』のメイキングに入りました。『ルミネス』シリーズはもともとPSPのローンチタイトルであり、「音と光の電飾パズル」と題された音楽ゲームです。マルチプラットフォームで展開され、携帯電話でもプレイできるため、カジュアルなユーザーにも受け入れられているタイトルです。

小林氏はまずはプレイ動画でルミネスについて説明した後、PS Vitaのローンチタイトルとして『ルミネス』の三作品目が決定し、急遽『Child of Eden』の方法論を取り入れての開発に着手したと述べました。Child of Edenからの変更点は主に3点あり、波形データを用いることをやめた点、MIDIデータの利用からヌルによるアニメーションに変更した点、設定ファイルとツールをExcelで管理した点です。

まず音楽ゲームであるルミネスの大前提として、ゲーム画面で左から右へと移動する「タイムライン」が音楽の2小節に対応している点が説明されました。ルミネスはこの2小節の間に出来るだけ、ブロックを形作りパネルを消していくゲームです。そのため、ルミネスではこの2小節単位でゲームを制御しています。

MIDIデータのからヌルによるアニメーションに変更した点について、小林氏は、MIDIデータを解析し、ツールを利用する時間がなかったことによるものと述べ、その代わりに先ほどの浅地氏が作成したAutodeskの3ds Maxで音楽にあった擬似波形をすることで解決しました。擬似波形は、どういった演出でも利用できる汎用的なカーブ、特定の演出に利用する専用のカーブ、プリセット関数を利用したカーブといった三種類を用意しました。この方法のメリットとして、MIDIでは128段階のカーブしか利用できなかったが、ほぼ無段階のカーブを利用することに可能になったことと、どのようなテンポにも応用できるという二点を小林氏は指摘しました。

次に音とビジュアルを結びつける設定ファイルをXMLからExcelに変更した点は、端的に視認性を高める点にあったといいます。さらにChild of Edenで利用した自社開発のツールに縛られることなく、背景、ブロック、スキン、パーティクル、被写界深度からHDRの使用まで様々な演出効果を作り出すことが可能になったと言います。

しかしながら、このような方法のもとでは、小林氏は実現したいデザインが達成されていないと感じたと述べました。小林氏がやりたいことは、プレイごとに毎回異なるビジュアルとサウンドが生成されるゲームデザインであったそうです。小林氏は実際にプレイ動画でそのようなゲームのデザインを提示しながらも、その結果が思ったほど良いものではなかったと振り返りました。

以上、2つの作品のメイキングを振り返りながら、再び高梨氏がスピーカーとなり、今後このような「シナスタジア」をテーマにしたゲームの開発の展望を語りました。まず2作品から明らかになった課題として、ビジュアル表現に対する試行錯誤が頻発したこと、抽象的なビジュアル表現であるため、「良い演出」に対する正解がないことを挙げました。特に後者に関して、クリエイターの価値観が異なれば、音楽と映像の演出に関して異なる演出が生まれうるというこの種のゲームに特有な問題点があることを示唆しました。それを解決するためには、チーム内でお互いに妥協点を見つける必要がある一方で、別の解決作があるのではないかと提案しました。

1つの方法は、クリエイターの価値観によって音楽と映像の演出を決定するのではなく、プレイヤーの発汗、心拍、脳波といったデータをフィードバックする形で、データベースを構築し、学習的に発展する新しいシナスタジア演出を生成するというアプローチです。もう1つのアプローチは、スマートフォンなどのプレイリストのデータを用いることで、ユーザーの音楽の嗜好を判断することで、その趣味に合わせた演出を作り出すというアプローチです。どちらのアプローチにしても、動的なデータから収集されたデータベースを利用した学習型のツールを開発する必要があり、今後も研究していくという展望が述べられました。そして、キューエンタテインメントがゲームに限らず、ユーザーの多様な価値観に合わせた自由なエンターテインメントを作っていくと述べ、セッションは終了しました。
《今井晋》
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