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『初音ミク』に見る、2次元から3次元への連結・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第24回

ゲームビジネス 開発

前回は、クリプトン・フューチャー・メディア(以下、クリプトン)の熊谷友介氏から初音ミクが如何に誕生したのかを伺いました。そこで、「初音ミク」爆発的普及の背景にクリプトンの二次創作も含めた「クリエイティブな活動」に対するリスペクトのカルチャーがあったことが明らかとなりました。

これが新規キャラクターであった「初音ミク」の認知度を飛躍的に向上させるとともに、様々な企業とのコラボレーションを可能としたのです。その様々な形のコラボレーションを果たしながら、その力は『初音ミク -Project DIVA-』シリーズとして本格的にゲームビジネスでも発揮(以下、『Project DIVA』シリーズ、『1st』、『2nd』、『extend』)。更に2009年8月31日、ミクFES'09(夏)で初音ミクはついに2次元の壁を飛び越えます。

最新3DCG技術を駆使しライブパフォーマンスを展開。大成功を収めたのです。そして11年からは、東京に続き、札幌、ロサンゼルスそしてシンガポールでも開催。更に今年は3月8・9日の二日間にわたって、「ミクの日大感謝祭」の開催が行われ、当日の模様は、日本全国の映画館や、ニコニコ動画、さらには上海、台湾、香港へも「中継」され、大盛況となりました。そして4月には、ミクがユーザの手のひらに「降臨」。『Music Gril 初音ミク』が、iOS向けにリリースされるとのこと。

そこで今回は、『Project DIVA』シリーズや初音ミクライブの3DCG制作の一端に携わるマーザ・アニメーションプラネット株式会社を訪問しました。同社は株式会社セガのCG制作部門から09年に独立、その後セガサミーインベストメント・アンド・パートナーズ(株)と合併し、キャラクターアニメーションで劇場公開に耐えうる長編作品を世界に向けて発信することをビジョンとして掲げている100名ほどのスタジオです。

今回は、マネージャの今村理人氏、CGディレクターの今村卓也氏、そしてアニメータの木下秀幸氏よりお話を伺いました。



■『初音ミク』3DCG化で見せたプロフェッショナルとしての力量

同社として『初音ミク』関連プロジェクトを最初に受けたのが07年、シリーズ第一作目の頃に遡ります。「その時は正月前のプロジェクト進行で手一杯だったのですが、ミクの話が来たと聞いた瞬間、なんでもいいからやらしてくれ」と即答状態だったと、今村卓也CGディレクター。ここからまず、絵コンテへ進み、最終的にはトータルディレクションまでを手掛けた。当時は皆他のプロジェクトで手一杯だったので、有志を集めるしかなかったと、今村理人マネージャ。その時集められた有志が、3名。その一人が、木下秀幸氏だったのです。当初はアニメータとしてモーションを担当したのですが、『2nd』以降はスーパーバイザーとして統括。プロジェクトが来たときは、「やった!」と心底喜んだ初音ミクの熱心なファンでもあります。

『1st』のオープニング映像を考えるにあたり、今村CGディレクターがまず、ストーリーを取り込むことを発案。通常、オープニングムービーは、キャラクター紹介から入り、だんだんと盛り上げていき一気にメインキャラクターを見せるという形をとるものの、この作品には初音ミクとSD版のはちゅねミクといった2人のキャラクターしかいなかったこと、また曲も静かなものだったという点からストーリー仕立てにするのがいいのではと感じたとのこと。

また、それによってプロ集団としてのマーザの強みである練り込まれたストーリーを作れるノウハウ、モーションキャプチャを使える環境、複数のスタッフに作業をお願いできる能力も発揮出来ることも背景にありました。「一般的なゲームのオープニングとは違うものにしていきたかった。」と今村CGディレクター。
 
上がってきた楽曲が春の出会いをモチーフとする歌詞だった。そこで学園モノにすればいちいち説明を入れることなくその世界にすんなり入れるであろうとの想定から、1人の女子高生だったミクがスターへと上り詰めるというイメージで、青春映画のような演出的ノウハウを駆使してシーケンスをデザインしたと今村CGディレクターは当時の状況を述懐しました。

特にこだわった点にモーションキャプチャがあります。この時は敢えてスタジオにいる女性スタッフにお願いしてモーション撮影したとのこと。これは、プロの動きではなく普通の女性の動きを作品に取り込みたかったから。女性的な走り方等、ごく自然な動作を作品に反映していきました。

これによって、「役者もまだあまりうまくなく、カメラも上手でない青春映画のモチーフを作品上で表現出来た」(今村CGディレクター)。キャラクターデザインとしては、ヘアーシェーダのような技術はあったものの、限りなくリアルに作ることに違和感を感じたと今村氏。

もともと2Dキャラクターだったのでそれを残すにはどうするかを考えた結果、フィギュア的造形を3DCG上に再現するという発想に至ったとのこと。初音ミクのフィギュアも既にリリースされており、それが動く様を見せることが出来ればファンが喜んでもらえるだろうとの思惑もありました。またこれは、リアル系でも、カートゥーン的でも無いアニメとフィギュアのモチーフが統合された新たな日本的動画になると期待したとのことです。

これについて、擬似物理シミュレーションに手づけをうまく掛け合わせて表現したと木下氏。歩いているシーン程度であれば物理シミュレーションだけでも充分表現できるのですが、走っているシーンや壁に寄り添っているシーン、振り向きざまのシーン等は、微妙な調整が必要になったとのこと。このようなシーンでは、まずアーティストがある程度の動きを調整しつつ、最後にシミュレーションするといった手法を活用したとのこと。

また、最後の花火のシーンについては、「このまま終わるのは最後のカットにしては寂しいので花火を入れたら盛り上がるんじゃないかと」と木下氏が提案したところ、「出来るならやってみたら」というチャレンジを今村CGディレクターから受け、それを完成してしまったと言うのです。「納期的にはきつかったのですが、絶対あったほうがいいと思い追加することにしました。」(木下氏)。

結果的に作品の高いクオリティを維持しつつレンダリングまでをわずか2ヶ月未満で完成させてしまったのです。これは、CGのオープニングとしては、驚異的な速さ。アニメータのミクに対する想い入れが伝わってきますね。



実際にセガからOPのショートバージョンをアップした結果はとても良好だったとのこと。またYoutubeには海外からのコメントも数多く寄せられていた事実を受けファンも満足してくれたと、皆で胸をなでおろしたと今村CGディレクター。当時、既に視聴回数が累計10万回を突破している曲がいくつもあり、無料3DソフトMMDやBlenderなどを用いたファンによって制作されたミクの3DCG動画も多数アップされ、再生回数も数万回を数える動画もアップさていたという状態。

一旦、リリースすれば、作品を購入した誰かが動画共有サイトにアップすることとなり、それらがファンによる投稿動画との比較対象になってしまうのは必至です。「お金をいただいてつくる以上は、そういった熱心なファンにも納得してもらうクオリティにしなければならないという意識はあった」と今村CGディレクター。また、作り手であると同時に、自分自身もミクのファンであったため、一ファンとしても納得がいくものを作らないと気がすまなかったとのこと。

これについて「やはりディレクターのキャラクターに対する愛がなければ、ここまでやってもらえなかったでしょう。」と今村理人マネージャ。

■前作のコンセプトを徐々に発展させファンを物語へと引き込む

ただここでは終わりません。次作『2nd』では、キャラクターボーカロイドシリーズの鏡音リン、鏡音レンならびに巡音ルカを追加しました。この時音楽は「ガーリーなアップテンポ」をモチーフに、高校生のグループバンドをテーマとしてコンテをつくっていたと今村氏。つまりはバンド結成編というわけです。また『1st』では簡単なセリフ、『2nd』では掛け合いと徐々にセリフを増やしていったのは、まったくストーリーが無い状態から、ストーリーを感じさせるセリフを入れていくことでファンがもっと物語を聞きたいという思いを持つように工夫したとも。これがその後の『extend』のときのアフレコ編へとつながっていきます。

更に注目したのがフェイシャル。アーケードもサービスインすることから「これまで直したいと思っていたフェイシャルのモデリングを見直した」とのこと。またレンダラーをV-Rayに変更することで、標準搭載されているGlobal Illumination(全照明)を駆使し、ライティングのクオリティを高めることが出来るようになりました。これで更に実在のフィギアに近い色を表現出来るようになったとのこと。ただ、第一作目のOPが一定の評価を得たことをうけ、既存のモデルのリファインさせることに意識を集中したと今村CGディレクター。


■初音ミクライブ-まさに生きているという感覚を生み出すうえでの創意工夫の塊

そしてついに、ライブパーティのCG制作にも関わる事になります。これまでの作品やアーケード版のノウハウを結集させて作り上げ、初披露されたのが09年8月31日、新木場でおこなわれた「ミクフェス 09'(夏)」でのこと。『Project DIVA』シリーズのスタッフがそのまま担当しています。更に、2011年の初音ミクライブパーティ2011では新たに90分のライブ映像を作り上げました。画質もフルHD、演出もモーションキャプチャーの段階で考えていったと木下氏。39曲の流れをリハーサルから撮影といった本格的なもの。キャプチャー時は、木下氏を含めキャプチャースタッフが観客を演じ、場を盛り上げたとのこと。これによってアクターもテンションが高くなり、自然な動きをキャプチャーできるようになるのです。



また、映像表現ではシェーダなども新たに実装し、ライティングなどもより緻密にレンダリングすることでライブ感のある演出にこだわったとのこと。スクリーンについては、会場の視野角に応じ、透過スクリーンとさらにその上にも二枚目のスクリーニングに合わせ演出の幅を広げた。立体感を重視するか、端の入場者までクリアに映像を再現するかで使用するスクリーンは変えたと木下氏。特にシンガポール公演は本来12月に実施する予定だったのが、11月に開催と、1ヶ月も前倒しとなり大変だったとのこと。曲目についても、熱心なミクファンが多い日本公演と、Youtubeなどでミクが広がった海外ではラインナップを変えているとのことです。



ライブパーティ向け動画制作で最も気を使ったのがやはりモデリング。フェイシャルはもちろんですが、スカートもボーンを増やすことでより自然な動きを実現したとのこと。また、札幌公演以降はシェーダを更に強化。その場にいるというリアリティを出せるように注意を払ったと木下氏。



また、バンドにもCGで入れてあるライティングにあわせてもらうといった演出もしていると木下氏。これによってCGとライブがシンクロするわけです。これらはリハーサルの段階から木下氏が自ら入り話し合いを進めました。例えば、ギターソロのパートでは、ギタリストにミクが近寄っていき、ノッてくるので一緒にノッてもらうようにお願いするといったことです。これによって如何にもアドリブをしているような臨場感を生み出すことが出来たのです。

更に重要なのがカメラの指示。映像の演出上、いつどのようなタイミングでどのカメラが抑えるべきか指示を出したと木下氏。あらかじめ構成台本をつくり各撮影担当に伝えたとのこと。このようにしてスイッチャーのタイミングから、バンドとの絡みでの撮影タイミングなど、ライブの映像表現において細部にこだわる事で完成度を高め会場の人もライブ動画を視聴する人も臨場感を得られるようにあらゆる努力を尽くしたとのこと。これらの業務は完全にアニメータの領域を逸脱していますがミク動画とライブのシンクロ率を高める上ではこのような「能力」も必須であると言えるでしょう。

たとえミクの声がデータだったとしても、生の演奏の中で聴くと臨場感がまったく違うと木下、今村卓也両氏。また、シンガポール公演ではあまりの反響にこの人気がグローバルであることを改めて実感したとのこと。このような作り手の想いはミクの活躍の場を更に広げていきます。4月にリリースされる、『Music Girl 初音ミク』も控えていますし、今年もバーチャル、リアル、双方の舞台でのミクの活躍に期待ですね。

(C) Crypton Future Media, Inc.
Graphics by SEGA/MARZA ANIMATION PLANET INC.
Organized by MAGES.
(C)SEGA/(C)Crypton Future Media, Inc.
《中村彰憲》

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