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【CEDEC 2011】国内海外のゲーム開発現場を見てきたライアン・ペイトンが語る日米ゲーム制作事情

CEDEC 2011の海外セッションではライアン・ペイトン(Ryan Payton)氏による講演、「僕の海外ゲーム開発ストーリー++ ~日米両方でAAAゲーム開発をして分かったこと~」が行われました。

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CEDEC 2011の海外セッションではライアン・ペイトン(Ryan Payton)氏による講演、「僕の海外ゲーム開発ストーリー++ ~日米両方でAAAゲーム開発をして分かったこと~」が行われました。

ペイトン氏は、日本でライターなどを経てコナミ小島プロダクションにて『METAL GEAR SOLID 4』などの制作に参加、発売後は故郷シアトルに戻り、マイクロソフトに入社。『HALO 4』を含むHaloシリーズのクリエイティブ面のディレクションを担当していました。

講演タイトルのAAAゲームとは、いわゆるミリオンセラーなどのビッグタイトルのことで、彼自身が携わった『メタルギア・ソリッド4・ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』ならびに『Halo4』のことを指しています。

ペイトン氏が日本にきたエピソードでは、彼自身が5,6歳だった時に、父にATARI 2600を買ってもらったことからゲーム人生が始まり、以後は自転車を貰って友達の家でゲームをしたり、NES(スーパーファミコン)を買ってもらったりとゲーム好きの少年として育ちました。

年を重ね、神戸製鋼に勤めていた父について来日、その後『メタルギアソリッド』に触れ非常に感銘を受けたと説明していました。その後は、期待を胸に日本語の教育プログラムを受け再来日したところ、場所は兵庫県の浜坂という自身の不運を呪ったそうです。以降フリーライターとして活躍しつつ、2005年のE3で小島秀夫氏と会話ができる機会があり、日本語と英語の両方ができるならKONAMIを受けてみたら?と同氏の言葉を頼りにKONAMIに面接を受け、KONAMIにて『メタルギアソリッド4』に携わることとなります。

『メタルギアソリッド4』発売後、休暇に実家に戻ったところ、ペイトン氏の母親がガンを患っていたため、アメリカにとどまり、マイクロソフトへと転職。『Halo4』の開発に携わることになります。幸いにも、その後、母の病気は快復しており、ご健在とのことです。

マイクロソフトでは『Halo』開発スタジオの343 Industrieにて、クリエイティブディレクターに従事。ここでセッションタイトルの「日米両方でAAAゲーム開発をして分かったこと」の説明となりました。


まず、アメリカでの話になります。

1点目はマネージメント。アメリカでは毎週といっていいほどチームメンバーとMTGをします。プライベートでは、バーベキューやピクニックなど、スタジオとしてのカルチャーを構築していたそうです。

2点目は仕事とプライベートのバランス。アメリカ人たちは自分たちの自由時間を真剣に守ることでも有名ですが、徹夜で仕事をすることもあるけれども、必要な限りは頑張るが、必要がなければ帰るというスタンスの方が多いそうです。日本と違って他の人が残ってるから、帰れないということはなく、ペイトン氏はこの部分で「日本のチームで仕事をしようとすれば、今後アメリカのような、自分の時間を作ることを大事にしたい」と語っていました。

3点目はチームとしての団結力。これは日本のほうが強いと思われがちですが、アメリカ人は帰宅して家族と食事をした後、仕事仲間とは自宅でSteamなどでコミュニケーションを取ることが多いそうです。一緒にゲームをするというのがチームとしての文化を作る良い例になるし、「ゲームの世界がバーチャルな居酒屋だと思う」と語られていました。

4番目はデータ依存。アメリカでは、とにもかくにもデータを重要視する文化があります。たとえば、

・Prototypes
・Playtets
・Team Surveys
・Focus Froupes
・Market Dat
・Data Mining

これらのデータに依存したマーケティングやゲーム制作などをはじめ、様々な商売の基礎となっています。ちなみに実装当時はデータにないXbox LiveのAchivementなどは理解のしがたい機能だったそうです。とはいえ、今はこのAchivementが重要な要素になっています。

5番目は情報共有。アメリカ人たちは好奇心が強いだけでなく、皆、ミーティング内外問わず質問が多いそうです。結果主義というのもありますが、自分たちの成功はプロジェクト次第という考えがあるので、アメリカにおいては情報の開示を強く要望するケースや、“なんらかの話し合いの場”が求められることが多いとのことです。新しいメンバー、新しい問題など、とにかく時間もかかるそうですが、

6番目はアイデアの提案です。アメリカではゲームを売り込まなければならない、アイデアからインスピレーションを得たい人たちのために、ペイトン氏は『Halo』についてはアイデアを持っていたものの、将来はこうしたほうがいいなどのアイデアを1ページのドキュメントで作っても何も動かないし、取り入れてくれなかったそうです。これは彼らはアイデアを作るオーナーであったり、共闘するパートナーになりたいと思っているからで、日本人の開発者のように、自分がディレクターである、これは自分のアイデアだという考えでは難しく、チームメンバーと話をして、一緒にアイデアを育てていくという方向性を作っていく必要があると語っていました。。

7番目はビデオゲームの開発となるとトップダウンになるということ。アメリカではカウボーイのようにヒロイズムが強い印象を受ける人も多いでしょうが、実は分散化されていて、コミットメントを主催としているそうです。アイデアを伝える、フィードバック、チームのモチベーションをあげていくことが大事だそうです。『メタルギアソリッド4』では小島氏がアイデアを持って行ってそれを実践していく形だったそうですが、アメリカではクリエイティブディレクターのような、意思決定の中に加わりたいと思う人が大半なので、皆が同等に物事を進めていくことが必要となるそうです。今後はクリエイティブディレクターがフューチャリングをしていくだけではだめ。

8番目はビジョンとリーダーシップのバランスだそうです。前述の通り、データがかなり重要視されているアメリカでは、ゲームにもっと血を盛り込みたいという意見にもデータの裏付けが必要。チームワークのバランスをうまくとることも大事。結果としてペイトン氏はチームに色々任せていこうという気持ちの切り替えを行ったそうです。とはいえ、あまり多くの指示を与えてはいけないし、あまりにも何も言わないこともいけない。きちんとしたビジョンを伝えることができなかったため「無人島にいるような感覚だった」と語っています。

9番目はビジョンの共有です。クリエイティブリーダーとして考えなければならないのは、チーム内でビジョンの共有を図るということ。ディレクターとしてはマーケティング、ゲームの特色、Prototypeを取り入れなければならない項目が150個あって、それらをアップデートしていかなければならかったそうです。頭の中にあるビジョンを具現化するのは難しく、アイデアは頭の中にあるが、作業をしてみたら、まとめるのが大変なことになったと語っています。

10番目はゲームタイトルのコンセプトの明確化です。これはクリエイティブビジョンを分かりやすくするもので、「Vision Statement」を例にあげていた。ハリウッドだったらピッチとして使われるものを例にしています。たとえば『Mercenaries2』であれば“GTA in Warzone”、『DEAD Space』であれば“Resident Evil in Space”(バイオハザードの宇宙版)、『Killer7』だったら“Im on drugs”(中毒)これらの要は柱(Piller)としての要素を立てるということと語っていました。


ペイトン氏はアメリカでのゲーム制作において、経営陣からの慢性的なリスク回避主義に悩まされたとのことで、経営陣がなかなかリスク回避のための強迫観念が強い。クリエイティブ上の障害はたくさんあると語っていました。

アメリカに戻った時の話、3年前と変わっていないのは、ゲームをどうやって作るのかディスカッションばかりをしているとのことです。たとえばカメラの仕組みをどうしたらいいのかという話ばかりで、もっとクリエイティブな部分に努力を注ぎたいとペイトン氏は語っていました。。

60$で売っているビッグタイトルは、毎回新しいものが出されるたびに、技術、ブランド、コミュニティなどが膨らんでいる。これらのビッグタイトルが作れるような素晴らしいゲームエンジンも備わっている。

既存のフランチャイズであるビッグタイトルに対して、新しいIP(タイトル)を出そうとするとなかなか太刀打ちができない。近年閉鎖されたスタジオを例にあげ、「彼らは素晴らしいものを持っていたが、戦う相手が巨人すぎた」と語っています。

とはいえ、そのビッグタイトルを生み出しているElectronic ArtsやCryTechなどもLayoffが行われており、日本では、ゲーム自体はうまくいったとは言えないが、どうやってこれらの巨人と戦うのかという部分でかつて『メタルギアソリッド4』に携わり、私が日本で仕事をしたというだけで、「凄いね」と言われいたが、時がたつにつれ、日本のゲームに対してアメリカ人が興味を持たなくなってきている。「日本からきたんだよね?彼のアイデアは古いんじゃないの?」といわれるようになってきているそうです。アメリカ人たちが間違ってきているのではないかということはなく、これらは深刻なゲームデザインの問題により、日本のゲームで問題を指摘してきしていました。

こちらもアメリカのゲーム制作10の問題同様に10の項目で説明されています。

まず、1つ目がラフ(雑)であること。プレイテストをしていないんじゃないかと「キャサリン」がいい例で、社内でプレイテストをしただけではプレイによるゲームプレイのスキルアップがスムーズに進まないのは内部テストのみだけだったからではないかといった例が挙げられました。かといってビッグタイトルのような500万ドルをかけてプレイテストを行う必要があるかというとことではなく、『メタルギア ソリッド4』で行った例では、週末に親しい友人たちを呼んでプレイテストを行ったなど、その後のログデータを見ればどこを改善すればいいかわかるので、ダメになるのを防げていたといいます。

2つ目はグローバルスタンダードにあっていない操作。たとえば、Xbox 360でのFPSタイプのゲームであれば、Xボタンは重火器のリロードであるものの、日本のタイトルはそうでないケースが多いとの見解があるようです。

3つ目はゲームのローカライズの改善。日本産のタイトルで頑張っているものもあるものの、日本の国内で英語音声を乗せたものに関してボイスオーバー(吹き替え)のクオリティが下がっているものが多いという印象を受けるようです。

4つ目は日本のゲームでファンタジー性が強くなりすぎているという点。『パラサイト・イヴ』など、ニューヨークを舞台にしたゲームなど、セミリアルな世界観のタイトルはアメリカ人には受けたようですが、昨今の日本はファンタジーに偏ってきているため、アメリカ人は興味を示さなくなってきているそうです。

5つ目は誰もストーリーを気にしていないこと。ストーリー性もゲームの重要な要素の一つではありますが、物語をどう伝えるかという部分、シネマティックやカットシーン、ボイスオーバーなどはそれほど重要ではなく、ゲーム性そのものに重点を置いたほうがいいと語られていました。

6つ目は、世界観。ここでは『レフト・4・デッド』を例にあげ、絵で見て分かる世界観やキャラクター性が大事だということを語っていました。

7つ目は、プレイヤーと主役の気持ちを併せる没入感やモチベーション。ここでは『DIABLO』を例にあげつつ、プレイヤーが敵キャラクターを憎むような気持ちが生まれる設定や、酷い存在だということを思わせてくれる演出が必要であると語っています。また、30~40時間という時間をかけてモンスターを倒す場合、モンスターにもサイドストーリーがあるべきではないかという話もでています。登場キャラクターに対する感情移入の部分が近年薄れていることが課題ということでしょう。

8つ目はプレイヤーがコントローラーを手にする時はインタラクションをしたいからであって、カットシーンが長いと寝てしまうということ。深いインタラクションを入れる必要はなく、安易にボタンを叩く行為であってもプレイヤーはインタラクションを求めているのであって、三角ボタンという簡単なインタラクションでも気に入ってくれた作品もあるということを語っていました。

9つ目はプレイヤーを励ましてもらうということが大事ということ。能力テストやスキルレベルが主である考えは間違っており、『コール オブ デューティ』シリーズが『Halo』シリーズをの人気を上回ったのは、Haloでは勝ち負けがハッキリし、負けた側は後味の悪い気分だけが残るが、CoDでは負けた側にも楽しんだという付加価値があったからだと語っています。ゲームオーバーという考えは捨てて、ゲームは続くという考えが必要。いい気分になるためにやるんだということが大事だそうです。

10番目はプレイヤーの時間というものを考えるということです。日本のゲームはプレイ時間というのを考える必要があり、アメリカ人の間でも日本のゲームは時間がかかるからやりたくないという意見もあるそうです。海外ゲームサイトの記事では、『ドラゴンクエスト9』の要素をすべて楽しむには700時間も遊ぶという結果が出されており、このようなことを言われてしまうと、アメリカ人は受け付けないそうです。また別のゲームでは、50分のプレイ時間を使っても失敗すると何も得られないとう部分が“時間の無駄”として受け付けないなどということもあるそうです。

ペイトン氏はこのほかにも、日本は国際市場の競争意識しすぎているほか、エンターテイメントのIPとしては優れたものではあるが、各プラットフォームではそれぞれ1タイトルくらいしか出ない。せっかくのIPをしっかりとフランチャイズ化することが必要なのかもしれない。と語っていました。


まとめとしてペイトン氏は、すべてのコンソールをひっくり返してWirelessでTVとつなげたりするとAppleに凌駕されてしまう。また、すべてのレベルでビッグタイトルという巨人と戦う必要はなく、それぞれにクリエイティビティの黄金時代がどこかにある。GDCで、任天堂の岩田社長がゲーム業界にはSpecialistが多いけど、Geleralistが少ないといった問題を上げたいたのが印象だったと語ったほか、ファミコンで成功した人たちは、今、色々な責任のある年にになっているが、ファミコン時代から20歳も年をとっており、そういう人たちが意思決定を持っているが、今後は新しい年代の人たちが新しい核心を作り、新しい核心のための道筋が必要なのではないかと語っていました。

なお、ライアン氏自身は4週間前にマイクロソフトを退社し、今後は自身が立ち上げたCamouflajにて新しいゲーム制作の挑戦をしていくそうです。
《鬼頭世浪》
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