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歴史ゲームなのに“本物の歴史”じゃない?歴史ゲームが歴史通りに作れない理由を考察する【特集】

歴史ゲームはなぜ歴史通りに作れないのでしょうか。ゲームで歴史を表現する難しさを筆者のMod開発体験を通じて紹介します。

ゲーム 特集
『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)
  • 『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)
  • 『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)
  • 『信長の野望・新生』
  • 『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)
  • 『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)
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  • 『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)
  • 『Crusader Kings III』(Mod「Shogunate」)

歴史を扱ったゲームをプレイしていて、「本物の歴史と違う!」と思ったことはありませんか。

一口に歴史ゲームと言ってもジャンルはさまざまです。『信長の野望』のように歴史そのものをテーマにしたゲームもあれば、『アサシン クリード』や『Ghost of Tsushima』のように歴史上の一時代を舞台にしたゲームもあります。しかし、どのゲームでも、史実と異なる架空設定が使われていたり、本来存在するはずの人物がいなかったりと、“歴史ゲームなのに歴史通りじゃない”と感じる場面は少なくありません。

『信長の野望・新生』には、なぜか室町幕府第14代将軍・足利義栄が存在しない。

ではなぜ、歴史通りになっていないのでしょうか。実は、これにはさまざまな理由がありました。筆者は中世の日本を舞台にしたModの開発に携わっていますが、その過程でゲームを歴史通りに表現することの難しさを痛感したのです。おそらく、歴史ゲームの開発者もプレイヤーに見えないところで同じような困難と日々戦っているのではないでしょうか。

本稿では、筆者が直面した課題の数々を紹介しながら、歴史ゲームが歴史通りになっていない理由をMod制作者の視点から解き明かします。一部に歴史用語が飛び交う部分もありますがご容赦ください。

筆者が開発に携わるMod「Shogunate」。Modの開発を通じて歴史を表現する難しさを痛感した。

筆者が開発に携わっているのはストラテジーゲーム『Crusader Kings III』のModです。オリジナルのゲームは中世ヨーロッパを舞台に結婚・暗殺・戦争などを駆使して一族の繁栄を目指す内容ですが、このModはその舞台を丸ごと中世の日本に置き換えてしまいます。

中世日本Mod「Shogunate」(Steamワークショップ)

詳しい情報がわからない

歴史ゲームを作ろうとして最初にぶつかるのが、当時の詳しい情報がわからないという問題です。情報がなければ歴史を正確に再現することはできませんし、どうしても架空の設定に頼らざるを得なくなります。筆者が携わるModでは、マップ上に当時の支配者を設定しようとしたところで、この問題に直面しました。

戦国時代終盤の勢力図。この時代であれば支配者の情報に困ることは滅多にない。

大小さまざまな勢力が全国に割拠した戦国時代だけを扱うのなら、ある地域にどんな支配者がいたのかわからないことは滅多にありません。しかし、このModでは平安時代末期から江戸時代初頭までを扱い、北は千島列島から南は南西諸島までがマップに含まれています。そのため、無視できないほど広い範囲で支配者の情報が一切見つからないこともありました。例えば、14世紀以前の蝦夷地(北海道)に住んでいた歴史上の人物は、どんなに探しても具体的な情報がありませんでした。

このような時、Modの開発チームは「情報がないから仕方ない」と制作そのものを諦めるのではなく、“歴史通り”でなくなるのを承知の上で、ゲームを成立させるために架空のキャラクターを設定することを選びました。こうした架空のキャラクターには、神話や伝承、江戸時代以前の文芸作品に登場する人物を利用したこともあります。例えば、源平合戦を題材にしたシナリオに登場する蝦夷地の首長の名前は、源義経が自害せずに北へ逃げ延びたとする「義経北行伝説」や、それを題材にした江戸時代の作品の登場人物から採っています。

平安時代末期の蝦夷地には、支配者として「義経北行伝説」に登場する張達を設定した地域がある。

同じような例をもう一つ紹介しましょう。歴史には、実在したにもかかわらず後世に名前が伝わっていない人々が存在します。例えば、戦国大名同士の政略結婚に登場するほどの女性であっても、通称や戒名しか伝わっていない場合もあれば、通称さえわからず便宜上「誰々の娘」としか呼べない場合もあるのです。その一例が将軍・足利義晴の娘です。この女性は織田信長に追放された室町幕府最後の将軍・足利義昭の姉妹にあたる人物で、戦国大名の三好義継に嫁ぎました。父親も夫も相当に地位の高い人物でしたが、後世には通称さえ伝わっていません。

Modの開発チームは、十分な情報がないという理由でこうした女性の存在を省略しようとは考えませんでした。史実の同盟関係を再現するには政略結婚に関わった女性が必要だという理由もありますが、なにより当時の女性の役割を軽視したくなかったからです。そのため、さきほどと同様に、“歴史通り”でないことを承知の上で、架空の名前を設定してゲームに登場させました。架空の名前を決める際には、当時広く使われていた「父親の名前から一字取る」方法を採用した場合もあれば、自由に命名した場合もあります。

源頼朝の妻・北条政子は父・北条時政から「政」の一字を取った歴史上の実例。

このように、歴史ゲームを作る際には詳しい情報が不足している部分を架空の設定で補うことが必要になります。架空の設定ですから“歴史通り”でないのは仕方ありませんが、それでもなるべく歴史らしさを損なわないように開発者はそれぞれ工夫を凝らしているのです。

複数の説が存在している

次に直面したのは、歴史には複数の説が存在するという問題です。専門家でも意見がわかれている歴史上の事柄は数多くありますが、ゲームを作る際には複数の説の中から一つを選ばなければなりません。プレイヤーによっては、自分がよく知る説とは異なる説をもとに描かれた歴史を見て、“歴史通り”ではないと感じることもあるでしょう。

巨漢であったと伝わる豊臣秀頼(豊臣秀吉の子)は大柄に設定されている。

一つの例として、織田信長や徳川家康の一族をModの中でどのように表現しているかを紹介します。織田氏は平家の末裔、徳川氏は清和源氏の末裔を自称しており、それを伝える家系図が後世に伝承されています。一方、織田氏や徳川氏は歴史的な研究の数も多く、さまざまな史料から伝承とは異なる本来の家系図を復元する試みが行われてきました。

つまり、織田氏や徳川氏の家系図は“伝承された家系図”の他に複数の“復元された家系図”があり、歴史ゲームを作る際にはこの中から一つを選ばなければならないのです。このModでは、後世に伝承された家系図ではなく、歴史的な考証から復元された家系図の一つを採用しました。いずれの一族も14世紀の人物までしか辿れないように設定されていて、平家や源氏につながるようにはなっていません。

織田信長の先祖を遡ると織田信昌(藤原信昌)という人物に辿り着くように設定されている。

ゲームとしての面白さを優先するなら、伝承された家系図をそのまま採用する方法もありました。織田氏や徳川氏の祖先をさかのぼって、平家や源氏に辿り着いたプレイヤーは感動するでしょう。しかし、その方法はあえて採用しませんでした。Modの開発者としては、“歴史通り”である可能性ができるだけ高い情報を選びたかったからです。一方、織田氏や徳川氏が平家や源氏の末裔だと考えているプレイヤーにとっては、この設定は“歴史通り”でないように見えるかもしれません。

このように、歴史ゲームを作る際には要所要所で複数の説から一つを選ばなければならない場面に遭遇します。開発者はできるだけ“歴史通り”に近い方を選んでいるつもりでも、必ずしもすべてのプレイヤーがそう感じるとは限りません。また、歴史通りであることとゲームとしての面白さを両立させるのも難しい課題です。

源為朝の子に設定されている初代琉球王・舜天のように、伝承を優先した場合もある。

歴史通りではつまらない

“歴史通り”の設定にすることで、かえってゲームがつまらなくなってしまう場合もあります。歴史通りということは最初から結果がわかっているのと同じですから、ストーリー展開の先が読めてしまったり、プレイヤーが取れる戦略の幅が狭くなったりするためです。

例えば、ゲーム内の織田信長が桶狭間の戦いに“必ず”勝利し、本能寺の変で“必ず”死ぬと決まっていたら、それがどんなに歴史通りだとしてもプレイヤーの感動は薄れるでしょう。たとえ大筋の歴史は変えられないとしても、意外な展開を用意したり、逆転の可能性を残したりと、歴史そのままの流れにしない工夫が必要になります。

桶狭間の戦いに相当するイベントも用意されているが、戦場が桶狭間になるとは限らない。

筆者がModを開発する上で遭遇した少し変わった例を紹介しましょう。このModでは歴史上の人物を多数設定していますが、その設定の細かさが逆にゲームバランスを悪化させる原因になったことがあるのです。

このゲームには「同盟を結ぶためには親族間の結婚が必要」というルールがあります。つまり、親族に未婚の男女が多いほど同盟が結びやすくなり、外交上有利になるルールです。ところが、Modの開発チームが歴史上の人物を次々に追加していった結果、いつの間にかゲームバランスに影響を与えるほど多くの親族を持つ人物が生まれてしまいました。

親族は原則として“歴史通り”に追加していったのですが、人物によって親族の情報量に違いがあったため、人数にばらつきが生じてしまったのです。織田信長や徳川家康のように、後世に詳細な記録が残っている人物や多くの研究が行われている人物は追加された親族の数も多く、他の人物と比べてゲームで圧倒的に有利になっていました。

織田信長には子供が数多く設定されている。叔父や甥まで含めると親族はかなりの数に上る。

筆者はこの体験を通じて、わかっている限りの歴史をそのまま再現することが必ずしもゲームを面白くするとは限らないことを知りました。他の歴史ゲームでもゲームバランス上の理由から、あえて“歴史通り”の人物をすべて登場させていない場合があるのかもしれません。


歴史ゲームが必ずしも“歴史通り”になっていない背景には、このようにさまざまな理由がありました。筆者は直接体験していませんが、演出上の理由であえて歴史とは異なる設定を採用している場合や、ゲームとして成立させるためにやむを得ず歴史を簡略化している場合もあるでしょう。いずれにせよ、その背後には歴史ゲーム開発者の見えない戦いが隠れているのです。

本稿の執筆にあたっては、Mod開発者awak氏にご協力いただきました。この場を借りて感謝の言葉を述べさせていただきます。


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