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最強武器素材と交換してもらえるらしい…『英雄伝説 黎の軌跡』導力映画のパンフレットを編集部で制作して、開発者に送りつけてみた

「導力映画」のパンフレットを妄想で制作して、日本ファルコムのリーダーに直撃。編集部&イラストレーターの力作をぶつけながら、PS5版『英雄伝説 黎の軌跡』について深掘りしていきました。

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最強武器素材と交換してもらえるらしい…『英雄伝説 黎の軌跡』導力映画のパンフレットを編集部で制作して、開発者に送りつけてみた
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2022年7月28日、ファンタジー的世界観の中の“裏社会”で起こる物語を描いたRPG『英雄伝説 黎の軌跡』がPS5向けにリリースされました。2021年9月30日にPS4版が発売されていた本作ですが、PS5版では4K/60fpsサポートに加えて、ゲームを更に遊びやすくする「ハイスピードモード」や、旧作の物語&ゲーム内用語を解説する「アーカイブ」、UI調整オプションなど多数の機能が追加されます。

インサイド編集部は、そんな『英雄伝説 黎の軌跡』プロデューサーでありながら日本ファルコム株式会社の代表取締役社長・近藤季洋氏に独占インタビューを行う機会を得ました。1989年発売のPC88向け作品『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』に端を発する超老舗RPGシリーズで、そのうちの『軌跡』シリーズとして12作目となる『黎の軌跡』。そのPS5向け新エディションの貴重な開発エピソードを伺うことになったわけですが……正直に申し上げますと、本稿の筆者には旧作の知識がほとんどございません。

「せっかくの貴重な機会をどうするつもりだ」「長年続くシリーズなのに、一作もプレイしたことがないとはどういう了見だ」「ゲームライターなら1日40時間プレイしてから企画に取りかかれ」……それは、バリエーション豊かな怒号が響く社内チャットへの言い訳を考えながら、PS4用オリジナル版の序盤をプレイしているときのこと。筆者は、この『黎の軌跡』が持つ不思議な魅力に気がついたのです。

「このゲーム、やけにサブ要素の作り込みが深過ぎないか……?」

筆者にとって、『英雄伝説』シリーズはいわゆる「王道JRPG」といった認識でした。しかし、アイテムを購入できるお店は「おばちゃんがひとりで営業するタバコ屋」「カフェバー」「ライブハウス」「タコス屋」など、なんだかリアリティのあるものばかり。売っているアイテムも「チーズホットドッグ」「ビーンズシュリンプタコス」という、空腹時に見たらひとたまりもないラインナップです。

ゲーム開始すぐに購入できる「タイレル通信・第1号」。いきなり全6ページの大ボリューム。

タバコ屋のおばちゃんなどから買える新聞「タイレル通信」のテキスト量も圧巻。モブキャラクターにもそれぞれ背景や設定が用意されていたりと、「オーソドックスなRPG」と言うには奥深過ぎる作り込みが目を引きます。その中でも「導力映画」には並々ならぬ情熱が注ぎ込まれていると感じ、全身に電撃が走ったような気分になりました。

導力映画界のトップ女優「ジュディス・ランスター」。その名前から映画「羊たちの沈黙」を思い出した方は、もしかしたら正解かもしれません。

「導力映画」とは、ゲーム内で訪れることができる映画館「シネマ・エスプリ」で鑑賞する“劇中劇”のこと。魅力的な仲間キャラクターと一緒に「導力映画」を観にいくことで、「コネクトポイント」という友好度のようなものを上昇させたり、収集アイテムである「パンフレット」も購入したりもできるのです。

そして、ゲーム内に登場する「パンフレット」を12枚集めて特定の人物に渡すと、「黒玉鋼」と呼ばれるレア強化アイテムをゲット可能。世界観の奥行きを見事に広げながらRPGとしての成長要素に繋げるこのギミック……「世界観の作り込み」重視でゲームを選ぶ筆者にとっては、見逃せるはずがありません。

そこで筆者は、Game*Sparkで「ULTRA BLACK SHINE」を連載する漫画家/イラストレーター・いぬもととタッグを組んでオリジナルの「妄想・導力映画パンフレット」を制作。近藤プロデューサーに突撃し、「黒玉鋼」をねだりながらインタビューを実施しました。

PS5版『英雄伝説 黎の軌跡』公式サイトはこちら


ゲーム内に登場する「長靴をはいたみっしぃ」ポスターイメージ

最初に筆者といぬもとが目をつけたのは、劇中劇のひとつ「長靴をはいたみっしぃ」。ゲーム内マスコットキャラとしてシリーズファンにはお馴染みの「みっしぃ」を題材とした導力映画です。

改めて説明すると、これから紹介していく編集部制作のパンフレットイメージ+あらすじは全て妄想ですので、ご了承ください。制作にあたって予めチェックしたのは「導力映画の題名」と1枚の「参考イメージ」のみ。しかし、チラチラと得ていた事前情報から“みっしぃ”が「作中に登場する架空のマスコットキャラクター」であることはもちろん分かっています。

そんなみっしぃを主題としている映画で、参考イメージには「サイドテーブル」の上に乗った「キーホルダー」と「紙冊子」が描かれている……。これはおそらく「“みっしぃ”を題材としている劇中劇中劇」に違いありません!

なにせ『黎の軌跡』は、アウトローな探偵や裏稼業的な物語をベースにしつつも、SFファンタジーや変身ヒーロー的な要素も盛り込むという欲張りコースまっしぐらなRPGです。多少のヒネリがあっても不思議ではないでしょう。「タイトルに惑わされず、どんでん返しで勝負しよう」……筆者とイラストレーターはそう決心し、パンフレットを制作しました。

「長靴をはいたみっしぃ」

かつて名作映画シリーズ「長靴をはいたみっしぃ」の主演(着ぐるみアクター)として人気を博すも、今や公私共にどん底の人生を送る中年俳優・ブルース。

彼の頭の中には、十年以上も前に離婚した妻と娘のおぼろげな影が住み着いている――「“みっしぃ”なんて、今どきダサいよ」「パパはいつだって自分勝手で、独りぼっち。私がいないと何もできないのよね」――安酒を飲んで目を閉じれば、いつだって娘の口癖が聞こえてきた。

しかし、ひょんなことから煤けた生活からの再起を決意した彼は、友人や身近な知人をかき集め、子どもの頃からの夢であった"自主制作映画"の実現のために動き出すことになる。

ダンボールハウスで暮らしている「長靴をはいたみっしぃ」主演時代の仲間“トムトム・マクラビン"、ブルースが住むボロアパートの隣人でCGIクリエイター志望の学生“ドゥームフェイス”、ネットで出会った自称ジャズピアニストの“チャット・ベイカー”に声をかけ、少数精鋭のもとに自主制作映画の企画を立ち上げたブルース。

超低予算ながらも仲間たちと製作を進め、創作の喜びを分かち合う――そのときに得たものは、若かりし頃のブルースが初めて「みっしぃ」の撮影に参加した日に覚えた感動とよく似ていた。

しかし、完成間近まで辿り着いたところで、仲間のひとりが問題を起こす。

「結婚する予定だった彼女に騙され、映画の公開までに必要だった資金をすべて盗まれた」……嗚咽を漏らしながら、資金横領と詐欺被害を同時に告白したドゥームフェイス。その横顔にパンチを入れたマクラビンは右手を粉砕骨折、彼を緊急搬送しようとしたチャット・ベイカーは、クルマの運転中に無免許運転がバレて逮捕されてしまう。

金も仲間も失い、もはや"完成度9.5割"の映像をボロアパートの一室で視聴することしかできなくなっていたブルースに、一本の電話が入る。

発信者番号を見ると、プロモーション会社の担当者からのようだった。これまでなんべんもメールで金の支払いを催促されてきたが、これが最後の通告ということだろう。安酒を煽りながら着信に応えると、スピーカーから聞き覚えのある言葉が聞こえてくる。

「やっぱり、パパは独りぼっち。私がいないと、なんにもできないのよね」――ブルースの中に住む6歳の少女の幻影が、スーツを着た凄腕プロモーターの姿に書き換えられる、5日前の出来事だった。

数十年前の人気俳優が落ちぶれ、敏腕プロモーターとなった娘と再会し、愉快な仲間と共に第二のサクセスストーリーを築き上げていく……裏社会のダークな一面を描く『黎の軌跡』に登場する劇中劇なのですから、そんなビターな映画に違いありません。

そしてお次は、「狼たちの鎮魂歌」なる導力映画。こちらも『黎の軌跡』に登場するポスターを参考イメージとして想像させていただきました。

パッと見た印象では、ゲーム本編で語られるストーリーを彷彿とさせる“アウトローもの”でしょうか。東洋系美女と刑事のような男性の関係が気になる一枚です。漢字で「狼群鎮魂歌」と表記されるところもシブさを感じますね。しかしそんなビジュアルだからといって、中身がハードボイルドなアウトロードラマや任侠映画であるとは限りません。

「劇中劇とは言え、あの日本ファルコム作品。ヒネらないように見えて、意外とヒネっているかもしれない」。そんなことを言いながら首をヒネる筆者といぬもとの頭に、突如として閃きが舞い降りました。キーワードは「狼」……となれば、選択肢はひとつしかないでしょう。

「狼たちの鎮魂歌」

学校からの帰宅中、何者かに拉致されてしまった高校2年生・市ノ瀬ニトリ。彼女が目を覚ましたのは、山奥の村にある一軒家だった。人里から離れたこの貧相な村に残っていたのは、常に大きなノイズを流し続ける防災スピーカーと巨大なモニター、そして……その昔、住人たちが江戸末期の時代から語り継いできたという「狼男伝説」の痕跡。そこで出会った人々は自らを「村人」「占い師」「霊能者」「狩人」などと呼び、村が抱えるひとつの大きな悩みをニトリに打ち明ける。

――今日から3日後、この村にひとりの“人狼”がやってくる。

ニトリが目を覚ましてから72時間後、村にやってきたのは3人の男だった。瞳に哀愁を帯びるアラサー不良刑事「大上 低五郎(おおかみ ひくごろう)」、強大な権力と財力で気ままに生きる御曹司「麗漢(らいかん)」、ニトリの同級生で同じクラスの男子高校生「狼谷 那由太(かみたに なゆた)」。

“枯れ”を匂わすアウトローに俺様系男子、そして同級生。3人のうちの誰が「人狼」で、どのようにして日々を生き残っていくかを考えながら、スリリングなデスゲームと共に始まる恋愛に胸を鳴らせる――それが、人気恋愛リアリティーショー「さよならまでの一週間。」の特別スピンオフ番組「オオカミたちの一週間。」の台本であった。

ラストを飾るのは、人狼の「那由太」こと小豆祭 ミチ(あずきまつり みち)と村人である「ニトリ」こと論理二階堂 キシ(ろんりにかいどう きし)のキスシーン。殺害されていった他の村人たち、距離を縮めてきたもう二人の男性との記憶を手繰りながら、束の間の恋人関係を享受する……「憂いや儚さを感じる、そんな恋愛リアリティショー」という上層部からのニーズに応じようとするプロデューサーの思うがまま、撮影は進んでいった。

しかし、撮影終了前日の朝になってキシが見つけたものは、どことなく朗らかな顔色をしたプロデューサーの姿ではなく、腹部をズタズタに引き裂かれた「麗漢」役の男性・田中々 バギー・キッド(たなかなか ばぎーきっど)の遺体だった。彼の亡骸の周りには、明らかにバギーのものではない、薄汚れた衣服らしきものが散らばっている。そして村人や狩人、占い師として出演していた他の役者たちは、顔をしかめて言い争い始める――「昨晩、狼の遠吠えのような声が聞こえた」「大柄な男の姿を見た」「いいや、小柄だった」「違う。この衣服の破片は女物だ」。

高校生でありながら読者モデル兼女優として活動していたキシにとって、現場の空気は重圧そのものだった。撮影の間、バギー・キッドから“実際に”言い寄られていた彼女に容疑が集中する中、番組内で「恋人」役であったミチが、キシに耳打ちする。

「オレには分かる。この大人たちの中で、誰が嘘を吐いているのか」

「オレを信じて、もう何日か待って欲しい。そうすれば、本物の犯人を“吊り上げられる”」

緊迫した空気の中でバギー・キッドが起こした行動は、「占い師CO」。そんな超能力のようなものが実在するはずがないが、声を荒げる大人たちの群れに味方はひとりもいない……止めどない疑心の激流に襲われる中、キシはひとつのルールを思い出す。「占い師を守るのは、“騎士”の役目」。“ゲーム”でも“リアリティショー”でもなくなった殺人事件の中で、彼女は“恋人”を守る決心を固めた。

狼といえば……そう、「人狼ゲーム」ですよね!本作で描かれるのは、10代に人気のリアリティーショーの制作中に起きた悲劇、そしてロマンス。おそらく、今流行中のエッセンスを多分に盛り込みまくったエンタメ度の高いデスゲーム映画なのでしょう。

サスペンスと恋愛要素、そしてSF要素も絡んだ「狼たちの鎮魂歌」は、きっと導力映画界を揺るがすブロックバスター的作品に違いありません。ところで、お気付きの読者もいらっしゃるかと思われますが……脇目も振らずに「違いありません」と言い続けるのがこうした妄想を続ける秘訣です。

西洋的でありながら東洋的な香りもそこかしこに漂わせ、作中でも“多様性の坩堝”と呼ばれる本作の舞台「カルバード共和国」。その地でどのような劇中劇が繰り広げられるのか……というか実際の「長靴をはいたみっしぃ」と「狼たちの鎮魂歌」はどのような作品なのかを確認すべく、こうして制作した妄想パンフを引っ提げ、インサイド編集部はいよいよゲームプロデューサー・近藤季洋氏にインタビューを実施。もちろん、『黎の軌跡』をはじめとした『英雄伝説』と『軌跡』シリーズの魅力についても話を伺いました。


――本日はよろしくお願いします。インタビューの前に、まずはこちらをご覧いただけますか?今回、編集部は導力映画「長靴をはいたみっしぃ」「狼たちの鎮魂歌」の2本をターゲットにして「妄想パンフレット」を制作してみました。

――2枚のみですが、どちらのパンフレットも編集部の力作です。近藤プロデューサーから、直々に「黒玉鋼」をいただけないでしょうか……?

近藤季洋氏(以下、近藤氏): どちらもかなりの力作ですね! ただ、『軌跡』シリーズは世界観を重視するゲームです。登場人物や舞台設定は、もう少し「カルバード共和国で作られた映画」らしく制作して欲しかったですね!そこが惜しいところでした。それと……申し訳ないのですが「黒玉鋼」はパンフレットが12冊揃ってないと差し上げられない設定です。揃っていない場合はぜひカルバード共和国の街並みを練り歩いて、「掘り出し物」を売ってるお店でゲットしてください!

――「黒玉鋼」獲得ならずで残念でしたが、プロデューサーからそう言っていただけて光栄です!「長靴をはいたみっしぃ」「狼たちの鎮魂歌」は、それぞれどういった物語が描かれる“劇中劇”なのでしょうか?

近藤氏: みっしぃは『軌跡』の世界で老若男女に愛されているマスコットキャラクターですが、「長靴をはいたみっしぃ」では“人間になりたいと願うぬいぐるみ”として登場し、自分の持ち主である少年とある取り引きをします。その結末は……みっしぃを知る人であればドキッとするほどブラックな内容です。「狼たちの鎮魂歌」は、腕利きの警察官と彼がマフィアから救った少女との絆を描いた物語です。映画としては、王道とも言えるかもしれません。

――なるほど!王道路線かヒネりを加えるかについては、編集部でも頭を悩ませたところでした……!正直なところ、我々が制作したパンフレットの出来はいかがでしたか?

近藤氏: 「長靴をはいたみっしぃ」のほうは、妙に哀愁漂う渋い展開にビックリしました。愛らしいとされる「みっしぃ」からかけ離れている意味ではオリジナルと同様の切り口なのですが、設定や展開は全く別物で面白いですね。

――そうおっしゃっていただけて嬉しいです!

近藤氏: 「狼たちの鎮魂歌」は同名の映画が実在しています。そちらに被せてくるかな?と思ったら、敢えて外してきましたね。純粋に「狼」というキーワードから連想したと思われる、まさかの人狼ゲーム……でも、それ以上に強烈だったのは登場人物の氏名でした。妙に独特ですよね(笑)。

――ありがとうございます!今回の『黎の軌跡』をはじめ、『英雄伝説』または『軌跡』シリーズは世界観の作り込みでも大きく注目を集めていますよね。このように、モブキャラクターの作り込みや種類豊富な「料理」や「施設」などに力を注がれている理由について、お聞かせください。

近藤氏: そもそも『軌跡』のベースである『英雄伝説』シリーズというのは、第一作発売当時に人気だった他の有名RPGに対して「日本ファルコムがどう戦っていくのか」を基礎として考えて作り上げた作品でした。グラフィックに頼るだけでなく、「物語」に力を入れようという企画だったのです。

――なるほど。

近藤氏: グラフィックの品質は、もしかしたら資金を投入して人を集めたら高められるかもしれません。しかし、ストーリー勝負なら「ひとりのライターの卓越したスキル」で戦えるかもしれない……そういうところに着目していました。そして私を含めた『軌跡』シリーズのスタッフというのは、そんな『英雄伝説』に憧れて入社したメンバーが多いんですよね。そこで『軌跡』でも、モブキャラクターの設定や奥深い話を築き上げていこうという話になったのです。

――「同じモブキャラクターと何度も会話するシステム」ですね。

近藤氏: もともと『英雄伝説』でも取り入れていた要素ですが、意外と他社作品ではあまり類を見ない作りなんですよね。こういう形で丁寧に作り込む手法であれば、自分たちでも実現できるだろうと考えたのです。そしてそこから派生して、世界観を細やかに書き込んでいきたいという考えから「食事」や「施設」「交通機関」などにも力を入れてきた……という経緯があります。

――『英雄伝説』で意識していた「他作品との戦い方」を今も強く意識して、良いところを受け継いでいるということですね。

近藤氏: そうですね。そういうところが好きだと言ってくださるファンもいらっしゃいますし、続けられる限りは貫き通していきたいと思っています。

――しかし、文章だけでもなかなかのボリュームとなっているように思えます。正直なところ「開発がしんどい」と思ったこともあったのでは……?

近藤氏: 毎回思ってます(笑)。

――(笑)。

近藤氏: 『軌跡』シリーズでは、だいたいひとつの章ごとに100人以上のNPCが登場します。「どうやってその膨大な量を管理しているんですか?」と聞かれることもよくありますが、特にコツはないんですよね。ただきちんとキャラクターに名前をつけて、地道にやっているんです。

――地道に世界観を作り上げていく、まさに「努力の結晶」ですね。そういった“作り込み”について、ユーザーからはどのような声が届いているのでしょうか。

近藤氏: やっぱり、ユーザーも大変だとは思うんですけど……「作り込みを体感するために、つい遊び込んでしまう」という声はいただきますね(笑)。NPCの話を訊き回ることは、ファンの間で「マラソン」と呼ばれてたりもします。でも快く受け入れてもらえてますし、メインストーリーだけでも十分楽しめるよう開発しています。ただ、「世界観の掘り下げ」として作っているものですし、把握してから物語を体験していくと感じ方も大きく変わると思います。

――なるほど。

近藤氏: 私達も、そういう意味でゲームへの没入感を高めたいと思っていて、地道ながらも細やかにメッセージなどを書き込んでいます。

――本作では回復やステータス上昇効果のある「料理」をはじめとして、テキスト以外でも世界観の現実味を高める要素が多数用意されていますよね。しかし、そういった要素として「映画」を用いるのはなかなか珍しい取り組みだと感じました。

近藤氏: 『軌跡』シリーズはもう18年ほど続く作品なのですが、やはり物語の中で描く国や地域が変わるんですよね。そこで世界観を考えていくために、「その土地で何が流行っているか」なんてことも予め設定していたんです。その中で、『黎の軌跡』の舞台であるカルバード共和国では「映画という大衆文化が嗜まれているらしい」という設定がありまして。 

近藤氏: それも軌跡シリーズの一作目から語ってきたストーリーなので、今作でも自然な流れで「ゲーム内要素として映画を取り入れよう」という話になったんです。しかし実際に映画を作るというのもまた違うかなと思いましたので、ゲームシステムのうちのひとつとして取り入れていきました。

――システムに取り入れるにしては、個人的には「やけに作り込んでいるな」という印象を感じました。『英雄伝説 黎の軌跡II -CRIMSON SiN-』公式サイトで開催されていた「導力映画ポスターコンテスト」では、「カサブランカ」「サメ」をキーワードにした作品が挙げられていましたし、映画好きのスタッフが多く在籍していらっしゃるのでしょうか。

近藤氏: 実は日本ファルコムの社屋って、映画館の隣にあるんですよ(笑)。だから、私たちにとって映画ってすごく身近なものなのです。そしてもともと『軌跡』シリーズには「小説」を集めるシステムというのもあって、いわゆる劇中劇ですよね。その流れから「映画」や「パンフレット収集」に派生している側面もありますね。

――羨ましいくらいの好立地ですね!『黎の軌跡』の導力映画では、「雨と僕の物語」という新海誠テイストを感じさせるものもありました。映画好きの心を動かす劇中劇が多く、現実的な作り込みだと感じました。カメラのレンズらしさなど、かなりリアルに思えます。

近藤氏: 新海誠さんはもともと日本ファルコムに在籍していて、彼の残した制作技法というのが残っていた可能性もあります。私も、Photoshopでの雲の描き方を彼から直接教わったりしてたので。

――それでは、ある意味正解だったということですね……!

近藤氏: もしかしたら、ですけどね(笑)。

――これまでのお話にあったように、『軌跡』シリーズに限った範囲でも第1作めが発売されてから20年近くの月日が経っています。作品を作り続けてきた中で、大きな方向転換を図ったり、逆に「このやり方は守り続けていこう」と考えてきた要素などはあるでしょうか。

近藤氏: 軌跡シリーズはもともとPCゲームだったので、長きにわたって「昔ながらのPCゲーム」という手法で開発していました。世界観も「少年少女が田舎を飛び出して世界を渡り歩く」なんていう、泥臭いタイプのファンタジーが多めだったのです。途中で家庭用ゲーム機に焦点を合わせるようになり、『英雄伝説 零の軌跡』ではキャラのビジュアルや世界設定にも変化を加えました。『閃の軌跡』という作品では学園モノにチェンジしましたが、それも家庭用ゲーム機市場をかなり意識してましたね。

――なるほど。

近藤氏: 一方で、先ほどお話ししたような「丁寧な作り込み」に関しては『軌跡』シリーズのお家芸です。ここだけは絶対に変えてはならないと考えていますし、今もしっかりと貫き通しています。根本的なところは同じものを目指していますが、ユーザー層を常に意識しながら「どんなゲームなら手にとってもらいやすいだろう」と考えて開発しています。

――ちなみに、同作シリーズはSteamでもPC版をリリースされていますよね。海外のファンからはどういった反響を受けていますか?

近藤氏: 海外の方って、なんとなくゲームプレイとかシステム面を注目してくるのかな……と思ってたのですが、意外と日本のファンの方たちと同じ着眼点でした。「このキャラのここが好き!」「これからのストーリー展開はどうなっていくの?」などの声をいただいています。日本とほとんど同じ(笑)。

――そうなのですね。少し意外でした。

近藤氏: 「JRPG」というジャンルは、ここ最近まで海外の方から敬遠されてた印象がありました。日本のアニメやサブカルチャー的なコンテンツが受け入れられてから、海外のJRPGファンも増えましたよね。その影響が強く、やはり日本のファンと同様の形で気に入ってもらえているなと感じています。

――日本のPCゲーム市場については、どのように考えていますか? 他社作品でも、PC向けにSteamでリリースされているタイトルの数は増えているように感じます。

近藤氏: Steamで遊んでくださっているファンはもちろんいらっしゃいますが、海外と比べるとまだ少数ではありますね。ユーザーからの声に関しても、コンソールからのものが一番多いです。しかし、ここ数年でPCゲームユーザーは大きく数を伸ばしていますから、いつか我々も「PC主軸」に戻ることがあるのかもしれません。やはり市場としても重要な存在ですし、「少数派だから」と言って無視できるものではありませんね。やっぱり、会議でも「Steamへの展開をどうしていくか」という議題は毎回挙がります。

――たしかに、PCゲーマーが増えたことで年齢層にも変化がありますよね。若年層が増えた今のPCゲーマー市場に対して、『軌跡』シリーズ作品はどのようなアプローチを仕掛けていくのでしょうか。

近藤氏: 基本的には、私たちのゲームって「今すぐ小学生に遊んでもらいたい!」とは言えないんですよね。小学生の頃からゲームを遊んでいる子が、中学生や高校生になってから遊ぶと楽しめるんじゃないかなと思っています。

――なるほど! 良い意味で「二番目」に手に取るようなイメージですね。

近藤氏: 『軌跡』シリーズが持っている世界観の作り込みやストーリー展開というのは、いわゆる「ゲームの原体験」そのものというよりは、別の原体験がある方にとって「その次のステップ」になるような位置付けになると考えていますね。日本ファルコムの作品って、昔からそういうポジションにあるのかなとも。PCゲームメインだったこともありますしね。

――たしかに、シリーズが持つひとつの個性でもある「丁寧な描写」は、ゲームを始めた子どもの“次のステップ”と呼べるポイントになりそうですね。

近藤氏: そうですね。もしくは、クラスの中にひとりかふたりいるような「ちょっとだけ変わった趣味を持ってる子」が遊ぶゲーム、みたいな。今はそこまでニッチじゃないと思いつつ、基本はそういうところにあると思います。「万人受けするRPG」というよりは「次のステップ」となるような、ちょっと分かりにくくも奥深いゲームを目指していますし、そう志しているスタッフも多いです。

――最後に、二つの質問を投げかけさせてください。20年近く続いている作品ということもありますので、このPS5版『英雄伝説 黎の軌跡』はシリーズ初挑戦の方はどのように楽しめるゲームであるか、そして「長きにわたって愛しているシリーズファンの目にはどのように映るゲームであるか」、それぞれ教えてください。

近藤氏: 新規ユーザーに関しては、これまでのお話でお伝えしましたとおり、ストーリーを重視したタイトルとして18年間も続けてきた作品ですので、「世界観の緻密さ」に注目しながらぜひチャレンジしていただきたいです。このPS5版のリリースを機に、ぜひ挑戦してもらいたいなと思います。シリーズファンの方の皆様は、たくさんの「謎」の解決を楽しみにしてくださっていると思います。『黎の軌跡 II』は目が離せない物語が展開していきますので、続編のほうにも期待していただけると幸いです。

――本日はありがとうございました!


PS5版『英雄伝説 黎の軌跡』は、2022年7月28日より発売。パッケージ版は5,800円、ダウンロード版は5,500円でリリースされています(どちらも税抜価格)。また、PS4版を所持しているユーザーは110円(税込価格)でPS5版へアップグレードでき、セーブデータ移行もサポートしています。

各エディションには、全33アイテムを収録する「大感謝特大BOXプラス」も同梱。ダウンロード版/PS4からのアップグレード版のどちらでも利用できます。

PS5版『英雄伝説 黎の軌跡』公式サイトはこちら
  • タイトル: 英雄伝説 黎の軌跡(クロノキセキ)

  • ジャンル: ストーリーRPG

  • 対応機種:PlayStation 5

  • 発売日: 2022年7月28日(木)

  • CERO: C [15歳以上対象]

  • 価格: 【パッケージ版】5,800円(税抜) / 【ダウンロード版】5,500円(税抜)

  • PS5版『英雄伝説 黎の軌跡』公式サイト
    https://www.falcom.co.jp/kuro/ps5/

  • PS4版『英雄伝説 黎の軌跡』公式サイト
    https://www.falcom.co.jp/kuro/

  • 『英雄伝説 黎の軌跡II -CRIMSON SiN-』公式サイト
    https://www.falcom.co.jp/kuro2/

《キーボード打海》
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