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『モンハンライズ』アケノシルムの"からかさおばけ"要素はどこ?「百鬼夜行絵巻」から続くそのルーツとは【特集】

超メジャー妖怪・からかさおばけ!でもその素性は意外とみんな知らない?

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『モンハンライズ』アケノシルムの
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カプコンが手掛ける狩猟アクションシリーズ最新作『モンスターハンター ライズ』。4月28日に配信された「タイトルアップデート2.0」では、新たなモンスターやアイテムなども登場しています。

拠点「カムラの里」など、多くの点で"和風"モチーフが見られる本作。インサイドでは、これまで「ゴシャハギ」「ヨツミワドウ」の2匹のモンスターについて、モデルと思われる妖怪との共通点などを紹介してきました。

ゴシャハギ編
ヨツミワドウ編

今回注目するのは「傘鳥 アケノシルム」です。「1本脚で立つ独特の姿が傘のように見える」「目玉のように見える独特なトサカ」など、その紹介には"からかさおばけ"を想定させる要素が含まれています。

本稿では、妖怪でもおなじみの"からかさおばけ"を紹介。その実態を求めているうちに、この妖怪の伝承に関する謎の多さに行き当たりました。


超メジャー妖怪"からかさおばけ"!でもその正体は不明?


「からかさおばけを描いて」と言われたら、多くの人がほぼ共通のイメージを抱くでしょう。古い傘(唐傘)を胴体として、目玉と口、人間の足がついています。また、腕があることや、目が2つあるなどのパターンも一般的です。名称に関して”からかさ小僧”、"傘化け"などの呼び名もあるようです。

『妖怪ウォッチ』シリーズや、水木しげる氏の「ゲゲゲの鬼太郎」などにも登場(”傘化け”名義)しているほどのこのメジャーな妖怪。傘に顔や手足がついている"からかさおばけ"という姿は、江戸時代から受け継がれてきたものです。歌川芳盛「しん板化物尽し」、一寿斎芳員(歌川芳員)「百種怪談妖物双六」など有名な妖怪画はもちろん、江戸から明治などの時代に多く広まっていた「化け物かるた」でも今と変わらないビジュアルが確認できます。

境港市観光ガイドより画像引用

江戸時代の人々から現代の我々まで、ほぼ同一のイメージを持っている"からかさおばけ"は、妖怪のスーパースターと言っても問題ない存在です。しかし、このスーパースターに関して、どのような生態でどのような行動を起こすか、ほとんど伝承がないことはご存知でしょうか。

妖怪図鑑などで"からかさおばけ"の項目を調べると、ほとんどの場合「人を驚かせる」程度の記述しかなく、地域情報なども明らかになることはありません。民俗学の情報を集めた「怪異・妖怪伝承データベース」にも"からかさおばけ"に類する伝承はほとんど存在しないのです(あっても姿が違う"絵日傘"など)。また、傘の妖怪として鳥山石燕「百器徒然袋」に登場する"骨傘"などもいますが、こちらも今のユーモラスな姿ではありません。

では、この妖怪はどこから来たのでしょうか。その源流になるかも知れない存在は、室町時代の絵巻物に存在しています。

道具のおばけ(?)付喪神!百鬼夜行にも登場?


"傘のおばけ"が絵として登場した最古の記録は、室町時代に制作された「百鬼夜行絵巻」までさかのぼります。夜の町を妖怪変化たちが練り歩く姿を描いたこの絵巻、大徳寺に存在している「真珠庵本」が古く、またもっとも後世の参考にされたものと言われています。

真珠庵本に登場している妖怪変化たちは、そのほとんどが「道具などが擬人化したもの(付喪神)」であるのが特徴。本絵巻に登場している”傘のおばけ"も「人間の体に傘の頭がついている姿」で、今とは大きく異なる姿をしています。また、絵巻内で"傘のおばけ"は、杖をついて歩いているだけで特別な行動を確認できません。

百鬼夜行絵巻はその後も長らく多くの絵師によって描かれ、その内容も大きく変化してきました。最初は道具の化け物、付喪神ばかりで構成されてきた百鬼夜行もだんだんと動物を模した妖怪、また当時流行った妖怪変化などが盛り込まれ、"傘のおばけ"たちが目立つことはほとんどなくなっていったようです。

付喪神としての"傘のおばけ"は山形県・あんじょ寺の伝承などに記録されています。しかし、付喪神の話において、傘がメインになる伝承は筆者の調べた限りでは確認できません。しかし、江戸時代には今の"からかさおばけ"の姿として歌舞伎の「松朝扇うつし絵」としても登場するほどにメジャーな存在となっているのです。

"からかさおばけ"は昔から存在するものの、その内容に関してはよくわからない妖怪です。傘は江戸時代中期に一般的に普及したと言われ、その「当たり前」になった存在が付喪神信仰と合わさってメジャーになったのかも知れません。1874年(明治7年)の河鍋暁斎「応需暁斎楽画 第三号 化々学校」で"洋傘のおばけ"が描かれているのも時代の変遷によるものと言えるのでしょう。

アケノシルムの”からかさおばけ”要素は?


さて、ここからは『モンスターハンター ライズ』の「アケノシルム」についてです。ほとんど伝承がないことが明らかになった"からかさおばけ"ですが、それでもいくつかの点で共通点を見いだせます。

まずはその姿から見ていきましょう。アケノシルムの姿で特徴的なのは、やはりその頭部に存在する目玉のような模様。また、頭のトサカの名称は「傘」であり、水属性攻撃に対して高い耐性を持っています。トサカ(傘)、翼の見た目は実際の傘のような「骨と生地」を思わせるデザインになっています。



また、アケノシルム独特のポーズは一本足で立ち、翼やトサカを広げるというもの。その姿から「傘鳥」との異名を持っています。一本足、目玉、傘などの要素が"からかさおばけ"を思わせます。


その生態に関してですが、これまでも紹介してきた通り"からかさおばけ"にはその特徴的な行動がありません。アケノシルムはアッパーカット、炎を吐く、くちばしで突くなど攻撃は多彩。炎攻撃に関しては「骨傘」が炎をまとった妖怪として紹介されているため、傘の妖怪つながりで採用されたのかもしれません。他の要素は残念ながら関連性を見つけ出せませんでした。"からかさおばけ"がアッパーカットしてきたら怖い。

なお、名前の「シルム」はドイツ語で「傘・雨傘」を意味しています。また、アケノはその翼や傘の色である赤から「朱」「明け」ではないかと言われています。また、アケノシルム紹介ムービーで「番傘もどきのおばけ鳥」と呼ばれるのも印象的です。



そのほか、アケノシルムの素材「傘鳥の羽鱗」は傘の羽として使用されていると明言。「傘鳥のトサカ」は、有名な怪談の題材となっているとのこと。”傘”と”怪談”というイメージは固定のようで、やはり"からかさおばけ"がしっかりとモチーフとして存在していると思われます。






ここまで、アケノシルムのモチーフと思われる"からかさおばけ"について紹介してきました。”からかさおばけ”は、さまざまなアニメやゲームでも登場する超メジャーな存在。しかし、調べれば調べるほどその正体がよくわからない不思議な妖怪です。

アケノシルムは、その見た目など非常に上手に"からかさおばけ"を落とし込んでいるデザインです。また、その紅白の色合いとあわせてとても綺麗な雰囲気をしています。素材から作れる装備が西洋甲冑イメージなのも、なんともユニークです。


妖怪・怪異モチーフと思われるモンスターが多く登場している本作。今後も新登場のモンスターと妖怪についての紹介、共通点を紹介していく予定です。

参考文献:「大迫力!日本の妖怪大百科]」西東社 山口敏太郎
「日本の妖怪完全ビジュアルガイド」Kindle版 レッカ社
「図説 百鬼夜行絵巻をよむ」河出書房新社 田中貴子/花田清輝/澁澤龍彦/小松和彦
「百鬼夜行絵巻の謎」集英社 小松和彦


《Mr.Katoh》

酒と雑学をこよなく愛するゲーマー Mr.Katoh

サイドクエストに手を染めて本編がなかなか進まない系。ゲーマー幼少時から親の蔵書の影響でオカルト・都市伝説系に強い興味を持つほか、大学で民俗学を学ぶ。ライター活動以前にはリカーショップ店長経験があり、酒にも詳しい。好きなゲームジャンルはサバイバル、経営シミュレーション、育成シミュレーション、野球ゲームなど。日々のニュース記事だけでなく、ゲームのレビューや趣味や経歴を活かした特集記事なども掲載中。

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