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なんで年中『Outer Wilds』を布教してるんですか?―すごいオタクに“衝き動かされる理由”を訊いてきた

布教の理由が『Outer Wilds』のゲーム要素と繋がっていました。

任天堂 Nintendo Switch
なんで年中『Outer Wilds』を布教してるんですか?―すごいオタクに“衝き動かされる理由”を訊いてきた
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オタクであるならば、自分の推しゲーを誰かに布教したことがあると思います。

もしかすると布教される側は迷惑に感じているかもしれませんが、それでも素晴らしいゲームを布教して、誰かと感動を分かち合いたいと思う気持ちは止まりません。ただ、その布教活動は、名作に出会ったことで湧き上がる一時的な衝動であることが多く、長期間に渡って続ける人なんて滅多にいないはずです。ことタイトル単体に対してであれば。

これまで筆者(真ゲマ)はそのように思っていました。とある『Outer Wilds』プレイヤーを見つけるまでは。


その人物を語る前に、まず『Outer Wilds』について軽く紹介しましょう。同作は、海外ドラマ「HEROES」のヒロ・ナカムラ役をはじめ、俳優として著名なマシ・オカ氏がファウンダーを務めるMobius DigitalのSF宇宙探索アドベンチャー。プレイヤーは、22分ですべてが消滅してしまう世界を舞台に、何度もタイムループを行いながら様々な謎を解き明かしていくことになります。

PCゲーム配信サイトであるEpic Gamesストアで2019年5月より配信され、ゲーマーの口コミや英国アカデミー賞ゲーム部門受賞などによって、多くの人々から認知されるようになり、今ではインディーゲームの名作として位置づけられています。

さて、前置きが長くなりましたが、そんな『Outer Wilds』を布教しまくっている人物とはネットニュースサイト・ねとらぼの副編集長である池谷勇人氏(以下:池谷氏)。池谷氏は、ゲームライターとしての経歴があるので、これまでも色々なゲームへ愛情を注いできたのですが、それにしても『Outer Wilds』に対する愛情が深く、重いのです。

そこで今回は、そんな『Outer Wilds』を愛しすぎた男・池谷氏に、作品の素晴らしさや布教をする理由について訊いてきました。


――よろしくお願いします。このインタビューの依頼がきた時、どんな気持ちでした?

池谷(以下敬称略)正直、目眩がしました(笑)。企画自体の奇妙さもそうですが、最近、自分でも「いくらなんでも『Outer Wilds』の話ばかりしすぎだな」と思って控えようとしていた矢先だったので……。

――完結した作品を布教し続けるのは素直にすごいと思います。布教ってそこまで持続しないものですから。

池谷:自分でも不思議に思っています。ただ、布教をする上で「ウザイ」と思われることに恐怖も感じていて、このインタビューも受けようか迷ったのですが、少しでもこれで『Outer Wilds』の名前が世に広まるのであれば断る選択肢はないかな……と思って受けることにしました。

――まぁオタクなら誰かに好きなものを布教してウザがられた経験がありますからね。僕も「アイカツ!」を編集部に布教しようとしたら結構ウザがられましたよ……。

池谷:いやもう、そういうのを聞くと本当に勇気づけられます……!布教した相手が『Outer Wilds』を買っても、「クリアした?」とはあまり聞かないようにしてるんですよ。難易度の高さもあって、普通に挫折してしまう人も多いゲームなので。


――いつ頃に『Outer Wilds』と出会ったのですか?

池谷:実はかなり遅れて「Outer Wilds沼」に入ったんです。2020年の4月頃に『Downwell』を手掛けたインディーゲームクリエイターのもっぴんさんが「最近『Outer Wilds』をクリアして本当にすごかったので広めたくてしょうがない」とツイートしていたのがきっかけでした。もっぴんさんとはゲームの好みが合うと以前から思っていたので、そこで興味を持ちました。

なんか面白そうなゲームが開発中らしい、というのは発売前からなんとなく知っていたのですが、最初はEpic Gamesストア独占だったこともあって、しばらくは発売されたこと自体を見落としてしまっていました。今となっては一生の不覚です……発売当初から遊んでいた人達を本当に尊敬します。

実際に布教活動を実演してもらった!



――それでは『Outer Wilds』の魅力について語ってもらえますか?

池谷出た!一番困る質問!とにかくネタバレが致命的なゲームなので、ネタバレ無しで作品の魅力を語るのがものすごく難しいんですよ。

――……………………(毎日のようにTwitterで語ってるじゃないですか)。

池谷:『Outer Wilds』の舞台は小さな恒星系ですが、まずこの世界自体がものすごく魅力的なんです。そしてプレイヤーは、22分の間であればその中のどこへでもシームレスに行くことができる、というのが最初にワクワクした部分でした。しかもその魅力的な世界が、わずか22分後には滅亡してしまうという設定にゾクゾクしました。

3Dゲームによくある「見えない壁」のようなものもなくて、宇宙船やジェットパックで物理的に行ける場所ならどこでも行けます。その自由度が、アクションや謎解きを難しくしている部分でもあるのですが……。

もうひとつは、ゲームを進めてもシステム的な成長や蓄積が一切なく、得られるのは知識だけという設計です。クリエイティブ・ディレクターのアレックス・ビーチャム氏はこれを「好奇心駆動型」と表現しているのですが、これがとにかく衝撃的でした。


池谷:毎回22分でタイムループするからアイテムは取得できないし、物語が進むこともない。でも、プレイヤーの頭の中に知識が、宇宙船の航行記録に情報が蓄積されていくことで、今まで行けなかった場所に行けるようになったり、わからなかったことがわかるようになったりするんです。あと、「これをやったら死ぬ」という経験の蓄積も大事で、序盤はとにかく死にまくるんですが、慣れてくるとだんだん死亡率が下がり、思い通りに探索できるようになってくる。このあたりの面白さは、ちょっとローグライクっぽくもありますね。

――『ダークソウル』とは違うタイプの死にゲーなんですね。

池谷:敵と戦わない死にゲーといっても差し支えないと思います。

真ゲマさん(筆者)もわかると思うんですが、長年ゲーマーをやっていると、「ここで作り手はこうしてほしいんだろうな」と感じることがあるじゃないですか。

――ありますね(あ、これ……相手を話に参加させて、作品の理解を深めさせる高等な布教テクニックだ)。

池谷:『Outer Wilds』の場合、そういう誘導はなくて(あったとしても巧妙にカモフラージュされていて)、「自分で考えて好きなところに行った結果、物語が動く」という感覚がとにかく気持ちいいんです!ただ、だからといって投げっぱなしというわけでもなくて、僕も自分でクリアした後に他の人のプレイを見ていて気付いたんですが、実はとてもさりげない形で、プレイヤーを導くためのヒントが随所に散りばめられているんですよ。このバランスがとにかく絶妙だったんだなと後になって気付かされました。

クエストマーカーに従っていけば誰でもエンディングに辿り着けるような親切さは『Outer Wilds』にはありません。でもそれって、プレイヤーを公平に扱ってくれているということだと思うんですよね……。良くも悪くも本当に公平なので、そこが辛いと感じる人はいると思いますが……。


――布教活動を毎日している池谷さんから見ても『Outer Wilds』は人を選ぶタイトルなのでしょうか?

池谷:間違いなく人を選ぶと思います。単純に難易度が高いこともありますが、とにかく序盤は何もわからないし、ゲーム的な蓄積(プレイヤーの成長とかストーリーの進展)が一切ないのでゲームが進んでいる実感が沸かない。ここが最大の壁です。

ただ、ある瞬間から今まで得てきた知識や情報が自分の中で一気に繋がって「いまストーリーが動き出したな」って。そう感じるポイントがあるんですよ。そこまでいけば、あとはもう坂道を転げ落ちるように……。

――これまでにないゲーム体験が味わえる作品だと。

池谷:『Outer Wilds』の世界設定や物語の壮大さは、少なくとも僕が見てきた限り、ゲーム史上類を見ないスケールだと感じましたね。ここまでの規模の物語を、しかもノンリニアでオープンワールドという手法で、破綻なく実現できるんだという驚きも大きかったです。

――池谷さんはプレイ開始から何時間から『Outer Wilds』の面白さに気づきました?

池谷:僕は遅い方で、多分10時間くらいだと思います。人によって面白くなるタイミングはまちまちで、それまでは中々苦しい思いをするかもしれません。中には、3時間くらいで面白さに気づく人もいれば、最初から気づく人もいます。

ただ、よく「なんで面白くもないのに10時間も続けられたの?」って聞かれるんですが、僕の最初の感触は「つまらない」ではなくて、「面白いかつまらないかさえ分からない」だったんですよ。長年ゲームで遊んでいると、つまらないゲーム、おもしろいゲームは割りとすぐにわかるようになってくる。でも「面白いかつまらないかさえわからないゲーム」と出会うことは滅多になくて、それが面白くてなんとなく続けていたら……という感じでした。

なぜ『Outer Wilds』を布教するようになったのか。



――これまで『Outer Wilds』の布教の実績を教えてくれますか?

池谷:クリアまで遊んでくれたかという点でいえば、ほぼ惨敗ですよ!周囲の何人かには買わせることに成功しましたが、ねとらぼ編集部内では4人買って誰もクリアできていませんし、知り合いにも布教しましたが、クリアまで行けた人はほとんどいません。

リアルの友人は3人買って2人クリアまで行ってくれたので、それくらいですね。おかげさまで、Twitterやnote経由で買ってくれた人はちらほらいるようですが、それでもクリアできた人はかなり限られている気がしますね。10人いたらクリアできるのは多分3人くらい、でもそのうち1~2人にとっては生涯ベスト級の名作になるという印象です。

――『Outer Wilds』の布教はクリアした後から始まったのですか?

池谷:そうですね。このゲームって、クリアした翌日から地獄が始まるんですよ……。

――というと?

池谷:「知識を手に入れていく」というゲームの性質上、『Outer Wilds』の感動を味わえるのってホントに人生で1回きりなんですよ。記憶を消さないかぎり、もう二度とこの体験は味わえないんだと気づいた瞬間、ものすごい喪失感と絶望が襲ってくるんです。「記憶を消してまた遊びたい」という表現がありますが、まさにそれですよ。

それで「自分ではあの体験をもう味わえないのであれば、じゃあ誰かに布教して感動を分かち合うしかないだろう」という考えに行き着いたんです。クリア済みの人が増えればネタバレありの話をできる機会も増えるかなと……。ちなみに、ファン界隈ではこういう状態を「Outer Wildsゾンビ」と呼んでいます。

――それでTwitterで『Outer Wilds』の記事や動画を拡散しているんですね。

池谷:そんな感じです。他のゾンビ達への栄養供給になればなと……。

クリアしてから気づいたのですが、『Outer Wilds』って他人の初見プレイを見るのがめちゃくちゃ楽しいんですよ。自分は全ての答えを知った上で、まだ答えにたどり着いていない人が右往左往するところは、子どもの成長を見守る親のような気分で、ニヤニヤしつつもつい見入ってしまいます。

しかもプレイヤーによって探索する場所の順番もバラバラなので、それぞれに全く違うドラマがあるんですよ。で、そういう艱難辛苦を乗り越えてクリアまで到達すると、みんなものすごく「いいリアクション」をくれる。その瞬間を「自分はクリア済み」という視点から見届けるのが最高に楽しいんですよ……(うっとりした目)。

『The Witness』

――そういえば池谷さんは『Outer Wilds』のほかにも、パズルゲーム『The Witness』も布教していましたよね。両作には共通点があるのですか?

池谷:ゲームの内容は全然似ていないのですが、「自分で面白さをたぐり寄せるタイプ」という点では共通しているかもしれません。もうひとつ共通点があるとすれば「どちらも難しい」ということですね(笑)。

――『The Witness』の視点を変えて答えを見つけ出していく工程は、まさに「体験」と呼べるものですね。高難度のパズルを解いてゲームクリアまで到達したプレイヤーの中には「リアルでも視点を変えてものを見るようになった」という人もいて、人間の価値観に影響を与えるゲームだと思いましたね。

池谷:まさにその評通りだと思います。この数年プレイしたゲームの中で『Outer Wilds』と『The Witness』はぶっちぎりの名作だと思っています。

なんせ古いゲーマーなので、ゲームクリアの時に達成感があった方が嬉しいんですよね。10人中1~2人しかクリアできないような難しいゲームが好きです。


――「Nintendo Direct 2021.2.18」で『Outer Wilds』のニンテンドースイッチ版が発表されました。池谷さんのような熱狂的なファンとしてはどのようなお気持ちですか?

池谷:いやもう、当日のレポートは編集部の別のメンバーにまかせていたんですがビックリして布団から飛び起きましたよ。今でもニンテンドースイッチで出るというのが信じられなくて、気持ちの整理がついていないくらいです。ニンテンドースイッチ版の発売で、今よりもプレイ人口が増えてくれたらいいなと期待しています。

――もしかしてニンテンドースイッチ版も購入予定ですか?

池谷:遊んだところで最初の感動はもう味わえないと思うんですが、出る以上もちろん買いますよ!海外ではパッケージ版やレコードなどが発売されているのですが、日本ではこういうオフィシャルグッズ的なものって全然発売されてないんですよ。なので応援の意味も込めて、買えるものは買っておこうかなと……。一応、今まで出ているもの(PS4/Xbox One/Steam/Epic Games版)は全部買っています。

――最後に、これほどハマったゲームを作ってくれたMobius Digitalに伝えたいことはありますか?

池谷:この間も「池谷さんいつまで『Outer Wilds』を布教し続けるんですか?」って知り合いに心配されました。それくらいハマったゲームを作ってくれてありがとうございます!


池谷氏が語る『Outer Wilds』の魅力を通じて、彼が年中布教するに至った理由がよく理解できました。その上で、過剰なまでの布教行為に対して葛藤があったのは意外でした。しかし、そんな葛藤がありながらも、これからも『Outer Wilds』を布教する決意を語った池谷氏は、何かを熱く語りたくて仕方がない「オタク」としては正しいあり方といえるのではないでしょうか。


そういえば池谷氏は、インタビュー中に「『Outer Wilds』には、謎解きやストーリーの根幹にかかわる部分に致命的な誤訳があるから、ぜひ記事で紹介して公式に伝えて欲しい」と強く語っていました。しかし、後日、有志の手によって誤訳をまとめたリストがMobius Digitalのマシ・オカ氏に共有され、誤訳の修正を行うとの発表があったため、本稿では該当の内容を省略しています。

『Outer Wilds』は2019年に発売され、もうすぐ発売から2年を迎えようとしていますが、今でも池谷氏のような熱狂的なファンが、これから作品に触れるであろう未来のプレイヤーのために、作品をより良くしようと公式に訴えかけたのは胸熱な展開です。

最後は厳しめな言葉で締めますが、これは布教経験がある筆者の戒めでもあります。相手に自分の好きなものを布教しても、それを楽しむタイミングは布教された本人に委ねられます。名作の感動を早く分かち合いたいからといって「早く遊んで!名作だから!」と相手を急かすのはやめましょう(できるかな自分……)。
《真ゲマ》

『ドラゴンフォース』が一番好き 真ゲマ

吉田輝和の絵日記やトイレオブザイヤー、ギャグ漫画「ヴァンパイアハンター・トド丸」、洋ゲー漫画「メガロポリス・ノックダウン・リローデッド」など、これまでゲームメディア業界に影響を与える様々な企画を立ち上げてきました。他社メディアでも活動中なので、気軽にお仕事の依頼をお願いします。 ちなみに、ユウキレイ先生が手掛ける4コマ漫画「まほろば小町ハルヒノさん」(まんがタイムで連載中)で教師役として出演中です。

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