■岡田以蔵だけじゃない！幕末四大人斬りとは
『FGO』では土佐藩の同郷・坂本龍馬の友人であり、高名な人斬りとして登場する岡田以蔵。以蔵が史実で活躍したのは、ペリーの黒船来航をきっかけに尊王（天皇を尊び）攘夷（外国人を排撃する）運動が活発になり、約260年続いた徳川幕府が終わりを迎えようとしていた時代でした。
幕末では幕府が置かれた江戸ではなく、天皇のいる京都が政治の中心でした。その理由は、幕府が天皇を蔑ろにしてアメリカ、オランダ、ロシア、イギリス、フランスと通商条約を結んだからです。そのため、全国から尊王攘夷派の志士が京都に集まり、幕府を補佐する佐幕派との対立が激化していきます。
そんな幕末期の京都において「天誅（天に代わって成敗する）」と称して要人暗殺を行い、「人斬り」の異名で呼ばれた尊王攘夷派の4人の志士の1人が以蔵です。最後に四大人斬りを一挙に紹介します。
「撃剣矯捷なること隼の如し」岡田以蔵（土佐／1838年～1865年頃）
坂本龍馬と同じ土佐の下級武士として生まれた以蔵は、武市半平太を党首掲げる尊王攘夷派の下級武士たちが集まった土佐勤王党の一員でした。1862年、武市半平太は土佐の実権を握っていた吉田東洋を暗殺したことで、藩内で土佐勤王党が力を持ち始めます。鏡心明智流を始めさまざまな剣術を学んだ以蔵は、剣の腕前を買われて佐幕派の暗殺を命じられるようになりました。
幕末において最も人を斬ったと言われる以蔵ですが、日本の将来を見据えたビジョンを持っていたかは懐疑的で、武市半平太に良いように使われた見方が強いです。そんな以蔵を同郷の坂本龍馬は気にかけていたようで、勝海舟の護衛を頼んだこともありました。1863年、「八月十八日の政変」で尊王攘夷派の要である長州藩が中央政治から追放されると、土佐勤王党も藩内での力を失います。土佐藩は吉田東洋暗殺および京都での一連の要人暗殺を命じた疑いで武市半平太を投獄し、土佐勤王党の党員を次々と捕まえていきます。
それから間もなく、京都に潜伏していた実行犯の以蔵も捕まって土佐に送還。他の党員が拷問に耐える中で以蔵だけは耐えきれずに暗殺した人物を次々と自白してしまい、武市半平太に「日本一の泣きみそ」と評されました。以蔵は打ち首となり、土佐勤王党の党員も次々と処刑され、党首の武市半平太も切腹を命じられるのでした。享年27歳。
「人きり半次郎」中村半次郎（薩摩／1838年～1877年頃）
一の太刀で敵を仕留める示現流の名手。1862年に親しかった西郷隆盛と共に島津久光に従って京都へ行きました。雨粒が屋根の軒先から地面に落ちるまで、3度抜刀して鞘に納めることができた、新撰組局長の近藤勇をして「薩摩の中村半次郎には決して関わるな」と言わしめたなど、剣術に関する逸話に事欠きません。
中村半次郎（以後、半次郎）は天才的な剣術の腕前でしたが、薩摩藩で地位を得たのは「要人暗殺」ではなく、倒幕活動を行う藩士として優秀だったからです。西郷隆盛の信頼も得て、坂本龍馬や中岡慎太郎とも親交がありました。一方で、血気盛んな所もあって1867年、薩摩藩の兵学師範である洋学者の赤松小三郎に佐幕派間者の疑いがあると、西郷隆盛の静止も聞かずに斬り捨ててしまっています。通り名ほどに人を斬ってはいないものの、「斬ると言ったら斬らないわけにはいかない」危うさが恐れられたのでしょう。
明治政府では陸軍少将にまで出世するものの、征韓論が原因で西郷隆盛が中央政治からは離れると、自身も退職して一緒に薩摩に帰ります。しかし、新政府への不満で士族の反乱が度々起こる中、西郷隆盛が担ぎ出されて西南戦争が起きると、半次郎は側近として付き従い、最期は額を撃ち抜かれて戦死するのでした。享年38歳。
「天誅の先駆け」田中新兵衛（薩摩・1832年～1863年頃）
四大人斬りの中で田中新兵衛（以後、新兵衛）だけは武家の出身ではなく、船頭の子、または薬種商の子です。薩摩藩士ではないため流派は不明ですが、おそらくは示現流ではないかと言われています。
1862年、「安政の大獄」で尊王攘夷派や活動家を一斉に検挙した島田左近を暗殺したことが「天誅」の先駆けとなりました。この時、最初は失敗しているのですが、一ヵ月間追い回し続けて討ち取るという執念を見せています。
土佐勤王党党首の武市半平太とは義兄弟の契りを結ぶ仲で、岡田以蔵と組んで要人暗殺を繰り返したと伝えられています。しかし、1863年の尊王攘夷派だった公家の姉小路公知が殺された「朔平門外（さくへいもんがい）の変」で、現場に新兵衛の刀と薩摩下駄が残されていたことから実行犯として捕縛されました。「同じ尊王攘夷派なのに本当に殺したのか？」と謎が多い事件は新兵衛が最後まで沈黙を守り、隙をついて持っていた脇差で腹と喉を切って自害したため、真相がはっきりしていません。享年31歳。
「『るろうに剣心』緋村剣心のモデル」河上彦斎（熊本／1834年～1872年頃）
人気漫画「るろうに剣心」の主人公で、人斬り抜刀斎の異名を持つ緋村剣心のモデルで知られています。熊本城下に生まれた河上彦斎（以後、彦斎）は抜刀術の使い手で、色白で身長150センチの小柄な体格のために一見すると女性のようにも見えましたが、性格は冷徹で「恐ろしい人」と伝えられています。城勤めをしていましたが、宮部鼎蔵と出会い、尊王攘夷派の思想に影響を受けます。
1863年に「八月十八日の政変」で尊王攘夷派の長州藩や三条実美を始めとする7人の尊皇攘夷派の公卿が京都を追われた際には、彦斎は熊本藩を脱藩して長州とへ向かいました。しかし、この間に京都に潜伏していた宮部鼎蔵が池田屋事件で新選組に討たれてしまいます。
長州藩士と行動を共にするようになり、人斬りとして知られるようになった河上彦斎ですが、意外にもその暗殺で記録に残っているものは佐久間象山だけです。当時、洋学の第一人者で開国論者だっため、尊皇攘夷派から命を狙われていました。彦斎の佐久間象山暗殺には、たまたま見かけて斬った、ずっと狙いをつけていたなど諸説あります。
その後も桂小五郎や高杉晋作らとも共に戦った彦斎は1867年、熊本藩を尊王攘夷派に変えるために帰藩しますが、脱藩したために投獄されてしまいます。獄舎から出られたのは一年後で、すでに「大政奉還」や「王政復古の大号令」、そして「鳥羽・伏見の戦い」の後でした。明治政府が成立すると、攘夷の思想ではなく開国が主流になったため、攘夷論を掲げる彦斎の存在は疎ましく思われるようになり、1872年に反政府活動の疑いで斬首されました。享年37歳。
(C)TYPE-MOON / FGO PROJECT
