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「仙台から世界に羽ばたくゲームを」―東北を熱くするカッコいい大人たち

宮城県仙台市にて産学官が連携しゲーム・IT産業の振興を行う団体「GLOBAL Lab SENDAI」。東日本大震災を機に立ち上がった同団体はどのような取り組みを行い、成果を得てきたのか?GLSの取り組み、地域に対する思い、仙台市の未来について語り合って頂きました。

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※取材場所提供:株式会社インフィニットループ 仙台支社

宮城県仙台市。サイバーエージェントグループで国内最大級のe-Sportsイベント「Rage」をてがけるCyberZの広告運用部門や、フリマアプリ「メルカリ」のカスタマーサポート部門が拠点をかまえるなど、大手企業の地方支社や教育機関の集積地として東北6県の基盤となる中枢都市です。そんな仙台市の産学官が連携しゲーム・IT産業の振興を行う団体が「GLOBAL Lab SENDAI(以下、GLS)」。東日本大震災を機に立ち上がった同団体はどのような取り組みを行い、成果を得てきたのか?

本稿では、GLSの中核メンバー、学生のメンターとして活躍する方々にお集まりいただき座談会を実施。GLSの取り組み、地域に対する思い、仙台市の未来について語り合って頂きました。

[取材・構成:山崎浩司]

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左からGLSゼネラルマネージャー 篠原 敏也氏
学生メンター 母良田 知騎さん、大友 翔太郎さん、秋元 隆宏さん
仙台市 経済局 産業政策部 産業振興課長 白岩 靖史氏

──本日はよろしくお願いします。まずは、みなさんの自己紹介をお願いします。

篠原 敏也(以下、篠原):GLSゼネラルマネージャーの篠原です。NTTドコモ東北支社(4月よりNTTドコモベンチャーズ)で働きながらグローバルラボ仙台のGMとして活動しています。横浜出身で、数社を経て、前職は東京でコンサルティング会社に勤めていました。東北との出会いは衝撃的で、東北には、親戚も友達もいないのですが、前職のコンサル時代に仙台で講演する機会があり、そこで講演中に東日本大震災を経験しました。

横浜の実家に帰宅した後も、自分自身、色々と考えさせられ、「東北が俺をよんでいる」との勘違いと、「自分自身が東北の人のため何かできることはないか」との思いから、仙台東北に移住を決意しました。ドコモに入社してからは、シリコンバレーのEvernote本社に出向し、Evernote社認定のコンサルタントとしても講演活動をしています。シリコンバレーから戻った後に、GLSプロジェクトの白岩さんの思いに共感し、本プロジェクトに参画をしています。

白岩 靖史(以下、白岩):仙台市役所の産業振興課長の白岩です。2010年に産業政策を行う部署にきて、この4月で丸9年目になるという行政では珍しいタイプ(*)ですね。仙台は震災のずっと前の2003年11月からフィンランド共和国と連携をしていまして、お互いの国の大学同士の健康福祉分野などでの共同研究と、その分野を軸にした両国の企業同士のビジネス創出支援といった事業を行ってきました。
(*)行政の通常の任期は3年ほど。

GLSができるキッカケとなったのは、フィンランドのオウル市という人口24万人ぐらいの街に仕事で行った時。携帯電話事業で世界を取ったノキア(*)の業績が急激に落ち込み、エンジニアを数千人単位で大量にレイオフした時期のことです。ノキアの研究開発拠点が置かれていたオウル市では、エンジニアの再就職や起業を斡旋し、地域に残そうという政府・自治体・大学・企業が一緒に作り上げた人材育成プロジェクトが立ち上がりました。
(*)フィンランド・エスポーに本社を置く、通信インフラ施設・無線技術を中心とする開発ベンダー。携帯電話端末の開発も手掛けていたがマイクロソフト社が2014年に買収。

一方、僕たちは震災を経験して地域の産業が厳しい状況に直面したこと、復興した後の仙台東北がこれから直面するもっと厳しい時代をみすえて、世界標準で事業活動ができる若い人を育てたいと考えていました。フィンランドのプロジェクトがゲームからスタートしたこともあり、それを題材に仙台にも同じようなものを作りたいと2013年12月にパイロット的にこのプロジェクトを立ち上げました。パイロットフェーズが終わって、実際に本格的に体制を組んで動き始めてからは丸3年になりますね。


──続いて、学生のみなさんの自己紹介をお願いします。

母良田 知騎(以下、母良田):東北電子専門学校のゲームエンジニア科を卒業した、母良田です。ゲームのプログラムの勉強をしてきて、2年生の時にGLSに参画しました。1年間開発をして、アプリコンテストの「DA・TE・APPS!(*)」では「Trick Qube」というアプリを作り2位になりました。1位のチームはフィンランドに行けたのですが、僕もどうしても行きたくて。自腹で航空費を出して付いて行ったんです。フィンランドでは現地の企業さんを見たり、3日間のゲームジャムに参加しました。昨年から、学生メンターとして後輩の学生にプログラミングを教えてきました。
(*)学生を対象とした東北最大級のゲームアプリコンテスト

大友 翔太郎(以下、大友):仙台コミュニケーションアート専門学校のクリエイティブコミュニケーション科ゲームプランナー専攻を卒業した大友です。このプロジェクトに関わるキッカケとなったのが、2015年のコンテンツ講座に参加したこと。コンテストに出たりしながら、昨年から学生メンターになりました。メンターの中では僕だけエンジニアではないのですが、「DA・TE・APPS!」に応募したゲーム「プレイフルアニマロイド」はひとりでプログラミングを行い、グラフィックとサウンドは友だちにお願いして完成させました。

秋元 隆宏(以下、秋元):デジタルアーツ仙台ゲームクリエイター科プログラマーコースを卒業した秋元です。1年生の時にGLSに何も分からない状態で参加。「DA・TE・APPS!」での結果は微妙なものでしたが、篠原さんにがんばりを認められて声をかけていただき、2年生からは学生メンターとして後輩にノウハウやプログラミングを教えていました。


──皆さんGLSでは学生メンターということですが、これは誰でもなれるものではなく、篠原さんが指名されているのですか?

篠原:そうですね。あともうひとり、ヒューマンアカデミー仙台校卒業生の青島というメンバーがいます。仙台にはゲーム開発を教えている学校が4校あり、前年度GLSのプログラムに参加した学生が翌年のプログラムの学生メンターとして、地元企業と協力して、学生の指導やサポートを行なっており、リーダシップやコミュニケーション能力、技術力を総合的に見て僕の裁量で決めています。メンターをやらないか?の口説き方は、単純にメシに連れて行って、僕がご馳走した後に「俺のお金でメシ食ったよな?w メンターやる?w」って言って、誘いました(笑)。もちろん、皆さん、快く快諾してくれましたよ!

白岩:大人って怖いなぁ(笑)。

──なかなか断りづらいですね(笑)。学生の皆さんはその時の心境はいかがでした?

母良田:即答でやりたいと思いましたね。

秋元:1年生の時にGLSを経験して学びも楽しみもあったので、もう1年できるなら、このチャンスを逃す手はないなと思いました。

大友:面白いなと思っていたので参加しました。ちょうど就活の時期ということもあり、そういったエピソードもあった方が有利だろうなと。


──GLSは1年目の学生さんでも自由に参加できるものなのでしょうか?

篠原:基本的には学校対抗という形にしていて、各学校から選抜された学生が参加しています。GLSはオウル市のゲームハッカソンをモデルに、「GLS for Education」という企業が学生を直接指導する寺子屋のような開発塾を行っています。

白岩:オウル市ではプログラムを運営するオウル応用科学大学所属の学生に限らず、全世界から参加できます。大学としての正式な単位認定プログラムになっていますし、留学生も、留学生以外も受講できます。

篠原:僕らもオウル市と同様の形で、誰でも参加OK、集まったメンバーでチームを作る形でスタートしたのですが、学校が異なるとチームメンバー同士が会う機会が減り、学生のモチベーションコントロールが難しく、チームとして成立しないことがトライアルフェーズで分かりました。そこで、学校対抗にすれば、毎日学校でチームメンバー同士が顔をあわせるので、プロジェクトマネージメントもしやすくなると考え、このような形を取りました。

白岩:最初は、色々な意見もあり、意見が合わないことも多かったですが、今ではもうこの形が定着したといってもいいですね。

◆GLSの目的は「仙台にゲームの集積都市を作る」こと


──様々試行錯誤されながらやられてきたのですね。それでは改めて、GLSの目的を教えてください。

篠原:GLSの最終ゴールは、仙台にゲーム会社やIT企業が集積し、ゲームやIT企業を目指す学生が地元企業に就職することです。よく地方創生と言われますが、経済をリードしているのは民間企業なんですよね。働く場所がなければ優秀な子たちは卒業しても、東京に行ってしまう。そのため、企業と学校と行政がきちんと連携をし、仙台にゲームの集積都市を作ることを目的に活動をしています。

一方で、民間企業が経済をリードするだけでは駄目で、そこに優秀な人材を供給する教育機関の務めがあると思っています。学校や大学を巻き込み、いかに仙台で育った優秀な人材を地元企業に就職させるか。このサイクルを作りたいと考えています。

仙台では6割の学生が卒業後に東京へ行ってしまいます。東北エリアの産業・人口を維持するためにも、東北の中心地である仙台が産業集積地としてダムのような役割を担わなければと考えています。

学校も企業にも変化が必要で、仙台は東京の会社から委託を受けていることが多い地域なんです。でも、東京から仕事がもらえなくなったら終わりですよね。日本で人口が減る中、他社に依存した収益構造はこれから厳しい時代を迎えます。ですから、自社で自分たちのタイトルを作り、海外にサービスを展開していくエリアにしたいですね。企業が儲かれば雇用人数も増える。優秀な子たちが、結果的に仙台で働ける流れを作れるんじゃないかと考えています。


白岩:仙台は東北6県からたくさんの学生さんに来ていただいていますが、その多くは卒業後に外に出てしまっています。東京で鍛えられて戻ってくるルートがもちろんあってもよいのですが、僕らは東北6県の他の自治体の何倍もここに留める努力をしないといけない。仙台であっても、若い学生さんが来てなんとか活力を維持している脆弱な構造なんです。

今は東京の企業から仕事を受注できています。これは東京の発注に耐えられる仕事ができることの表れなので悪いことではないのですが、それで満足していては駄目だなと。挑戦したいけどなかなかできない。これは人がいないからなんですよ。

篠原さんの所属しているドコモのような大手企業の拠点が集まる仙台を僕は「The支店経済都市」と呼んでいますが、この強みを活かして会社と優秀な人材の接点を作り、高い意欲を持って活躍できるキッカケを作ることが仕事だと思っています。本社を仙台に置く企業を増やす努力が一番大事なことではあるのですが、支社機能、支店機能が集まっていることを、もっと上手に生かさないともったいないと思います。


──篠原さんはドコモに所属されていますが、同社がなぜこの活動を行っているのでしょう?

篠原:ドコモの事業は、いわゆる“人口ビジネス”です。東北エリアに人がいなくなるとドコモとしてもビジネス機会が失われて行きます。きちんとこの地に住む定住環境を構築しなくては、人口は減るばかりです。働くことと住むことはセットで考えなければいけません。仙台新たな産業があることで住む人が増える、そうするとドコモは携帯電話を契約してもらえる。ドコモ東北支社としては、この取り組みに参加する意義は、5年後、10年後への東北エリアの投資だと考えてGLSの活動を行っています。

──篠原さんのお話から、とても楽しんで活動されていることが伝わってきます。あまりドコモっぽくないというか(笑)。

篠原:皆からそう言われますし、めちゃめちゃ楽しいです(笑)。

◆子どもは宝、格差に関係なく学べる環境を


──それでは、具体的にGLSはどのような活動をされているのでしょうか?

篠原:「GLS for Business」では、フィンランド国内にあるゲーム会社とビジネスマッチングを行ったり、東京の企業が仙台に来た際の引き合わせなどをしています。また、優秀な人材が仙台に残ってもらえるように、学生を社会人が直接教育する活動も行っています。日本の問題として、親の経済格差によって学べる環境にも格差があると感じています。僕は子どもが宝だと思っているので、そうした格差に関係なくきちんと学びたい人が学べる環境を作ってあげたいというのがGLS for Educationに込めた願いです。

具体的には、120円で販売するゲームの開発塾をやっており、最終的には、学生が売れた収益とかかった稼働コストを計算して、収支計算させることでお金儲けの大変さや責任を理解してもらう授業も行っています。

最終的には1年間学んだアウトプットを「仙台アプリコンテストDA・TE・APPS!」で発表するということを行っています。あくまでも仙台、東北のゲーム産業というブランドで経済をきちんと維持し、海外にも出ていきながら、もっと活性化して盛り上げたいという思いが強いですね。


──学生メンターの方々は、GLSに参加して得たものがあれば教えてください。

秋元:一番はGLSを通していろいろな人に出会えたことですね。その中でも篠原さんにお会いできたことは衝撃でした(笑)。僕は自分から進んで話したりするほうではなかったんです。篠原さんを通してGLSの活動に参加していろいろな人に会って学ぶことが多く、成長したと思います。

篠原:彼は「ザ・プログラマー」という感じでとても無口だったのですが、今はアッキーと呼んでいる仲なので、だいぶ距離を詰められたなという感じがしますね(笑)。

大友出会いの場ですね、GLSは。サイバーコネクトツー(*)の松山社長など普通に学校で過ごしているだけでは絶対に会えない人と話して、自分の作っているものに対する意見をもらえる機会がありました。具体的なアドバイスもいただけて、とてもためになったなと感じています。
(*)福岡に本社を構えるゲーム会社。『ナルティメットストーム』シリーズや『.hack』シリーズを手掛ける。

母良田:僕は学校では体験できないことをたくさんできたことですね。たとえば、アプリを作って配信したり。自分から「やりたい!」と言って、11月ごろからはGLSのインターンとして企業とのミーティングやイベントの運営を体験しました。そうした経験がGLSで得たものだと思います。


篠原:GLSではインターンは基本的に受けいれていないのですが、これは「裏インターン」と呼んでいるんです(笑)。僕は自分から「やりたい」と要求してきた人は大事にしたいと思っていて。母良田くんも元々アクティブではなくて、「フィンランドに行きたい!」という決意から、僕が飛行機代や宿泊費などお金を30万円ぐらい貸してあげました(笑)

──30万円!

篠原:「え?そんなキャラだっけ?!」って周囲では衝撃が走りましたよ。彼とは、フィンランドで同じ部屋だったので、夜中の2時ぐらいまで熱く語り合いましたね(笑)。

母良田:GLSに参加していなかったら、そんな風にはなっていなかったです(笑)。

──GLSは成長・出会いの場になっているのですね。それでは、学生のみなさんが感じる、仙台の魅力を教えいただけますか?

秋元:僕は宮城出身ではなく、福島県出身で学校に通うために仙台に来ました。都会に来て交通量もちがうし、コンビニも近いし、何でもできるなって(笑)。やっぱり一番の魅力はGLSの活動があることです。学校に通って卒業するだけではなく、企業の方と会えて一緒に何かできるというのは仙台の魅力かなと。

大友:僕は大崎市出身で7年前に仙台に来たのですが、学校が多いなと感じました。専門学校の前に大学で軽音楽サークルに入っていたのですが、他の学校と合同ライブができるなど交流が多くて。3年生の時にゲームを使って人を治療するという論文を読んで、そこに可能性を感じて親を説得して大学を辞めたんです。GLSに入って、他の学校の人と何かをすることがとても楽しく、バンドだと「俺のほうが上手い!」みたいな対立があったのですが、ゲームでは知識の共有もあり、よりお互いに高め合えるのがうれしかったですね。

母良田:青森出身で仙台以外の都市をあまり見ていないので比較対象が少ないのですが、チャレンジする学生を受け入れてくれる、後押ししてくれる大人が多いのが魅力だと思います。

──GLSの成果としてなにか具体的な数値のようなものはありますか?

篠原:GLSの今のフェーズは、まだまだ初期段階です。まずは活動にコミットしてくれる企業や学校を募り、ブランド力を高めているところなので、あえて定量的な分析はしていません。今後、GLSの卒業生が、インフルエンサーとして周りを巻き込み、東北を盛り上げてもらうことを期待しております。また若者のパワーに刺激を感じて、大人がもっと背中を見せれるくらいチャレンジしてもらうことも狙っています。

白岩:今はデータを見て成果を追い求めるフェーズではないと思っています。定性的な意味での進化の萌芽がみえてきたのが大事なことです。今年のコンテストでは、協力していただいた企業の内容がガラッと変わり数が増えてきました。去年よりも今年、今年よりも来年と毎年プログラムの内容も見直しているので、進化し続けていることがGLSの成果ですね。今年初めてGLSの活動を通じて仙台のゲーム業界に就職する学生さんが誕生したので、このサイクルを回していくフェーズになりました。今後はここからどこまで持っていくかですね。

篠原:GLSを卒業して血を受け継いだ学生が数十人、ゲーム業界に就職しています。どこかのタイミングで卒業生が集まれればゲーム業界同士のつながりに発展できる。ベンチャー企業を作るときは最初の3~5人はとても重要ですが、同じくGLSにとっても最初の20~30人がGLSにどれだけコミットできるかがポイントかなと思います。彼らの横のつながりやGLSで経験したことは、今後、必ず彼らの強みになると確信しています。

白岩:濃い経験をして、共通の場で切磋琢磨した学生さんたちが塊になっていくというのはとても大きいことです。単発的な取り組みとしてやるつもりは当初からなく、オウル市の取り組みも13年やってきて当面は2020年まで継続が決まっています。GLS(と呼び続けるかどうかは別にして)のような取組みは、進化させながら10年ぐらいがんばってやらないと目に見えた大きな動きが見えてきません。

◆仙台を「挑戦できることが当たり前」の都市に



──今後の5年で考えられている施策などがあればぜひお聞かせください。

篠原:これまでの日本は人口が増加していたので、国内で作って国内で消費しながら経済が成長できていました。しかし、これからは人口が減少していくので、国内で作って海外で消費する傾向が強まると思います。故に全てにおいて、いわゆるグローバル思考が必要になると考えており、GLSはいち早く、グローバル化の波を取り入れたいと考えています。オウル市との強固なつながりはもちろん、「DA・TE・APPS!」のプレゼンを英語にすることや、開発塾でオウル市の開発チーム対日本の開発チームで開発したゲームのダウンロード数で対決、こんなことをやりたいですね。

白岩:篠原さんたちがオウル市のゲームジャムにチームの一員として参加するといった活動も行い、GLSのメンターには入っていない子で優勝したチームに参加した人もいました。そのチームは仙台のプログラマーがメインで、オウル市の学生たちがプランナーで参加していましたね。そうしたグローバルなチームの中に仙台の学生が一員として役割を果たして結果を残しましたが、やっぱり最後は仙台対オウルで対決してみたいですよね。

オウル市は人口24万人の小さな街ですが、フィンランドで売上が3番目の大きなゲーム会社、利益率はフィンランドで2位の会社であるフィンガーソフト社と深い付き合いがあります。その会社では街中の建物を丸ごと1棟買い取って、ベンチャーに低額で入居できるスペースを提供しているだけでなく、オウルゲームラボをオウル応用科学大学のキャンパスから移転して同居しています。このような場を作るのに投資した会社の方に「何故、首都であるヘルシンキに行かないのか」と聞いたことがあるんです。返ってきた言葉は「なぜ行く必要があるのか」と。国内のマーケットをターゲットにしていないし、会議だってWEBでできる。わざわざヘルシンキに行く理由がないし、オウルが大好きなんだからここにいるんだ、と。これにはインスパイアされました。

篠原:仙台は、もっとさまざまな国と連携できると考えているので、そのパートナーシップから、海外を狙えると思っています。仙台で有名タイトルが出れば、仙台はゲーム産業が盛んであるという見せ方ができる。最終的には、仙台の企業がパブリッシャーになることをゴールにしています

──なるほど。

篠原GLSの最終型は、GLSがなくなることです。学校が優秀な人材を地元企業に供給し、地元企業が自走して仙台・東北のブランドを作っていく。僕らは、この部分をアクセラレーションするところをやってるだけなので、GLSという名前がなくても有名なゲーム会社やクリエイターが排出できれば、全国・海外から人や企業がこの仙台に集まってくる。そして、仙台・東北の人口が維持・アップしていくという流れ。これが最終型ですね。

──先程、「オウルが好きだからここにいる」という話がでましたが、学生のみなさんは、東京に行きたいと思ったことはありませんか?

篠原:4月から仙台に支店がある会社に入社する人は、一旦東京に行きますよね。

母良田:仙台支店がある東京の会社に行きます。一度自分のスキルをブランディングして戻ってきたいですね。

大友:僕も同じで一度東京に行きますが、自分の目標としては3~5年に戻ってきて大崎市で起業したいと考えています。

白岩:もちろん最初からずっと仙台にいてくれる方がいいのですが、東京で社会人として最高の環境で鍛えて戻ってくるという流れもいいと思っています。

秋元:僕は仙台で就職します。元々東京に行きたいと思ってはいなくて、県内か宮城かなと考えていました。


──学生のみなさんはどのような社会人になりたいのかという思いを教えてください。

母良田:GLSを通して学生メンターをやって、プログラマーを育てるということにとても興味を持ちました。それを大きな目標として自分の技術を磨き、エンジニアを育てられる人を育てる大人になりたいですね。

大友:プランナーとしてプログラミングもできますが、サウンドクリエイターを兼任してマルチにできればいいなと思っています。そして起業して、仙台や生まれ故郷の大崎市で育った人と働ける場所を作りたいと思っています。

秋元:人を引っ張っていく人になりたい性格なので、技術を高めていき、将来的にはプログラマーの中でも一番コードが書ける人になりたいと考えています。


──皆さん素晴らしい目標ですね!それでは、GLSの中核を担うお二人の地域への思いをお聞かせください。

篠原:繰り返しになりますが、僕は、子どもが宝だと思っています。親の経済格差に関係なくきちんと学べる。これが日本の課題です。学びたい、チャレンジしたい子が、大人の顔色を伺うことなく、むしろもっとやっていいんだと大人が背中をみせ、大人が子供の背中を押していく。そんな街に仙台をしたいですね。

多くの子供たちは、就職活動時、たった1枚のエントリーシートで最初の社会の入り口が決まってしまう。GLSの体験を通じて他の学生では書けない、さらには面接では言えないエピソードを提供し、自分たちが行きたい業界や会社に入ってもらうことを目標としています。育ててチャレンジするマインドの醸成にくわえ、行きたい会社に就職させる。これが今の仙台の礎に絶対なると思っているので、ずっと続けていきたいですね。

白岩:行政の人間が言うべきことを全部言われちゃったな(笑)。仙台という都市には挑戦できる場、一緒に場を作れる社会人がいるという取り組みが当たり前の都市にならなければいけないと思っています。東京なら大手企業があらゆるところでやっているので、地方では僕たち行政がキッカケを作らねばと。そして、それを東北においては仙台がやるというのがプライド。今後もプライドを持ってその場を育てていきたいですね。

──本日はありがとうございました。



GLSが本格始動し3年が経過。今年初めて仙台市のゲーム会社に就職する学生が出てくるなど、この活動を通して小さな芽が芽吹きはじめました。この芽はまだ小さいですが、数年後には大きな樹となり仙台市、ひいては東北を支える大樹となり得るでしょう。

その芽を芽吹かせる努力をしてきた篠原氏、白岩氏を始めとした東北を盛り上げようとする「カッコいい大人たち」が仙台市と学生たちに多大な影響を与えたのは言うまでもありません。仙台から世界に羽ばたくゲームが誕生することを筆者も願っています。
《山﨑浩司》
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