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VRの伝道師、GOROmanこと株式会社エクシヴィ代表取締役社長 近藤義仁氏が語る、国内におけるVR向けHMDムーブメントのこれまでとこれから―中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第46回

本誌の読者ならご存じのとおり、「ゲームビジネス新潮流」を冠したこの連載はほぼ1年間にわたりVR関連の企業に対しインタビューを敢行してきました。これらのインタビューで常に遭遇する名前がありました。GOROman氏(または近藤氏)です。

ゲームビジネス VR
VRの伝道師、GOROmanこと株式会社エクシヴィ代表取締役社長 近藤義仁氏が語る、国内におけるVR向けHMDムーブメントのこれまでとこれから―中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第46回
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GOROmanネットワークでVR事業のシードを育み、そして、Oculus ジャパンチームへの参画

――『SAO』Oculusのプロジェクトが立ち会ったのもこの時期ですか?

近藤:1月にパルマーにはじめてあった際に『SAO』が好きであるということを聞いて、KADOKAWAの人たちとも同行していたことから早速企画書を書いたんです。バトルシーンと添い寝シーンの2つを提案しました。KADOKAWAグループの方に直接企画を提案して、プロトタイプまでをつくりました。草原のシーンでアスナが横になっているシーンです。そこで、開発費用は持ち出しででも、作りたいと訴えて、2014年7月にロサンゼルスで開催されるAnime Expoでの出展を目指してバトルシーンを作り出したところで、バンダイナムコゲームス側のチームからコンタクトがありました。紆余曲折の結果、バンダイナムコさんとエクシヴィでそれぞれ別のパートを担当することになったのです。今思えば、そのチームとの顔合わせで出会ったのが『鉄拳』シリーズで知られる原田勝弘プロデューサや『サマーレッスン』を手掛けた玉置絢さんでした。弊社はバトルシーンを担当することになりました。GDCの際にプロトタイプを開発してはいたのですが、正式にバトルシーンの開発が決まってからは、社内の『SAO』好き4-5人で一気に開発を進めました。当時、スタッフが20人位だったのでかなりのスタッフをこのプロジェクトに投入したことになります。メイン事業はこの段階でもまだ、受託開発事業でしたから。とにかく、そのような形でAnime Expoで発表されたAnime Expo 2014『ソードアート・オンライン』デモの開発にも関わったんです

――この時点で玉置さんなどと顔合わせするというのも運命ですよね。

近藤:結局、僕が思うに、このプロジェクトの影で進められたのが『サマーレッスン』だったと思うんです。でも普通、『鉄拳』チームがやると聞くと、自然にバトルパートを担当すると思ってしまうものですが、そうじゃないということが意外ですよね。幸いうちのスタッフもゲーム開発会社出身が多いので問題ありませんでしたが。

――その他のスタッフは何をしていたんですか?

近藤:実はこの時期、同時にフランスのJapan Expo出展向けの『ドラえもんのどこでもドア』を同時進行で開発してたんです。ロスのAnime JapanとフランスのJapan Expoがかぶってしまい本当に大変でした。『どこでもドア』は藤原が主に開発していたのですが、結局つくった本人がフランスにいくことなく、代理人を立てていくことになりました。もともとこれは2013年の半ばに長野に本社があるプロノハーツの早稲田治慶さんが東京出張中に、僕のツイッターを見て、日曜日にDK1のデモを見せてくれとお願いしてきたのがきっかけでした。さすがに日曜日にデモを見せてくれという依頼には驚いたんですが、面白い人だからいいかなと思って、休日に会社にいって、デモをするとすごく興奮して、次回は社長を連れてきますっていうことになったのです。そして後日、プロノハーツの藤森匡康社長と飲んでいるときに、「来年、Japan Expoに行きたくない?」っていう話になったので、勢いで「行きましょうよ!「ドラえもん」をやりましょうよ!」といったのがきっかけだったんです。そのときはあくまでも飲みでの話だったのですが、だんだん盛り上がってきて、小学館の関係者に会うことになったんです。

――どうやって、小学館に話をもっていったんですか?

近藤:これはDC Expoのときに、須藤さんに仲介をお願いしました。

――なるほどDCAJさん、顔が広いですよね!

近藤:はい。いろいろなIPとつながるにはそういった団体が必要ですね。そこで、関係者にVRのデモをしたうえで、頭を下げてやらせてもらうことになりました。結局、どこでもドアの設備などはプロノハーツが製作してコンテンツをウチが提供するということをしてました。ただ実はこのプロジェクトも持ち出しだったです。

――えーっ。会社は大丈夫だったんですか?

熱心に当時を述懐する近藤氏

近藤:あくまでも「遊び」だからいいんです(笑)。まあ、受託開発事業で利益があったので。当時。ただ、当時の事業も近い将来ダメになっていくという思いがあったので新規事業を打ち出さないと会社経営がなりゆかなくなると思ってたんです。なので、持ち出しでやるのも新規事業の可能性も意識してやってました。そんなときに元ハドソンの方で、私の活動を自主的にプロモーションしてくれる方がいて、その方の引き合いで、タカラトミーの方に飲み屋で知り合いになったときにVRの話をしたら「やりたい!」と言ってきたんです。この方は早速翌日には当社に来たので、HMDとか見せたら大興奮して『トランスフォーマー』30周年にあわせてやりましょう、ということで、開発が決まったのです。そのイベントが2014年8月9日~17日に横浜パシフィコで開催されたのですが、その出展のためにお仕事をいただいたんです。

――では、受託開発事業とVR関連の事業の両方を今でも続けているわけですね?

近藤:いえ、いまはVR関連の事業だけに絞りました。(藤原氏を指さしながら)彼は、VRやるぞって当社にきたので、納得していたのですが、元からいたスタッフからしたら「え~っ」という感じでしたよ。そりゃそうですよね。すごく儲かっている事業があるのに、社長は会社に来ずに1日中VRばっかりお客さんに見せまくっているわけですから。毎日来る人たちもVRのために来るわけですし。2013年の段階ではもうVRの話しかしてませんでしたね。

――社員の皆さんのリアクションは?

近藤:あ、もうやべえとなっていたでしょうね(笑)VRをやりたいやつは残って喜んでやってましたが、全然VRに興味ないスタッフは離れていきました。ただ、まあ、彼らにとっては幸せだったと思います。やりたくないこと無理にやるのはつらいので。結局、半分ぐらいはやめていきました。

――このような方針に異を唱えたスタッフとかは?

近藤:いないですよね。ここは僕が完全に100%出資の会社なので。

――私も近藤さんのイメージは『Mikulus』をつくったGOROmanさんか、Oculus Japanチームのひと、というイメージでした。

近藤:Anime Expoが終わったあたりで、Oculusのコントラクターとして契約書にサインしてそれから3か月後に正式にFacebookの社員になりました。

――会社経営をしながら社員になったというわけですか?

近藤:エクシヴィからの役員報酬を0円にして、更に定時は自分の会社へは出社しないという項目にサインをして入ったんです。

――会社はどうなっちゃったのですか??

近藤:放置!(一同笑)

――えっ?(藤原氏のほうに振り向く)

当時の模様を述懐する藤原氏

藤原:副社長の古澤(※古澤大輔氏)に任せる形になったんです。

近藤:たぶん、もう来ないから!みたいに言って(笑)。よくわかんないですよね?

藤原:説明もなかったんですよ~

近藤:もともと(会社)に来なかったので。ただ、Facebookの正社員になったらあくまでもサラリーマンで、予算も人事権もその他の権限もつかないということが明らかになったんです。新人1年目みたいな感じでした。

――年商数億円単位の経営者だったのに?

近藤:なにも出来なくなってしまいました。そのとき一緒に入ったのがKADOKAWAにいて、CESなどのときに同行していた池田さんや、体験会の際ご一緒した井口さん(※井口健治氏)でした。とにかく2014年10月にはFacebookのOculus Japanチームの正社員として入ってました。ただエンジニアとして採用されたのでエヴァンジェリストのような活動も出来なくなってしまったんです。レジュメ(履歴書)を書いたときにゲームプログラマー出身であることを強調してしまい、以前の実績を書きすぎてしまったからですかね...ここ10年はずっと経営者だったのですが...なので、本来はエヴァンジェリストがむいていたと思ったのですが、パートナーエンジニアという職種で採用されて、サポートに特化することになってしまったんです。

――社長から技術サポートですか?

近藤:実際、その職種は希望していないという意向は伝えたのですが、なかなか後から変更は難しかったようです...

――では、だれがエヴァンジェリストになったのですか?

近藤:それは米国本社がやることになったんです。グローバルスタンダードなのに、日本で勝手にマーケティングなどをやられても困るということなのかもしれません。ただ、開発者向けセッションとしてUNITE、UNREL FEST、CEDECなどには出ることができました。なので、そこでOculus用コンテンツの開発方法などを解説してました。

藤原:当時、社長の講演に行ったのですが、「あれ?どうしたんだろう?」という感じで。いつものハキハキした説明じゃなくて、用意された台本を間違いなくしゃべるという感じでした…

近藤:ただ、何を言ったらダメなのかというのが分からない状況でしたね。自分の会社の立場なら何を話しても自分で責任を負えるのですが、Oculus Japanチームでの立場だと自分の発言に責任が負えなくなると困ると思ってしまったんです。なので、技術説明ですね。僕がしたのは。

――そのような中で、ジャーナリストの新さんがエヴァンジェリストとなって活躍したり、グリーがTokyo VR Summitを立ち上げたりしていったと...

近藤:そうです。この時期、幸い、ソニー・インタラクティブエンターテインメントがVRビジネスに参戦し、その後、HTCもViveを発表したりでどんどん盛り上がっていったんです。これは嬉しかったですね。Oculusという一社ではなく、ソニーのような大手も参戦するということは、それだけ投資をする企業が増えたということになるので、市場全体の本気度が高まったという意味なので。これは自分が、この新しい技術に突撃していったのが認められたということになるので。最初はこれがビジネスになるかは全くわからないというのが正直なところだったので。

――近藤さんがOculus Japanチームにいた間、会社はどうなってたんですか?

近藤:さすがにプロデュースの最初の部分は関わってますが、開発は全くタッチしてないです。

藤原:ほぼ口出しはしていないですね。

近藤:THETA S VRというアプリは、個人でつくってましたけど。これは、Gear VRから撮影できるTHETAの制御用ソフトですね。あとのプロジェクトはOculus Japanチームに入る前に作った僕の人脈からです。

――『劇場霊360°』というのは

藤原:Gear VR用に開発したものですね。

近藤:映画用プロモーションで作ったコンテンツですね。まだ、Gear VR発売前に開発しました。

――これらはVRのエヴァンジェリスト的な立場で動いていた結果として得られたプロジェクトだったわけですね?

近藤:実際、ビジネスという意味ではこれらのプロジェクトは赤字、またはトントンといったところなのですが、それでも知見も蓄積するし、いいのではという判断からです。それが2014、2015、2016までの活動ですね。

自らの会社に凱旋を果たす近藤氏が見据える未来

――で、いよいよ戻ってきたわけですね。

近藤:そうです。戻ってきて、今年からはちゃんと収益をあげようと思っています。

――最初に作ったのが『Mikulus』のCV1版ですよね?

近藤:それは2016年10月に例によって個人的に開発しました。新さんにCV1向けにアップグレードにしてくださいと言われて。なので、すぐ出したんですよね。そしたらユーザーからいろいろなリクエストが追加されたので、それにも対応しました。当時は単なるエンジニアだったので時間もあったんです(笑)。

――別のメディアでは、VROSをつくるっといった話もしていましたが

近藤:あれは完全に趣味です(笑)。仕事にすると締切を決めて、金を稼がなくちゃいけないじゃないですか。

――納期ってやつですね。

近藤:納期がいやなんで、VROSの開発はライフワークなんです。みんなで話してTwitterでつくっていくという。会社でやろうとすると作りずらいですよ。VROSで10億円くださいって投資家に聞いたとしたら「じゃあ、何年後にそれを100億円にしてくれるの?」っていう話になっちゃうじゃないですか。ベンチャー企業ならマネジメントバイアウトしてキャピタルゲインを得るとかじゃないですか。これはそういったことが出来るモノじゃないですよね。未知のものなので。事業計画が書けないですよね。いろいろ予測が出ていますがデタラメですよ。VRとかでもいろいろ出てますが。

――実際、体感値としてはどうですか?

近藤:正直、以前より冷え込んじゃったというのはあります。あんな高いスペックのパソコン、普通のひとは買わないでしょう。だから、スタンドアローンかスマホにインサイドトラッキングが実装されて且つキラーコンテンツが生まれる必要があると思うんです。マイクロソフトのHoloLensとか、GoogleのTangoが実装されたデバイスとか。ポジトラ(ポジション・トラッキング)が、携帯単体で出来る様になって、ARもVRもハイブリッドみたいになっちゃうみたいな。人々が、それがないと不便だね、というものにならないとダメでしょうね。エンターテインメントだけだとパイがちっちゃいです。ただ今は、ゲーマーの中のゲーマっていう具合でかなり限られたユーザー数なんです。それが悪いかというと悪いことはないのですが。パソコンの歴史とかでも最初は皆ゲーマーが買ってましたし。

――とすると、今の段階はどうするべきなのでしょう?

近藤:いまはもっとクリエイターを増やすべきだと思いますよ。だから、学生さんや大学でVRをやりたい人を増やす必要があるんです。もしこんなデバイスが大学時代にあったとしたらめちゃくちゃワクワクしてただろうなって思います。やっぱり身近で触れるというのはでかいです。だから若い人に環境を与えたいです。おっさんが作ろうとしても無理なんです。発想に限界があるから。むしろ脳が常識に縛られない中学生や高校生がHoloLensを触ったとしたらそれが彼らにとってのクリエイティブの座標系の原点になりますよね。僕らはどうしてもHoloLensをテクノロジーの頂点として見てしまいます。8ビット時代からやってるから。8ビット時代の技術が座標系の原点なんです。だからどうしてもすごいモノという目で見てしまう。「HoloLensってSFじゃん、ドラえもんの世界だよね、電脳コイルじゃん」的な。でも子供たちにとってはそれが原点になるからそこを起点としてスケーラブルに発想しますよね。そうするとすげえもんが出てくるのではと。

――いまのクリエイターは創造出来ない?

近藤:出来ないですね。例えばSF作家って近未来とかについて出来もしないことを書くわけですよ。その当時の科学者が不可能と言っていたことを。でも10年もすると本当に出来る様になったりするんです。今のスマホとかドラえもんの道具ですよね。解像度も高くて、タッチパネルで...とか。スゴ過ぎですよ。完全にドラえもんとか21エモンとかに出てくる世界じゃないですか。ここにあるデバイスって。ただ、僕の小学生の娘がこれを触ったとしたら、自然に使うと思うんです。2歳の子供も、自然にiPhoneのロックを解除してYoutubeを見たりするわけですし。彼らにとってはそれが当たり前なんです。僕らからみたらなんでそんなことが出来るか不思議に思うんです。なんの躊躇なく出来てしまっているわけなので。操作もめちゃくちゃ速いです(笑)。これがインターネットネイティブ世代っていうことですよね。こういう人たちが未来をつくっていくんです。

VR伝道師GOROmanが思い描く10年後の世界

――GOROmanさんとして、HoloLensをさわってみてどう感じたのですか?

近藤:そうですね。『Mikulus』と同じですが、フレームに囚われることがなくなることがうれしいですね。モニターの中の限界というのがあって、クリエイティビティを阻害しだしたなと。Altタブとかスクロールとか、画面という狭い中でのUIに苦労させられているんだけど、誰もこれを不便だと思っていないっていう状態なんだけど、これって本当は不便なんだよっていう。HoloLensとか、『Mikulus』とかは空間上で仕事が出来たりクリエイティブな活動が出来るというのは、人類を更に一歩先に進めることが出来ると思うんですね。そこをやりたいなっと思っています。

――いまは平面を前提としたUIということですね。

近藤:デスクトップという言葉が示すとおり、「紙のパラダイム」ですよね。もうそれはやらなくていいんじゃないの?っていう。「コピー&ペースト」ってまさに紙の扱い方法じゃないですか。「糊で貼る」っていう概念でしょ。紙時代の作業をコンピュータに落とし込んだのがワードプロセッサーだとかだし。

――全部、紙でやれることをしているという

近藤:紙のパラダイムの作法をコンピュータ上に持ってきたという。それにいまだ囚われているんです。VRとなればもう重力も無視出来るから、空間に情報をおけばいいし、海に関する何かについてクリエイティブなことをしたければ、作業する空間に海を再現すれば新たなインスピレーションを得られるでしょう。こういったことはいままでは出来なったことです。宇宙の曲を考えるとか言って、頭の中でイメージしたり、宇宙に関する本を買って読むんだけど、宇宙空間に入りながら作曲したらより作業に没頭できると思うんです。

――百科事典とかも

近藤:すべていらなくなりますよ。Wikipediaとかも空間に並べるわけですよ。『マイノリティ・リポート』ですよ!例えば「源平時代の資料出して」って言ったら、その資料が空間にバーッと広がるわけです。それを見ながら作業をする、とかです。物書きとか圧倒的に変わると思いますね。文字入力はまあ、おいておくとして。資料を見ながらなにかするというのはものすごく効率が上がると思います。その場に置いておけるわけですから。

――これらを実現するうえで必要になるソフトはどんなものでしょう?

近藤:既存のソフトでというと組み合わせになりますけど、まずは『Toy Box』のようなものあって、これは共同作業とかに向いてますよね。あと資料をVR空間に置くという意味では『Big Screen』がいいと思います。あ、どれもゲームじゃないですね(笑)

――たしかにそうですね。

近藤:コンピュータもそうなんですが。もともとはゲームをやりたくて買ったりするんですが、ゲームは飽きるんですよ。いずれ。で飽きた後何をするかというとソフトを改造したり、自分でゲームを作り出したりするんです。なんかつくっているんですね。結局。作っている限り人は飽きないんです。『Minecraft』はその典型ですよね。つまり、クリエイティブなモノって飽きないなって。しかも今の時代だとシェアもできるし。『Google Tilt Brush』もそうですけど。あとコラボできると嬉しいですよね。『Google Tilt Brush』はひとりでやるものですけど、あそこにディレクターが入ったり、作曲家が入ったりするとすごいですよ。あとは、京都と東京っていう別空間で同じ時間に入って、一人は曲を担当して一人は絵を描くみたいなセッションをしたりするとか。そのうちこれらが非同期でも出来る様になるといいですよね。作業工程を倍速再生しながらそこになにかを追加するとか。そうすると、これまでのコンピューティング・パラダイムとは違ったパラダイムが生まれますよね。

―――では、経営者としての近藤さんがいまやっていることは?

近藤:これまでのVR関連のプロジェクトは全部受託した案件なんです。受託って結局限界があるんです。下請けなので。パブリッシャーさんの依頼で受託してやるのでヒットしてもお金を得にくい構造なんです。いまのようにマーケットが無い場合は受託のほうがお金をもらえます。だから開発費分はペイできるのでリスクはないですよね。これが自分で、開発費用持ち出しでヒットを狙うとなるとギャンブルになっちゃうじゃないですか。そのギャンブルをやるほど正直いまはマーケットが存在していません。例えばいまOculus向けに有料ソフトを出しても厳しいです。あれだけたくさんの面白いソフトが無料であるのに有料ソフト買う人が出てくるわけじゃないじゃないですか。そうなるとビジネスとしてはまずペイできないですよね。

――ただ、『Job Simulator』など億単位の収益をあげるスタジオも出てきました。

近藤:でもそれ以上のプロモーション費用をつかってそうですよね。2、3年やってますからね。彼らはけっこう売上を出したとはいいますが、ほとんどバンドルなんです。結局、Valveのプロモーションに入りこめたのが大きいんですよ。しばらくHTC Viveを購入したらバンドルされてましたから。もし、このバンドルが無かったら彼らがあそこまで売上を上げあれたかというと分からないですよね。それでさらにマルチプラットフォームでやっても3億円だったわけで。

――このような厳しい見解がGOROmanさんから出たらみんな驚いちゃんのでは?

藤原:それはないと思いますよ。

近藤:これが現実ですから。

――ただ、PS VRはいまでも予約が瞬殺で完売されてますよね。全世界レベルで。

近藤:あれはマーケティング先行で足並みをそろえて需要と供給をあわせているっていう気がしますね。部品が不足しているという可能性もありますが。有機ELが特に。ドットがひとつ欠けてもダメですから。ノートPCでのドット欠けはまだ許容範囲ですが、VRの場合、虫眼鏡で拡大されたような状態になっているのでドット1つでも欠けると本当にストレスなんです。パネルの歩留まり問題ですよね。有機ELはもともとソニーのお家芸だったのですが…

――では、近藤社長としてはどうしたいんですか?

近藤:なのでコンテンツは限界があるのでキャラクタープラットフォームをつくっていこうかなと。そういうのがウチは得意なので。みんながクリエイティブを共有できる何かを出したいですね。『Mikulus』ではないですが、いろんなIPをみんなで持ち寄って、更にライブが出来るみたいな、しかもクリエイティブな要素を入れられるVR空間のデザインですね。『ミクつく』というのを 、2月に札幌で開催したSNOW MIKU 2017で初披露したんです。


さっそく『ミクつく』をプレイ。ライブ空間を箱庭感覚で自由にデザイン!

――ではデバイス的にこれから一番可能性があると感じているのはどれでしょうか?

近藤:僕がいま、HoloLensを推しているのは日常利用できると思ったからです。VRのHMDって結局毎日かぶらないじゃないですか。つまり家電化しずらい。スマホやパソコンがここまで普及したのは仕事でつかえたり、無いと不便になっているからです。 便利の中毒者ですよ(笑)。 スマホをなくして1週間使えないと不安になりますよね?

――確かに。

近藤:つまり、便利を知ると、人はもう不便には戻れない。ドーパミンが出てくるので、不便になるとストレスが生まれるんです。(スマホを指さしながら)昔はこれが無いのが当たり前だったんです。Google Mapも無いから、地図を見たり、事前に本で調べたりしているわけだけど、今や手のひらに全部の情報があって、それがある前提でみんな行動しちゃうんです。で、いまさら前に戻れないんです。つまり、VRも同じように、いまはエンターテインメント要素で使われているけど、その内、無いと困るものになると、売れるし、毎日使ってもらえるものになるんです。

――気になるキーワードなどは?

近藤:やはり人とつながるっていうことですね。PlayStation 4になってShareボタンがついたんですよね。自分がやっているゲームをみなで共有したり、スクリーンショットをシェアしたり...つまりゲームはひとりで遊ぶものじゃなくなっているんです。ただ、VRはまだひとりで遊ぶものになっているんですよね。これがみんなでシェアできるものになればいいなと思っています。HoloLensもそうですが、見ている人が置いていかれる感があるんです。それがなくなればすごくいいですよね。みんなが持っているという前提になれば。スマホだったらLINEと同じですよね。みんながLINEに入っているから、自分も入らないと疎外されちゃうという意識。疎外されたくないから買うという。

――みんなで遊ぶ空間がいつ生まれるか..

近藤:遊びに限らず、例えば勉強だったり、VR空間の中で授業をしたり、産業界では金型をチェックするとか...みんながVRをつかってその中で共同作業が出来るようになったら一気にキラー化するんだろうなと思います。

日本の土壌があればVRで世界に勝てる!

――ここまで エヴァンジェリストと して築き上げたネットワークを活かして何をしたいですか?

近藤:やっぱり、日本ってヘンな人が多いんですよ(一同笑)。

――(笑)

近藤:ユニーク。あとAR/VRが認知されやすい土壌がありますよね 。『攻殻機動隊』や『電脳コイル』が人気になったり。『SAO』でもオーグマーっていうARデバイスが紹介されたりしてますし。なので、認知されやすいですよね。こんな感じで受け入れてくれる土壌があることがデカくて、得体が知れないモノにはなりにくいんです。「アニメでやってたやつだよね」、「『SAO』にあったよね」という形で比喩が出来ることが重要なんです。アニメ見たことがない人たちに『SAO』みたいなデバイスだよと言っても「なにそれ?」っていう状態になりますよね。なので、これだけコミュニティをつくってきたので今度は日本から海外へ発信していきたいと思っています。この一環として3月末にSVVR(シリコンバレーVR)というイベントが海外があるんですよ。サンノゼ で開催されるのですが、そこで僕も登壇することになりました。日本組のコンテンツを集めてデモをしたいと思ってます。IPもいっぱいあるし、発想も面白いので。

――では、ズバリ、日本はVRで世界に勝てると思いますか?

近藤:勝てると思いますね!アニメひとつをとってもAR的だったり、MR的だったりするので。ずいぶん昔のアニメ『機動戦艦ナデシコ』にしてもすげえARっぽいですし。機動戦士ガンダムとかの操縦席も全天球コントローラになっていますし。土壌があるんです。その頃はあくまでアニメの中の世界でもふたを開けてみると実は具現化しているという。具現化した後はその先にもむかえるわけですから。

――ありがとうございました!
《中村彰憲》
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