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ゲームで楽しむ大統領選挙、重力波とエンタメの関係?【オールゲームニッポン 第30回】

現在『GOD WARS』や『ルートレター』を手掛けるゲームクリエイターで角川ゲームス代表の安田善巳氏と、ゲームアナリストの平林久和氏によるトーク番組「オールゲームニッポン」。

ゲームビジネス その他
共和党の討論会に臨む大統領候補たち 写真提供: Getty Images
  • 共和党の討論会に臨む大統領候補たち 写真提供: Getty Images
  • 宇宙の謎は人類に大きな影響を与えている 写真提供: Getty Images
現在『GOD WARS』や『ルートレター』を手掛けるゲームクリエイターで角川ゲームス代表の安田善巳氏と、ゲームアナリストの平林久和氏によるトーク番組「オールゲームニッポン」。今回は大統領選挙を舞台にした懐かしいゲームから、重力波とエンターテイメントの関係まで語ります。



土本
 
2016年は格別に事件やニュースが多い年なんでしょうか。1月につづいて2月もいろいろなことがありました。

平林
 
清原容疑者逮捕。マイナス金利。歯舞が読めなかった大臣……。とまあ、カオスを感じる出来事が続きましたが、個人的にはアメリカ大統領選挙で盛り上がっています。



共和党の討論会に臨む大統領候補たち 写真提供: Getty Images


安田
 
トランプ候補が連勝してますね。

平林
 
ですね。日本では不人気ですが、アメリカの大統領選挙は日本の選挙とはかなり異質だということを私は知っています。

土本
 
そうなんですか?

平林
 
はい。ところで、昔のゲームの話をしたいのですが『アメリカ大統領選挙』という名前のゲームがあったのを知っていますか?

土本
 
いや、知りません。

平林
 
あったんですよ。そんなゲームが。しかもファミコンソフトで。発売されたのは、まさに現実の大統領選挙が行われた1988年の秋でした。ジャレコの開発部長だった関さんという方が独立して興された会社で、ヘクトというゲーム会社がありました。当時としては珍しい「大人が遊ぶゲームをつくる」をコンセプトにしていました。大統領選挙のほかには、株や麻雀のゲームなども開発していました。 で、このゲームを遊ぶとよくわかるんです、大統領選挙のことが。

安田
 
たとえばどんなことですか?

平林
 
このゲームでは州の特性にあわせて、票が集まりやすい政策をアピールしていくんです。 経済・外交・防衛など、わりと想像がつきやすいことのほかに、いかにもアメリカらしい項目があります。銃砲所持の規制、移民労働者の規制、人工中絶の禁止、公立学校での礼拝義務、脳死を認める、ポルノ規制など。これらを「強化するか、緩和するか」「増加させるか、削減するか」といった加減をスライドバーで割り振っていくんですね。

土本
 
超マニアックな仕様ですね。

平林
 
で、この政策一覧を見ていると、アメリカの保守層というのは日本の保守層とは明らかに違うということがわかってくるんです。その候補者は力強いか。俗っぽく言うとマッチョなイメージがあったほうがいいです。さらにキリスト教原理主義的な価値観も大事なようです。そういう意味でトランプ候補は、日本ではありえないけど、アメリカではありえる……という気がするんです。ファミコンソフトから得た知識ですが、日本人には予想しにくいのがアメリカ大統領選挙です。ともあれ、来週は前半戦の山場、スーパー・チューズデーです。余談ですが、なぜ投票日がチューズデー(火曜日)かというと、日曜日は安息日なので投票は禁止。昔は投票所が家から遠かったため、一日がかりで移動する人もいる。なので月曜日も投票日から除外。日曜日を終えて月曜日に移動しても投票できるということで、火曜日になったのだとか。こんな投票する曜日にも、キリスト教の安息日の考えが入っているんですね。

土本
 
平林さんからすごいウンチクを聞きましたが、安田さんが気になる2月のニュースは何でしたか?

安田
 
では僕も語りますよ(笑)。2016年2月といえば、重力波でしょう。アメリカの研究チームが宇宙から届く重力波を検出しました。アインシュタインが一般相対性理論で示した予言が100年ぶりに証明されたわけじゃないですか。このニュースには心躍りましたね。これ、宇宙物理学の話、難しい理系の学問の話のようですが、僕ら文系の人間、ゲームをつくる人間に大きな影響を与えることだとも思うんです。



宇宙の謎は人類に大きな影響を与えている 写真提供: Getty Images


平林
 
どうしてですか?

安田
 
宇宙の謎。言い替えると、時間や空間の解釈が変わるとエンタテインメントが変わってきますよね。新しい物語が生まれることもあります。わかりやすい例を挙げるとアーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」ですね。

平林
 
なるほど。SF=サイエンス・フィクションのサイエンスとフィクションは切っても切れない関係にあるということですね。

安田
 
そうです。「2001年宇宙の旅」は難解な映画と言われました。特に後半は哲学的な描写が多くて、さまざまな解釈がありました。ですが、地球と木星という空間があって、見る見るウチに老けていくボーマン船長とスター・チャイルドと呼ばれる赤ん坊が出てきます。つまり、距離や光の速度や時間の歪みを描いたのが「2001年宇宙の旅」でした。これらは、明らかにアインシュタインの相対性理論を下敷きにしています。

平林
 
作者が勝手に想像したドタバタ宇宙劇ではない。科学の裏づけがあるのが「2001年宇宙の旅」であると。

安田
 
はい。映画の話が続きますが、この系譜……相対性理論を下敷きにした映画に「コンタクト」と「インターステラー」があります。

平林
 
うわー。ピンときました。おもしろいですね。重力波の検出というニュース。そこから発展して「2001年宇宙の旅」「コンタクト」「インターステラー」の3本の映画。これらは全部つながってます。

安田
 
平林さんは「コンタクト」を観ましたか?

平林
 
観ました、というかかなり好きな映画です。「コンタクト」ではまったく時が過ぎていないのにカメラは18時間も録画していた、という場面がありましたよね。

安田
 
主人公のジョディ・フォスターが宇宙に行って、地球に戻ってきたけど宇宙船の発射時刻とまったく変わっていない。ただの妄想かと思いきや、ビデオカメラは18時間を計測していた――。宇宙空間のどこでも同じ時間が流れているのではない。時間とは光の速度を基準とした時の流れである。まさに相対性理論が描かれていました。

平林
 
確かに。人類は長年、時間を絶対的なものと思い込んできました。ところが、この世に「絶対時間」は存在しない。時間は変化するもの。絶対的ではなくて相対的なものですよー、と言ったのがアインシュタインですからね。

安田
 
「コンタクト」と同じプロデューサーが製作した「インターステラー」(公式サイト)は相対性理論を映画化したような作品でした。ブラックホールや5次元の世界が登場します。それに「重力の謎」というのがストーリー上、重要なポイントだったのを覚えてます?

平林
 
ありましたね。「重力の謎」が解明されると人類が救われる「プランA」が実現できる。そんなストーリーでしたか?

安田
 
はい。あと、時計の針を動かしてモールス信号で伝達するシーンがありましたよね。あのシーンはまさに重力波で時計を動かしていたと解釈できるんです。

平林
 
うわー。重力波の存在は、映画の1シーンを発想させることにもなるんですね。

安田
 
さらにこの3本の映画を比較してみると、おもしろいことがありまして……。

平林
 
なんですか?

安田
 
西洋のキリスト教やユダヤ教では創造主=神が絶対という価値観が根強いじゃないですか。

平林
 
はい。

安田
 
ですから、科学が宇宙の謎を解き明かすことに躊躇している面があって、常に倫理観と戦っているんですね。相対性理論を下敷きにしながらも、あえて難解に描いたのが「2001年宇宙の旅」。神学者が登場して科学と宗教の葛藤を描いたのが「コンタクト」。そこから一歩踏みだして、人類が生き残るためには科学を駆使することを決断した「インターステラー」。そんな対比もできると思うんですね。

平林
 
いやー、今回のオールゲームニッポンは高尚でしたね。発見がいろいろありました。

安田
 
SF映画の話に夢中になってしまいましたが、言いたかったのはあくまでも現実世界のことですね。文系の人にもかかわりがある。われわれの生活の基礎の基礎、時間や空間の本質を知ろうとすると、どうしても光の速さを使って証明する必要が出てくる。となると宇宙に飛び出てものを考えなくてはいけない……という流れから3本の映画のことを語ってみました。



(次回配信は3月25日予定です)


■パーソナリティの紹介


安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『GOD WARS』『ルートレター』の開発に取り組む。



平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。
《平林久和》
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