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【特集】アニメライター4人が語る「がっこうぐらし!」の魅力

2015年7月に放送開始したTVアニメ『がっこうぐらし!』は、ほのぼの日常系アニメかと思いきや衝撃的な展開を見せる話題作だ

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◆「日常もの」に対するメタな視線


藤津:改めてアニメ化されたものを見ると、ハイコンテクストな作品だなと感じました。「滅びた世界で友だちと一緒に過ごしたい」という80年代から続くロマンがある一方で、「日常系アニメ」など今のファンが親しんできたアニメ文化が積み重ねてきた語り口やキャラクターの要素もあって、それに対する批評としても読めるようになっている。なんというか「誰かがモーレツに何かを語り出しそう」と思いましたね(笑)。やっぱりひとこと言いたくなるはずなんですよ。

数土:構図としては『まどか☆マギカ』と一緒ですよね。要は本歌取り。『まどか☆マギカ』は「魔法少女もの」を引用してひっくり返したわけですが、『がっこうぐらし!』は「日常もの」を引っ張ってきてひっくり返している。

前田:でもメタ化されるまで早かったですよね。先駆として『あずまんが大王』がありますけど、「まんがタイムきらら」の系列誌に載るような、いわゆる「日常系」作品が頻繁にアニメ化されるようになったのは2007年に『ひだまりスケッチ』がアニメ化されて以降のことで、それからまだ8年しか経ってないわけじゃないですか。

藤津:まぁ、作品数多いし、これだけ消費速度が速いとメタ化も早くなりますよね。

――本作のメタ的な視線にニトロプラス作品らしさを感じたのですが。


前田:そうですね。ニトロプラス界隈にいるクリエイターのみなさんは、基本的に「オタク」だから、創作にあたって、ゼロからオリジナルを生み出しているという意識は、あまり強くないんじゃないかと思うんですよ。ジャンルの先行作品を研究し尽くしたうえで、そこから独創的なものを作ろうとしてる。そうすると、メタっぽい感じになりますよね。

宮:とはいえ、「メタ的であること」は、それほど特殊なことだとも思えないんです。なぜなら、ありとあらゆる作品は何らかの形で本歌取りなわけで、本当の意味で、ゼロからオリジナルを作る人なんていない。そののなかでニトロプラスの仕事は、創作スタイルとしてはスタンダードな方法論だと思うし、むしろ個人的には「物語」が強すぎると感じるくらいなので。

数土:たしかに物語を信じるという点ではストレートですよね。

宮:「オタク」というと「ディテールを楽しむ人」というイメージがありますけど、じつは物語に対して信頼が高い。僕には、そんなふうに見えます。そういう意味で、ニトロプラスの仕事は「オタク」的だとも思うんですが……。まあ、僕自身は、そこまで物語を信用してないんですよね。


藤津:物語に絡めていうと『がっこうぐらし!』って「ヒューマニティ(人間性)」の話なんです。まず、人間でなくなってしまった“かれら”に囲まれている。そして、苛酷な状況下で暮らす学園生活部のみんなは、生き抜くために戦うことで「自分が人間性を失いつつある」と怯えている。
そんななか、現実をちゃんと認識できなくなっている由紀がもっとも人間的で、彼女が笑顔でいることによって、まわりのみんなの人間性がギリギリ担保されている。そういう構造になっているんです。
だから、あの世界では一番大事なのは「人間性」っていうことになっているので、今後どんな状況に陥ってもそこは外さないと思う。

宮:普通からズレてしまった由紀が、逆にヒューマニティを代表しているという配置は面白いですよね。「ファーストガンダム」で言うとララァみたいな存在かもしれない……というのは、冗談ですけども。

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◆「終わりなき日常」ではない


藤津:原作マンガでも「日常もの」の良いところが上手く描かれていたんですが、アニメではさらに際立ってましたね。キャラクターデザインが『たまゆら』の飯塚晴子さんなのでなおさら(笑)。

宮:飯塚さんのデザインはほんとうに素晴らしいと思います。手首と肩、腰回りの細い感じとか。

藤津:最先端の日常系のルックでこの物語をやるところにすごく意味があると思うんですよ。

――近年とくに人気の「日常もの」ですが、何故私たちは日常ものを求めてしまうのでしょうか。

前田:そうですね……。これは一般論として話しますけど、学生さんも社会人も、いまどきは大変な生活を送ってらっしゃるので、「せめてフィクションのなかではユートピアを味わいたい」ということなんじゃないかと。我が身を鑑みてもそう思う(笑)。

そういう意味では、『がっこうぐらし!』ではまさにその構造が、作品世界の中に織り込まれている。「なぜ『日常もの』を求めるか? それは平穏な日常がすでに……」というわけで、『がっこうぐらし!』をよく見れば、わかります!

藤津:そこに答えがあると(笑)。



宮:「日常もの」と呼ばれる作品はたくさんつくられてきたし、前田さんがおっしゃるように、『あずまんが大王』や『ひだまりスケッチ』といった作品が形作ってきた流れはたしかにある。でも「変わらない日常が繰り返される」というフォーマット自体はいくらでもあって、70年代のホームドラマもそうだし、あるいはシットコムなんかもそう。そこに萌え美少女の絵を乗っけているうちに「日常もの」と呼ばれるようになったということじゃないかな、と個人的には思います。

もう少し付け加えるなら、自分たちが過ごしている人生とは別の「日常」が、フィクションのなかでも営まれている。そこには、もしかしたらある種の心地よさがあるのかもしれない。

数土:まぁ『サザエさん』だって言ってしまえば「日常もの」ですからね(笑)。

宮:『がっこうぐらし!』が面白いのは、それらをベースにしながらもドラマを描こうとしているところにある。というか、むしろその「日常」が終わるかもしれない、というところにドラマのポイントが置かれているわけでしょう。ざっくり言えば、「日常」というモラトリアムをいかに脱出するのか? が物語の焦点にある。まあ、これは『(うる星やつら2)ビューティフル・ドリーマー』をはじめ、みんなやっていることではあるんですけど。

数土:「終わりなき日常」ではないんですよね。日常の雰囲気をまといつつ物語はどんどん進行していくわけで。



――キャラクターに関していかがですか?

宮:みーくん、良いキャラですよね。もちろん、ほかのキャラも魅力的だと思うけど……。

藤津:僕の解釈では、アニメではみーくんが実質的な主人公なんだろうなと。『ドラえもん』ののび太と同じポジションです。『ドラえもん』は、ドラえもんが世界観を象徴していて、ドラマそのものを牽引するのはのび太です。『がっこうぐらし!』も由紀というキャラクターが「世界観」を象徴しているのに対し、みーくんがのび太のように葛藤する立場になっていくんじゃないかと。

前田:だからアニメではみーくんを前倒しして第1話から登場させてるんでしょうね。

宮:何はともあれガーターベルトですよ。あれを見た瞬間、この子が主人公に違いないと確信した(笑)。

一同 (笑)。



前田:あとこの作品、海外のリアクションがすごく気になる。

藤津:受けるんじゃないかな。

数土:うんうん、間違いなく受ける。

前田:もちろん受けるとは思いますよ。ただ僕らは感覚がマヒしているはずなので。日本でも「こんな可愛らしいキャラで、こんな設定の話をやるはずがない!」というサプライズはあったでしょうけど、海外だとそもそも、この設定をこういう絵柄でやるのは、設定と物語のあいだで世界観の整合性がとれてない、って発想になると思うんですよ。

仮に海外でライターが「崩壊した世界の中で女の子たちがゾンビに囲まれて生きる」という設定を用意したら、ペンシラーにはもっと写実的でリアリティのある絵柄を選ぶはずなんじゃないかと。ところが千葉サドルさんの絵は、これで普通の「日常もの」やって欲しいぐらい可愛らしい。海外の人からするとコンセプト段階で謎すぎるんじゃないかと。

藤津:文脈のないところにどう受け止められるかという話ね。

数土:ハイコンテクストの問題はありますよね。「日常もの」というコンテンツが海外でどのぐらい根付いているのか。ディープなアニメファンなら理解しているはずですが……。

宮:ちょっと話はそれるんですけど、先日、ある雑誌で新房昭之監督に取材したんです。そのとき「美少女ものをどう捉えていますか?」という質問に対して、新房監督は、「昔は“美少女とメカ”がアニメの得意分野だったんだ」と。そこから、いつの間にか「メカ」が抜け落ちて、「美少女」だけ残ってしまった。ある時期から日本の商業アニメーションはそういう状況にあって、今はまず「美少女」ありきで考える。むしろ自然に「美少女と何を組み合わせたら面白くなるんだろう?」という発想をしているんだ、と。

たしかに『がっこうぐらし!』も海外から見ればフリーキーなことをやってるんだろうと思いますけど、つくってる側としては自然なことなんだろうな、と思うんです。

前田:まぁ、さっきはあえて問題提起っぽく言ってみましたけど、正直言って、べつに観てるときにはそんなに違和感はないですからね、僕も(笑)。

《アニメ!アニメ》
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