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【オールゲームニッポン】日本の新しいもの好き、進取の精神(第17回)

毎週土曜日0時からお届けしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」。第17回目は、前回から続いて「三つ良し」の話題からスタート。そして話は日本人のロボット好きへと展開していきます。

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デンソーが開発したロボットアーム「電王手さん」
  • デンソーが開発したロボットアーム「電王手さん」
毎週土曜日0時からお届けしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」。第17回目は、前回から続いて「三つ良し」の話題からスタート。そして話は日本人のロボット好きへと展開していきます。



平林
 
前回、日本が切り開くかもしれない新しい資本主義のかたち。「公益資本主義」の話題になりました。そこで、昔からの日本の商人の教え「三つ良し」の例を紹介しました。

安田
 
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」。売り手が欲望を満たすだけではなく、買い手、さらに世間のためになるようにしなさいという教えですね。

平林
 
はい。ところで、この話。「けっして日本オリジナルではないんじゃないか」と突っ込まれるんじゃないか。内心、ハラハラしていたんです。日本語で言えば「買い手よし」だけど英語で言えばカスタマーサティスファクション(CS=customer satisfaction)ではないか。世間良しだって、企業の社会的責任(CSR=corporate social responsibility)のような用語もあるわけでして。

安田
 
確かにありますよね。

平林
 
似たような用語を見つけることができるのですが、何かが違うと思います。この違いについていろいろ考えまして……日本は「道の精神」とでも言うのでしょうか。商道という言葉もあるくらいで、欲望に対して抑制的なのかなと思いました。

土本
 
「道の精神」ですか?

平林
 
制約の中で競う。カタチを重んじる。花をいっぱい生けて「ドヤ、きれいだろ」というのはナシ。流儀を重んじて美を競って、その工夫の成果を「華道」という、こうした精神ですね。

安田
 
抑制的というのは、日本人の商売を語るうえでのキーワードになるかもしれませんね。住友家の家訓にも「浮利を追わず」というのがあるじゃないですか。社会的な価値がない一時の利益を求めるな、という戒めです。

平林
 
それに比べて……と言っては語弊があるかもしれませんが、アメリカ型の経営学の基本は「利益の最大化」。最大化を常に念頭に置いたうえで顧客満足度を計算しているイメージがあります。

安田
 
あと、やはり日本人は進歩的なんじゃないでしょうか。俗っぽく言うと新しいもの好きということですが。

平林
 
新しいもの好き?

安田
 
はい。単純な話ですが、西洋で近代経営学が生まれる以前から「三方良し」とか「浮利を追わず」とか、当時の価値観から見たら斬新なことを唱えていたと思うんです。

平林
 
確かに。住友家の教えは400年続いていると聞いたことがあります。チラシの配布や顧客の好みに合わせたバイヤーの育成、返品可能な販売方法など。マーケティング活動の原型は、1683年に開業した越後屋(今の三越)が生んだとも言われてますよね。

安田
 
これは僕の主観が交じりますが、ヨーロッパの企業哲学というのは保守的だと思っています。歴史・伝統を大切にして新しいものには、飛びつかない。

平林
 
ゲームでいうと、アナログのボードゲームを好む感じでしょうか?

安田
 
近いかもしれませんね。ぶっ飛んだことを考えるところから着手するのではなくて、歴史や伝統を重んじた態度で企業経営をする。こうした考え方の根底には、ドイツ語でゲマインシャフトとも言いますが、地縁・血縁で結ばれた共同体を大切にしてきたこと。そして、おそらくこれはキリスト教的な倫理観とつながっているとも思うんですよ。

平林
 
キリスト教と保守的。そうなんですよね。天動説と地動説の対立からもわかるように、中世のキリスト教って、科学の進歩を戒めていたところが多々あります。このコーナーでは以前に、絵の話、色の話になって。キリスト教は混色を禁じていたという話も出ましたが、人が神様以上の知識や能力を持ってはいけないという考え方が、ヨーロッパでは浸透しているように思えます。

安田
 
対比すると、日本にも「神をも恐れぬ」という価値観は当然あるわけですけれども、技術の進歩を神への冒涜とはあまり考えません。むしろ神道的な考えでいえば、新しいものは清浄なものととらえることが多いくらいです。

平林
 
唐突ですが、日本人のロボット好きは異常じゃないですか?

安田
 
みんな好きですね、ロボット。

平林
 
またまた将棋電王戦の話をしてしまいますが、チェスでも人間対コンピュータの戦いはあります。ですが、将棋電王戦はぶっ飛んでいて、駒を持って盤上で動かすロボットまでつくってしまって。しかも、このロボットが異常なまでに進化してるんです。

安田
 
どこかの大手メーカーさんがつくったんでしたっけ?

平林
 
デンソーです。高級・高価な将棋の駒を吸盤でつけるのは邪道なので、指でそっとつまみ上げる機能がついています。従来はこのロボットに「電王手くん」という名がついていましたが、くんづけするのは忍びないということで、今年のモデルから「電王手さん」とさんづけすることになりました(笑)。


デンソーが開発したロボットアーム「電王手さん」

安田
 
さすが、新しいもの好き、日本(笑)。

平林
 
ロボットというのは、とらえようによっては人間の身体や生命に近い存在です。キリスト教的に考えると、こういうものをつくってしまうのは抵抗感があるはずです。ところが日本人的な感性からすると、工作好きの高校生も一級のエンジニアも、つくるのがおもしろくて仕方ないのがロボットなんですよね。

安田
 
新宿でしたか。外国人観光客の方たちが集まるロボットのレストランがありますが、現代におけるロボットは新しいもの好き日本の象徴なのかもしれませんね。

平林
 
子供の頃、神棚と仏壇を毎日拝んでいる祖父母を見てきたせいでしょうか。日本的なもの=古いものと捉えてました。中学生の頃になると洋楽とかを聞いて、西洋的なもの=新しいもののイメージができるわけです。ところが、宗教や歴史を学んでいくと日本の新しいもの好き、進取の精神に気づくことになります。そのいっぽうで、キリスト教や西洋の保守的な面にも気づきます。このイメージの置き換え作業は、年月を重ねてできるようになったという感覚があります。


(つづく)
《平林久和》
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