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立命館大学の細井浩一教授によって語られる「日本におけるゲーム保存活動の現状」

京都市嵐山の時雨殿にて、ゲーム保存国際カンファレンスが開催され、立命館大学映像学部教授の細井浩一教授によるプレゼンテーションが行われました。

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細井 浩一教授
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京都市嵐山の時雨殿にて、ゲーム保存国際カンファレンスが開催され、立命館大学映像学部教授の細井浩一教授によるプレゼンテーションが行われました。

このカンファレンス「ゲーム保存国際カンファレンス:ビデオゲーム~保存?忘却?世界はどう考えているか~」では、産学官の協調関係を前提に、ビデオゲームやその文化の保存についてこれまで積極的に取り組んできた米英のキーマンを招いて、国内において文化庁の「平成24年度メディア芸術デジタルアーカイブ事業」に採択された、立命館大学ゲーム研究センター、RCGSにおけるゲームアーカイブの取り組みをあわせて紹介しながら、「ビデオゲームやそれらを取り巻く文化」の保存に関し、改めてその社会文化的意義について国際的な視野を織り込みつつ考えるとともに、それらが地域活性化にもたらす可能性についてを題材にプレゼンテーションやシンポジウムが行われました。

ヘンリー博士、ニューマン教授に続き、三番目にプレゼンテーションを行ったのは細井浩一教授。細井氏は立命館大学映像学部教授、および博士(経営学)で、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)会長でもあります。立命館大学において、地域および産学公連携に立脚する新しい社会ビジネスモデルによってコンテンツ分野の活性化を進める研究に従事。デジタルゲームのアーカイブ構築、仮想空間を活用した文化研究環境の構築、ホワイトスペース特区によるエリアワンセグ放送などの実践的な研究プロジェクトを進めています。

細井教授は先ず日本におけるゲーム保存活動について解説を行いました。アメリカの場合は個人からの寄贈などが有力な手段、ヨーロッパでは国の動きによるものがいきなり出てくるとのことですが、それに対して日本はそのどちらでもない中途半端な点に特徴があり、日本で行われている数少ない網羅的なゲーム保存活動は立命館大学によるものだと言います。もっとも、そのどちらでもなさはある意味で日本的だと語る細井教授。

日本における国の動きとしては、発売されたソフトウェアの収集については国会図書館でも行われていると言います。しかし、これは書籍等と同じ納本制度に基づく収集であるため、所蔵されているタイトルは実際に発売されているものの3割程度に留まっているとのこと。さらに、パッケージとして発売されていないダウンロードソフトなどは集められていない現状で、しかも所蔵されているのはソフトウェアのみで、ハードが保存されていないという課題があり、将来にわたって所蔵されているタイトルをプレイすることが出来るかどうかは必ずしも保証されていないという大きな問題点を抱えているそうです。

日本では1990年代中盤までゲームの保存活動というのはなかったということで、ゲームの展示、展覧会という期間が終われば見られなくなるものが散発的に行われた程度で、体系的に継続されてきたゲームの保存活動というものはなかったと言います。

1998年にはゲームアーカイブスプロジェクト(GAP)が発足。この時は、京都府と任天堂と立命館大学によってテスト的なアーカイブが構築されました。このアーカイブには任天堂所有のファミコン原本1769タイトルが所蔵されたということです。この時のことを振り返り細井教授は、「実際にやってみて、レポートなどとは違う、ゲームを保存するということの大変さを実感した」とコメントし、ゲームの保存についてもっと学術的方法論を確立しないとダメだと語られていました。また、ゲームハードとソフトウェアの収集は当然として、その他をどこまでやるか、社内にある開発資料などを含めるかといった点がポイントとなるとのことでした。

ゲームの保存方法についてはまず「エミュレータによる保存」という一例が解説されました。これはエミュレータでプレイ可能にするためゲームをデータとして保存するという手段になるとのことで、現在発売されているようなタイトルは完全に保存が可能であると言います。しかしながら、古いゲームについてはほぼ無理であるのとこと。理由については、古いゲームはカスタムチップや特殊な形状の専用コントローラーなど物理的なファクターに対する依存度が強すぎるのでエミュレータマシン上での完全な再現が不可能なことによるものということでした。

そして、ポイントは現物保存でもエミュレータ保存でも取りこぼすものは何か、という点に。細井教授は、それは「ゲームの遊び方」の保存、つまりゲームのプレイそのものを保存するということだと言います。これを解決したのは、ゲームプレイの全体を保存するというアイデアでした。これはゲームのプレイ画面、ユーザーが画面に向かって実際にゲームをプレイしている様子の動画、コントローラーの情報の三つをパッケージにして保存するというアイデアで、ゲームの「遊ばれ方」を保存することに成功しています。

細井教授は、ゲームをひとつの文化として保存するもの大事だが産業としての側面も大事である、ゲームはアニメや漫画イベントなどと密接にリンクしていると語ります。これらのリンクしている情報を統合型データベースで一覧できるようにする、というのがGAPの最終的な目標とのことです。

2011年には立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)が発足しました。設立の背景は社会的なものとのことで、近年のゲームには「ツール」や「プラットフォーム」としての位置づけが生まれているとのこと。これは文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業という国の事業によるもので、マンガ・アニメゲームの統合型ゲームデータベースの構築が目標とされています。これは漫画原作のゲーム、ゲーム原作のアニメなど密接にリンクしているタイトルが多くなってきていることによるとのこと。今後の課題としては、他分野との調整が挙げられ、最終的にはデータベースからアーカイブへ展開して行かなければならないとされていました。

最後に細井教授は、日本はまだまだイギリスには追いついていないものの、国の支援が入ったことでようやくステップアップしていく道が見えてきていると今後の活動に意欲を示していました。
《ひびき》

バーチャル関西の何でも屋さんです ひびき

2012年からインサイドにてゲームライターとして活動して、はや十数年。ちょっと古参気取りの何でも屋。Game*Sparkやアニメ!アニメ!にもたまに顔が出ます。ゲーム・アニメ以外では、ホビーやガジェット、バーチャルYouTuber業界が専門。お仕事お待ちしております。

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