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誰でもギターは弾けるようになる 『ロックスミス』のリードプロデューサー肥後直巳氏に聞く

10月11日に発売になったPS3/Xbox360ソフト『ロックスミス』。世界で初めて本物のギターを使って演奏を楽しめる音楽ゲームが発売になりました。

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ユービーアイソフト 肥後直巳リードプロデューサー
  • ユービーアイソフト 肥後直巳リードプロデューサー
  • サンフランシスコのスタジオの立ち上げから関わった
  • 本作に携わり、ギターもなかなかの腕前になったという
  • 誰だって弾けるというのがコンセプト
  • チームにはギター好きも多くいたそう
  • ギターが似合います
  • プレイ中の筆者
  • 本格的なギタープレイが楽しめる
10月11日に発売になったPS3/Xbox360ソフト『ロックスミス』。世界で初めて本物のギターを使って演奏を楽しめる音楽ゲームが発売になりました。

ユービーアイソフトのサンフランシスコスタジオの立ち上げ、そしてその第一弾プロジェクトが本作でした。日本人であり、リードプロデューサーとして開発を指揮した肥後直巳氏に、ゲームの魅力や開発の経緯、今後の夢までインタビューを行いました。

―――まずは自己紹介をお願いします

ユービーアイソフトのサンフランシスコスタジオでシニアプロデューサーを務めている、肥後直巳と申します。

―――いつ頃からサンフランシスコで開発に携わっているのでしょうか

ユービーアイソフトのサンフランシスコオフィスに入社したのは2008年で、以前は『NO MORE HEROES 2 デスパレート・ストラグル』や『天誅4』などのユービーアイソフトの中でも、サードパーティーが開発するタイトルプロデューサーを務めてきました。

その後、ユービーアイソフトの名古屋スタジオ、大阪スタジオでも開発プロデューサーを務め、日本とサンフランシスコを週2回程度行き来するような生活を行なってきました。そうした時に、サンフランシスコにも内部開発スタジオを持とうという話が持ち上がってきました。

それにあたり、いくつかのタイトル候補を出したのですが、その中でまず最初に開発・発売されたのがこの『ロックスミス』です。

―――開発の経緯をもう少し詳しく教えてください

私が入社した2008年当時、北米法人で社長を務めるLaurent Detocが、ギターの音を判定できるアルゴリズムを開発したゲーム関連会社を買収しました。その会社が持っていた技術では、1ノード1ノードの音をかなり正確に判定できるんですね。他社も同様の技術を開発していたんですが、その中では1番で、プロトタイプもしっかり動いていたんで買ったんです。ところが、買った後は1年くらい眠っていたんです。というのも、その技術をどのように製品化していくのか、という良い案が出なかったので、機会をうかがいながらそのままの状態になっていました。

少し時間がたった2009年の秋ですね、ちょうど『NO MORE HEROES 2』が終わった頃に、内部で別の企画を立ち上げようという話になりました。私とディレクターのPaul Crossは「次はサードパーソンのアクションゲームを作ろう」ということで社長のLaurentにプレゼンしに行ったんです。すると彼は「それも良いけど、まずはこっちを作ってくれ(笑)」と言って、先ほどお話ししたプロトタイプを見せてくれたんです。ギターの何かを開発しているという話は聞いていたんですが、ギターはプレイしたことがなかったので、「ふーん」という程度の反応でした(笑)。Paulにも聞いたところ「いやぁ、義理兄のギターをちょこっと触ったことはあるけどねぇ・・・」(笑)という、本当にその程度だったんですよ。

本当にこの2人で開発できるのかということで、社長に聞いたんですが、「なんとかなる。なんとかしてくれ」と。笑)。このミーティングの後は、本当に2人でへこみました(笑)。構想もかなり深く考えて、モチベーションの高かったアクションゲームではなく、ミュージックゲームを、しかもギターにほとんど触れたことない2人で作ることになるなんて、「さてどうする?」という感じで(笑)。

その後、2人で話し合い、我々のような初心者でも十分に楽しめる作品、僕らが知らないことは全部ゲーム内で分かるような形にしようということで、1から全部考えようと。まずはインターフェイスをどのようにするか、という点が最初の課題だったんですが、うちのチームにはギタリストもいるので、彼らにインタビューをして構築していきました。彼らは「TAB(タブ譜)」を使って覚えていくというんです。僕らはその時点で「タブって何?」という反応しかできなかったんですが(笑)。このタブというのはギターのフレットを数字で表示し、表記通りに抑えて弦を弾いていけば演奏ができるというものです。

もともとあったアルゴリズムのプロトタイプではタブが横スクロールして流れていくというインターフェイスでした。まず、最初にプレイして思ったのが、番号が横にスクロールしていくのにあわせて弾いていくと、最初の番号は簡単に弾けるんですが、その後の数字に追いついていけないんですね。特に難しい曲になると、ただ数字が流れていくのを眺めるだけになってしまうんですよ(笑)。これじゃ、私のような初心者にはとてもじゃないけれどプレイできない。どうにかして遊ぶとすれば、一度止めて、覚えてから弾かないといけないんですね。でも、コレって紙媒体でやるのと同じじゃないかと。そうやって試行錯誤のうえで生み出されたのが今のインターフェイスなんです。

実際にどのようにインターフェイスを構築したかというと、ギタリストに弾き方を教えてもらった時の状況をほぼそのまま再現したんです。実際にギターを持つのと同じようにネックを表示し、一番上の弦は6弦、一番下が1弦、というインターフェイスにしました。ただ、ここでギタリストは一斉に「いやいやいや、それはインターフェイスが逆だよ」と言うんですね。というのも、タブは一番上が1弦で一番下が6弦になっています。確かに、それが常識なのかもしれないけど、僕らのような知らない人にとっては「どうでも良いじゃん」と(笑)。むしろ画面上の一番上に表示される弦が、手元のギターの一番上の弦になっている方が、初めてやる人にはわかりやすいだろうと思ったんです。ただ、ギターの知識がある人にもそれを強制できないので、オプションで一番上が1弦になるように表示することもできるようにしています。もちろん左利き用のオプションもあります。

インターフェイスはこんな感じで決まったんですが、その次の課題は「このインターフェイスでギターのテクニックを全部見せられるか」ということだったんです。そこでいろいろ悩んだんですが、特に困ったのは「開放弦」ですね。開放弦は基本的にフレットしないんですよね、フレットを抑えないで弾く。タブの場合は「0」という数字で表現されるので、最初のうちは0フレットというのを1フレットよりも低い位置に仮想的に表示してたんです。ところが高い位置(=高フレット、よりボディに近い位置)でプレイしている時に、開放弦を弾く場合にすごく見辛くなってしまったんです。ということで、この表現はまずいなと。そこで、0フレットを廃止して、弦を全てハイライトさせました。ところがちょっと、鬱陶しかったので、最終的には弦の一部分をハイライトさせる形になりました。

他の音ゲーってたいていが非常に長い歴史を持っているじゃないですか。だから、ある程度伝統的なインターフェイスが決まっています。ところが『ロックスミス』の場合は全く歴史がないので、本当に1から考えて、最もプレイしやすいゲームになるように作っていきました。そういう点では、例えば全く知識のない初心者のプレイヤーがコードを抑えるのも大変だと思うんですね。じゃあどうするか。となったら、画面上にそのままフィンガープリント(指板)を表示して、そのまま抑えればコードを弾けるようにすればいいじゃん。といった風に、後々考えれば「そんなの当たり前じゃん」といったものでも、1から考えて作っているので、ゲームの開発環境としては非常に満足感を得られる面白い現場でした。

―――あまりギターに慣れていない方が制作されたというのは、逆に良い影響を与えているということでしょうか

もちろん制作にあたってはギタリストとの話を聞いた上で進めていきましたが、ディレクターのPaul Crossは全く知識がない状態でのスタートだったので、逆に新鮮な目で考えて開発を進めていきました。

―――本作ではレベル(難易度)の調整が自動で行われるなど、1曲を作るのが大変なのではという印象を受けました

そうですね。今の開発で一番手間暇かかっているのがそこ(曲作り)ですね。曲を作る時には、いくつレベルが必要なのかを設定して、曲の完成後には他の曲とのレベルを合わせていかなければならないので、時間がかかります。ある曲のレベル4が、他の曲のレベル4と似たようなレベルになっていないといけない。曲における難易度はフレーズごとに算出しています。例えばコーラス部分が非常に簡単なのに、ソロになるとめちゃくちゃ難しい曲なんかは、画一的に難易度を評価をするというようなことが難しいんですね。なので、フレーズ毎に多いところでは30段階くらいの難易度が用意されていて、プレイヤーの演奏によって自動で上下していきます。ミスが多ければ、難易度は下がりますし、慣れるとまたレベルが上昇していきます。

こうしたシステムを導入した理由は色々とあります。一つはプレイヤーのスキル上昇にすぐに対応するためです。「EASY」で曲を始めたとしても、途中で慣れていくと、曲が終わる前に簡単さに飽きてしまうようなことがあると思います。「なんでレベルを抑えなきゃいけないの?それなら自動的にレベルアップすれば良いじゃん」という理由でこのようなシステムになっています。

一方で、どんどんレベルが上がっていってしまうと、難しくなりすぎてミスが連発してしまう状況も考えられますよね。普通の音ゲーであれば、その時点で「はい、アウト」となり、ゲームを止めてしまうきっかけになります。それもやめると。一定のレベルまでいって、ミスをし始めたらそれ以上はレベルを上げない。それでも苦労しているようであれば、レベルを上げすぎたんだな、という判断を下して1レベル自動的に下げてあげる。そうするとプレーヤーはさっきまでやっていたレベルに戻るので、またプレイできる。そこで追いついたら、またレベルアップします。すると、さっき難しくてできなかったレベルになるわけですが、さっき一度見ているのでもう少しすんなり挑戦できると思います。そうやって曲の中でレベルの調整が行われていきます。

ここで先ほどの話に戻しますが、ある曲でレベルアップすると、他の曲にも影響するんですよ。例えばある曲でレベル8まで上げたとして、次に初めてプレイする他の曲でもレベル8でスタートすると、「なんじゃこりゃー!」っていうふうになっちゃうんで、そこは調整を加えています。ただ、レベル1からスタートするのもかったるいので、曲をマスターして、ゲームに自分ができるということを証明していけば、どんどん高いレベルから始めることができるようになります。

―――おもてなし心が満載ですね(笑)。ちなみにレベルは「ツアーモード」で選ばれる曲にも影響するんですか?

基本的に全曲に対して最高レベルを設定していって、曲をランク付けしてあります。ゲームはユーザーの今のレベルに対して相応しい曲というのをサジェストしてくれるようになっています。あと、ギターってただ一弦一弦抑えて弾くだけじゃなくて、チョーキングやハンマリングなんかのテクニックもあるじゃないですか。そういうのを初心者に突然出すのは難しいので、テクニックをチェックしてサジェストしてくれる仕組みになっています。最終的には多くのテクニックを使うことになるんですが、上手くできていないとゲームが判断すれば、レッスンを提案してくれます。

このレッスンというのは、まずビデオを流して、練習用のレベルを何回も練習するような形になります。練習を終えると、そのテクニックが実際に用いられている曲をサジェストするという風になっています。

―――大体どのくらいのテクニックをチェックしているんですか

一応全部のテクニックをチェックしています。ギターの場合は10数テクニックありまして、ベースの場合は20数テクニックあります。それらを全部チェックしていまして、ミスが多い場合にはレッスンをサジェストする、といった形でやっています。

―――DLCが発売されますが、そちらの楽曲からプレイすることもできるんですか

はい。DLCの楽曲に対しても全てレベルがバランスされています。なので、とても難しい曲を購入した場合、それらの曲はオススメとしては表示されないんですよ。ただ、それでも自分で遊びたいときにはもちろんプレイできるようになっています。

発売後のアンケートで気付いたことなんですが、このゲームの遊び方っていくつかあるみたいなんですよ。ロックスミスのオススメというのがいつもパネルで3つ表示されるんですが、それを常にプレイするグループ。一方で別のグループは、自分の好きな曲を選んで、100%にするまで遊び続けるんですね。後者のグループの中でも、本作で初めてギターを触ったユーザー、どちらかというと音ゲーの感覚でプレイしようする人たちは、ちょっと苦労するんですよ。

なぜかというと、曲によっては凄く難しいテクニックを要求されるじゃないですか。初心者なのにそういったテクニックをやろうとしても、なかなか上手くできないんですよね。だからそうやってプレイしようとするユーザーはどうしても壁に当たって、なかなか進めなくなってしまうんです。そこでオススメの曲をプレイし始めると、別の曲を遊ぶことになるわけですよね。やっぱり違う曲だと異なる指の動きやテクニックが要求されるので、そういうのをプレイすることで指の動きが変わったり、単純にスタミナがついたりするんです。そうやって挫折した曲に戻ると意外と簡単にプレイすることができる、今まで越えられなかった壁を越えることができる。そういった意味で「ロックスミスレコメンズ」でオススメされる曲を演っていくことで上達が早まるのではないかと思います。

もちろんユーザーには遊び方を強制したくなかったので、「はい、自由に選んでください!」という形にはしていますが、我々は「コレは信じています」とオススメが上がってくるという形になっています。

―――音ゲーというと「ベストヒット」の曲が多いという印象がありますが、本作のデフォルトの51曲はそればかりではないですよね。これらの選曲基準を教えてください

もちろんベストヒットという側面も考慮しつつ選曲にあたりました。でもそういった曲は、必ずしも全部が全部ギタープレイに向いている曲かと言えば、そうではないと思うんです。さらにもう一つ問題だったのは、ギターって(曲によって)色々なチューニング※があるじゃないですか。だから「ニルヴァーナ※のこの曲凄い良いよね」となっても、「これはEフラットのチューニングなんだよなぁ」となってしまうんですね。もちろん技術的にはEフラットにチューニングすることは可能なんですが、チューニングして一曲プレイした後にまたスタンダードEにチューニングし直すって、とても大変なんですよね。

※チューニング・・・ギターの音程調律。弦を締める強さで調整する。本作にはチューナー機能があるため、専用のチューナなどは不要。基本はオープンEチューニング

※ニルヴァーナ・・・アメリカのバンド。80年代後半から90年代中盤までに活躍し、「グランジ」と呼ばれるロックのジャンルを台頭させたバンドの一つ。代表曲「Smells Like Teen Sprit」など


特に初心者にとって、慣れないうちはチューニングするってことが難しいことじゃないですか。そんな初心者に一曲一曲チューニングさせると、あまりにもストレスを与えちゃうから、「じゃあ(チューニングする曲を)絞ろう」ということになりました。まずはスタンダードEを基本にしたんですね。その次にドロップDなら、6弦だけを1音下げるだけだから簡単だろうと。ということで、DLCの楽曲にはもう少し幅をもたせていますが、ディスク上の楽曲はこの2つのチューニングに絞りました。

そこから、ギターが主張されている曲で、かつ我々がサポートしているテクニックを使っている楽曲を選出していきました。テクニックという点では、例えばスライドギター。あれって特殊な道具が必要じゃないですか。そういうものは極力避けたいと。だからスライドギター※が入っている曲は採用していないんですね。正確には1曲(LYNYRD SKYNYRDFree Birdの)だけ入ってるんですが、それはスライドバーがなくても演奏できるように変えています。それ以外にもカポスタト※なんかも、わざわざ買ってもらうというのも良くないですし、チューニングした後にカポスタトを装着するというのも面倒なので、これも避けようと。また、初心者には難しすぎるテクニックが用いられている曲も除外していきました。

※スライドギター・・・ギターの奏法の一つ。スライドバーという器具が必要

※カポスタト・・・弦楽器用の器具。任意のフレットを挟んで、指の代わりに弦を抑えることでことで、一般的なチューニングで演奏しにくい曲を簡単に弾くことを可能にする


そうやって曲のリストを絞り込んで、ベストヒットの曲や、開発陣がプレイヤーに簡単なテクニックから教えていきたいという順番なんかで選別して、さらにそこから「ビギナー」「インターミディエート」「ハード」とそれぞれの曲をリスト分けしました。それで、最終的に200曲くらいのリストになったものをライセンシングに持って行って、1曲クリアする毎に、「この曲でやりたいことはできたからOK、それじゃ、この穴を埋めるにはこの曲を入れよう」「この曲はダメだったから、似たような曲は絶対に入れよう」といった感じで、いつも優先順位を変えながらクリアしていったので、ギリギリになるまで最終リストは確定しませんでした。

でもそういう状況だったからこそ、すごく幅広いジャンル、クラシックロックもあればモダンな曲もあって、90年代のグランジなど、できるだけ多くのユーザーに楽しんでもらえるような選曲になったと思います。

―――日本の音楽事情を考えると、今回の楽曲リストでユーザーに届くか疑問に思うのですが、どうお考えでしょうか

うーん。そうですね。そこは凄く悩んで、スタッフでも考えていたんですよ。リストを見て、10曲~20曲くらいは「あぁこれ知ってる」っていう曲があるかとは思うんですが、その他の曲っていうのはあまり馴染みがないのかなとは思っています。例えばThe XX※とかは知ってる人なら「おぉ」っていう反応をしてくれると思うんですが、知らない人からすると、「バツバツって何?これバグってる!?」なんて反応にもなりかねませんよね(笑)。

でも、重要なテクニックが入っている曲を覚えることで、ユーザーの音楽の知識であったり幅が広がるという側面も考慮して、入れたいと思った曲もあったんです。なので、知らない場合でも、「まずは1回プレイしてもらおう」プレイしてくれれば絶対好きになるから。というのを考えて選曲しました。

ちょっと面白いことにですね、マイナーな曲なんかが入っている場合、YouTubeなんかのコメントに「ロックスミスでこの曲を知って好きになった!」なんていうコメントがあったりするんですよ。それを見るとなんか嬉しいなぁ(笑)ってなりますね。その人の音楽のジャンルが広がったんじゃないかなということで、個人的には嬉しく思っています。

―――今後、日本の曲をDLCで配信する予定はありますか?

今は未定ですけれども、ぜひ配信していきたいと思います。

―――Twitterで曲のリクエストを受け付けていましたが、そういった要望も反映されるんでしょうか

ライセンシングとか、難しい問題も多いんですが、もちろんそういった声を聞いてぜひやっていきたいと思っています。ただ、先ほどもお話ししたように曲のテクニックや難易度、そういったモノもクリアした作品から出していくといったかたちになると思います。


―――ライセンシングはものすごく大変だったと思うんですが・・・

大変でしたね・・・。ホントに1時間とは言わずに1日くらい話せます(笑)。今までは格闘ゲームだとかアクションゲームに関わってきて、ここまでライセンシングが多いゲームって初めてだったんですね。せいぜい主題歌が1曲とかそれくらいでしたから。でも今回はこれだけの曲をライセンシングしなくてはいけなかったので、奥が深いんだということが勉強になりました。

1曲に対して、曲によっては20人とかが許可を持っているんですよ。それを全部クリアしないとライセンスの許可が下りないので、場合によっては99%の権利者から許可がおりてても、残りの1%を誰が持っているか分からないというケースもあるんですね。その1%の人を探し出して、仮に亡くなっていれば、その人の家族に確認して契約書を見つけ出して・・・という作業をしなくてはならなくて、本当に大変なんですよ(笑)。

―――そうすると、ゲームを制作するのと同じくらいの労力が必要になったのではないですか。

そうですね。先ほどの例のような1%がクリアできずに、どうしても入れたかったのに、泣く泣く諦めた曲というのもいくつかありました。もうホントに泣けますよね(笑)。

ちなみに1番最初にクリアしたのがニルヴァーナなんですよ。あれはすごく嬉しかったですね。「あ?え?ニルヴァーナのせられるの?」みたいな反応になりました(笑)。ただ、ニルヴァーナが早期にライセンシングされたおかげで、他の交渉が上手くいったという側面があるんですよ。他のライセンサーとの交渉で「ニルヴァーナものるんですよ」と話すと「ニルヴァーナがのるなら良いですよ」という感じでスムーズに交渉できました。あと、ローリング・ストーンズ※も早い段階でクリアできましたね。

※ローリング・ストーンズ・・・イギリスのロックバンド。1960年代前半から現在まで、1度も解散することなく第一線で創作を続ける、ロックの代名詞的な存在

―――大御所ほどライセンシングには苦労しそうなのですが

そういう印象がありますが、大御所との交渉時にはマネージャーとかに直接ミーティングをして、プロトタイプで実演することで、「うん。このゲームなら良いよ」という感じで話が進んでいきましたね。まぁ、こういったゲームというのは企画段階ではいくつもあったみたいで、始めにライセンサーの方々とミーティングをすると「まーたこんな企画だよ。どうせ企画倒れになるんだからさぁ・・・」といった感じで話を聞かれるんですね。それか、「どうせゲームになったらこんな動きはしないんだよね」といった感じで(笑)。

ただ、そういった方々に実演してみせると、「これは本当に製品になるかもしれない」という反応をして頂いて、ライセンシングをクリアしていけたという感じです。

―――海外のユーザーは既にギタリストだった人と、ゲームを機に始めた人のどちらが多いんでしょうか

ゲーム発売後(北米では2011年10月18日発売)、アンケート調査をしたんですが、約7割の人が、初めてギターをプレイした、または自分を初心者レベルだと認識しているという結果でした。この結果というのはちょうどターゲット層とあっているんですね。このゲームの狙いはギターを弾いたことがない人でも楽しめるゲーム、弾いたことない人が弾けるようになるというところを目的としていました。もちろん上級者にとっても面白い要素はあるんですが、基本的には初めてプレイする人、または1年くらい前に買ったけど諦めちゃった人、そういった人に遊んでもらいたいというゲームにしています。

―――ぜひ違う楽器バージョンもお願いしたいという声がありますが

『ロックスミス』を発売した後も、色々な要望がありましたね。アンケートでは「次はどの楽器で遊びたいか」という項目で質問はしています。ギターとベースがトップ2だったので、そこまでは本作で対応できました。そうですねぇ。その次は・・・

―――オルガンなんかどうですか?

オルガン(笑)!?まぁ、オルガンも含めてキーボードなんかは、個人的にもあってると思うので、ぜひやってみたいですね。

―――ドラムはいかがでしょう?

ドラムですか(笑)。『ロックバンド』とか『ギターヒーロー』だとドラム版が出ていますよね。ドラムはドラムでやりたいんですが、難しいところもあるんですよね。

まず、ドラムってうるさいじゃないですか(笑)?ギターならヘッドフォンを使えばそんなにうるさくないじゃないですか。でもエレキドラムって、本物に比べればはるかに静かですけど、やっぱり結構音がしますよね。アパートなんかでプレイしてたら絶対苦情入りますよね(笑)。家でも『ロックバンド』とかで遊ぶんですが、お隣さんが「すいません・・・もう11時なんで」って言われました(笑)。

騒音については難しいんですが、ドラムには興味があるので、ぜひ検討したいと思います。

―――DLCは今後も継続的に配信する予定ですか

はい。DLCは好評なので、今後も継続してリリース予定です。このゲームの企画段階からDLCはたくさん出していこうという方針でした。というのもDLCだと、本編の楽曲よりもさらに幅の広い楽曲が提供できるんですよね。例えばブルーズなんかがそうなんですが、ディスクにのせたら抵抗があるような曲でも、試しにDLCで販売したら意外にヒットしまして。今後もブルーズは出していこうかなと思っています。ディスクでは提供できない曲を遊べるというのは非常に面白いですよね。

―――曲だけでなく、難易度の高いテクニックもDLCなら配信できますよね

もちろんメガデスやジューダス・プリーストなんかのメタルの楽曲もいくつか出しているんですが、今後もいくつか販売を考えている曲があります。個人的には「一生練習しても無理だろう・・・(笑)」という曲もあるんですが、それをすんなりマスターしてしまうプレーヤーもいるんですよ。この前YouTubeで見かけたのは、本作で初めてギターをプレイするユーザーさんが、メガデスの「Hangar 18」をほぼ100%で演奏しているんですね。つまり1年以内でそれくらいのレベルになったと。ホントに恐ろしいですよね(笑)。

実はウチのアシスタントプロデューサーもこの作品に携わって、初めてギターを手にしたんですね。初めはQAで関わっていたので、当然毎日ギターを手にするわけです。で、今彼はYouTubeのユーザーと同じくらいのレベルでプレイできるんですよ。チーム内の他のギタリストの評価だと、彼はギター歴7~8年の人と同じテクニックはあるということなんですね。もちろん彼の素質とかもあるんでしょうけど、毎日やっていると、ものすごいペースで成長するんだということが分かりましたね。

―――肥後さんはギターが上手くなりましたか?

まぁまだ習い中なんですけどね…(笑)。ただ、上手いとは言いませんけど、2年前には全く弾けなかったのが、今は弾けるようになっています。そして、これは本当に個人的な、ギタリストになる旅(課程)の途中で気付いたのが、今まではギターとの縁もなくて、楽器との縁もほとんどなかったんです。小学生の頃に2年ほどサキソフォンを習っていたくらいで。音楽を聞くのは好きだったんですが、自分で弾きたいと思う機会は余りありませんでした。

でも、このプロジェクトに関わって、ギターを弾くようになり、曲を100%のレベルでプレイできるようになってくると、本当に新しい世界が見えてくるようになったんですよね。そうしたら今まで音楽の聞き方が全然変わってきたんですよ。このプロジェクトに携わるまでは、全部(楽器が)混ざったものを聞いて、「あぁ、良い音楽だね」とか「これは楽しい曲だね」とか、その程度の聞き方だったんです。でも、このゲームをプレイしてギターが弾けるようになってからは、「この曲のギターラインすごく良いなぁ」とか「あ!この曲が良いのはベースラインが素晴らしいからなんだ・・・」というふうに変わりましたね(笑)。あとは、メタルとかって前は全然興味がなかったんですよ。でも、「なんでこんな正確弾けるんだろう」(笑)って。そうやって聞いてるうちに、今まで興味がなかった新しいジャンルがどんどん好きになっていきました。

だから、ブルーズを聞いても良さが分かるようになってきましたし、メタルなんかも、猛スピードのテクニックに感心して、「いつかはそういう風になりたいな」ってなりますしね(笑)。こんな感じで、今まで考えたこともないようなことに目覚めたので、楽器に触れる機会の少ないユーザーさんにもぜひ遊んでもらって、そういう経験をしてもらえたらと思います。

―――なるほど。確かに楽器を始めた頃は手探り感があって面白いですよね。

はい、本当に楽しいです(笑)。個人的にはかなりギターの知識がついたので、たまに人にギターについて熱く話しながら「あれ?何でこんなに語ってるんだろう??」ってなることもありますね(笑)。

―――ベースでもプレイできますが、そちらで練習はされてるんでしょうか。

まだ、ギターをマスターしようとしているので、ベースはまだそこまではプレイしていません。少しは触ったんですが、何も知らない人から「ベースなんか簡単で、ギターの方が全然難しいよ」なんて言われていたので、なめてかかったんですよね(笑)。そうしたら全然ギターとは違って難しいんですよ。ただ、それはそれで楽しいです。個人的にはギターをもっと弾けるようになってからベースに挑戦したいと思います(笑)。

―――将来はこのゲームをきっかけにロックバンドを組むような人も出てくるかもしれませんね

いいですね!出てきてほしいですね。これは個人的、チームの夢でもあるんですが、そういうバンドが出てきて、「バンドを始めたきっかけは?」という質問に「ロックスミスというゲームがあって・・・」なんて答えてくれたら嬉しいなと。

―――バンド名も「ロックスミス」だったりして・・・

うん、いいですね(笑)。そうやって出てきたバンドの曲を「ゲーム本編にのせました!」という夢がいつか叶うの楽しみにしています。

―――最後にファンと読者に向けてメッセージをお願いします

このゲームは、開発チームが考えに考えて、できるだけ多くのユーザーに遊んでもらえる作品にしました。しかもギターをプレイしたことのない方でも、プレイできるようになるように試行錯誤を重ねた商品になっています。気付いたらすんなりとギターが弾けるようになっていると思いますので、ぜひ遊んでみてください。よろしくお願いします。

―――ありがとうございました

『ロックスミス』は、好評発売中で価格は8,880円(税込)です。
《宮崎 紘輔》

タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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