丁寧な仕組みの説明と論点の提示は、取り上げられる分野に必ずしも詳しくない人が全体像を把握することの大きな助けになる。導入をやさしくすることで、同時により深い考察を可能する。入門書であると同時に、スペシャリストにも満足いく内容となっている。
「ソーシャルゲームのすごい仕組み」も、まさにそうした本だ。前半は、そもそもソーシャルゲームとは何かからスタートする。さらにその誕生から現在に至る歴史を追うことで、いま社会で起こっていることへの理解が及ぶ。
破竹の勢いで成長するソーシャルゲーム業界が、多くの人の耳目を集めている。また、ビジネスモデルの成否について、議論が沸騰している。しかし、実際にソーシャルゲームをやったことのない人も意外に多い。
本書を読むとソーシャルゲームの未経験者でも、その成り立ちや仕組みが理解出来る。また、的確に組み立てられえた構成は、ソーシャルゲームをよく知る人にとってはあらためて事実を確認する場となるに違いない。
後半部分は、ソーシャルゲームのより深い部分に切り込んでいく。RMTと呼ばれるゲームアイテムの現金化問題、偶然性と射幸心に絡むガチャと呼ばれシステム、高額の課金アイテムの支払をするユーザーの問題などが取り上げられていく。
議論の多い問題だが、著者自身の考え方に押しつけがましさはない。むしろ、問題取り上げ方に、その考えは反映されている。そして、最後にリアルの世界のゲームであるトレーディングカードゲーム(TCG)がいかに、ゲームの規範が築かれているかに触れる。TCGの経験が、ソーシャルゲームにも活かせるのでないかとの指摘でのまとめは意外な結論だった。
「ソーシャルゲームのすごい仕組み」
アスキー新書
まつもとあつし
http://index.ascii.jp/elem/000/000/010/10442/
定価: 780円(本体価格:743円)
発売日: 2012年4月10日