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【GDC2012】PCオンラインゲームの移植に最適なモバイル端末とは?

スマートフォンやタブレットの普及と共に、PCオンラインゲームからの移植タイトルも増加中です。しかし「売り切り」モデルのシングルアプリと異なり、PCオンラインゲーム(特にMMO系)はヒットすれば最低でも数年間という、継続した運用が求められます。

ゲームビジネス 開発
Guild Software社のJohn Bergman氏
  • Guild Software社のJohn Bergman氏
  • 一人称視点のスペースコンバットゲームだ
  • 三陣営に分かれた宇宙でパイロットとしての人生を体験
  • タブレット版でもPC版と同じ世界でプレイできる
  • Vendetta OnlineがバンドルされているIDEAPAD TABLET K1
  • Amazonのタブレット端末Kindle Fire
  • B&Nのタブレット端末Nook Tablet
スマートフォンやタブレットの普及と共に、PCオンラインゲームからの移植タイトルも増加中です。しかし「売り切り」モデルのシングルアプリと異なり、PCオンラインゲーム(特にMMO系)はヒットすれば最低でも数年間という、継続した運用が求められます。一方で端末の進化は激しく、未来を予測するのは困難です。

この新しい市場をアメリカのベンチャー企業はどのように捉えているのか。GDC初日の講演「Big Games in Small Packages:Lessons Learned in Bringing a Long-running PC MMO to Mobile」(小規模パッケージの大作ゲーム:長期間わたって運営されるPC MMOゲームをモバイルに移植して学んだ教訓)は、この点が良く透けて見える内容となりました。

Guild Software社のJohn Bergman氏


講演者は米ミルウォーキーに本社を置く小規模ディベロッパー・Guild Software社のJohn Bergman氏です。同社は1998年に創業し、独自開発のMMOエンジン「NAOS Engine」を開発。2004年からリアルタイムMMOスペースコンバット『Vendetta Online』をサービスインしています。プレイヤーは宇宙船のパイロットとして銀河を飛び回りながら、各陣営をのし上がっていきます。

戦闘は小競り合いから陣営間での大規模戦闘まで多種多様で、完全リアルタイムでゲーム世界が進行していきます。プレイスタイルも多彩で、 貿易商、軍人、傭兵、海賊など、自分のやり方にあった遊び方で進めていけます。プラットフォームはWindows、Mac、Linuxで、どのクライアントからでも同じゲーム世界にログインしてプレイ可能。ビジネスモデルは月額課金制で、月額9.99ドルとなっています。

このタイトルが2011年3月から、新たにAndroidタブレットでもプレイできるようになりました。現時点ではNVIDIA製のTegraデュアルコアデバイスが搭載されたデバイス専用となっています。つまり結論から言えば「MMOゲームの移植は、現時点では高性能なAndroidデバイスがベスト」となるわけですが、各プラットフォームに対する現時点での分析に興味深い点があるので、紹介してみましょう。

一人称視点のスペースコンバットゲームだ陣営に分かれた宇宙でパイロットとしての人生を体験タブレット版でもPC版と同じ世界でプレイできる


そもそも論として、なぜ同社はモバイルに進出したのでしょうか。Bergman氏は「モバイルは巨大な新興市場で、2010年初頭になって、ようやく『本物の』プラットフォームが登場してきた」と切り出しました。また端末はMMOワールドの入り口に過ぎず、端末を越えて共通のゲーム体験ができる「ソーシャル・スパイダーウェブ」という概念を提示。これを可能にするのが同社の NAOS Engine」で、ようやく端末のスペックが追いついてきたというわけです。

もっとも、元がPCオンラインゲームであるため、複雑なUIをスマートフォンの小さな画面向けに簡略化させるのは無理がありました。また完全なマルチプラットフォーム環境を実現するために、他の端末と同じタイミングでクライアントの自動アップデートを行う必要性があります。元がマウス操作によるゲームのため、タッチ操作だけではなく、多彩なゲームデバイスに対応している方が望ましいのは、言うまでもありません。

これらの条件を鑑みていくと、最終的にAndroid向けタブレットに落ち着いたのは自明の理でした。スマートフォンでこそAndroid端末の普及台数がiOSを上回りましたが、タブレットではiOSのシェアの方が上回っており、逆転の見通しは立っていません。月額課金決済もネイティブでサポートしています。しかし▽iOSではアプリの自動アップデートが公式に認められていないこと▽アプリの審査が厳しく、時間がかかること▽AppStore以外のアプリ販売ができないこと――などがネックとなりました。

一方でAndroid側にも大量の端末で動作チェックをしなくてはならず、OSのバーションアップのたびに異なる問題が発生するなどの弱点がありましたが、それを上回るメリットがあると判断されたのです。具体的にはiOSの弱点がAndroidでは克服されていること。さらに多くの企業が存在し、中には協業できる可能性があることや、ゲームデバイスへの対応が多彩であることなどがあげられました。また開発段階では月額課金システムが未整備で、すでに稼働している外部サービスを利用する必要がありましたが、この点もPCゲーム版と同じ課金・認証サーバを用いることで対応できました。

Vendetta OnlineがバンドルされているIDEAPAD TABLET K1


もっともBergman氏はAndroidには隠れたメリットがあると言います。それが端末メーカーにソフトをバンドルしてもらうチャンスがiOSよりも格段に高いことです(本作もレノボ社の「IDEAPAD TABLET K1」などにバンドルされています)。これによって多くの人の目に触れるばかりか、端末メーカーを通して最新情報が入手できると言います。一方でキャリアについては望み薄で「まだ彼らは『テトリス』レベルで止まっている」と説明されましたが、逆に今後の可能性があるとも補足。この点はキャリア主導で端末が開発される日本と大きく異なる点でしょう。

頻繁にアップデートが必要なオンラインゲームやソーシャルゲームではAndroid端末の方が有利というのは、日本でも定説になっています。しかしBergman氏は、さらに二つのプラットフォームについて視野に入れていたことを述べました。それがAmazonのタブレット端末「Kindle Fire」と、同じく大手書店のB&Nが発売している「Nook Tablet」です。

どちらも日本ではなじみが薄い端末ですが、Android OSを搭載していることもあり、アメリカでは確実にゲームプラットフォームとして視野に入っていることが伺えます。それぞれの長所短所を列挙してみましょう。ちなみに、すでに共に『Angry Birds』を筆頭に、ゲームアプリが販売されているのは、言うまでもありません。

Amazonのタブレット端末Kindle FireB&Nのタブレット端末Nook Tablet


Kindle Fireの長所
・急速なシェア拡大(すでに500万台?)
・パフォーマンスが高くコンテンツも抱負
・同じAndroid端末
・現状ではアプリの自動アップデートに寛容

Kindle Fireの短所
・アプリの審査がiSO並に敷居が高い
・Amazonが突然アプリのディスカウント販売を始めるかもしれない
・アイテム課金のシステムが存在しない

Nook Tabletの長所
・市場シェアの拡大(昨年末で100万台を出荷)
・Kindle Fireとほぼ同スペック
・B&Nマーケットプレイスに対する顧客の高い忠誠心
・自動アップテートに寛容
・女性ユーザー率が高い(アプリによって有利不利に働く)

Nook Tabletの短所
・公式なデータレイアウトが存在せず、ユーザーメモリが1GBに限定される
・アイテム課金のシステムが存在しない

これに対してインテルやマイクロソフト=ノキア連合については、まだまだ市場の存在感が乏しいとされました(一方でノキアについてはWindows8が中長期的なマイクロソフトのモバイル向けOSになるはずなので、今後に期待したいとのことです)。またブラックベリーについては一言も触れられませんでしたが、GDCエキスポ会場でブースを構えてディベロパー獲得に熱心だったこともあり、今後の変化が期待されます。

講演は時間不足で後半が駆け足となり、消化不良気味で終了しましたが、Bergman氏が強調したかったのは、モバイル市場が急速な発展を遂げており、未来は常に不確定だということでした(Bergman氏によるとAndroid端末は過去2年間でスペックが10倍にも上昇したそうです)。そのためにも、すべてのプラットフォームに対する情報収集を怠らずに、マルチプラットフォーム展開を進めていく姿勢が必要だと言えそうです。

ロングタームで運営されるPCオンラインゲームと、モバイル端末のビジネス速度は一見すると矛盾するように思われます。しかし同じゲーム空間に、異なる端末でログインして楽しむ「ソーシャル・スパイダーウェブ」の提供こそが、そのギャップを埋める解法ということでしょうか。今後のプラットフォーム展開に注目していきたいところです。
《小野憲史》
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