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【GDC2010】伝説のゲームデザイナー、シド・メイヤーが語るゲームデザインとは・・・GDC基調講演

金曜日の午前10時より、「Civilization」シリーズなどで知られるid Meier 氏による基調講演「The Psychology of Game Design (Everything You Know Is Wrong) (心理学的観点からのゲームデザイン(あなたの知っている事は全て間違っている))」が行われました。

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金曜日の午前10時より、「Civilization」シリーズなどで知られ、以前 GDC 2008 の Game Developers Choice Awards にて Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)を受け取った Sid Meier 氏による基調講演「The Psychology of Game Design (Everything You Know Is Wrong) (心理学的観点からのゲームデザイン(あなたの知っている事は全て間違っている))」が行われました。

今回のGDCではプラットホームホルダーによる基調講演が行われなかったため、氏のキーノートスピーチが最も注目を集めるものとなりました。GDCのイベントディレクターであるMeggan Scavio氏から紹介を受け登壇したMeier氏は会場から大きな拍手を受けて講演を始めます。

非常に多くの観衆で埋まった会場シド・メイヤー氏


まず彼は「ゲームとは心理学的な経験である」とし、彼が歴史をベースとしたゲームを数多く作ってきた理由を、それらを可能な限りリアルにすることが可能だからだ、と説明しました。当初彼は史実に忠実にすることのみにとらわれ、プレイヤーの感情には配慮しなかった、と言います。

しかし、経験を積んでいく中で彼はプレイヤーの心理こそが最も重要であることに気づき、その分析を始めます。そしてたどり着いたキーワードが「egomania、paranoia、delusions(自己中心主義、偏執病、妄想)」です。「Civilization」の目的である「最強の文明をつくり時代の覇者となれ」はまさに自己中心主義そのものではありませんか、と会場を爆笑させました。

続いてのキーワードが「Winner's Paradox(勝者のパラドックス)」です。現実ではいつも勝てるわけではなく、勝者はただ1人です。しかしゲームの世界では全てのプレイヤーが勝者になれる可能性があり、それにクレームをつける人もいません。映画や小説もしかり、ランボーは常に勝ち、シャーロック・ホームズは必ず事件を解決します。プレイヤーは常に満足、達成感を求めており、現在のMeier氏のゲームデザインはそれに報いるものになっているそうです。



次のキーワードは「Reward and Punishment(報酬と罰)」、プレイヤーはほめられる限りはそれを素直に受け取ります。「ホントにほめられるような事をしたの?」とわざわざ内容を確認するプレイヤーは多くありません。しかし、プレイヤーがミスした場合、なぜそうなったのかがプレイヤーに明確になっている必要があります。次に同じミスをしないためです。プレイヤーが段階的に学習できるような構造になっていること、それがまた遊びたくなる欲求(リプレイ性)につながります。この仕組みが非常に大切だ、とMeier氏。

次に、彼はゲームの最初の15分は報酬を与え続けるべき、少なくとも15分間はプレイヤーが迷うことなく楽しんでゲームを遊ばせるようにし、不安を感じさせないようにするべきだ、と説明します。しかしそれは難易度を下げることではなく、カジュアルゲーマーもコアゲーマーも楽しめるようにするには異なる難易度設定が必要です。

続いてのキーワードが「Unholy Alliance(不条理な同盟)」です(商標登録しておこうか、とキーワードに「TM」がくっつき、会場を笑わせます)。かつてフライトシミュレーターはグラフィックもシンプルで操作も簡単でした。しかし、ハードが進歩するにつれグラフィックはリアルに、そして操作系もリアリティを求めるためにどんどん複雑になっていき、結果として脱落するユーザーが続出する事態になってしまいました。製作者はプレイヤーを常に喜ばせておく必要がありますが、それはリアリティの追求ではありません。映画の中で主人公が超人的な活躍をしても、かつてゲームに16色しか使えなかった時代にもユーザーは不満を抱いたりはしませんでした。「suspension of disbelief(ユーザーに不信感を持たせない)」が重要なのです。



次のキーワード、「Moral Clarity(明瞭な道徳性、意志)」。「Civilization Revolution」では様々なリーダーがいますが、彼らはあと都市が1つしか無い瀕死の状態でも極めてアグレッシブな態度を示します。開発中、テストプレイヤー達は「これはおかしい、この状態でそんな強気でいられるわけがない」と言ってきたそうです。しかし、逆にリーダーに命乞いをさせてみると、今度は「そんな相手を攻め落としても達成感が無い」と言ったのだそうです。

続いてのキーワードは「Mutually Assured Destruction (MAD) (相互を認識した破壊)」。Meier氏は、「Cold War」の開発チームとプレイヤーの関係性がとても面白かった、と言います。そのどちらもがゲームバランスを完全に破綻させることが出来るから、だそうです。その他にも、MicroProse 社にて途中でキャンセルになってしまったアドベンチャーゲームを例として挙げました。そのゲームではプレイヤーが苦労して探し出した王様が実は敵で、その後ゲームの振り出しに戻されてしまう、というプロットを採用、開発チームはとても気に入っていたのですが、ではプレイヤーがこれを気に入るかというと間違いなく怒り出すだろう、と開発を中止させたそうです。

ここまで説明した事例、そして「Civilization Revolution」の戦闘システムを開発しているとき、プレイヤーというものがいかにわがままなものなのかに気が付いた、とMeier氏は語ります。

「Civilization Revolution」では戦闘前に勝利確率が表示されるのですが、例えば確率3対1の戦闘で負けるとプレイヤーは怒り出します。こちらが「確率なので負ける場合がある」と説明しても聞く耳をもってくれません。しかし、逆の状況になった時はそうではありません。確率1対3の戦闘に勝利した場合に不条理に感じるか、と聞いても、「正しい戦略があったから勝てたのだ」などと自分を正当化します。また、2人対1人の戦闘で負けてもそれほど怒らないのに、20人対10人の戦闘で負けるとたいていのプレイヤーが怒るそうです。数学的にはそこに違いは無いのですが。

このように、プレイヤー心理というものは論理や数学とは異なるものですが、それでもプレイヤーに不信感を抱かせないようにするためのさらなる調整を行うことが重要だ、と説明しました。



続いて、彼は今までの経歴の中でのミスについて語りました。

・初代の「Civilization」はリアルタイム式だったので、プレイヤーはプレイヤーというより観察者となってしまいました。そして、ターン制になってからはその問題は解決され、ゲームのコンセプトである「プレイヤーこそが王である」が実現できました。

・また、「Civilization」シリーズの中で「Rise and Fall(落としてから持ち上げる)」によりプレイヤーがより大きい達成感が得られると思っていましたがそれは間違いで、多くの場合落ち目になってしまうと復活する前に脱落してしまいました。

・あるいは、プレイヤーはゲームをセーブしながら遊ぶので、仮に失敗するとすぐロードしてやり直してしまいます。なので、落ち目を見ないまま進んでしまうのです。

・ゲーム中の技術革新についても、かつてはランダム性を持たせていたので、単に時間を費やせば火薬を開発できる、というようなシンプルなものではありませんでした。また、シムシティのような天災も検討されていました。しかし、これらはプレイヤーを被害妄想に駆り立ててしまいます。

・「恐竜ゲーム」は3つのバージョンを作ろうと思っていました。カードゲーム、RTS、そして「Civilization」タイプです。

・「Civilization Network」もミスだった、と認めています - まだリリースされていないにも関わらず。

シド・メイヤー氏の失敗


続いて、「AAA Games on a shoestring(ローコストでできる高品質ゲーム)」という議題の説明に入ります。

・プレイヤーの想像力に委ねる:例えば「Civilization Revolution」の途中で「ザンジバルの王から12匹の踊る熊が贈られてきた」というメッセージが出てきますが、実際にこの踊る熊をモデリングする必要はありません。プレイヤーがすでに贈り物を贈られる立場にいるなら、実在しないものであってもその光景を想像できるのです。いくらゲーム内の描写が細かくなってもユーザーの想像力にはかなわないのです。

・プレイヤーの既に持っている知識に頼る:「Pirates!」では悪役にカールした黒い口ひげを付けていたので、悪役だとすぐに認識されます。

・AIの役割:AIがゲームの中に存在してもかまいませんが、人間と同じように扱われるべきではありません。AIのプログラムには大きなコストが必要で、成功すれば驚くような成果が現れますが、チューニングは極めて困難です。あまり賢くなければプレイヤーにバカにされてしまいますし、逆に賢すぎればプレイヤーは「ずるい」と感じてしまいます。ある程度の賢さにとどめ、プレイヤーが何度か対峙した後に勝つことで達成感を与えられるような存在である必要があります。

これらのポイントを押さえることで、開発コストを削減することができるでしょう。

ローコストでできる高品質ゲーム


続いての議題は「Protecting the Player(プレイヤーを守ること)」です。何からでしょうか? Meier氏は、プレイヤーをプレイヤー自身から守ることが重要だ、と説明します。

シミュレーションゲームでは、プレイヤーが戦闘前にセーブをし、戦闘に失敗するとロードして同じ部分を繰り返す、というケースを良く耳にします。しかしこれはとても非生産的な作業であり、時間の浪費です。そのため「Civilization Revolution」では戦闘前に結果もセーブされるような仕組みにしたそうです(「Ha ha ha!」と大きく高笑いをし、観客を挑発しました)。プレイ時の戦略そのものに時間をかけて欲しいから、だそうです。

また、例えばキャラクターのカスタム要素を豊富に用意するとプレイヤーはしばらく夢中になるかもしれませんが、それは本来開発サイドの仕事ではないか、ある程度以上の自由度は不要なのでは、と指摘します。

さらに、チートについても同様です。たしかに中世のマップに近代兵器を置くのは楽しいかもしれませんが、それは本来の遊び方ではありません。開発時、チートはトップメニューからすぐにアクセスできたそうですが、Meier氏はプログラマにお願いしてもっとメニューの下の階層に移してもらったそうです。

プレイヤーを守ること


続いては「Listening to the Player(プレイヤーの声に耳を傾ける)」という議題です。

まずは「本当にユーザーの声に耳を傾けること」、しかし、これは単にユーザーの意見を取り入れる、という意味ではありません。例えばゲームの一部分について改善案が提示された場合、それを反映させてもゲームの他の部分のバランスを崩してしまう場合があります。なぜプレイヤーがそのような不満を持っているのか、その心理的な理由を探し出すことが重要なのだ、ということです。

また、プレイヤーの感情を考慮することも重要です。ゲーム内で同じイベントが起こっても、プレイヤーの心理状況によってその捉えられ方が全く変わってきます。どうやったらプレイヤーのネガティブな感情を減らし、ポジティブな感情を増やせるか、それを常に考えましょう。

さらに、ゲームのプレイヤーの性格、個性も意識しておく必要があるでしょう。

プレイヤーの声に耳を傾ける


…とここで、「さて、今日の、今までのこの話のポイントは何でしょう?」とMeier氏が自問します。

それは「The Epic Journey(大きな、素晴らしい旅)」です。ゲームはそのどれもが旅のようなものであり、それをいかに素晴らしいものにするのかが重要なのです。

そして、素晴らしくするための要素をたくさんゲームの中に盛り込みましょう。例えば、ゲームの途中で2つの選択肢があったとして、その両方が魅力的だった場合、プレイヤーはもう片方の選択肢について常に考えるでしょう。今回は選択肢Aだったけど、次は選択肢Bでやってみよう、と思わせることです。

プレイヤーに学ばせ、成長させることも大事です。プレイヤーは常に自分が学習し、進歩していると感じたがるのです。「World of Warcraft」ではこの部分がとても良く出来ていた、とMeier氏は語ります。

「One more turn(あともう1ターン)」という感情も大切です。プレイヤーが自然と続きを期待するような構造、ストーリーの伏線などがそれに当たります。

こういった要素がゲームデザインにおける聖杯、すなわち「また遊びたくなる欲求=リプレイ性」を生み出すのです。

ゲームは素晴らしい旅のようだ


そして最後に、この言葉でスピーチが締めくくられました。「Now you know everything(これであなたは全てを知ったのです)」

最後のスライドが画面に現れると、会場はまたも大きな拍手で包まれました。その後、基調講演では珍しく質疑応答がありましたが、さすがに質問者が大行列になり、しかしそのどれにも真摯に答える Meier 氏の姿が印象的でした。
《今鳩越前》
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