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【今どきゲーム事情】中村彰憲:バンダイナムコゲームス郷田努氏が明かしたプロモーション戦略の妙とは

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【今どきゲーム事情】中村彰憲:バンダイナムコゲームス郷田努氏が明かしたプロモーション戦略の妙とは
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関東では、CEDECや、IGDA日本、日本デジタルゲーム学会、BBAといった複数の組織がゲーム開発者向けのカンファレンスやイベントを行っています。

開発者やゲーム業界志望者にとっては非常にありがたい限りですが、関西ではこの種のイベントが大変少ないのが現状です。これは開発者やゲーム志望者人口そのものが少ないという実情もあってのことのわけですが、それでも時折、ゲーム開発者向けイベントが開催されたときは非常に和気あいあいとした雰囲気。いい意味で、IGDA東京時代のまだ参加者が3桁にならない頃のコミュニティ的雰囲気をそのまま残していると言えます。

1月24日立命館大学衣笠キャンパス充光館にて開催された「ゲーム開発者セミナー」も例外ではありませんでした。とは言うものの内容は、講演者にバンダイナムコゲームス郷田努プロデューサーを迎えた本格的なもの。

第一部に講演、第二部にワークショップが行われました。名古屋から足を運んでくださったゲーム産業関係者もいて、当日は大いに盛り上がりました。ここでは講演内容を中心にバッチリとリポートします。

バンダイナムコゲームス・ゲームプロデューサー郷田努氏


■郷田努プロデューサーが明かした、HD世代を生き抜くコンテンツプロデュース力とは

第一部は、株式会社バンダイナムコゲームスの郷田努プロデューサーが「HD世代を生き抜くコンテンツプロデュース力〜『テイルズ オブ ヴェスペリア』、『FRAGILE〜さよなら月の廃墟〜』に見るゲームプロデュースの現在とこれから」と題し、同氏が2008年度にプロデュースした作品を振り返りつつ、ゲームプロデュースに関わる独自の見解について語りました。

まず冒頭で、一般的に企業というのは往々にして「今までどおり」を維持継続する傾向である点を指摘し、その理由として従来の体制で業務を遂行したほうが“面倒くさくない”という点をあげました。そこで郷田氏は敢えて常識について見つめ直してみることの重要性を指摘しました。今までどおりを否定するにはパワーが必要であるものの、時代の流れが変われば、皆、新しいことにチャレンジし、スキルを高めたいとも思っていることも事実であると分析。会社の存続はチャレンジ精神を皆で共有して革新を進めていけるか否かに左右されるとしました。

『テイルズ オブ ヴェスペリア』(以下TOV)の場合、予約特典のDVDで革新的な要素を取り入れたとのことです。特典DVD自体は『テイルズ オブ ディスティニー2』以降の伝統を引き継いだ形となっているのですが、これは、ファンが望んでいることが明確だったからだと言います。ただし、ユーリ役の鳥海浩輔氏がバンダイナムコの未来研究所、本社ビルに潜入し探検しながら開発現場を探るといったコーナーやバトルのスーパープレイ集をあらたに入れるなどをして中身が革新的になるように意識したとのことでした。

一方『フラジール〜さよなら月の廃墟〜』(以下フラジール)の場合、新規タイトルで誰も知らないという状況から、いかに知ってもらい、かつ買ってもらうかということを考えていく部分に苦心したと言います。

そこで郷田氏が考案したのがアスキーメディアワークスのゲーム誌、コミック誌、ノベル誌とのコラボレーションです。これは世界観や絵柄がライトノベルの方向性だということを開発プロデューサーである川島健太郎氏と確認したうえで、展開した企画。このコラボレーションについては後述の新作におけるクロスメディア展開方法を明かしていく中で語られていきます。

■プロデューサーとしてやるべきこと:自らプロデュースする作品を熟知する

郷田氏が作品をプロデュースしていくうえで最初にやることは、「制作プロデューサーに作品の意図について改めて聞く」ということです。企画書には、その点についてすべて記述されているのですが、あえてそのことを直接現場から聞く理由は、もし何らかの差異がある場合は、互いの方向性をしっかりと話し合い共有化していくことができるからです。

『TOV』の場合、この質問に対し、樋口義人プロデューサーは「見ればわかるでしょ」と一言。しかし開発途中の段階ではありながら、クオリティが大変高かった映像を見ただけで本作品は次世代テイルズだ、ということの共有化が図れたとのことです。結局「次世代テイルズ」という言葉はキーワードとして開発者全員で共通認識を持てたとのことでした。

ここで郷田氏はゲーム開発におけるリスクについて簡単に説明しました。ゲーム開発の現場は「これが正しい」という明確な答えがないため、1つの方向性に進むことが大変難しい。つまり、目標がバラバラだと1人1人の力が分散してしまい、油断した途端、現場全体が予想外の方向性に向かってしまうとのこと。

その結果、良くわからないゲームが生まれてしまう、または、広報展開と内容がマッチせず、誰にも知られない名作になってしまうとのことです。『TOV』のように開発現場とプロデュースする側で共通認識を持てるか否かが作品の成功を左右すると述べました。

また、郷田氏は、プロデューサーという視点から作品を成功に導く方法について自らの経験に基づく持論を展開しました。1つの作品に数億から数十億の費用をかけるビジネスである以上、「良い製品」は中身が面白くてかつ売れるものであると定義した郷田氏は、作品を「良い製品」とするために重要なのは「知ってもらうこと」「購入してもらうこと」「広めてもらうこと」の3つをあげ、それぞれのポイントについて説明していきました。

まず「知ってもらう」に関し、『TOV』では『テイルズ オブ』シリーズでありながら、Xbox360というプラットホームでリリースされることをふまえ、開発者自らどのような思いでこの作品を開発したのかを伝えていくという戦略をとったとのことです。

これは、既存のファンも含め、なぜ360なのかという疑問を持つということを想定したうえで開発者2人がマイクを持って説明することが最大のプロモーションにつながりかつ、ファンの知りたいことを伝える絶好のチャンスになると確信したことから進められたとのことです。

結果的に『ヴェスペリア』は40〜50もの日米主要ゲームメディアに取り上げられ、海外展開時においてもニューヨークタイムズ電子版などをはじめとしてゲーム以外のメディアに対しても情報を取り上げいただけたとのことです。

また「購入してもらう」「広げてもらう」を進めるうえで、プロデューサーとしては、何が売りで何が弱点なのか?どの程度の完成度でどういったユーザ層であれば受け入れてもらえるかを把握して施策を進めるべきと持論を展開しました。

ここで強調されたのが、それぞれ展開していくうえで、プロデュースする作品の現行のポジションを理解したうえでそれを関係者と共有するということの重要性です。

その一案として郷田プロデューサーはプロダクトアウトラインについて紹介しました。作品はどのプラットホーム向けなのか?発売地域は?メインターゲットの概略、セールスポイントなどを簡潔に示す1枚のシートですが、これを関係者に見せることで、開発チームだけでなく各種プラットホームや技術的特徴に対して専門的な知識を持たないマーケティングや営業の人たちにも作品に対する認識の共有化が図られるとしました。

また、そこに示してある項目ごとの特性も大変論理的に決定されています。『TOV』のメインターゲットには、中高校生の他に20代前半が追記されていますが、これは、リリースされるプラットホームであるXbox360の主要購買層が20代であること、最初の『テイルズオブファンタジア』が発売されてから12年が経過していることもあり当時ティーンだったファンも今は20代になっていることから、項目に含まれたとの話でした。

またXbox Liveによるレベルやゲーム貨幣の販売は、時間がないがゲームをしたい人を想定したうえでの商品であることも明かされました。

Bonnie Pinkに主題歌を依頼した経緯については日米同時発売であるという中で、歌唱力があり、ターゲット年代に響きかつ英語でも歌えるという状況から決定しています。つまり、いずれの決断も論理的根拠に基づいてなされているのです。

『テイルズ オブ』シリーズの展開例


また、「ターゲットを見据える」ことで購買層に対してより強く訴求する可能性を高めることにも触れました。『テイルズ オブ』シリーズがRPGの中で声優を採用し先駆けであるとしたうえで、ハイエンドでリアリスティックな方向をいく作品でも、王道路線でもなくアニメテイストのRPGというのが『テイルズ オブ』シリーズにとっての独自のポジショニングであると分析。

『TOV』のコンセプトとして掲げたのが「アニメのような、観たことがない画面、次世代テイルズ」でした。コンセプトの明確化とともに分析が進んだのがターゲットユーザです。

前述のメインターゲットである『テイルズ オブ』シリーズファンの15歳〜20歳の男女に加え、サブターゲットを、Xbox 360を持つゲームコアユーザに設定。これらの人たちに響くゲームは「新しくて面白いゲーム」であり、日本のゲームであろうが海外のゲームであろうが面白ければ購入し、日本でリリースされないゲームであればアジア版まで購入するという購買意欲があることをふまえ、「次世代感」もキーワードにすることとしました。

『TOV』が次世代機でリリースすることの意味は何か、技術的な凄さをいかに伝えればいいのかを考えて出てきたのが「テイルズシェーダー」という用語でした。

ゲームエンジンも『TOV』独自のものであることをしっかりと伝えていくことが技術的な新しさを伝えるうえで重要だったのです。このような新しさと同時にメッセージとして発したのが「大作感」と「安心感」。

すでにシリーズとして累計1000万本を達成していることをしっかりと伝えることで、『TOV』の購入が単なるバクチにはならないという事実についても伝えていったとのことです。

また、従来『テイルズ オブ』シリーズはテレビスポットやゲーム雑誌への広告を増やす傾向にあったのですが、『TOV』ではこれまでの常識を改めて見つめ直したとのことです。

結果的に現在のターゲットユーザはテレビを見るよりはネットを見ることが増えている現状を把握。また、電車内は実際に暇で時間をもてあましていること、またそのような時間は必然的に車内広告に目がいくこと、通勤時間が1〜2時間はかかっている人が多いなどを分析したうえで電車内広告の比率を増やしていったとのことです。

また、家電量販店の大型液晶テレビをジャックしたのも、HDテレビ購入を意識していた人に注意を促せるという意味で、自分たちが展開したいと思っているターゲットユーザに合致したことを意識したうえでの展開だったとのことです。

また、ユーザ調査により『テイルズ オブ』シリーズは多数リリースされているがどのゲームから始めていいかわからないという声が多数あったことも確認。

『テイルズ オブ』はナンバリングされていないということもふまえ、むしろ『TOV』を『テイルズ オブ』の導入タイトルとして位置づけるよう提案してきたとのことです。

当然、メインターゲットである『テイルズ オブ』シリーズのファン層に対しても、開発者の思いをしっかりと伝え、これまでの『テイルズ オブ』シリーズと『TOV』との違いを明確にしていったわけですが、シリーズものの展開においては、従来のやり方も進めつつ、そこにプラスアルファをどう追加していくかを戦略的に考えることが肝要としました。

会場の様子


一方で『フラジール』については、「知らない」状態からいかに「知ってもらう」という段階に昇格できるかに焦点を当て、ライトノベルのファン層がメインターゲットであると設定したことから、オープニングアニメーションはCGではなくアニメーションにすることを決定。

同時に、『テイルズ オブ』とコラボをしているProduction IGとは違ったテイストでということで、3Dアニメーションを2Dアニメ風に表現するノウハウを持っているスタジオで、以前から交流もあった、神風動画に依頼することを決定。動画共有サイトなどでアップされることも想定の範囲内だったとのことです。

また、挿入歌については、さまざまなアーティストの名が候補としてあがる中、郷田プロデューサーは最初から手嶌葵さんを推していたとのことです。開発スタッフからはテクノ系の挿入歌という話もあったそうですが、川島健太郎プロデューサーとも話し合い、ライトノベルというコンセプトや話の展開を意識した結果、手嶌氏でいこうと互いに同意し、開発スタッフ1人1人に対して説得していったとのことです。

また、新規タイトルにも関わらず、東京ゲームショーでコンサートを大胆にも開催したところ、ステージがファンでいっぱいになり、その結果、営業部隊は販売目標数を上乗せ、最終的にはプロモーション用の資金が多く割り当てることが決定されたとのことです。

この実例をふまえながら、郷田氏は新作でもコンセプトに合致したPR企画であればリスクを払ってでも行う重要性を説きました。

■ユーザの心をつかむHD世代のクロスメディア戦略

最後に郷田氏は、ゲームタイトルのこれからの展開ということで、作品ごとに進めたクロスメディア展開についても説明しました。ただしその展開方法はすでにブランドが確立している作品と新規作品では随分違うとのことです。

『TOV』においては、バンダイナムコグループとしてのグループメリットを最大限に、本作品におけるクロスメディア展開についても説明しました。

玩具、雑貨、ならびにOVAについては実現ができなかったのですが、バンダイチャンネルでは、プロモーションビデオ(PV)を放送。音楽では、iTunesでのワールドプレミア配信、CDをゲームと同時発売。モバイルにおいても楽曲、PV配信を実現しました。出版についても角川グループとコラボレーションを実現し、初の専門誌「テイルズ オブ マガジン」を発刊しました。

また、コミックや小説の発売も今年の4月に予定されています。大学での講演や、ブロガーとの連動も実現したことを示し、全体構想に対し8割を実現したと説明。そしてその背景には『テイルズ オブ』ブランド力の定性および定量調査により生まれた説得力にあるとしました。

すなわち、郷田氏および樋口制作プロデューサーが東京ゲームショーで得た感覚的な視点をもとに仮説を立てたうえで行った調査で『テイルズ オブ』シリーズのブランド力が明らかになったところから自信を持ってこれらの作品展開を実現したとしています。

一方ブランニュータイトルである『フラジール』については雑誌社とのタイアップにしても同調してもらえない状況にあって、人と人とのネットワークを最大限に生かしたとのこと。

本作では、アスキー・メディアワークスの電撃3誌である、電撃「マ)王、電撃DS&Wii Styleならびに電撃文庫MAGAZINEとのコラボレーション企画を実現したのですが、そこまでの展開を実現するために、作品を見せ、そのクオリティを上層部の人たちに示したうえで達成したとのことです。

また、ここでのコラボレーションは、プロのライトノベル作家による、ショートストーリーや、プロの漫画家によるコミカライズだけでなく、ユーザジェネレイテッドコンテンツ(UGC)の潮流もふまえ、廃墟の中の落書きをユーザから集うなどを展開したとのことです。

最後に、後半で実現したTVスポット投入量の増加なども含めまったく新規のタイトルに、ここまで力を入れて宣伝展開されたのは異例のことであるとしたうえで、会社としても新しくて面白く、ファンがついてきてくれるような作品を育てたいという意識があったからこそ実現したという点を強調しました。

現場の立場としては、後半になるまで『フラジール』をより大々的にプロモーションしていくことの重要性を、上層部に理解してもらうことができなかったことを反省しつつ、現場と経営陣が革新的なことにチャレンジしていくことの重要性を改めて説き講演の結びとしました。

■繁忙の中でも突き進む関西ゲームクリエイターコミュニティ

第二部では、参加者を複数のグループに分けたうえでゲームプロデュースに関わるワークショップが行われました。

「海外制Z指定の作品をプロデュースするための戦略」と「新作が展開されるゲームタイトルの旧作品のリメイクする」という2つの課題から1つを選び、それぞれのPR戦略について話し合いました。ディスカッションは学生と社会人双方が自由闊達な雰囲気の中で話し合うといったとてもユニークなもの。それぞれの立場を忘れては熱く語る姿がとても印象的でした。

ワークショップでも熱く語る


このような、関西での開発者コミュニティによる会合は、関東と比べ大変少ないのが実情です。それはこのようなイベントに携わる人たちが、何らかの組織に所属する人たちで構成されているがために、どうしてもそれぞれの本業が繁忙期に突入すると何も手につかない状況が続いてしまうことと無関係ではありません。

とは言うものの、自分たちのペースで地道な活動を続けるべくそれぞれが頑張るという姿に、関西地区におけるゲーム開発者コミュニティの可能性を垣間見ることができました。
《中村彰憲》

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