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【CEDEC 2008】最新の世界規模開発状況における理想と現実〜デジタル配信・無料・UGC

CEDEC初日の9日、「最新の世界規模開発状況における理想と現実」と題して、元GDCエグゼクティブ・ディレクターのジャミル・モルディナ氏が講演しました。モルディナ氏はデジタル配信・無料ゲーム・ユーザー創造コンテンツ(UGC)・トランスメディア(メディアミックス)の各テーマについて、海外ディベロッパーの「本音」を紹介しつつ、そこから得られる「教義」を解説していきました。

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CEDEC初日の9日、「最新の世界規模開発状況における理想と現実」と題して、元GDCエグゼクティブ・ディレクターのジャミル・モルディナ氏が講演しました。モルディナ氏はデジタル配信・無料ゲーム・ユーザー創造コンテンツ(UGC)・トランスメディア(メディアミックス)の各テーマについて、海外ディベロッパーの「本音」を紹介しつつ、そこから得られる「教義」を解説していきました。

モルディナ氏は世界最大のゲーム開発者会議「GDC」で長年、企画・運営責任者を務めてきた人物で、世界中のゲーム開発者・企業と幅広いコネクションを持ち、これまで5000本以上の講義内容のレビューを行うなど、ゲーム開発の動向を客観的な立場から俯瞰してきた人物です。現在はフリーの立場で、精力的な活動を続けられています。

はじめにモルディナ氏はデジタル配信・カジュアル化・1コンソールの世界・ソーシャルネットワーキング・UGC・知的財産の保護・ハリウッドとの融合・無料ゲーム・トランスメディアといった、さまざまなキーワードを紹介し、その中でも北米の事前リサーチで特に反響が大きかったのが前述の4点だとしました。そして、これらには正確な統計情報が存在しないため、欧米ディベロッパーの声を匿名で紹介したいと語りました。

■デジタル配信の夢と現実

まずデジタル配信について、デジタル配信が確実に拡大しており、Xbox LiveやSteam、最近ではAppStoreなど、さまざまな成功例が出ていることを紹介しました。

もっとも現場の開発者にとっては、事態はより複雑なようです。「大手以外は既存流通で販売できなくなった。とはいえ、Liveアーケードで配信したところ、思ったほど売れなかったのも事実だ。ただし継続的に売れたのが違っていた」(大企業から独立したディベロッパー)、「そこそこ成功するとは思っていたが、価格付けやゲームの位置づけが良くなかった。そのため期待通りの結果は出せなかった」(日本のディベロッパー)といったネガティブな声がある反面、「ディベロッパーにとって、すごく良い環境ができた。サンフランシスコで、住宅ローンを一気に返済するくらい成功したディベロッパーもいる」(ハードメーカー担当者)といった、成功例も聞くことができたと述べました。

他に「フルサイズのゲームの小型版を作って販売することで、新規ファンを獲得できる。シリーズの間を埋めるゲームを作って、継続的に売上も出せる」(パブリッシャーの内作開発者)、「返品がないのが嬉しいし、海賊版対策にもなる」(パブリッシャー)など、さまざまな声が聞かれたようです。総じてデジタル配信が黎明期で、急成長をしているものの、混沌としている状態が伝わってきます。

こうした動向から、モルディナ氏は「あまり楽観的になりすぎるのも問題だ」とコメント。おもしろいゲームを作ることが何よりも重要だが、いまだ大作ゲームの開発費を回収できるほどではないとしました。そして「デジタル配信はプロトタイプの研究開発に向いている」という大作ゲーム開発者のコメントを紹介し、既存流通とデジタル配信がしばらく並列するという考えを示しました。

■無料プレーの波はどこに向かうのか?

次に無料プレーについて、はじめにモルディナ氏は「アイテム課金」と「ゲーム内広告」という2つのビジネスモデルがあると整理しました。そして前者はアジア圏で主流で、後者の例としてEAのPC向けタイトル「バトルフィールド・ヒーローズ」を紹介しました。アイテム課金は日本でも一般的ですが、北米ではこれからで、ゲーム内広告については日本でも挑戦が始まったばかりです。とはいえマイクロソフトが代理店大手のマッシブ社を買収するなど、注目が集まっている分野でもあります。

こちらも開発現場にとっては、「ゲーム内広告は世界観との調和が重要だが、広告主はバナーなどと同じような告知効果を期待するため、矛盾してしまう」(大手パブリッシャーの開発部門)、「バナー広告以上の効果は期待できないとスポンサーは感じているのではないか」「インド・中国・韓国では無料プレーでなければ成功できない。そのための手段として重要だ」「ゲーム内広告は大作ゲームでは、まだスポーツゲーム以外はみられない。ジャンルが合えば可能性がある」など、これも様々な議論があることを紹介しました。その上で「バトルフィールド・ヒーローズ」の取り組みが、試金石の一つとして注目を集めているとコメントしました。


アイテム課金はアジア圏では人気のあるビジネスモデルだ

テクスチャーロゴはゲーム内広告でよく見られる形

アジア圏では無料ゲームが一般的だ

無料化に踏み切った「バトルフィールド・ヒーローズ」(EA)


■UGCが意味するものは?

第3のトピックはUGCです。これにはパーソナル化やカスタム化など、自分だけのモノが欲しいというユーザーの欲求とも深く関係しています。アバターやXbox360のフェイスプレート、筐体の改造などで、ジャミル氏もメトロイドのドット絵が描かれたNESを所有しているそうです。これらがゲームプレイと融合した例では、PS3の「リトルビッグプラネット」や、ウィル・ライト氏の新作「Spore」があります。米SNSのFacebookで遊べる無料ゲーム群などにも、UGCの影響が見られます。

ただしUGCの多くは無料で提供され、著作権侵害が多く、権利者側から良く思われていない傾向にあるのも事実です。ただし、そこにも様々な意見があるようで、「自社のサウンドやグラフィックデータを無償で提供して、ユーザーに『ミックステープ』を作ってもらっても良い。ユーザーはカスタマイズが好きだし、将来的に自社のブランドも上がる」(大手パブリッシャーのプロデューサー)という声が紹介されました。他に「完全に自由な状態よりも、何か誓約が与えられた方が人々は快適に、より創造的に作品が作れる」「UGCはクリエイティブの民主化だ。少し前はアルバムを作るのに、ちょっとした軍隊並の人数が必要だった。いまではPCとDVカメラがあれば誰でも映画が作れるし、Youtubeで世界中に公開できる」などの声も聞かれたとのことでした。

その後モルディナ氏は「今日のデジタル文化ではカスタマイズとリミックスは自然な流れ」とした上で、「創造的なユーザーはどれくらいだろう?」と問いかけ、全世界で販売されるような大作の市場は、まだまだ残るとしました。また「創造性をユーザーに解放するのはリスクのある行為だが、その管理を他人に委ねるよりは、自分たちが握っている方が望ましい」という考えを示しました。


筐体のペインティングなどもカスタマイズの一環

ジャミル氏所有の「メトロイド」ペイントのNES


■トランスメディアの突破口は?

最後にトランスメディアです。現在ハリウッドでは「スター・ウォーズ」エピソード2と3の間を埋めるアニメ映画「スター・ウォーズ クローン大戦」をはじめ、伝統的なライセンスビジネスに加えて、トランスメディアにも注力が始まっています。アセットを共有し、映画公開に合わせて、ウェブやゲームなどさまざまなメディアでコンテンツを同時展開していくモデルで、ゲーム業界でも「映画ゲーム」の大作が何本も登場しています。

開発現場では「最初に映画とゲームの中心スタッフが集まって、2ヶ月くらいアイディアを出して議論するんだ。それから映画のシナリオやゲームのプロトタイプを作る。その方が結局早くできる」(大手プロデューサー)という声がある一方、「80年代くらいから存在したけど、結局うまくいかなかった」(ベテラン開発者)という皮肉な見方も紹介されました。

また映画ゲーム開発者からは「映画は最後で編集できるが、ゲームはそうはいかない。最初の方向性が最後まで影響を与えるのに、ハリウッドはまだ教訓を得ていない」という批判がある一方で、映画業界からは「ゲームパブリッシャーは、出演俳優や映画監督、公開時期などを、最初から知りたがるので困る。モバイルゲームは開発時間や規模が短いので、より『映画ゲーム』向きだ。大作映画のキャラクターゲームなどが適している」といった声もあるとのことです。その中でもテレビ業界については、視聴率低下に伴い、新しいビジネスモデルが必要で、ゲーム業界とも提携を結びたがっているとコメント。映画もゲームも最初の第一歩が互いに踏み出せない中で、ウェブでのオリジナルエピソード配信をはじめ、テレビ業界が突破口になる可能性を示唆しました。

日本と海外のゲーム業界は、相違点がより多く取りだたされる傾向にあります。しかしモルディナ氏の講演は、違いもさることながら、実は同じような悩みも数多く抱えていることを示すものでした。日本のGDC出席者から「さまざまな刺激を受けたが、実は同じような悩みを抱えていることがわかって良かった」などという声も聞かれます。日本と海外ディベロッパーとの「距離」を縮めたモルディナ氏の講演でした。
《小野憲史》
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