今どきゲーム事情■杉山淳一：『A列車で行こう8』デジタル鉄道玩具の車両たち〜ゲームの主役である列車を中心に紹介〜 5ページ目

　いろいろな車両の組み合わせを考えていたら、ちょっと不満も出てきました。たとえば小田急線を再現したいと思ったときに、JR御殿場線の沼津から新宿までやってくる「特急あさぎり」に使われるJR東海の371系電車がありません。東海道線を再現したいけれど、青春18きっぷで乗れる夜行列車「ムーンライトながら」のJR東海の373系電車がありません。せっかく新幹線を開通させても、いま大人気のN700系のぞみ号が登場しません。南海の特急ラピート号はありますが、それに追い越される各駅停車の車両がありません。寂しいです。


小田急新宿駅にやってくるJR東海の371系電車。A8には入っていません ※クリックで拡大画面を表示	「ムーンライトながら」で東京駅にやってくる373系。これもA8には入っていません

　この点について、以前、非公式に関係者に伺ったところ、やはりライセンス料に関する問題のようでした。かつては鉄道車両のデザインは内製でしたが、最近は外部のデザイン会社を起用する機会が増えています。そもそも鉄道車両として発注されたわけですし、デザインも会社の資産です。その二次使用については鉄道会社ごとに考え方が違うのだそうです。鉄道に親しんでもらうために、広報・宣伝的な意味合いで無償にしてくれる鉄道会社がある一方で、きちんとビジネスとして進めるために、小額でもいいから使用料をいただきたいという会社もある。キャラクターや商標の管理を外注している場合は、タダで動いてはくれません。デザイン会社との契約上、無償の車両とライセンス料が発生する車両がある会社もあるとのこと。使用料についても、商品代金から一定額とか、車両ごととか、契約方法が異なる場合があるそうです。JR東海に限らず、収録されていない私鉄についても同様とのこと。

　もし私がゲームの制作者だったら、どの鉄道会社とも同じ条件でお付き合いしたいです。有償契約の会社にだけお金を払って、無償で許諾してくれる会社には払わない、これは失礼だと思います。もっとも高額なライセンス料にあわせて一律に同じ条件にすればどの鉄道会社も納得してくれるかもしれません。しかし、それはゲームの価格に乗ってしまうので、ユーザーを困らせてしまいます。いっそJASRACのように、工業デザインについて二次使用の著作権を管理する団体ができたら話はスムーズではないかとも思います。これは鉄道会社だけではなく、自動車会社や飛行機会社も願っているかもしれませんが。
　A列車のファンの中には、JR東海の車両が収録されていないことで、JR東海に対して批判的な意見を言う人もいます。実は私もJR東海は意地悪な会社だと思っていました。JR東海はファンの気持ちを解っていないのではないかと。しかし、最近は考え方が変わりました。というのも、私自身がJR東海との許諾作業に関わる機会があったからです。昨年私は鉄道の雑学に関する本を出しました。そのときにN700系新幹線の写真を表紙用にお借りしたいとJR東海にお願いしました。「N700系が表紙にあれば売れる！」という調子のよいアイデアでした。実際には担当の編集者さんが交渉してくださいましたが、このときのJR東海の対応がとてもていねいで親切でした。「JR東海は意地悪」という私の認識は、このときに払拭されました。

　理解はしたけれど、やっぱりA列車にN700系を走らせたいし、371系や373系も登場してもらいたい。285系サンライズやワイドビューひだも…とキリがないわけですが、なんとか実現させる折衷案はないものでしょうか。この際、無償で提供してもらえる列車についてはプログラム本体に収録し、ライセンス料がほしい車両については追加データ販売、という形ではいかがでしょうか。そういえば、かつて『A列車で行こう3』には「名鉄ディスク」というバージョンがありました。ソフトウェア自動販売機「タケル」のみの販売で、追加ディスクではなく、収録車両が名鉄の全形式というマニアックな内容でした。ゲームの中では箱の電車が赤くなるだけで、選択画面にサイドビューが出るだけでしたが、名鉄ファンにはかなり喜ばれたそうです。

　たとえば、その会社の全部を有料データとせず、一部は無料で提供していただく。そして無料の車両は本体に収録させていただき、本体の売り上げにも協力してもらいます。本体が売れなければ追加データも売れませんからね。そして有料の追加データは小額決済でダウンロード販売する。ちなみにXbox360版の『A列車で行こうHX』では1列車あたり約75円だったそうです。いやあもう私なら100円くらい払いますよ。差額の25円はメーカーさんにお返ししましょうよ。25パーセントのライセンス料ってすごくいい条件じゃありませんか。断るほうが信じられません。

　それから、ここからはアートディンクさんへのお願いになりますが、鉄道会社が許諾してくださった列車については、きちんとメンテナンスしてほしいです。たとえば251系「スーパービュー踊り子」はリニューアルされて色が変わっています。古い塗装も残してほしいですが、新しい色も追加してください。583系の「きたぐに」もそうです。「きたぐに」は現在、専用塗装の車両が使われています。ぜひ「きたぐに」色をお願いします。A8に収録されている583系はJR西日本所属になっていますが、登場当時の色を残している車両はJR東日本に所属しています。117系もバリエーションが増えています。キハ181系も「はまかぜ」色になっていますよ。JR九州の883系も現在はリニューアルされて、車両全体がメタリックブルーになりました。…と、これ以上はキリがないので終わりにしますが、どうか追加データとデータの更新をお願いします。