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【GDC08】桜井政博氏が『スマブラX』のキャラクターづくりを語る

米サンフランシスコで開催されたGDCで22日(現地時間)、ゲームデザイナーの桜井政博氏が「『大乱闘スマッシュブラザーズX』の事後検証」と題した講演を行い、同作品に登場するさまざまなゲームキャラクターが、元となるゲームから『スマブラX』向けに、どのように再構成されたか、そのポイントについて語りました。

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【GDC08】桜井政博氏が『スマブラX』のキャラクターづくりを語る
  • 【GDC08】桜井政博氏が『スマブラX』のキャラクターづくりを語る
米サンフランシスコで開催されたGDCで22日(現地時間)、ゲームデザイナーの桜井政博氏が「『大乱闘スマッシュブラザーズX』の事後検証」と題した講演を行い、同作品に登場するさまざまなゲームキャラクターが、元となるゲームから『スマブラX』向けに、どのように再構成されたか、そのポイントについて語りました。



『スマブラ』シリーズは任天堂のフランチャイズ・キャラクターが多数登場し、一つのフィールド内で大乱闘を繰り広げる人気アクションゲームです。しかし、もともと異なるゲーム向けにデザインされたキャラクターを、一つのゲームシステムの中で遊ばせるわけですから、そのままでは差異が際だってしまい、おもしろいゲームになりません。そこで桜井氏は「『スマブラX』については話したいネタがたくさんある」としながらも、時間の都合上キャラクターの再構成に限定し、制作過程を解説しました。

桜井氏がポイントとして上げたのは「コンセプト」「グラフィック」「モーション」「パラメータ」の4点です。これらが「ばっちりかみ合う」と、ゲームの中でキャラクターの個性が際立ち、おもしろくなります。そして単なるデザインや性能だけでなく、総合的なゲームとしてのキャラクターの魅力を考えた場合、最初に考えたことが後々になって非常に重要な要素となる、と指摘しました。

まずゲーム内に登場するキャラクターの選定についてです。選定はゲームの企画書が完成した2005年7月の時点で、ゲストキャラクターの一人として登場した「ソニック」を除いて、ほとんど決められていました。

選択基準は「キャラクターの個性が立つこと」、具体的にはキャラクター固有の技やアクションなどがあることと、特定のシリーズに偏らないことが大切としました。そのためには、そのキャラクターが元のゲームで、どのような意図でデザインされているか。また『スマブラ』における役割とは何かを明確にすることが重要となります。これが第一のポイント「コンセプト」です。今回登場した新キャラクターのうち、当初から決まっていた「アイク」「メタナイト」「ゼロスーツサムス」「スネーク」も、そうした選定の結果だそうです。

ただし、個々のキャラクターは元のゲームにあわせてデザインされているため、一同に並べると違和感が残ってしまいます。最もわかりやすいのがグラフィックの感触の違いです。任天堂の看板キャラクター、マリオとリンクだけでも、服の質感やディティールの細やかさなどの違いは明白です。そこで第二の要素「グラフィック」となります。具体的には、マリオに原色ではなく中間色を多用したり、「ピクミン」に登場するオリマーの宇宙服にディティールを加えるなど、感触をあわせるための描き込みが行われました。これらは『スマブラ』チームの解釈で行われ、原作者の監修を経て決定されます。

中でも変化の大きかったのが、約20年ぶりに再デザインされた「光神話 パルテナの鏡」のピットでした。頭には黄金の月桂樹、腕には天使の和をイメージした2つの輪があり、ブーツは古代ギリシャ風の脚絆で、上がレッグウォーマー風で膨らんでいるなど、さまざまな点でオリジナルの解釈がなされています。最終的にはキャラクターが立つことが重要で、元となるキャラクターから離れすぎず、とらわれすぎないことが重要だとしました。ただし「リュカ」と「ポケモントレーナー」のように、等身の違いについては割り切らざるを得ませんでした。

3番目の要素がパンチやキック、スマッシュ攻撃などの技のモーションです。桜井氏は多くの格闘ゲームのモーションにおけるセオリーとして「待機」「構え」「攻撃」「フォロースルー」の4段階をあげました。それぞれの技について、この4段階のポーズと、攻撃ボタンを押してからアクションが終了するまでのタイミングを、フレーム単位で設定していきます。これを全キャラクター、全モーションで設定するわけで、ちょっと気が遠くなりそうな数になります。

まず「待機」は基本的なアクションの起点となるポーズで、攻撃動作ではありません。空中では落下ポーズが「待機」ポーズとなります。「構え」は攻撃前のふりかぶりの動作で、操作プレイヤーにボタンの入力受付が開始されたことと、他のプレイヤーに回避行動を促すために、すばやく大きめのアクションとなっています。「攻撃」は攻撃時のアクションで、『スマブラ』は横視点でのアクションゲームのため、止め絵で見た際に美しく、びしっと決まるポーズとなっています。最後の「フォロースルー」はアクションを通して最も長い時間となり、プレイヤーが操作できない「隙」の時間となります。

これらをアクションごとに考え、タイミングを数値で書き出していきます。たとえば、あるアクションの場合は全44フレームのモーションのうち、攻撃ボタンを押した後の2フレーム目で「構え」、5フレーム目で「攻撃」、30フレーム目から「フォロースルー」といった具合です。もちろん小技はパッと攻撃してパッと終了し、大技は見た目に派手な動きで、フォロースルーを長くして隙を増やすなど、アクションごとに「リスクとリターン」の関係を考慮しながら設定していきます。

この仕様書に基づいてモーションデザイナーがキャラクターごと、技ごとに固有のモーションを設定していくわけですが、それぞれのポーズを口で説明するのはたいへんです。そこで桜井氏はアクションフィギュアでポーズをつけ、デジタルカメラで撮影して仕様書に添付する、という「秘伝」を紹介しました(「マテリアルフォースミクロマン」を愛用しているとのことです)。ワリオやメタナイトなども、フィギュア上でポーズが指定され、モーションデザイナーに渡されます。これを参照しながら、実際の動きがツール上でつけられていくのです。

そのため動きの善し悪しは、モーションデザイナーの力量に大きく左右されます。時にはゼロスーツサムスなど、女性らしさを強調するために腰の動きを誇張したり、ソニックのようにシルエットを重視して、キックの足を左右で反対にするなどの修正が行われるそうです。細かいチェックや監修が不可欠で、最後はゼスチャーによる指示もあります。ただし、あらかじめ個々のポーズと動きのタイミングを明確に指定することで、ゲームバランスに関する修正は最小限に留めることができました。ちなみに、こうした特性から『スマブラ』シリーズではモーションキャプチャーは使用せず、すべて「手付け」で行われています。

最後のポイントが「パラメータ」です。パンチやキックのダメージ値、ジャンプの速さや軌跡など詳細にわたるもので、基本的にすべて桜井氏自身の手で設定されています。そのためゲームバランスを考えながら常に更新が行われ、ぎりぎりまで修正が加えられるそうです。こうして、当初頭の中で描いたキャラクター像にもとづき、「コンセプト」「グラフィック」「モーション」「パラメータ」がうまくかみ合うと、キャラ立ちが豊かになり、プレイ感が引き立つとのことでした。桜井氏は「地味で地道な作業の積み重ねですが、ここをクリアするのが最も重要なところ」だと強調しました。

ここで桜井氏はマリオとサムスの第一作目における、ジャンプの違いについて説明しました。どちらもジャンプボタンを押している間、等速で斜め上に移動していきますが、ボタンを離すとマリオはスッと落ちていくのに対し、サムスはふんわりと落ちていきます。桜井氏によると、「メトロイド」は横スクロールのアクションシューティングで、ジャンプしながら射撃する必要が高いからだと解説しました。こうしたオリジナルのキャラクターの動きや特性を十分に理解し、反映させることが大切だとします。ソニックならセガらしく、パンチ・パンチ・キックの連続技。スネークならワン・ツーパンチにローリングソバットの連続技や、C4爆弾による遠隔攻撃といった具合です。

このように桜井氏は、ゲームデザイナーにとって一番重要なのは、最初に頭の中でゲームを作り上げて、しっかり遊んでみて、イメージを固めることだと指摘しました。「ゲーム開発ではよく、『作ってみなければ分からない』と言われますが」と桜井氏は前置きし「これは、よほど開発期間に余裕がある時に限るべきです」と続けます。時には臨機応変なゲーム開発や、最後の「ちゃぶ台返し」があるとしつつも、「最短距離をまっすぐ走ることが、チームも幸せで、ゲームもよくなる」とコメントしました。

また補足として、公式サイト「スマブラ拳」についても触れました。本サイトもまた、桜井氏自身によって更新されていますが、そのために自分にもスタッフにも多大な労力がかかっているそうです。特に開発の終盤では更新地獄に陥りました。「その必要性はないかもしれませんが」と桜井氏は述べた後で「それでも制作側もまた、マーケティングの努力を怠らないことが大切」なのだそうです。数ある娯楽の中でゲームを際立たせるには、制作側もプロモーションに対して高い意識を持つことが重要だとして、講演を締めくくりました。

ちなみに『スマブラ』シリーズは前作まで、桜井氏が所属していたハル研究所が開発していましたが、今作ではフリーのゲームデザイナーになった桜井氏を中心に、新たに開発スタジオが設けられ、新規メンバーが揃えられました。初期のメンバーはゲームアーツでRPG「グランディアIII」を制作していたスタッフで、必要に応じて人員が補充されていったそうです。ハル研のスタッフはサウンドの1人のみで、したがってほぼ全員が『スマブラ』を作るのが初めてだったことになります。このように本作は映画製作にも似たスタッフ編成で、ゲーム開発では非常に希なケースとなりました。この一点だけでも、桜井氏の非凡なリーダーシップと創造性の高さが示されているのではないでしょうか。
《小野憲史》
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