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【CEDEC 2008】「資金調達に時間をかけるよりも、世界に向けたアプリを作ろう」―中小ゲーム開発会社のための資金調達

CEDECでは最新技術動向や生産性の向上などに注目が行きがちですが、「ビジネス&ロウ」としてゲームビジネスにまつわるセッションも多数用意されています。その中の一つ、10日の13:00より開催された「中小ゲーム開発会社のコンテンツ開発のための資金調達」では、新たに独立を考えている人、受託開発からの脱却を図りたい中小メーカーの関係者などに向けて、投資家や金融機関からの資金調達の方法について、ベンチャーの共同創業、経営支援に深く関わっておられるブレークスルーパートナーズの赤羽雄二氏、森広弘司氏、司会にIGDA日本の新清士氏を迎えてラウンドテーブル形式で議論が行われました。

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CEDECでは最新技術動向や生産性の向上などに注目が行きがちですが、「ビジネス&ロウ」としてゲームビジネスにまつわるセッションも多数用意されています。その中の一つ、10日の13:00より開催された「中小ゲーム開発会社のコンテンツ開発のための資金調達」では、新たに独立を考えている人、受託開発からの脱却を図りたい中小メーカーの関係者などに向けて、投資家や金融機関からの資金調達の方法について、ベンチャーの共同創業、経営支援に深く関わっておられるブレークスルーパートナーズの赤羽雄二氏、森広弘司氏、司会にIGDA日本の新清士氏を迎えてラウンドテーブル形式で議論が行われました。

まず赤羽氏は、日本の中小ゲーム開発会社がおかれている現状について、次のように説明されました。開発費の高騰や開発期間の長期化、大手パブリッシャーの下請け・孫請けという実態、自社開発したい会社が多くても資金・時間が不足。これに対してゲーム市場は世界化しており、韓国・米国・欧州発のゲームが躍進しています。更にこれまでのようなゲームではなく、オンラインゲームやカジュアルゲームが急成長するなどの市場環境の変化にも直面しています。

いきなりセッションタイトルに反する結論ですが、赤羽氏はこうした中小ゲーム開発会社が資金調達する道は現実的にはあまりないのではないかと断言します。一般的にゲーム開発会社にとって、資金調達のオプションとして以下のようなものが考えられます。

・匿名組合
・民法上の任意組合(製作委員会方式)
・SPC(特定目的会社)
・融資
・出資
・(助成金)

中小ゲーム開発企業のうちでこれらの選択肢を取り、成功裏に進められたのは、シグナルトークがオンライン麻雀ゲーム『Maru-Jan』に対して匿名組合で資金調達した例だけではないかと赤羽氏は言います。匿名組合はプロジェクトに対して出資者を募り、そのプロジェクトからの収益を配当するというもので、シグナルトークは20名の個人投資家から数百万円ずつの出資を得ることができました。しかし、法改正により適格機関投資家(金融機関など)の参加が必要となり、現実的なオプションではなくなりました。

その他の手法でも、製作委員会方式は出資者が無限責任を負い、どちらかというと投資というよりも共同事業に用いられるものであり、SPCでは事務コストがかさみ、数千万円〜数億円の規模の投資ではペイできづらく、銀行などからの融資も返済能力を明確示せなければ難しい、出資でも受託開発のような成長性に乏しい事業では受けることが困難になります。

これらのことから自社開発のための資金調達は大半の企業にとっては困難で、一方で行動を起こさなければ下請け状態が続き、競争力のない企業は振り落とされ、ますますじり貧になることを免れないでしょう。しかし、と赤羽氏は言います。資金調達をせずとも世界に羽ばたいていくチャンスが今目の前に広がってきました。

■世界を相手に商売するチャンネルが確立

WiiウェアやXbox Live Arcade、Xbox Live Community Games、iPhoneのApp Store、FacebookなどのSNSでのゲームプラットフォーム、アプリダウンロード販売が注目されています。最も重要な点は、コンテンツさえ作れば、容易に世界中に販売し、収益を上げることができるようになったことです。しかもそれが例えばApp Storeであれば、アップルに3割を支払うだけで誰にでも開かれています。特に、米国発のSNSであるFacebookで遊べるカジュアルゲームは急成長を遂げていて、Social Game Network、ZyngaといったFacebookプラットフォーム上での大手ゲーム会社はVCからそれぞれ15億円以上の資金調達を果たしています。収益モデルも様々なものが出ていて、販売時の課金はもちろんのこと、急成長するゲーム内広告、アバターなどのアイテム課金などが挙げられます。

1億人以上のユーザーを抱えるFacebookですが、ゲームが多数流通しているといっても、決してそれら全てがレベルが高いものというわけではなくて、ゲーム先進国で実力のある日本のゲーム開発会社であればアイデア次第で競争力のあるものを短期に作れるのではないかと赤羽氏は言います。制作したゲームは世界中で販売することができます。ダウンロード販売は日銭商売に近く、上手くいけば非常に少ない労力で制作したゲームで毎月の収入を得ることができます。実際に日本でも0.5人月程度で作ったゲームで毎月数百万円の売り上げを得ている会社があるようです。

そうして原資を稼ぐことができれば第二段階に進めます。。赤羽氏は、その実績や資金を元に、ユーザーの心をとらえ、競争力ある「オンラインエンターテイメント」(あえてゲームと言わず)を企画、実証デモを用意すべきと説きます。第三段階では極力低コストでサービスインし、会員獲得、ブラッシュアップ、コミュニティ構築、ブーム化を促進し、その勢いでVC等から資金調達をし、世界市場への展開を視野に入れていくというイメージが描かれます。

これは一例に過ぎませんが、受託開発に留まりじり貧状態を続けるよりは、リスクも低く、成功確率の高い賭けかもしれません。

■資金調達に悩む時間があればアプリを作ろう!

赤羽氏は現状への危機感を次のような言葉で示しました。

「カジュアルゲームが世界的にヒットし、世界中でゲームベンチャーが大量に誕生して、VCも沢山の資金を入れています。でも日本ではその気配は全くありません。CEDECには沢山の人が集まりますが、この資金調達セッションに参加していただいたのは25人でしたね」(赤羽氏)

IGDA日本の新氏も「今年2月のGDCはFacebookのアプリへの関心がもの凄く高くて、カジュアルゲームという分野がGDCの中心的な話題になっていました」と話します。

「資金調達に悩むよりも目の前のチャンスを取りに行こうよ、というのが私からのメッセージです。日本のゲーム産業は凄い力を持ってるのだから、戦わずにいきなり逃げ腰、負け犬根性を持つのはあまりに勿体ない。凄いチャンスが広がってます。しかもリスクは小さい。受託開発で低空飛行するよりも全世界の人々がゲームを遊ぶ時代のチャンスを掴みましょう!」(赤羽氏)

このようなチャレンジは大企業よりもむしろ小規模な企業による方が起こしやすいとされます。「イノベーションのジレンマ」を引き合いに出すまでもなく、大企業は既存の流通構造を崩すダウンロード販売のようなものには二の足を得てして踏みますし、今までのゲーム作りのパターンとは離れるカジュアルゲームへの取り組みは後手に回ります。受託開発で食べている中小ゲーム開発会社にとっては破壊的イノベーションは得るものこそあれ、失うものはないのです。ゲーム先進国たる日本のゲーム開発会社は例え中小であっても世界に通用するゲームを作る力があります。

現状のようなApp StoreやFacebook、カジュアルゲームといったものの爆発的進化は産業に混乱をもたらします。混乱は秩序を変えるチャンスです。現にApp StoreやFacebookで大きな利益を上げているのは、既存のゲーム業界のプレイヤーとは全く異なります。混乱が収まった時、生き残った、リーダーシップを取れた企業が新しい市場と共に成長することができます。赤羽氏は「チャンスはあと半年か一年」と言います。混乱が収まる前に参入することが重要になります。そして、繰り返しになりますが、そのハードルは限りなく低いのです。
《土本学》
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