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Shoot It! #057 - 日本製PCゲーミングデバイス『DHARMA POINT』の思想

日本製のPCゲーマー用キーボード『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』を触る機会がありました。このキーボードは静電容量型無接点方式スイッチを採用しています。一般のキーボードは接点式といって、キーを一番下まで押したときに、スイッチの接点どうしが触れて通電します。これに対して静電容量型無接点方式は、あらかじめキーの接点を帯電させておき、キーの動きの変化をセンサーで読み取ってスイッチを作動させます。つまり、キーを一番下まで押さなくても、ちょっとだけキーを押し下げるだけでキーが反応するわけです。キーを押し下げるまでのわずかなタイムラグが無くなるため、ゲームでの操作において反応速度が向上するという仕組みです。

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日本製のPCゲーマー用キーボード『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』を触る機会がありました。このキーボードは静電容量型無接点方式スイッチを採用しています。一般のキーボードは接点式といって、キーを一番下まで押したときに、スイッチの接点どうしが触れて通電します。これに対して静電容量型無接点方式は、あらかじめキーの接点を帯電させておき、キーの動きの変化をセンサーで読み取ってスイッチを作動させます。つまり、キーを一番下まで押さなくても、ちょっとだけキーを押し下げるだけでキーが反応するわけです。キーを押し下げるまでのわずかなタイムラグが無くなるため、ゲームでの操作において反応速度が向上するという仕組みです。



『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』の使用感や性能については既にゲーム情報サイトなどで紹介されています。それらの記事ではこのキーボードが「東プレ」というメーカーのOEM製品であると語られています。OEMとは相手先ブランド生産(Original Equipment Manufacturer)の略です。よく知られている製品を挙げると、日産自動車が発売する軽自動車が三菱自動車やスズキ自動車の製造です。家電の分野もOEM製品が多く、ライバル製品を並べると色違いでそっくりなデザインということもあります。OEM製品は、作る側にとっては大量に生産でき、売る側には安価に製品を仕入れられるというメリットがあります。しかし、売る側にとっては自社ブランドですから、これはOEMですよ、と宣伝することはまずありません。自動車のOEMについては自動車趣味の情報のひとつとして公然の事実となっていますが、家電の場合はショップの店員さんがこっそり教えてくれる程度です。「こちらのほうが安いですよ。OEM製品ですから同じ機能ですよ」という会話を交わしたことがある人も多いのではないでしょうか。つまり、OEM製品という情報は、なるべく公にしたくない。それが販売会社の基本的な立場だといえるでしょう。

そうなると、「『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』は東プレが製造したOEMである」という情報は、発売元のシグマA・P・Oシステム販売にとってはネタバレであり、困ったことではないでしょうか。しかも秋葉原や通販サイトでは、『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』よりも安い値段で東プレの静電容量型無接点方式のキーボードを購入できるのです。その意味で、OEMだという情報は読者に対して親切な記事だと言えそうです。なるほど、たしかに『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』にそっくりなキーボードを東プレは発売しています。この記事を書いた記者さんはよく知っているものだなあと感心しました。それが当たり前で、私が知らなかっただけかもしれませんが。

ところがこのOEMに関する情報は、『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』に同梱されたライナーノートの冊子に明記してありました。売る側がネタバレを書いていたわけです。これには私もびっくりしました。常識的に考えて販売する側が隠しておきたい情報を明記しています。これは潔いと言うべきでしょうか。それともネタバレすることに意味があるのでしょうか。発売元のシグマA・P・Oシステム販売という会社は、社名に販売という文字が入っていますが、事業は流通ではなく、独自の企画とノウハウで製品を設計できるメーカーです。そしてDHARMAシリーズは、そのメーカーから発売される周辺機器のブランドです。先に発売されたDHARMAブランドのマウスも、マウスパッドも、シグマA・P・Oシステム販売が原料から吟味して製造しました。しかし、このキーボードは東プレが製造し、『DHARMA』の名前を付けて販売されています。なぜでしょう。マウスやマウスパッドへの意気込みからして、キーボードだってオリジナル製品を作るべきではなかったのでしょうか。どうも納得できません。そこで浅草橋にあるシグマA・P・Oシステム販売を訪ね、その真意を伺いました。

応対して頂いた方々は、DHARMAシリーズの仕掛け人、その中核となる営業担当マネージャーの神尾英人氏と開発担当マネージャーの梅村匡明氏です。さっそく疑問をぶつけました。どうして自社開発ではなくOEMなのか。答えはシンプルでした。「ゲーマーとして、自分達が欲しい究極の姿を求めたらこうなったのです」。なんと、それが最良だから、というシンプルな理由でした。そして神尾氏は、「シグマA・P・Oシステム販売はメーカーです。しかし、DHARMAPOINTはブランドです」と言います。ブランドとして完璧であるための選択がOEMだった。どういうことでしょうか。もうすこし詳しくお伺いしました。

DHARMAシリーズは神尾氏と梅村氏が「ゲーマー向けの最良の機器を作ろう」として立ち上げました。この時点で、メーカーとは異なる視点が生まれています。メーカーとしての矜恃を保つことよりも、ゲーマーにとって何が最良かを一番に考えることにしました。マウスやマウスパッドは以前からシグマA・P・Oシステム販売で培ってきたノウハウがあります。キーボードもメンブレン接点式は手がけています。事実、シグマA・P・Oシステム販売にはゲーマー用キーボードとして『GMKB109BK』という、複数キーの同時認識に対応したFPSゲーマー向け109キーボードを発売しています。しかし、これにはDHARMAブランドは付いていません。

梅村氏は「シグマA・P・Oシステム販売の製品は、より良いものをより安くというコンセプトです。他社製品に対抗するために安くしようとする。品質は下げられない。となると、付けたかった機能を削っていくしかない。それはとても辛かった。だからDHARMAシリーズでは、必要なモノは我慢しない、というモノ作りをしています。会社が作りたいものではなく、ユーザーが求めるモノを提供したい。DHARMAPOINTのマウスを作った。マウスパッドを作った。どちらも当社の製品としては高いけれど、ユーザーは必ず理解してくださるだろう、と」

たしかに。シグマA・P・Oシステム販売の『GMKB109BK』は市価が2000円台、一方、『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』は2万円台。ほぼ10倍です。その差額分の価値が、静電容量型無接点方式という機構の採用でした。これがベストだとDHARMAPOINTは判断したのです。「キーボードについては、もともと接点方式と無接点方式のふたつを開発する計画でした。接点式は自社の技術を突き詰めていけばできる。しかし、静電容量型無接点方式はイチから開発しようとしても、パテントなどの問題もあり、簡単にはいきません。しかし私たちはFPSゲーマーが納得できるキーボードを作りたい。そこで、静電容量型無接点方式を持つ東プレさんの門を叩いたわけです」と梅村氏。

東プレは大手オフィスコンピュータメーカー向けに業務用キーボードを提供しています。コールセンターや金融機関のオペレータなど、業務で長時間のキータイプを続ける人向けに作られたキーボードです。だからこそ、コストが高くても耐久性や反応速度に優れた静電容量型無接点方式にこだわってきました。そのメリットはゲーム分野にも活かされており、ナムコが開発した『カウンターストライク・ネオ』のキーボードも東プレ製でした。OEM製品は販売する会社の仕様に基づいて製造します。『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』は東プレのOEM製品ですが、実は東プレが自社ブランドで販売するキーボードとまったく同じではありません。テンキーレスで、すべてのキーが30g加重で動作する軽いタイプ。4mmストローク。不要なキーを固定するキーストッパー、左側のCaps LockとCtrlキーの入れ替えに対応。これらをすべて満たす仕様は『DHARMA TACTICAL KEYBOARD』だけです。FPSゲーマーの気持ちを代弁するかのように、DHARMAPOINTチームが要望し、それに応えられるメーカーが東プレだった。DHARMAPOINTにとって、OEMであることを隠す必要はなく、むしろその選択をアピールすることで個性を主張したのです。

「FPSゲーマーのベストチョイス」。それがDHARMAPOINTというブランドの真意でした。自社で設計製造しようと、OEMであろうと、この一点のスジを通していく。それが大事だったのです。DHARMAシリーズの主要製品には必ず「ライナーノート」が添付されており、開発者からのメッセージが記されています。これを読めば、買った人はさらに満足感を得られるはずです。こうした製品作りを続けていくことで、「DHARMAPOINTなら間違いない」という評判が生まれるのでしょう。これからもDHARMAシリーズの新製品が続々と登場する予定だそうです。製品も楽しみですが、その開発に込められた思いを綴ったライナーノートも楽しみになってきました。作り手の意思がきちんと伝わる。使い手にとって、それはとても嬉しいことだと言えるでしょう。
《土本学》
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