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【インタビュー】『シャドウバース』メインプランナーが今考えているコト―「バハムート降臨」からゲームデザイン論まで

Cygamesの本格カードバトル『Shadowverse(シャドウバース)』。Game*Sparkとインサイド編集部は、ゲームデザインのメインプランナーである宮下尚之氏を取材しました。

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本日600万ダウンロードを突破し、2016年11月には賞金総額700万円のe-Sports大会「RAGE Vol.3」が大いに盛り上がりを見せた、Cygamesの本格カードバトル『Shadowverse(シャドウバース)』。Game*Sparkとインサイド編集部は、ゲームデザインのメインプランナーである宮下尚之氏を取材。『シャドウバース』リリースから現在までの道のり、開発におけるこだわりや苦労話、そして遂に発表された第3弾カードパック「バハムート降臨」に至るまで、幅広いトピックで話を訊くことができました。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


――まずは宮下さんの自己紹介をお願いします。カードゲーム歴は長いのでしょうか。

宮下尚之氏(以下 宮下): Cygamesの宮下です。カードゲームはプライベートでも長くプレイしています。『ポケモンカードゲーム』をよく遊んでいて、その縁もあって最初の会社に入ることができました。その後は、『マジック:ザ・ギャザリング(MTG)』をやっていて、2011年の「The Limits」というシールド・ドラフト日本大会では、準優勝した経験もあります。

――なるほど、自身も熱心なカードゲームのプレイヤーだったんですね。

宮下: はい。もともと『MTG』のような対戦型TCGを、競技シーンでプレイするのが好きでした。

――Cygamesに入社されたのはいつ頃ですか?

宮下: 2014年9月です。入社のきっかけは、カードゲームを通じて知り合った友人から、「実は新規で考えているデジタルTCGがあって、そのゲームデザインを担当してくれないか」という話をもらったことでした。それで、プロデューサーの木村と面談をして、概要を聞いたところ、これはすごく期待できそうなプロジェクトだなと思い、参画することを決めました。

――では、最初から『シャドウバース』の開発に携わっていたと。

宮下: はい、『シャドウバース』のゲームデザイン担当として中途入社して、Cygamesでのキャリアが始まりました。当時、プロジェクトはキックオフして1ヶ月ぐらいで、チームも5名ほどしかおらず、エンジニアとデザイナーと、プランナーは私1人でまずはプロトタイプを作るところから開始しました。本当に『シャドウバース』の開発初期から參加している形です。

――具体的に、宮下さんは開発のどのような部分を手がけていたのですか?

宮下: 職種としては、ゲームデザインのメインプランナーです。アプリ全体を作るディレクターがいて、私はゲームの内容やルールを作るといった形で大きく住み分けています。どんなカードを作って、それによってユーザーさんにどんなプレイをしてほしいか、そんなことを考えています。

――それでは、『シャドウバース』のメインコンセプトをあらためて教えてもらえますか?

宮下: それまで日本になかった、スマホで遊べる対戦型のTCGを作るために、『シャドウバース』の企画が立ち上がりました。本格的なリアルタイムの対戦カードゲームで競技シーンを盛り上げて、ただプレイするだけでなく、強いプレイヤーが活躍して注目が集まったり、観戦する楽しみがあるという、競技ゲームとしての展開も考えていました。



「RAGE Vol.3」で見事優勝し、賞金400万円を手にした「ま」選手

――『シャドウバース』の特徴的な点として「進化」システムも挙げられます。

宮下: 『シャドウバース』は、Cygamesがモバゲーで展開している『神撃のバハムート』の流れをくんでいます。『神撃のバハムート』は、美麗カードゲームの先駆けとも言えるタイトルで、4段階に進化するカードイラストの高いクオリティが特徴のひとつとして挙げられます。『シャドウバース』では、その進化要素も取り入れることが最初から決まっていました。したがって、ゲームルールも「進化」ありきでバトルをデザインしており、今の形になりました。

――7つのクラスはどのように決まったのですか?

宮下: クラスデザインも、実は『神撃のバハムート』が大きく影響しています。『シャドウバース』の企画が立ち上がった時点で、既に『神撃のバハムート』に数千枚のカードイラストが存在しており、それらをカテゴリ分けしていくことになりました。例えば、兵士やお姫様系のカードはセットにして、ロイヤルが生まれました。また、エルフや森の生き物、フェアリーといったカードはエルフ、というようにイラストの方向性からクラスやそれぞれのルールを固めていったのです。

――『シャドウバース』の開発で、最も苦労した点は何でしたか?

宮下: 対戦カードゲームとして、ゲームバランスをしっかり整えることは当初から大きな課題でした。第一弾では7つのクラス、400枚以上のカードを出すことが決まっていて、各クラスの特徴を分けつつ、バランス良く楽しんでいただけるように作る必要がありました。リリース前のゲームデザインスタッフは10人程度で、調整はしていたものの、人数的にこなせる対戦数には限界があり、実際にユーザーさんにリリースされたら、想定よりも強かったり、弱かったり、予期しなかった戦術が開発されたり、といったことが起こります。そこをリリースまでに高い精度で修正していくために、2回にわたってクローズドベータテストを実施しました。それによって、膨大な対戦データから、クラスの勝率や使用率、傾向を集めることができたのです。もちろん、リリース後もデータを見続けて、バランス調整を行っています。


――画面に情報量が多くなるカードゲームをスマホ向けに作るにあたって、UIのデザインで意識した点は?

宮下: 今はPC版もリリースしていますが、当初はUIデザインもスマホ向けに最適化を優先しました。盤面に置けるカードが自分と対戦相手で5枚ずつ、計10枚という仕様に落ち着いたのも、スマホで快適に遊べるサイズというところからです。ゲームデザインもそれありきで進めていきました。

――ところで、『シャドウバース(Shadowverse)』というタイトル名の意味や背景などを教えてもらえますか?

宮下: 『シャドウバース』では各クラス8章までストーリーが公開されていますが、今後追加予定のストーリーでさらに物語が発展していきます。それにより“シャドウバース”の意味がさらに明らかになっていきます。ネタバレになってしまうので詳しく言えませんが、今公開されている話の裏側にもストーリーがあり、バックボーンもしっかりしていて、徐々に世界観が広がっていくので期待していてください。

――正式リリースから約半年が経過しましたが、ここまで振り返ってみて、ユーザーの反応をどう見られていますか?

宮下: 振り返って一番大きいのは、何より大変多くのユーザーさんに遊んでいただいていることで、驚きとともに感謝があります。国内においてスマホ向けの本格的なカードゲームは『シャドウバース』がほぼ初ですが、他の人気スマホゲームと比べると全く違ったスタイルのゲームです。当初の予定としてはスロースタートで、カードゲーム好きのコアなユーザーさんから少しずつ広めていければいいと思っていたところ、リリース直後から多くのユーザーさんに遊んでいただけて、さらにカードゲームが初めてという方にも遊んでいただけたのは、うれしい誤算でした。


――新たに発表した第3弾カードパック『バハムート降臨』について、概要を教えてください。

宮下: 『バハムート降臨』(英語タイトルは『Rise of Bahamut』)では、新たに105枚のカードが加わり、タイトル通り、『神撃のバハムート』から遂にバハムートが登場します。他にも『神撃のバハムート』でおなじみのキャラクターが含まれます。『バハムート降臨』では、「エンハンス(Enhance)」と呼ばれるカードの新能力も追加されます。「エンハンス」カードには、使用PPと効果が2種類ずつ用意され、たとえば2PPのダメージスペルが、6PPでも使用可能で、より多くのダメージを与えられるようなデザインになっています。

――「エンハンス」を実装した意図は?

宮下: 序盤から中盤、後半に行くにつれて使えるPPは増えますが、初手を引き直しても行動できるカードがない、いわゆる事故はカードゲームの宿命としてあります。事故が起こるとワンサイドゲームになってしまうことが多いので、ユーザーさんにとっては良いゲーム体験ではありません。一方で序盤に動きやすいように軽いカードばかり入れていると、『シャドウバース』は自動的にPPが溜まっていくゲームなので、後半のカードパワー勝負の時に負けてしまうジレンマもあります。「エンハンス」のカードは、少ないPPでプレイすることもできますし、後半にはコストをかけて発動することもできるので、バトルの潤滑油といいますか、展開に応じて使えるユーティリティなカードとしてデザインしました。


――新カードパックはうれしいニュースですが、カードプールが増えすぎるあまり、初心者が入りづらくなったり、デッキコンセプトが増え過ぎたり、あるいはデッキ自体が強くなりすぎるといった問題が生じるのは、カードゲームジャンル全体の課題です。『シャドウバース』ではそういった問題にどう対応していく予定でしょうか。

宮下: 『シャドウバース』は5年、10年と運営を続けていこうと考えてデザインしています。他のTCGでは、新しいカードだけで遊べるルールと、全てのカードで遊べるルールを併用する、いわゆるカードのローテーションなどがあります。『シャドウバース』ですぐにローテーションをするわけではありませんが、しかるべきタイミングで適切な方法でゲーム環境の健全化を図っていくことを考えています。初心者や新規プレイヤーの方がキャッチアップしやすくするのは、ゲーム内の商品展開面でも検討中で、まだ詳細はお話できませんが、遊びやすいようにサポートしていくつもりです。

――カードゲームにおいてしばしば取り沙汰される“Power Creep(※)”の概念に関しては、どうお考えですか? 例えば、「ファイター」と「ユニコーンの踊り手・ユニコ」とか。

※メーカーが新しいカードを追加する際、既存のカードよりもコストに対して能力値の高い上位互換のようなカードをデザインして、商品価値を高めようとする傾向のこと

宮下: 「ファイター」は、初心者がルールを覚えるために初期デッキに入っているカードです。一方、カードパックから得られるカードは、プレイヤーが自分で使い方を考えるようなものが多いです。初期デッキとカードパックから出るものでは、レアリティや能力が異なり、レアリティに応じて能力が複雑になっていくようにもデザインされています。そうした部分での能力差はカードゲームではよく起こることで、カードの用途に応じて能力を割り振っているため、ある角度から見たらこのカードはあのカードより弱いというのはありますが、完全な下位互換はほとんどありません。「ファイター」と「ユニコーンの踊り手・ユニコ」を比べると、仮に回復を入れたくないヴァンパイアから見た場合、完全な上位互換にはなりません。今後出てくるカードとのシナジーによる部分もあるので、一概に下位・上位というような位置付けはできないのかなと思っています。

『シャドウバース』は運営を長く続けていくことを考えていますので、Power Creepによる急激なインフレは商品の寿命を縮めることになるので望んでいません。徐々にPower Creepが起こるというのは他のTCG、CCGでも宿命だとは思いますが、単純にこれまでより強いカードを出すのではなく、新しいカードによって違うコンセプトのデッキができるようになるのを重視しています。

――Power Creepが毎セットごとに著しく起こるゲームもあったりしますからね。

宮下: これは、デジタルカードゲームの強みでもありますが、バランスブレイカーのカードが出た際でも、アップデートで修正できます。だからといって破綻して良いわけではないですが、アナログの場合は強すぎれば禁止や制限、そうでなければメタカードを印刷するという手がありますが、デジタルは環境を健全化するための方法がフレキシブルに取れます。これまでにも2回カードの修正を行っており、多くの方が楽しんでいただけるよう、環境を常に整えていくように努力していきたいと思っています。


――ショップのアイテムについては、スリーブやリーダースキンの種類が増えたり、新しい種類のアイテムが増える予定はありますか?

宮下: リーダースキンやスリーブは今後も色々と準備をする予定です。カードパックなどカード関連の商品は、3ヶ月に1度追加していく計画です。新規プレイヤーのためになる商品モデルも準備しており、それを買わなければいけないというものではなく、既存のプレイヤーにも不利益にならないようなものを考えていますので、楽しみにお待ちください。

――『ダークネス・エボルヴ』で登場したビショップのセラフ・ラピスデッキのような、エクストラウィンの要素は、今後他のクラスに追加される可能性はありますか?

宮下: セラフ・ラピスに関しては、もともと『神撃のバハムート』にあったカードです。石像から天使が蘇るというコンセプトで、イラストのストーリーと、ビショップのアミュレットのカウントダウン要素が噛み合ったので、カードをデザインしました。今後もしっくりくるものがあれば特殊勝利を考えますが、そうでなければ別に無理に組み込むつもりはありません。

――『神撃のバハムート』のルーツを大切にされているんですね。

宮下: そうですね。『神撃のバハムート』はイラストがきれいだったり、バックボーンのストーリーもしっかりとあり、例えば『グランブルーファンタジー』で人気が出たりと、キャラクターと背景が多くのユーザーの方々に愛されています。そこを『シャドウバース』でも拾えるようであれば拾っていきたいと思っています。


――2Pickモードについてはいかがでしょうか。今後拡張していくとか、大会を行う計画はありますか?

宮下: 2Pickを利用した大会をしたいという意見もプロデューサーの木村から出ています。2Pickはルームマッチでも気軽に遊べますが、開発側でも、様々な大会のフォーマットで導入しやすく、注目されるようになればいいなと思い、検討をしています。

――新しいカードって、どのようなプロセスでデザインされるのでしょうか?

宮下: トップダウンとボトムアップのデザインがあります。トップダウンというのは、例えばバハムートが出るとなれば、バハムートらしいカードにする必要があるので、イラストやキャラクター設定に基づいて能力を用意します。ボトムアップは、現在はこういう環境で、ヴァンパイアにこういった能力が求められているから、こう作ろうというのがボトムアップになります。カードは、私1人で作っているわけではなく、デザイン担当や調整担当などもいますので、協力してやっています。

――カードのデザインは一番楽しい部分ですか?

宮下: フレーバーと噛み合ったカードが出て、それが『シャドウバース』独特の動きでユーザーさんから反響があったときが最も楽しいですね。

――宮下さんがいちばん気に入っているカードは?

宮下: さきほど話題にあがったセラフ・ラピスは、元のイラストのストーリーがしっかり機能に落とし込まれて、かつ効果も派手なので、ユーザーさんからも反響も大きく、トーナメントでも使われたりと、すごく良いカードだと思います。

――それでは、『シャドウバース』プレイヤーにむけてメッセージをお願いします。

宮下: 第3弾カードパック「バハムート降臨」によって、新たなデッキが登場し、各クラスにも新たな魅力も出てきます。先日の「RAGE Vol.3」が開催されたように、『シャドウバース』の競技シーンも2017年以降さらに盛り上がっていくでしょうし、我々としても準備をしっかり進めているので、本格的なトーナメントから身近なイベントまで、よりいっそう開催数が増えていくと思います。そうしたイベントに自ら出場したり、あるいは観戦するといった、ただプレイするだけではない、『シャドウバース』の一歩踏み込んだ楽しみを体験してもらえるとうれしいです。

――わかりました。宮下さん、本日はありがとうございました。

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