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【任天堂資料庫】第7回 任天堂ゲームセミナーを振り返る

ゲームビジネス その他



大阪芸術大に今春から漫画制作やアニメーション制作、ゲームデザインを学ぶキャラクター造形学科が新設されることになりました。東京工科大でもゲーム作りは取り入れられていて、大学でもこのような学部は珍しくなくなりました。専門学校では有名なHALや任天堂も出資するデジタルエンタテインメントアカデミー(DEA)など多数があります。米国にあるデジペン工科大学は任天堂と関係の深いゲームを専門とした大学です。

1983年にファミコンが発売され、『スーパーマリオブラザーズ』などで大ブームとなると、子供達の憧れの職業にゲームクリエイターが挙がるようになりました。こうした流れを受けてヒューマンクリエイティブスクール(廃校)、ハドソンコンピュータデザイナーズスクール(廃校)、エニックスゲームスクール(現在のDEA)など多数のゲームの学校が誕生しました。これらは全てゲームメーカーによって設立されたもので、メーカーにとって優秀な人材の確保が重要な課題だったことが伺えます。

それは任天堂にとっても同様です。しかし「優秀な」というのは実に難しい事です。1992年頃、山内社長(当時)は雑誌のインタビューで「ゲームをつくろうとする人が増えてきた。それ自体は歓迎すべきことだが、今は過渡期で、才能を持っている人も持ってない人も玉石混交で増えている」と答えています。数度の面接程度で才能までは測れないからです。そこで任天堂は関係の深い広告代理店の電通と提携して「任天堂・電通ゲームセミナー」を行います。セミナーでは約1年間に渡ってゲーム作りを体験します。これであれば人材の見極めができます。

(最も任天堂は、セミナーの受講生も入社には一般と同じく試験を課しましたので優秀な人材の確保、という面は薄かったかもしれません)

「任天堂・電通ゲームセミナー」は1990年から3年間に渡って実施されました。初年度と二年目は東京・神田の任天堂東京支店にて行われ、三年目は東京に加えて大阪の任天堂大阪支店でも実施されました。

まず受講希望者は3月に東京電通本社で基本的な知識を学ぶ1日間の入門セミナーに参加して、その参加者の中から小論文や面接で20〜40名が5月から約10ヶ月間アドバンスセミナーを受講する資格を得ます。入門セミナーに参加するには「TVゲームについて思うこと」というレポートを400字程度で提出する必要がありました。参加希望者は多く、大体10倍くらいの倍率になったそうです。受講料などは無料で、開発用のパソコンやテレビなど一式が貸し出されました。

セミナーでは前半で、プログラム、デザイン、サウンド作りなどの講義を受け、後半は実際のゲーム制作になります。ハードはファミコンのディスクシステムを使ったようです。講義などでは任天堂の開発スタッフが担当しました。単に技術的な習得を目指すだけでなく、一線で活躍するスタッフに指導を受け、ゲーム作りのキモを身に付けることが出来るのは、他のゲームスクールなどとは大きな違いです。

セミナーの目的が達成されたかどうかは出身者のその後を見れば明白です。セミナー卒業生は任天堂を始めとしたゲームメーカーやその他の開発系のメーカーに多く巣立っていっています。

任天堂に入社した林田宏一氏はセミナーでファミコン向け『バトルバトルリーグ』を開発しました。これは手足や胴体など必要最小限のパーツのみを描いてファミコンでは不可能と思われたスムーズが動きを実現した格闘ゲームで、後に任天堂から『ジョイメカファイト』として発売されました。チュンソフトの中村光一氏もこのアイデアを絶賛したそうです。これをセミナーで共に開発した人に江渡浩一郎氏がいます(国際メディア研究財団研究員)。

『千年家族』を10日に発売したインディースゼロは、代表の鈴井匡伸氏を始めとしてゲームセミナーの卒業生が6人も在籍しているそうです。後にサテラビューで放映され、ニンテンドーパワーで書き換え作品にもなった『すってはっくん』は鈴木氏らがゲームセミナーでディスクシステム向けに制作した作品が基になっているそうです。鈴木氏はセミナーについて「作品作りに関しては厳しくあたらねばなりませんけど。ゲーム作りに関しては、それこそ当時のセミナーで『任天堂の現場のノウハウ』を教わったという感じです。いかにしてクオリティの高いものを作るか、よく教えていただいたと思いますね」と話しています。

その他、任天堂で『キャッチ!タッチ!ヨッシー!』のプログラムディレクターを務めた太田敬三氏はセミナーで「オリジナルプログラム」の賞を取ったそうです。同じく野上恒氏は「ゲームの絵を描く仕事はどうだろうと思うようになってセミナーを受講した」そうです。様々なゲームでコーディネーターを務める辻村大介氏など、任天堂には多くのセミナー卒業生が在籍しています。

このようにセミナーでは多くの成果が得られましたが、任天堂と電通はこの成果を更に生かしていく為に一年目のセミナーが終了した1991年3月18日に共同出資の株式会社マリオを設立すると発表しました。社長には任天堂製造本部長の池田宏氏が就任し、翌年からは更に上級の「マスターセミナー」を追加したセミナーの運営や、セミナーで制作された作品の管理・商品化などを行うとされました。

株式会社マリオの作品について詳しい事は不明ですが、サンリオの子会社のキャラクターソフトからファミコンで発売された『ハローキティワールド』(バルーンファイトのパクリとして有名ですね、でも本当はそうじゃないんだ)・『サンリオカーニバル2』などがあるようです。『カーニバル1』はエイプ(糸井重里の)が制作していたりします。これらはゲームセミナーで制作されたゲームなのでしょうか?

非常に好評だったゲームセミナーですが、3年でひとまず区切りということになりました。理由は不明です。その10年後に再び日の目を見ます。今度は電通が関わらない形ではありますが。

任天堂は2003年3月に「任天堂ゲームセミナー2003」を開催することを発表しました。東京・神田にある任天堂東京事務所にて約30名が、一線級で活躍する開発者の教えてゲーム作りを学びます。期間は2003年6月〜2004年3月の10ヶ月間で、ゲーム作りの基礎を学んだ後、グループを作り実際にプログラマ、デザイナー、などに分かれてゲームボーイアドバンス向けにゲームを制作しました。費用は無料でした。

任天堂はその一昨年にゲームキューブを発売しましたが、ソフト不足が言われ、開発力の強化が望まれていました。それに対応する形で行われたのが、ゲームセミナーの復活であり、東京開発スタジオの新設です。

「任天堂ゲームセミナー2003」への力の入れようは誰が講師を務めたかを見れば一目瞭然です。『ゼルダの伝説〜風のタクト』を手掛けた青沼氏は以前にもセミナーの講師を務めたことがあったそうですが、今回も務めたそうです。また、セミナーの卒業生である企画開発本部の辻村氏は、今度は講師の立場でセミナーの臨んだそうです。辻井氏のような存在がセミナー復活の理由だったのかもしれません。こういった講師の開発者はもちろん京都で普段は仕事をしている訳で、大変な激務だったのではないかと推測されます。その甲斐あってか、10年前のセミナーと同様にゲーム業界に進んだ卒業生も多くいるようです。

任天堂に入社し、情報開発本部と企画開発本部に配属された4名の卒業生が2005年3月の任天堂オンラインマガジンでインタビューに答えていますが、「セミナーは全体がよく見渡せる透明性があります。組織やグループがどう動いているかを見ることができる。これは会社に入ると複雑になりますし、全体を見渡せる機会ってなかなかないですよね」と話しています。開発が大規模化していますが、その中で全体を見渡せる能力は貴重でしょう。

翌年も「任天堂ゲームセミナー2004」は開催されます。内容は2003とほぼ同様です。そして今年も「任天堂ゲームセミナー2005」が一年間に渡って開催されます。今回は発売されたばかりのニンテンドーDSを使ってゲーム開発に取り組むことになります。「今までのゲームの常識を覆すような斬新なアイデアを期待しています!!サウンドやプログラムといった専門技能だけでなく、「自分にはこれがある!」と言える人は理系文系を問わず、どんどん応募して下さい。お会いできる日を楽しみにしています」とのこと、オンラインエントリーは本日から開始されています!(http://www.nintendo.co.jp/n10/seminar/)

参考資料

・任天堂と電通、共同でゲームソフト開発人材を育成へ。学生対象にセミナー事業化(日刊工業新聞/1990.01.20)
・チャレンジゲーム学校 受講生が実際にゲーム作りも(毎日新聞/1993.02.06)
・任天堂ゲームセミナー2005受験生募集(http://www.nintendo.co.jp/n10/seminar/) ・任天堂ゲームセミナー/NOM2005年3月号(http://www.nintendo.co.jp/nom/0503/)
《土本学》

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