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素晴らしいゲームを作れ!・・・「ゲームウォーズ 海外VS日本」第29回

先日、PCゲーム配信プラットフォームSteamと『LA-MULANA』の発売日を決める相談をしていた時の出来事です。

ゲームビジネス その他
Valveが運営する配信プラットフォーム「Steam」
  • Valveが運営する配信プラットフォーム「Steam」
  • インディーズながら世界的に評価が高い『LA-MULANA』
先日、PCゲーム配信プラットフォームSteamと『LA-MULANA』の発売日を決める相談をしていた時の出来事です。

発売する日にちを決めるだけのことですが、発売日が、商品の成功や失敗を決めてしまうこともあるので、とても重要なことです。

今回は日本のインディーズゲームを初めてSteamから配信し、全世界に届けられるチャンスを頂いているので、必ず成功させなければならないと、集中し頭を悩ませながらスケジュールを組み立て、こちらからいくつかの日程を提案しようとした際に、Steamの担当者から来た返答にとても驚きました。

「発売日なんて決める必要ないんじゃない?ユーザーのために素晴らしい、エキサイティングなゲームを作ってくれるのであれば、発売日はいつでも合わせるよ。良いゲームというのは、いつだって売れるものだから。」

私が驚きの表情をしているのを見て、弊社のスタッフが笑いながら、「この文書をメールのフッターに入れておきたいね。」と言いました。

「良いゲームはいつだって売れる」と言うのは簡単なことではありますが、Steamのような大手プラットフォーマーが、実際にこんなヒッピー的思考を持っている事が分かり、彼らは本当にゲームを愛しているんだなと感じました。

大げさに聞こえるかもしれませんが、プラトフォーマーとの窓口をしていると、「いついつまでに間に合わせないと売行きは怪しいぞ」や、「この後、X社が似たようなゲームを出すから、急いだ方が良いよ」など、必ずと言ってもいいほど急かしてくるものです。さらに、プラットフォーマー兼パブリッシャーの場合は、自分たちの作品の発売が近ければ、邪魔をされないようにこちらの発売日を勝手に変更される事も・・・。

それに比べたら、「まずは、素晴らしいものを作れ」という、Steamの思考がどれだけ素晴らしいことか。私はゲームとは、ただのマネタイズ手段ではなく、エンターテインメントだということを心の底から確信しているので、大手企業からこのような発言を聞けたのは、非常に心強かったのです。

20代の時、初めて日本のゲーム会社に勤めた際に、先輩プロデューサーが、まるで呪文のように繰り返し言い続けていた発言がありました。

「ゲームは、まず売れないとダメだ。」

事業の継続性のために、売上げが非常に重要である事は重々理解していても、この発言に同感することはできませんでした。「まず売れないとダメ」、と言いますが、ゲームは必需品ではありません。水や食料と同じようにゲームを必要としている人は、この世の中に1人もいません。しかしながら、日本だけでも他に必要なものを我慢してまで、毎日ゲームを購入している人々が数百万人います。必ずしも購入しなければならないものではないものを、なぜ購入するのでしょう?

その理由は、ゲームが面白いから、もしくは、そのゲームに惹かれるからです。となると、「ゲームは、まず売れないとダメ」ではなく、「ゲームは、まず面白くないとダメ」と言うべきではないでしょうか。

人々が『パズル&ドラゴン』をインストールする理由は、「課金でもしようかな」と思ったからではなく、「面白そうだ」と思うからです。

この「面白さを作ろう」の上に、「売れるものを作ろう」という条件をつけると、作る側(売りたい)と購入する側(楽しみたい)の目的はあまりにも離れ、成功を収めることはできないと思います。楽しみたいと考えている人に、思い切り楽しめ、とツールを提供する我々ゲーム業界のメンバーには責任があります。

個人的にインディーズを愛する理由は、1人や2人で黙々とゲームを作っている連中が皆、自分の才能をユーザと共有するために努力している姿に共感するためです。ゲームの価格でさえ、購入側が自由に決めれるものがありますから。

まずは、「面白いものを作ろう」、と言うことを前提に、ゲーム作りやパブリッシングに挑みませんか?どうせやるなら「面白いこと」に携わった方が良いでしょう。

そして、「面白い」=「売れない」と言う縛りはどこにも存在しないと思います。

2100年頃に、人々がまだスマホでカードゲームを遊んでいるか分かりませんが、『スーパーマリオ』が遊ばれていることについては10万円を賭けてもいいです。この賭けを受けたい方がいらっしゃれば、こちらのメールアドレスにご連絡下さい。ibai.ameztoy@activegamingmedia.com

■著者

イバイ・アメストイ(Ibai Vinas Ameztoy)
ゲームのローカライズやダウンロードストア「PLAYISM」などを手掛ける株式会社アクティブゲーミングメディア代表。20代から日本のゲーム会社に勤務した後、独立。先日京都で開催され大盛況を収めたBitSummitにも尽力。
《イバイ・アメストイ》
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