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置き去りにしないでくれ!!・・・「ゲームウォーズ 海外VS日本」第28回

ゲームビジネス 市場

「好きなゲームは、なんですか?」と聞かれた時に、私はゲーム性やデザインなどのエンターテイメント要素が優れたゲームより、優れた物語を持ち合わせているゲームを答える場合が多い。

失恋した時に聞いた歌が、人生に影響を与える力を持つように、自分の人生とのタイミングによって、物語は心に強く訴えかけ、何年にもわたり人生に影響を与える(もしかしたら、人生そのものを変えてしまう)力を持っている可能性がある。

スペイン北部の港町に生まれた私が、インターネットやゲームなど存在しない時代に、物語と親しむ方法といえば、読書、映画、年配の人たちや友人が語る話しの3つしかなかった。特に読書には夢中になり、多くの物語に触れる事ができた。

運よく私の家は、多種多様な本で埋め尽くされており、(正確に何冊あったかは、分からないが3500冊は下らないと思う)毎日3、4時間は読書をして過ごしていた。

当時も今も、影響を受けた物語は海をテーマにしたものだった。ナイフを口にくわえて新しい冒険へと海に飛び込む勇猛な男たちの、想像を絶する困難を乗り越える物語が、私に与えてくれたものは数え切れない。

特に私のお気に入り、ジョゼフ・コンラッド(Joseph Conrad)とロバート・ルイス・スティーヴンソン(Robert Louis Stevenson)、二人の作家の物語からは、今でも物事を理解する為に利用する事もあり、問題や困難を迎えた時には、鎮痛剤の代わりにさえなる事もしばしばある。

だが私の人生に強く影響を与えた物語は、作られた物語ではなく、実際に起こった物語である。中でも、第二次世界大戦中に漂流した船乗りたちに起こった物語は、いつも頭の中にある。この物語は、日本ではあまり知られていないが、スペインでは様々なドラマや童話にでさえなる有名な出来事です。

第二次世界大戦中の夜明け、大西洋ど真ん中でスペイン人の若い船乗りを乗せた貨物船に、ドイツ軍の潜水艦からの魚雷が命中した。状況を想像してみてほしい。夜明け直後の暗闇の中、爆発音と同時に沈む船、船上は混乱に包まれ、炎と煙だらけの海に身を投げる男たち、大海原の恐怖・・・。

オイルで汚れたボートやイカダにひしめき合い、寒さに震え、負傷したもの達もいる中、6日間食べ物も水も無く漂流した後、幸運にも救助された者たちがいた。

この物語の中で、私にとって一番インパクトを与えたシーンは、船乗りたちは、一艇のボートとボートに繋いだ木製のイカダで漂流していた。4メートルもの強い波に見舞われ、船尾にイカダをつないだボートは、その煽りを受け大量に浸水し転覆の危機に至った。

ボートの上では、イカダが繋がれている綱を切って見放すべきかどうかについて激しい議論が展開されたが、最終的にはイカダを繋いだままにしていた。しかし、夜間に誰かが綱を切ってしまった。他の者は暗闇の中、イカダからの船乗りがあげる、悲痛な叫び声で目を醒ました。

「置き去りにしないでくれ!!」

イカダはどんどん小さくなり、叫び声は徐々に聞こえなくなった。暗闇での船上で聞こえるのは、波の音と風の音だけになった。3日後、漂流船はイギリスの護衛戦によって救出されたが、イカダとその乗員についてのその後を知ることは無かった。

このような物語は、他にもたくさんあるだろうが、初めて聞いた時から、深く心に残っている。特に夜の海の近くにいる時には、遠ざかるイカダからの仲間たちの声を聞いていた乗員達の事を考える。また、イカダの綱を切った者の後悔の念を。その事を考えていると私の抱えている全ての問題も、この船の乗員や死に押し迫られた運命に比べれば戯言であり、なんでもない事のようだ。

先日、日本でこの物語を再現した番組を見たのだが、侮辱されたように感じた。内容は基本的に同じで、状況はかなり詳細に説明されていたが、自己克服と生き残りの物語として描かれた物語は、まるでディズニー映画の様だった。しかも、イカダの綱が夜に勝手に切れた設定にしてあった。残念な事に、この実話を特徴づける仲間を見捨てる卑怯者の船員の仕業として描かれていなかった。

「置き去りにしないでくれ!!」

意図的に突き放した場合と、自然に離れて行った場合、同じ言葉でも全く違う聞こえ方がするものではないだろうか。

とにかく甘ったるい物語になっており、最後にアンパンマンかドラえもんが登場して、全ての遭難者を助けるのでは?という思いが頭をかすめたほどだ。

日本ではこの物語は、第二次世界大戦中に起きた一つの逸話であり、イカダの綱を切るか切らないかで、もめた船員たちのエピソードは、この番組を見た者の心には響かないだろう。作成者たちは、この実話の持つ内容、意味を実際とは全く違う作品にしてしまった。

こういった類の失敗が、日本ゲームにも起きている。しかも近年は、そういったケースが顕著に増えている。10年前、全てのゲーム作成者は、まだ品質に関するポリシーを持っており、いくつかの日本ゲームは、現在の30代から40代の世界中の人たちの人生を決定的に変える影響力を持ち合わせていたほどだ。(アメリカ人に好きなゲームトップ10を聞いてみて欲しい。少なくともそのうちの3つは日本製だろう。)

しかし、現在の日本ゲーム業界は品質よりも早さを優先するようになった。特に海外に提供する為には、早さを求め過ぎ「なんでもOK」という思想が生まれ、素晴らしい品質のゲームであっても海外では、まったく異なる捉え方をされ、ただのクソゲーとなってしまう。(先ほどの漂流事件と同じように。)
また、どこかで見たような似たりよったりなゲームが多くリリースされている。

今回の文章が、ゲーム業界全般に関する批判だとは思わないで欲しい。もちろん素晴らしい作品はいくつもある。(例として、『パズル&ドラゴンズ』は本当に素晴らしい。)しかし、今日のゲームクリエイター達が世界中600万人の購買力のあるゲーマーたちに提供する立場にあるとするならば、どこにでもあるようなコピー作品を作るよりも、本当に影響力のある革新的な新しいコンセプトをつくり上げるべきではないかと思うのだ。

海外のゲーマーは、品質の高い日本のゲームを待ち望んでいる。なぜなら、大げさに聞こえるかもしれないが、「日本」は「品質」の同義語なのだ。「Made in Japan」 の製品を買うのは、「Made in Vietnam」のものを買うのとはワケが違う。(ベトナムの人を侮辱するつもりは一切ない。)しかし、海外に進出する為には10年前と同じように良質な製品を作らなければならない。まず買う価値のあるゲームを作成し、ふさわしいパートナーや基盤を探す。ローカライズに関してその条件を明確にし、しっかりとしたプロモーションを行う必要がある。早さを求める事は、決して悪い事ではないが、1週間で全てをやってしまおうとする事は、絶対にやっては行けない。

要するに、「やるべき事を、きちんとやる」簡単なように聞こえる事だが、実際はとても難しい。それをやるには、いくら時間があっても足りない。忘れては行けない事は、物事には時間がかかるという事だ。

私は10年後も人々の心に残り、影響を与える事のできる高品質のゲームを待ち望んでいる。また、現在のテクノロジーを駆使する事で、素晴らしい作品が提供出来ると確信している。

2012年は、月並みなゲームとお粗末なローカライズの年だった。
我々は自らの手で、イカダの綱を切りゲーマーたちは、暗闇の中叫びながら少しずつ離れて行っている。

「置き去りにしないでくれ!!」

今はまだ聞こえるゲーマーたちの叫びが聞こえなくなった時、残るのは波の音と風のうなり声、そして暗闇の中の沈黙した船。

沈黙した船には一体、何が残り、どのようになってしまうのでしょうか?
大西洋の荒れ狂う大海原のど真ん中、不安定なボートであっても生き残らなければならない。もちろん、イカダの綱を切る事は考えてはいけない。

著者
イバイ・アメストイ ゲームのローカライズ、カルチャライズを手掛ける株式会社アクティブゲーミングメディアの代表を務める。海外の良質なインディーズゲームを日本に紹介する「Playism」も運営中。
《イバイ・アメストイ》

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