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【E3 2012】変わった任天堂、一つになろうとするソニー、王道を行くマイクロソフト 三者三様のE3・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第31回

マイクロソフト、ソニー・コンピュータエンタテインメント、任天堂。家庭用ゲーム機メーカーが恒例のプレゼンテーションをした。共通項として挙げられるのは・・・

ゲームビジネス その他
ユーザーの減少に苦しむケーブルテレビ大手コムキャスト
  • ユーザーの減少に苦しむケーブルテレビ大手コムキャスト
  • 任天堂ブースの様子
  • カンファレンスで、大歓声で迎えられたソニー平井社長
  • 幅広い映像ラインナップを誇ったマイクロソフトのプレスカンファレンス
今回のE3開催以前から、世界のゲーム産業におけるXboxの株はじわじわと上がり続けていた、との感想を持っている。

ハードウェアの販売台数だけではない。今後の展望がしっかりと見えているからだ。Xboxの開発段階のコードネームは、DirectX based Console Machineと呼ばれていた。つまり、Windows PCで開発でき、将来はPCでも遊べることが念頭に置かれていた。また、ビル・ゲイツは1994年にラスベガスで開催されたコムテックス(COMDEX)で、インターネットに接続されたオン・デマンド型のテレビの登場を予見しており、セット・トップ・ボックスの必要性を基調講演で訴えていた。

すなわち、Xboxは生まれながらにして、ソフトウェアはPC上で稼働し、ハードウェアはテレビの外部接続端子につなぐのではなく、テレビそのものを制御する装置という設計思想を持っていたのだ。

今回のE3で発表された音楽配信、映画配信、ESPNの番組の拡充、Bingと連動した動画の音声検索、現行Xbox360ソフトのPC、スマートフォンへの対応は、あらかじめ決められた路線を走っているようで、特に驚きはない。驚きがないと同時に、ブレのなさを感じた。任天堂は変わったのが強み、マイクロソフトは変わらないのが強みという対比的な見方もできる。次世代のXboxは「何をすればいいのかが明らか」という点では、他プラットフォームよりも優位な地位にあるというのが個人的な見解だ。

ビル・ゲイツが来日した際に、複数名を囲んでディナーをともにしたことがある。同席していた、ある大手サードパーティの社長が尋ねた。「マイクロソフトはどこまで本気にゲーム事業をするつもりなのか?」と。ゲイツ氏はやや顔をこわばらせたあと、気を取り直してからこういった。「Xboxはロングタームで考え、本気で取り組む事業です。たとえXboxが負けたとしてもZboxで勝利するでしょう。XYZ、Zは第三世代の意味です。MS-DOSも、Windows(3.1)も改良を重ねて第三世代で開花しました」。次世代のXboxはまさにこの会話に登場したZboxにあたる。

●One SONYへの道

大きなトピックスがなかったプレイステーション。今年は体制準備の年で、来年のE3で次世代のプレイステーション4を発表するのではないだろうか。Xboxの次世代機がメディアボックスとなるならば、メディアステーションの性格を帯びて市場で激突するだろう。

SONYには、ゲーム、映画、音楽のコンテンツが豊富にある。モバイル事業も、ネットワーク事業もある。音と映像にかかわるありとあらゆるデバイスもある。これらを生み出す人材もいる。しかし、ハワード・ストリンガー前社長が「サイロ」と呼んだように、これらがそれぞれ壁を立て、グループ内で連携できないのが重要な企業課題である。平井新社長は、垣根を払ってひとつのソニー、One SONYにすると指針を打ち出している。

私は岩田社長が示した任天堂の変革路線を強く支持するが、ある意味でハードルを乗り越えるのは簡単だ。任天堂はもとからOne Nintendoだからだ。任天堂ピクチャーズや、任天堂ネットワークエンタテインメントや、任天堂ミュージックエンタテインメントや、任天堂マーケティング・オブ・ジャパンという企業はない。つくっているハードウェア製品も、ニンテンドー3DS、Wiiと指で数えられる範囲内である。

SONYは持っているがゆえの悩みを抱えている。だが、One SONYが実現したならば圧倒的な強みを示す。次世代のプレイステーションが勝つためには‥‥もう少し洗練させた言い方をすると、社会に存在する意味を持つためには、ハードウェアの性能よりも何よりもOne SONYの達成が重要だろう。

つまりプレイステーションの将来は、製品やサービスの形はマイクロソフトと似ていて、企業改革のひな形は任天堂にある。そんな見方をしながらE3エキスポ2日目を迎えている。 

私ごとになるが、今回の出張でちょっとしたトラブルがあった。
飛行機内で読書するために、SONY Readerを持参した。E3開幕前夜、読みかけの小説を読んでいたら眠ってしまった。愛用しているSONY Readerは枕の下にもぐり込んでいた。

取材を終えてホテルに戻るとSONY Readerがなくなっていた。ハウスキーパーが枕元に置いたチップとともに、持ち帰ってしまったのだ。私はフロントに行き、盗品のレポートを書くことになった。翌日、ハウスキーパーはチップと勘違いしたと謝りながら、私の持ち物を返しに来てくれた。ボスから怒られたのか、あまりにも落ち込んでいる彼女に、SONY Readerのページめくりをしながら、「これはいい製品だ」と声をかけて目にやさしい電子ペーパーの画面を見せた。

ロスアンゼルス在住のメキシカンと思われる彼女は、「SONY is great!」と何度も言っていたのが、この原稿を書いている約7時間まえのできごと。世界のSONYのブランド力は強いのだ、という余韻が残っている。

■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuH、Facebookアカウントはhttp://www.facebook.com/hisakazu.hirabayashiです。
《平林久和》
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