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見向きもしなかったのは海外ファンか、それとも。・・・イバイ・アメストイ「ゲームウォーズ 海外VS日本」第15回

先日LAで開催されたE3では、任天堂の新ハード『Wii U』やクリスタル・ダイナミクス・チームによる『トゥーム・レイダー』最新作のプロモーションビデオなど、注目作が数多く発表され、世界中のプレイヤーは例年に負けず劣らず、心を躍らせた。

ゲームビジネス 開発
ゲームウォーズ 海外VS日本」はゲームのローカライズを行うアクティブ・ゲーミング・メディアのイバイ・アメストイ氏による連載です。

先日LAで開催されたE3では、任天堂の新ハード『Wii U』やクリスタル・ダイナミクス・チームによる『トゥーム・レイダー』最新作のプロモーションビデオなど、注目作が数多く発表され、世界中のプレイヤーは例年に負けず劣らず、心を躍らせた。しかし、残念ながら、それら期待されているタイトルは、欧米の開発者と販売元のものばかりであり、驚くべきことに日本で非常に人気のある作品を発表している大手開発会社のブースには人が集まっていたとは言い難かった。

PS3などにおいては、時に数億円もの開発費が費やされる昨今のゲーム開発事情。当然、日本国内の開発会社は日本を市場にするだけではなく、世界を市場にしていくことも考えている。今や国産ゲームの欧米バージョンが発売されることは珍しいことでも何でもない。にもかかわらず、今回のE3においては、日本のゲームは世界市場に(少し言葉は乱暴であるが)見向きもされなかったのである。

マリオはもちろん、ポケモン、バイオハザード、ファイナルファンタジー、メタルギアソリッドなど、これまで数多くの国産ゲームが世界中で喝さいを浴びてきたはずである。とうとう日本は過去の大国となってしまったのだろうか?

以下は日本国内における2010年の売上トップ5※である。(※アスキー総合研究所より)

1位 ポケットモンスター ブラック・ホワイト
2位 モンスターハンターポータブル3rd
3位 NewスーパーマリオブラザーズWii
4位 Wii Party
5位 ドラゴンクエストVI 幻の大地

一方、こちらは北米における2010年の売上トップ5※だ。(※NPDより)

1位 コール・オブ・デューティ:ブラックオプス
2位 マッデンNFL
3位 Halo: Reach
4位 NewスーパーマリオブラザーズWii
5位 レッド・デッド・リデンプション

当然、国内と北米で発売時期の差はあるにせよ、ラインナップは『Newスーパーマリオブラザーズ Wii』が共通するのみであり、ヒットする作品も違えば、その内容・カテゴリーも全く違うことがうかがえる。その違いについて少し考えてみたい。

■ゲームの自由度の違い

北米でヒットしている作品に目を向けると、多くの作品で自由度の高さに重きを置いている。『KotoR』、『Deus Ex』、『Dragon Age』など、欧米ゲームの多くは豊富な種類の状況や選択肢が用意されており、プレイヤーはただひとつのストーリーを辿るのではなく、ストーリーを自らつくっていけるような選択させる仕組みになっている。それはサブストーリー的に付属するものにとどまらず、メインのシナリオ展開を大きく左右する重要な選択もあり、ゲームコンセプトの基盤となっている。この仕組みは、プレイヤーのモチベーションを高くキープさせ、ゲームを繰り返し楽しむことができるようになる。北米のシングルプレイ型ゲームでは、もはや当たり前の仕組みであり、多くのゲームファンから“一本道ゲーム”という意見が寄せられた『FF13』が世界でヒットしなかったのは、ある意味当然のことだと考えられる。

今、自由度という点で大きな注目を集めているのは、インディーズゲーム『Minecraft』である。ゲーム自体は極めてシンプルな作品であるが、プレイヤーはお家をつくるのもお庭をつくるのも、何をするのも自由であり、ゲーム世界はプレイヤーごとに全く異なってくる。グラフィックの面においては極めて貧弱(あえてそうしているのだろうが)でありながら自由度の高いこの作品は、世界中で200万以上のダウンロードを達成し、世界中のユーザーに大きなインパクトを与えている。

■マルチプレイは、協力か対決か。

国を問わず、オンラインによるゲームサービスはもはや目新しいことではない。世界中のゲーマーがマルチプレイを楽しんでいる、と言っても過言ではないだろう。だが、マルチプレイの内容が日本と世界では少し異なっている。

欧米では友だちや気の合うプレイヤーとの「対戦プレイ」を通じてゲームを楽しんでいる。一方日本のヒット作を見てみると、対戦要素があるものは意外と少なく、どちらかと言うと、『モンスターハンター』シリーズに代表されるように、特定の目的をいっしょに達成する「協力プレイ」が主流のようだ。別の言い方をすれば、日本のプレイヤーはゲームを通して新しい関係を築くのではなく、ゲームを通して、例えば身近な友人との関係をさらに強固にしていく傾向がある。つまり、日本ではゲームは近年コミュニケーションツールとしての側面を強めていっており、海外とはそのあたりの認識が異なるようだ。

もちろん、対戦型のゲームもあるにせよ、オンラインで対戦するのではなく、昔ながらに一つのテレビの前で肩を並べて友達や家族と楽しむパターンの方が日本では大部分を占めているのではないだろうか。

この問題は、日本と海外との生活習慣の違い(日本では気軽に友達同士で集まれるが、国土の広いアメリカではオンラインでつながり合った方が圧倒的に便利であったりする)が深く関わっているだろう。一概に日本が進んでいる、欧米が遅れている、あるいはその逆、という話では全くない。生活文化圏ごとにフィットする作品スタイルというものが存在する、というのが実際のところだろう。

■アートワークの違い

先述の『Minecraft』の事例もあるように、グラフィックはゲームのヒットを左右するメインの要素ではない。だが、ゲームに対するプレイヤーの第一印象を決定するものであるのは間違いないだろう。こちらも同様に国ごとの文化の違いがみられる。日本と欧米のゲームを比べてみると、キャラクターやゲーム世界のデザインに大きな違いがあることは一目瞭然である。

欧米の大作の多くは、徹底的にリアリズムを追及している。アメリカのアーティストは世界もキャラクターもできるだけリアルに表現しようとするが、日本のアートワークは、デザインそのものを重要視し、どれだけクールに、または面白く見えるかを追求する。欧米のゲームは、ファンタジーであっても、可能な限りのディテールにこだわって、現実的な世界をゲームに再現するが、日本のゲームは現実とはかけ離れた空想の世界を描くことにこだわる。欧米のRPGでは怪物と戦う時には、“リアル”に重たい鎧を身に着けているが、日本のRPGでは実に身軽なジャケットやコートを着ている。この違いは、日本のゲームの多くが漫画やアニメのアートワークを採用していることだけが理由ではない。同じCGによる人物造型であったとしても、やはり『トゥーム・レイダー』は海外の作品、『鉄拳』は日本の作品であることが一目でわかってしまう。

このアートワークの違いは、開発者の趣味趣向はもちろんあるだろうが、どんなデザインであればユーザーに受け入れられるか、ということも当然念頭に置かれているだろう。一般的に、日本の市場をターゲットにする場合はリアルなキャラクターデザインよりも“カワイイ”デザインの方が成功しやすいと考えられているようだ。しかし、その“カワイイ”デザインだけでは、世界でイマイチウケないのは残念ながら事実と言えよう。

■世界を見据えた作品の開発を

日本と海外で求められているゲームはこれほどまでに違う。少し傲慢になれば、「日本のゲームのおもしろさは、外国人にはわからないんだ」と嘯くこともできる。しかし、もしかしたら海外のゲームファンたちはこう思っているのではないだろうか。「日本の開発者たちは、自分たちの思いを何もくみ取ってくれていないじゃないか」と。実は、海外のゲームファンが日本のソフトに見向きもしなくなったのではなく、日本のクリエイターこそが、海外ゲームファンを見向きもしてこなかったのではないだろうか。

カプコンを例に取れば、昨年は『大神』や『ゴーストトリック』などを発表していた。ゲーム性は極めて高く、素晴らしいエンターテイメント作品であることは日本のゲームファンならば当然知るところだろう。しかし、海外向けの作品では決してないのだ。

今はもう、日本がゲーム業界の最先端を走っていた頃とは訳が違う。海外開発者たちのスキルも向上した今、ゲームの選択肢は日本産以外にもいくらでもある。もはや単におもしろい優れたものを提供し続けるだけで安易にヒット作が生まれる状況ではなくなりつつあるのは事実である(Wiiのように圧倒的に新しいエンターテイメントであれば別であるが)。日本で流行ったから、ローカライズを施して世界市場に投げてみたら、思いもかけぬ莫大な利益がもたらされた――ということはまず起こらないのではないだろうか。事実、当初から世界展開を視野に入れていたカプコンの『デッドライジング』などは国外でスマッシュヒットを記録している。

日本の開発会社は今、この問題に気付き始め、ようやく国内向けとは別に、世界に向けた作品を生み出し始めたようである。今回、先述のカプコンは『Doragon’s Dogma』『RESIDENT EVIL』など明らかに国内向けにとどまらない作品を準備し始めたのだ。

つまり、今年から来年にかけて、初めて日本が世界を視野に入れた海外向け作品が実際に発売されていくわけである。その発売を迎えた時、改めて日本のクリエイター達の真価が問われるであろう。来年以降のE3で、日本のブースが再び活気を取り戻すことを願っている。
《土本学》
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