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【今どきゲーム事情】杉山淳一:「ゲーマー用キーボード」について勉強しましょう〜単なる高級キーボードと異なる、ゲーマー向けならではの構造のヒミツとは?〜

■SACTL2008で新作キーボードを見かけて…

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【今どきゲーム事情】杉山淳一:「ゲーマー用キーボード」について勉強しましょう〜単なる高級キーボードと異なる、ゲーマー向けならではの構造のヒミツとは?〜
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■SACTL2008で新作キーボードを見かけて…

サドンアタック大会(SACTL2008)を観戦


ちょっと古い話になりますが、2008年12月21日に秋葉原で『サドンアタック』の全国大会「SACTL2008 オフライン決勝戦」が開催されました。『サドンアタック』はオンラインマルチプレイ、基本料無料、アイテム課金方式のFPSです。会場はたいへん盛り上がっており、観客席間の移動も困難なほど。近年の日本に相次いで登場した同様のFPSではもっとも盛り上がっているのではないかと思いました。決勝戦も白熱しており、手に汗握る展開そして逆転劇。観客席の皆さんと一緒になって楽しんできました。

さて、このイベントではスポンサーブースが設置してあります。この日はなぜかメイドカフェ系の出展が多くてビックリ。実は私、メイドカフェにはどうも気持ちが動きません。「中年オヤジは歓迎されないかも」とか「どうせ女の子がいる店にお金を払うならアッチのほうが…(ゲホケホ)」と思っていました。でも今回はカジノテーブルでポーカーを楽しませていただき「こんなオヤジが行ってもいいの?」「大歓迎ですよぉ」という会話で良い気分…って、何を書いているんでしょう。違う違う。今回はゲーム用キーボードのお話です。

スポンサーブースにはもちろんEスポーツ系デバイスの会社も出店していました。そのなかでもFPS用マウスやキーボードなどの「DHARMA POINT」を作っているシグマA・P・Oシステム販売株式会社さんにご挨拶。「今回は新しいキーボードを持ってきたんですよ」「え、こないだ静電容量型の「DRTCKB91UBK」を出したばかりですよね」「そうそう。今度のキーボードはチェリースイッチを採用した新型で…」、「いやちょっと待って。こないだ僕は静電容量式に感動して、これがベストだって記事を書いたんですよ。それで今度は違う方式だなんてひどいっす」、「いやいや、キーボードは奥が深いんですよ。いろんな人の好みがありますから…」というわけで、後日、キーボードについてしっかり勉強させていただくことにしました。

■メカニカル式とメンブレン式

まず、キーボードにはどんな種類があるのでしょう。102キー、109キーなどと、キーの数による分類もあるし、「メカニカルキーボードが好き」とか「メンブレン式だから安いよ」という話も聞いたことがあります。まずはキーの構造に焦点を当ててみます。

まずはキーの構造による分類です。「メンブレン式」と「メカニカル式」があります。「メンブレン式」とは、キーの下に薄い膜を2枚敷く方式です。膜には通電する回路が印刷されています。キーを押すと、膜が触れあって通電するため、キーが押されたと認識されます。これに対して、「メカニカル式」は膜を使いません。キーの裏に通電する接点を作り、それが基盤上の接点に触れることでスイッチが入ります。なお「無接点静電容量式」というのもあり、これはメカニカル式の発展型です。金属を近づけると電圧を加えると静電容量が発生します。金属間の距離を変化させると静電容量が変化し、その差を検知してキーが押されたと検知します。簡単に言うと、電極が接触しなくてもスイッチが入るよ、という仕組みです(図1)。



パソコンのキーボードは当初、メカニカル式が主流でした。ほとんどの電子英文タイプライターがメカニカルスイッチを採用していたためです。その後、耐久性を重視した静電容量無接点式が登場しました。その後、メンブレン式が登場すると、キーボードが大幅にコストダウンできるようになります。こうして市販PCでは最初から付属するようになり、メンブレン式キーボードが主流になりました。メンブレン方式は基盤や接点膜を印刷して作れます。キーと膜の間も一枚のゴムで整形できます。したがって、安価に大量生産できるというわけです。図を見ると、いかにもメカニカル式は手間がかかり、高価になるだろうなと想像できます。

■タックタイプとリニアタイプ

次にキーを押した感触による分類です。タックタイプとリニアタイプがあります。タックタイプは「押し続けるとペコンとなる」タイプです。最初は反力が強いのに、押し続けると何かを乗り越えて軽くなる感じ。そう、メンブレン式のほとんどのキーがタックタイプです。なぜかと言うと、それがキーを支えるゴムの特性だからです。リニアタイプはペコンとしません。押し続けても一定の反力で、ギューっとした印象です。キーストロークが浅いと、キータッチするたびにコンコンと指に響きます。リニアタイプのキーボードはほとんど見かけなくなりました。NECのPC8001やPC9801の初期型に採用されていましたが、それをご存じのかたは私と同じかそれ以上のオッサンです(笑)。

キートップを外したところメカニカルキーを分解。金属バネとコイルバネとプラスチック部品
黒い部品がリニアタイプ、茶色い部品がタックタイプ。下の紙のグラフが押した長さと反力を示しますプラスチック部品の違いを見る。赤丸部分の形状でリニアタイプとタックタイプの差が出る


タックタイプとリニアタイプの反力は、コイルバネと金属バネ、プラスチックの形状で変更できるそうです。上の写真はドイツのチェリー社のキースイッチです。黒いパーツがリニアタイプ用、茶色いタイプがタックタイプ用です。実は「DHARMA POINT」の2作目のキーボード「DRTCKB102UBK」はリニアタイプで作られました。リニアタイプのキーボードの新製品はとても珍しいそうです。



図2はメンブレン式とメカニカル式、タックタイプとリニアタイプでキーボードを分類した図です。バネの反力などを考慮すると、これより細かく分けられますが、キータッチについては大きく分けて6タイプになります。自分の好みのキーボードを表現するときに活用してみてください。

■“同時押し対応”ってどういうこと?

ゲーマー用キーボードについて語るときに、もう1つ大切な要素があります。「同時にすべてのキーを認識できるか」です。専門用語で言うと「Nキーロールオーバー」です。Nには数字が入ります。3キーロールオーバーと言えば3つのキーを同時に押せます。6キーロールオーバーでは6キーを同時に押せます。30キー同時押し対応とか、全キー同時押し対応というキーボードを見聞きしたこともあると思います(もっとも、全キー同時押しというのは大げさな表現です。全文字キーならわかりますが、すべてのキーを同時に認識させても、CtrlキーとAltキーとDelキーを同時に押すと…タスクマネージャが起動してしまいます。さらに押し続けるとリスタートです。あんまり意味がありません)。

普及タイプのキーボードのほとんどは3キーロールオーバーだそうです。3番目のキーまで認識し、4番目のキーは無視します。でも、それだとFPSでは困ります。たとえば、Shiftキーで「しゃがみ状態」を維持し、WキーとDキーで斜め右に這って前進するとします。そろそろ敵が来そうだな。弾薬をリロードするか、とRキーを押すと…Rキーは4番目に押されているため、認識してくれません。移動の方向を制限するか、しゃがみ状態を止めなくてはいけません。これ、意外と不便ですよね。6キーロールオーバーくらいにしてくれないと。いや、いろいろな状況を考えると、Nキーロールオーバーにしてほしいです。

ところで、どうして同時押しキーの数は制限されるのでしょうか。キーはスイッチですから、すべてキーについてPCが個別にON/OFFを認識してくれたらいいのに。しかし、これは現実的ではありません。もし、1つのキーを1デバイスとして認識させると、109キーボードの場合、キーボードから109本かそれ以上のケーブルが伸びて、PC側にも109本以上の端子を用意しなくちゃいけません。いやいや、これは頭が悪すぎます。そもそも、人間の指は10本です。通常、10個以上のキーは押せません。タイピングの上手い人はキーボードの処理能力を超えてしまうそうですが、それでも20キー程度の同時押しでOK。

では、キーボードが少ないケーブルでどのようにキーを区別しているのでしょう。それは、マトリックス方式というアイデアが使われています。図で説明しましょう。



参考例なので実際のキー配列とは違います。このように、キーボードの各キーについて、縦と横の1つの信号線が張られています。電流は横線の部分に左から右へ、電流線の上から下へと流れます(図3左側)。

ここで「A」キーを押します。すると、電流はAのスイッチで縦に流れて、Aが押されたと認識されるわけです(図3右側)。こうすると、マトリックス配列でたくさんのキーボードを座標信号で認識できるわけです。上手いことを考えたものですね。



次に「B」キーを押します。すると、電流はBのスイッチで縦に流れて、Bが押されたと認識されるわけです。つまり、AとBの同時押しです(図3左側)。さらに「E」キーを押します。2本目のラインの電流と左から1番目の電流を検知しているので、Eが押されたと認識されています。ここまで、AとBとEの同時押しが認識されたわけです…と思いますよね。実は、そこに落とし穴があります。上から2番目と左から2番目の両方が通電すると、「F」キー部分にも電流が流れてしまい、Fが押された状態を擬似的に作ってしまいます(図4右側)。

この4番目のFを検出する現象を「ゴースト」と呼びます。押していないキーを押したと認識されてしまうわけで、これは厄介な話です。この現象を回避する簡単な方法として、4番目に押されたキーを出力しないように回路を通します。キーボードはキーを押すとそのキーのMake信号を出し、キーを離すとBreak信号を出します。そこで、Make信号とBreak信号の数を比較して、Make信号を3つ受け付けたあとは、Break信号が来るまで4つ目のMake信号を受け付けないわけです。これが3キーロールオーバーの仕組みです。

ゴーストを回避する別の方法もあります。それは、各キーを結ぶ回路に、電流の逆流を防ぐダイオードを仕込む方法です。この方法はゴースト電流をストップできるため、事実上、すべてのキーを正しく独立して認識できるようになります。しかし、回路上にキーの数と同じかそれ以上のダイオードを設置しなくてはいけません。その手間から予想できるように、ものすごくコストがかかります。

6キーロールオーバー、10キーロールオーバーというキーボードは、基盤の回路の設計とダイオードの設置数によって調節しています。ここがキーボード設計者の腕の見せ所といったところでしょうね。しかし、FPSゲーマーとしてはすべてのキーの同時押し、つまり、Nキーロールオーバーを実現したい。そこで、あらゆるキー周りにダイオードを設置して作り出されたキーボードが、新製品の「DRTCKB102UBK」だということでした。

「基盤に張り巡らされたダイオードを見たい」とお願いしてみましたが、狭い空間と込み入った配線上にダイオードを組み込んだため、外観上は美しくないそうです。造りが雑だと誤解されるおそれがあるとのことでした。「DRTCKB102UBK」をお持ちのかたはぜひ分解して…いや、精密な機械を壊すといけません。けしてフタを開けないように。サポートの対象外になるかもしれません。

キー周りに張り巡らされたダイオード


■テンキーが復活した理由とその他のこだわり

「DRTCKB102UBK」


「DRTCKB102UBK」は外観上も前作の「DRTCKB91UBK」とは異なります。最大の違いはテンキーを備えていること。FPSユーザには「マウスとWASDキー周りさえあれば良い、したがってテンキーはいらない」というユーザも多いのです。なぜテンキーを復活したのか。その理由は「マクロの登録とチャットのユーザに配慮した」そうです。キーボード自体にマクロキーなどの独立したキーはありませんが、ゲームソフトやチャットツールによっては定型文を登録する機能があります。そのためにテンキーという形でキーを増やしたとのこと。「Shiftキーを押しながらテンキーを押せばカーソルキーやHomeなどの機能が使えるという魅力もあった」そうです。

しかし、右手をマウスに割り当てる以上、キーボードの幅は小さいほうがいい。そこで、ゲーム中に邪魔なWindowsキーとアプリケーションキーを削除。右側のAltキーもありません。しかし、左のCtrlキーは大きくなっていて、これは武器選択などで使い勝手が良さそうです。私としては、ファンクションキーが4つずつ別れていることを高く評価します。最近のおしゃれなキーボードはファンクションキーが等間隔になってしまい、位置がわかりにくいです。カウンターストライクで武器を買うときに不便だし、日本語入力でカナ/かな/半角変換をするときも不便。しかしこのキーボードはファンクションキーが離れています。チャットに配慮した、という説明は、この部分だけでもよくわかりました。

また、キーの保持方式にもこだわりがあります。一般のキーボードは基盤にキーのメカを載せています。しかし「DRTCKB102UBK」では、基盤の上に鉄板を浮かせており、その鉄板にキーを取り付けています。このアイデアによって、激しいタイプでも基盤への影響を減らします。また、鉄板はキーボードの補強や、机の上でズレないようにする重しの役目も持っています。

まだまだキーボードの技術的な話は奥深いのですが、これ以上は私にも難しかったので(笑)、今回はこのへんで。わかったことは、ゲーム用キーボードは普及品のキーボードの10倍以上の値段だけど、それなりの理由はあるんだな、ということ。そして、キーボードには正解が無く、使う人の好みによってベストな選択があることでした。

「DHARMA POINT」チームによると、メンブレン方式も否定したわけではないそうです。「メンブレン式のメリットは、信号の収束が早いこと。それはキーの連続入力に効果があるんですが、うーん、実はそこまでキーの速度に追いつける人間がいない(笑)」そうです。やはり安価であることが魅力。

「実は、SACTLの会場で、小学生の男の子が『DHARMA POINT』を気に入ってくれたんですよ。パパにねだったけどダメだと言われて、でも、また家族でやってきてもう一回おねだりする。子どもさんでもカッコイイと思ってくれたんだと思うと嬉しかったですよ。だから、小中学生にも手が届く『DHARMA POINT』、『DHARMA POINT』ならではのメンブレン式、という方向性も探ってみたいです」とのことでした。
《杉山淳一》
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