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【TGS2008】世界のリーダーに返り咲く為に産業構造の転換を―CESA和田会長 基調講演

■日本は世界のリーダーではなくなった

ゲームビジネス その他
【TGS2008】世界のリーダーに返り咲く為に産業構造の転換を―CESA和田会長 基調講演
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■日本は世界のリーダーではなくなった

東京ゲームショウ初日の9日、社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長の和田洋一氏は「日本ゲーム産業新世代 世界は日本のゲームメーカーに何を求めるのか」と題した基調講演を行い、「日本は世界のリーダーではなくなった」と指摘。競争力回復には自社ですべてをまかなう垂直統合型から、広くネットワークを構築して分業を行う水平分散型へと、産業構造を転換することが不可欠だと論じました。

はじめに和田氏は「ゲーム業界が本質的な問題を抱えていることは事実だが、今までそれをストレートに言ってこなかった」と反省の弁を述べました。その上で「日本が世界を(再び)リードするためには、産業をネットワーク型にしなければならない」と展開し、これはゲーム業界だけでなく、日本の産業界全体にも言えることだと補足。それだけに根元的な問題だが、一刻も早く取り組む必要性があると強調しました。

本論に入る前に歴史を補足しておきましょう。テレビゲームは70年代にアメリカで生まれ、80年代に日本に輸入されると、「スペースインベーダー」の大ヒットやファミコンの登場など、爆発的な進化を遂げました。そして80年代後半から欧米に輸出され、まず北米、ついで欧州で大ブームとなり、90年代後半まで国産ゲームが世界市場を席巻します。しかしXboxの登場前後から次第に海外ゲームが台頭し、今ではEAやアクティビジョン・ブリザードといったメガパブリッシャーの影で、(任天堂以外の)国際的な影響力が低下しています。和田氏の弁を借りると「リーダーではなくなった」わけです。

和田氏は原因の分析に入る前に、一般的に囁かれている「日本衰退論」の諸説を切り捨てました。▽「趣味嗜好の違い」→「日本でも世界でも売れるものは売れるし、売れないものは売れない」▽「開発コストの増加」→「海外メーカーも同じ」▽「財務体質が弱い」→「日本のパブリッシャーの財務体質は強固」などです。その上で原因を「モノ作りの能力で世界を下回った」からだと分析しました。ゲーム開発力で下回るようになったから、世界で売れなくなった、というわけです。非常に平易で、かつ根元的な問題です。

それではなぜ、これまではうまくいっていたのでしょうか? 和田氏は90年代まで、ほとんどのゲーム機が国産で、ハードメーカーを中心にサードパーティ、クリエイター、アマチュア開発者、ゲームファンなどの重層的なコミュニティが存在していた点を上げました。これらは自然発生的に生まれたもので、それらが幾つかのハブを経由してつながり、極めてアクティブに機能していた点が特徴です。ホビーパソコンの文化が、黎明期のコンシューマ市場に受け継がれた点などは、その好例だといえます。

しかし、コンソールゲームの複雑化に反比例して、日本ではPCゲームとアマチュアクリエイターのコミュニティが弱体化していきます。また業界を覆う閉鎖的な体質から、他業界や教育機関との連携も進みませんでした。その一方でマイクロソフトの参入と共に、Xboxが欧米のPCゲームコミュニティを母胎に勢力を拡大。GDCをはじめ、インテルなどのチップベンダー、ハリウッドのCG映像技術、さらにはMODコミュニティやアカデミズムなどとも結びつき、海外で新たなコミュニティとハブが形成されていきます。こうして相対的に日本のゲーム開発力が低下していった、というわけです。

「日本はゲーム業界で閉じていたのに対して、海外はオープン指向で英語圏を中心に拡大した。重層化したハブがいくつもあり、ネットワークが緊密に結びついている。その結果として、モノを作る情報量の厚みに相当の差が生まれている」(和田氏)

■ネットワーク化を阻む要因とは?

続いて和田氏は、ゲーム業界をネットワーク構造に転換するための課題として「概念の混乱」「心理的抵抗」「制度上の不整合」「実務的困難さ」の4点を上げました。

まず「概念の混乱」については、「ネットワーク構造」を一元的に捉えるのではなく、さまざまなレイヤーごとに分けて考える必要性を指摘しました。こと水平分散と言うと、企業や団体が網の目のように結ばれる一枚図を連想しがちですが、実際にはさまざまな層が存在するので、これを分けて考えなければ、議論がかみ合わないというわけです。ここでは大きく「知識基盤」「ゲーム開発」「ビジネス展開」の3レイヤーの分類が紹介されました。そして社内では商用ゲームクリエイターだが、趣味でゲームを作るなど、層をまたがる場合も少なくないとしました。

続いて「心理的抵抗」については、日本のゲーム開発者はプライドが高く、独創的なゲーム開発を好む傾向にあるが、これがコラボレーションや共有を拒む原因になっていると指摘し、一律に外部を排除していくだけでは、孤立してしまうと警鐘を鳴らしました。また、ゲーム開発者を「クリエイター」と「エンジニア」に分けて呼称することを提案し、クリエイターの分野では独創性が必要だが、エンジニアは技術の継承と蓄積が必要で、効率化も進めやすいとコメント。すべてをゼロから作り上げるだけが「クリエイティブなエンジニア」ではない、と指摘しました。

「制度上の不整合」については、法律などの諸制度がデジタルフォーマットとネットワーク時代からずれてしまった点を指摘。著作権問題が上げられましたが、ここでもレイヤーごとの切り分けが不可欠だとしました。同人活動などの「知識基盤」層で著作権を振りかざしすぎるのは問題だが、「ビジネス展開」層では著作権の厳守が必須で、必要な対策が層ごとに異なるというわけです。また下請法の問題点についても触れ、本来対等な関係であるはずのパートナー企業が、現在の法体系では元請け・下請けという関係に縛られてしまい、自由な連携が取りづらい点について苦言を呈示しました。

最後に「実務的な困難さ」については、頭では理解できていても、なかなか過去の因習から抜けられないが、「早く苦しんでノウハウを貯めたところが勝つ」と語りました。和田氏は「インターフェースの標準化の問題」と表現しましたが、オープン戦略によって自社の強みが失われる危険性もあり、過去の成功体験が大きいほど、舵が切りにくいのも事実です。しかし「中身(コンテンツ)の標準化を進めるのではなく、中身を豊かにするために共同作業が必要で、そのための(手続きの)標準化だ」と説明しました。

この後、議論は「どこからはじめるか」へと展開します。もちろん、そこで必要なのは「危機の本質を自覚する」ことで、「できるところから、すべてに着手する」ことが必要と言うわけです。「物を作る日本の土壌が痩せはじめており、相当の決意で望む覚悟が必要」と和田氏は強く指摘。CESAでもCEDECなどの取り組みを行っており、さらなる努力が必要だと述べました。また経済産業省の旗振りで昨年から実施されている「コフェスタ」(JAPAN国際コンテンツフェスティバル)についても触れ、他業界との人材交流という側面を強調。「スクウェア・エニックスの社長としては問題だが」と前置きしつつ、人材の流動性が計らなければ産業が活性化しない。そのための施策も必要という見解を述べました。

最後に和田氏は表題に戻り、世界が求めていることは「日本のゲーム業界が世界のコミュニティに積極的に関わり、かつ、自らハブとなり、すばらしいコンテンツを供給すること」だとコメントします。「時間が迫っており、あと数年後に決定的な差が開くかもしれない」とする口振りからは、近い将来に到来するであろうメニーコア時代を見据えたゲーム開発、さらには次世代ゲーム機の影も感じさせるものでした。世界の潮流から日本のゲームメーカーが取り残されないために何が必要か。過去のゲームショウで、ここまで業界トップから厳しい提言が語られたことはなく、その意味で大変意義深い内容の講演だったといえます。
《小野憲史》
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