『学園アイドルマスター(以下、学マス)』は、2024年5月16日にリリースされたアイドル育成シミュレーションゲームで、ご存知『アイドルマスター』シリーズの最新ブランドです。
そんな『学マス』の魅力は、13人のアイドルをプロデュースすることができ、それぞれ個性的な性格をしていること。彼女らを中心にした小気味よい会話劇は、プロデューサーたちを楽しませています。
そしてアイドルたちをより映えある存在へと昇華させているのが、彼女らのオリジナル楽曲です。765プロを中心にした初代『アイドルマスター』の頃から各アイドルそれぞれのオリジナル曲がいくつもリリースされ、そのバラエティの多彩さが『アイドルマスター』シリーズをより豊かなものにさせてきました。
『学マス』楽曲はより現代のポップスに連動した楽曲が多く、スタイリッシュかつ刺激的なサウンドで多くのファンを魅了しています。またYouTubeなどの動画サイトの影響で、前情報を一切知らない視聴者の目に留まり、楽曲から『学マス』を知った、興味を持ったという方も少なくないでしょう。
この短期連載では、そんな『学マス』楽曲の中でも、特にオススメな楽曲を数回に渡ってレビューしていきます。今回は、関連楽曲からロック色の強い2曲をご紹介。その良さをとことん記していきたいと思います。
◆「ENDLESS DANCE」
最初にご紹介する「ENDLESS DANCE」は、「DEBUT LIVE 初」TOUR 初陣公演にて初披露され、2025年2月8日に花海佑芽・秦谷美鈴・十王星南による歌唱ヴァージョンが配信スタートした楽曲です。
ゲーム内では、初星学園生徒会長の十王星南が初めて"一番星"(プリマステラ)となったライブで披露した楽曲とされており、一目置かれた楽曲として登場します。
2026年2月末に公開されたクレジットによれば、ギターやベースなどの演奏やプログラミングはすべてElements Gardenの藤永龍太郎氏が務め、作詞・作曲はthe cabs/KEYTALKのメンバーとして活躍する首藤義勝氏が手掛けています。
首藤氏が参加していたthe cabs/KEYTALK、両バンドの音楽性はまったく異なっており、前者は緻密なギターアルペジオと変拍子、手数とフレージングを重ねたポストロック、後者はポップかつわかりやすいメロディライン、なによりフックのあるギターリフを活かしたサウンドが魅力的です。初めて聞く方は、その違いには驚かされることでしょう。
「ENDLESS DANCE」は、後者のKEYTALKタイプの楽曲だということは一聴して分かるはず。ソリッドなギターリフのユニゾン、「全身 全霊 颯爽 登場!」と歌う部分とスネア連打をあわせ、タメてからドンッと歌うパートへ入っていき、そのあとは多彩なリズムパターンと曲構造で聴く者を楽しませます。KEYTALKの頃にみせていた躍動感がまさにこの曲にも宿っているかのようです。
これまでにも「首藤義勝」としてさまざまな楽曲を提供しており、同氏の楽曲ではこのようにキャッチーで明るいリフが、イントロからドンッと出てくるのが特徴です。KEYTALKでは首藤氏が、the cabsではギターの高橋國光氏が作詞および曲全体の構成を手掛けていたと語られていますが、同じボーカリストのロックバンドとしてはかなり好対照だといえます。
しかも「ENDLESS DANCE」が公開された2025年2月頃というと、首藤氏は長く活動していたKEYTALKを休止しており、自身のソロ活動を再開させて間もない頃でした。そんなタイミングでこうも混じりっけないKEYTALK色全開な楽曲がリリースされたので、筆者としてもかなり驚かされた記憶があります。
先日開催されたライブイベント「学園アイドルマスター The 2nd Period H.I.F選抜試験(セレクション)」2日目にも披露され、ロック色の強い「古今東西ちょちょいのちょい」「仮装狂騒曲」とともに演奏。そのアッパーなエナジーで会場を大いに盛り上げていました。
6月6日~7日に開催の『学園アイドルマスター The 2nd Period Hatsuboshi IDOL FESTIVAL』でも初日の公演で披露され、アリーナ会場をバッチリと盛り上げました。今後も複数メンバーで披露されるであろう名曲といえます。
◆「サンフェーデッド」
『学マス』のロック調楽曲には先程のようなダンサブルで踊らせる楽曲だけでなく、より疾走感が強く、遮二無二になってギターを掻きむしるような曲もあります。厚みのあるギターサウンドに当てられ、徐々に自分の輪郭や存在が霞み、失われていくような感覚を訴える。この「サンフェーデッド」はそういった類の楽曲です。
作詞・作曲を務めたのは、2010年代後半から現在にかけて日本のインターネットミュージックから登場した長谷川白紙氏です。それも、電子音楽×ジャズと称された特有のミュータントミュージックではなく、これまで楽曲として表現することが少なかったロックサウンドでした。
ベースには京都出身のロックバンド・本日休演の有泉慧氏、ドラムには長きにわたって日本ジャズシーンでドラムスを叩き続けた芳垣安洋氏、そして本曲の顔ともいえるギターを弾いているのはソロアーティストとしても活動する細井徳太郎氏です。
ディストーションなどのエフェクターをかけすぎたガシャガシャなギターサウンドに、芳垣のドラミングはあまりにも音が太すぎかつ音圧が高すぎて若干割れ気味。篠澤広のボーカルが終われば、今度は細井氏による悲鳴のようなギターソロが炸裂します。約3分ほどのノイズ感あふれるオルタナティブ・ロック、その衝撃に面食らい、虜となったファンは多いことでしょう。
90年代でいえばPixies、Sonic Youth、Dinosaur Jr.などを遠景が感じられるパワフルなサウンドで、篠澤広の“か細い歌声”はかき消されて、いまにもここからいなくなってしまいそう……そういった儚げなイメージを掻き立たせるのが狙いに感じられます。
こういったサウンドを聞くと、昨今ではシューゲイザーだという方も多く見られます。シューゲイザーとは、80年代中期頃にイギリスで生まれたロックサウンド・ジャンルの1つ。フィードバック・ノイズやディストーションを深くかけた強烈なギターサウンドを、何重にもかけて独特の浮遊感を感じさせるギターサウンドが特徴です。
ですが、当時のイギリス出身シューゲイザーバンドのなかで、ここまで速いリズムを志向するバンドと楽曲はほとんどありません。もうすこしゆったりしたスローな楽曲が多く、当時のイギリスのドラッグカルチャーと密接に繋がっています。
つんざくような(突き破るような)ノイジーなギターサウンドに、太く硬いドラムスは、先にも書いたようなDinosaur Jr.やSonic Youth、彼ら以降のグランジバンドに近いように感じます。この時代(80年代~90年代)のノイズやローファイサウンドは、マルチトラック・レコーダー(カセットテープ)を使った安価かつ悪環境での録音によって生まれる、自然なノイズ感です。
ですがこの曲の場合は、音圧が高すぎる/エフェクトをかけすぎてるがゆえのノイズサウンド。その鋭利なサウンドで聞くものを刺してやろうというくらいのエナジーがあり、とても現代的なノイズサウンドだといえます。
このノイジーなサウンドからは、2010年代末から現在にかけてインターネット・カルチャーで流行したハイパーポップからの影響がうかがえます。
イギリスの音楽プロデューサーであるA・G・クック、彼が主宰をつとめたネットレーベル・PC Music、そこから音源をリリースしたSOPHIE、2024年にアルバム「brat」で大ブレイクしたCharli XCX。ほぼ同時期にアメリカで活動をスタートさせた100 gecsらが代表的アーティストです。
オートチューンをかけたエフェクティブなボーカル、ベースやシンセサイザーにコンプレッサーやディストーションをかけたサウンドなどがありますが、なによりも特徴的なのは、以前のポップスに比べて輪をかけて”過剰”であること。
パソコン上の制作ソフト(DAW)上でクリッピングやコンプレッサーなどをうまくつかい、独特なノイズサウンドを生み出しています。本来ポップスといえば耳馴染みの良い優しげな音がメインですが、過剰かつ誇張すぎるほどのトガったノイズ感がハイパーポップではキモになります。
彼らから発展し、より過激に、より激しさをもとめたサブジャンルも発展。そのなかには、『学マス』に起用されているトラックメイカーらとも近しいhirihiri氏やgaburyu氏もおり、先日リリースされたリミックスアルバムにも両名が揃ってリミックスを担当しています。(hirihiri氏はPAS TASTAの一員として参加。しかも篠澤広の楽曲をリミックスしている)
篠澤広の「サンフェーデッド」はロックバンドの音作りとなった楽曲ですが、その音にはハイパーポップを通過した後のロックバンド、というニュアンスが感じられます。
パンクのようなバンドアンサンブルで、ハイパーポップが脳裏にちらつく音割れのノイズサウンドが疾走していく。いわゆるゲームソングやキャラクターソングとして出すにしても攻めすぎなくらい音像で、あまりこういったタイプの楽曲に触れていない方々にはショッキングな楽曲だったといえるでしょう。
本来いちばんキモになるはずのボーカルが聞こえないほどに、あまりにうるさくノイジー。その質感は低体温で、ダウナーで、ソリッド。篠澤広の消え入りそうなオーラを表現した素晴らしいプロダクションといえます。
『学マス』楽曲のなかでも他にない無二の魅力を持ったこの曲は、本作の音楽がいかなるものかを十全に教えてくれる楽曲といえるのではないでしょうか。
『学園アイドルマスター』は、スマホ(iOS/Android)/PC向けに基本プレイ無料(アイテム課金制)で配信中です。詳しくは公式サイトをご確認ください。







