2026年10月16日全世界公開予定の人気格闘ゲーム『ストリートファイター』の新作映画、その名も「ストリートファイター」は、1990年代を舞台としたアクション映画です。
ドラマ「ツイステッド・メタル」を手掛けた日系アメリカ人のキタオ・サクライが監督、「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」(2025)のダラン・ムッソンが脚本を務めます。
イベントや一部の国で限定的に上映された「ストリートファイター 暗殺拳」(2014)を除けば、一般的に劇場公開された作品としては「ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー」(2009)以来、17年ぶりの映画化。日本産格闘ゲームの映画化としても、「ザ・キング・オブ・ファイターズ」、「TEKKEN -鉄拳-」(共に2009)と、同じく17年ぶり(ケイン・コスギ主演の「鉄拳 Kazuya's Revenge」(2014)は劇場映画ではないため)となります。
注目すべきはキャラクターの多さで、リュウやケン、春麗、ザンギエフ、豪鬼……といったメインキャラクターだけではなく、マニアック過ぎるチョイスとして、初代『ストリートファイター』のジョーや『ストリートファイターV』のモブキャラ、ドン・ソバージュまで登場しますし、まだシークレットにされているキャラクターもいるかもしれません。

そんななかで、インド代表のダルシム役に、ボリウッド俳優のヴィドゥユト・ジャームワール(Vidyut Jammwal)が決定したことが話題になっていましたが、2025年12月12日には、それぞれのキャラクタービジュアルが解禁となったことで、さらなる注目を集めました。
インド映画やヴィドゥユトのファンは、いつものルックスを活かしたキャラクター造形になっていて、ダルシムといえどもスキンヘッドではないだろう~と思っていたからです。それが、思った以上にゲームに忠実ルックになっていたことには驚かされたことでしょう。しかも予告編では、一瞬、ぬるっとした動きをしており、ゲーム同様に手足を伸ばしそうです。

インド国内でも『ストリートファイター』シリーズはゲームの知名度が高いですが、ダルシムに関しては、ステレオタイプ過ぎるデザインとして、あまり好まれていないのが現状なだけに、ヴィドゥユトは、キャラクター像をアップデートしてくれるのでしょうか……。
そんなダルシムといえば、初実写映画化の「ストリートファイター」(1994)では、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(1984)や「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」(2005)などのアメリカ・イギリス映画において、ステレオタイプなインド人を演じ続けたロシャン・セスが演じていました。それを考えると、今作においても、アメリカやイギリスのインド系俳優を起用することもできたはずです。
例えば、「モンキーマン」(2024)のデヴ・パテルや、パキスタン系ではありますが「エターナルズ」(2021)のキンゴ役、クメイル・ナンジアニのように、肉体改造を行った俳優は何人かいます。だとしたら、どうして、ヴィドゥユトがキャスティングされたのでしょうか……。

それはヴィドゥユトの武術に対するストイックな姿勢を知ると納得できるはずです。
ヴィドゥユトは、今作でハリウッドデビューとなりますが、インドの俳優がハリウッドに進出する流れは、今や珍しいことではありません。むしろこれから活発化していくことでしょう。
今まで、どういったインドの俳優がハリウッドデビューを果たしたかというと、例えばジョナス・ブラザーズのニック・ジョナスと結婚したプリヤンカー・チョープラーは有名です。「クワンティコ/FBIアカデミーの真実」(2015-18)では、アメリカドラマでインド俳優として初めて主演を務めました。
それ以降も「マトリックス レザレクションズ」(2021)や「ヘッド・オブ・ステイト」(2025)といった、多くの作品に出演し、次に続くインド俳優がハリウッドデビューする架け橋となり、アカデミー賞においては、インド映画の知名度を高めるために上映回を主催するなど、表に出ていないものも含めると、ハリウッドにおける功績は輝かしいです。
ほかにも「華麗なるギャツビー」(2013)にアミターブ・バッチャンが出演していたり、「トリプルX:再起動」(2017)にディーピカー・パードゥコーンが出演していました。神経内分泌腫瘍が原因でコロナ禍に亡くなってしまいましたが、イルファン・カーンは名バイプレイヤーとして「アメイジング・スパイダーマン」(2012)や「ジュラシック・ワールド」(2015)といった、メジャー大作で存在感を残しました。
ちなみに「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019)のルッソ兄弟はインド映画のファンで、「タイラー・レイク -命の奪還-」(2020)や「グレイマン」(2022)といった自身の作品には、インドの俳優をキャスティングしていますし、今年公開予定の「アベンジャーズ/ドゥームズデイ」においても「グレイマン」に出演していたダヌシュを再キャスティングしようとしていた情報があります。結果的にスケジュールの都合で見送られたものの、ほかのインド俳優が出演している可能性は高いです。
それはさて置き、このヴィドゥユト・ジャームワールという俳優、1000以上のファッションショーでモデル経験もある、ただのイケメン俳優ではありません。
もともとヴィドゥユトは、俳優を志す前から、南インドのケーララ州発祥といわれる、ヒンドゥー神話におけるシヴァ神の戦闘スタイルを取り入れた、古武術カラリパヤットを3才から習っていました。しかも俳優になった理由が、世界に武術の魅力や楽しさを知ってもらいたいという、筋金入りの肉体派なのです。
ヴィドゥユトの代表作はいくつかあるのですが、唯一日本でリリースされた作品でいうと「ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル」(2019)があります。同作は、「マスク」(1994)や「イレイザー」(1996)の監督として知られるチャック・ラッセルが手掛けたインド映画。そのなかで、独自のアレンジを加えたカラリパヤットを披露しています。
しかもリスペクトするのは、ジャッキー・チェンということもあり、ヴィドゥユトのアクションスタイルには、ユーモアが欠かせません。
もともとインドのアクション映画のアクションシーンには、70~80年代に中国・香港映画が多く輸入され、インドの複数言語による吹替え版が地方の映画館でも上映されていたり、ケーブルテレビの放送が流れてきていたこともあって、ジャッキーやブルース・リー、リー・リンチェイ(ジェット・リー)などといった、俳優たちのアクションスタイルによる影響が強く反映されています。
そして、ヴィドゥユトのアクションは、「マッハ!!!!!!!!」(2003)などで知られるトニー・ジャーへのノスペクトもあるのですが、一番のリスペクト先は、断然ジャッキー・チェンです。リスペクトし、影響を受けていることが様々な作品から感じられますし、自らも認めています。スタイルはもちろん、危険なアクションも自らこなすスタンスもジャッキー的といえるでしょう。
ヴィドゥユトの代表的なアクション映画シリーズに「コマンドー」という作品があります。
同シリーズは、もはやヴィドゥユトのスタントがなくては成立しませんが、「Commando 3」(2019)からは、「ポリス・ストーリー/レジェンド」(2013)や「ライジング・ドラゴン」(2012)などで、実際にジャッキーのスタントチームとして参加していたアンディ・ロング・グウェンがアクション監督として参加しており、「コマンドー」シリーズ以外にも「Sanak」(2021)や「Khuda Haafiz」(2020)といった作品でも、アンディとタッグを組んできたことで、年々、ジャッキー色が増しているのを感じます。
近年は、プロデューサーとしても作品に参加するなど、多方面での活躍が注目されています。そして最新作は、2025年9月に公開された、A・R・ムルガダース監督作「Madharaasi」です。「ジガルタンダ・ダブルX」(2023)や「K.G.F: CHAPTER 1」(2018)といった南インドのスタントコーディネーターのアルン・ヤダフとのタッグによる、少し違ったヴィドゥユトのアクションは大注目です。
インド国内では、文句なしのアクション俳優ではあり、アクションに対するストイックな部分では一目置かれる存在として君臨していますが、世界的にも「コマンドー」シリーズ以降は、知名度が上昇中です。
「メダリオン」(2003)や「イップ・マン 完結」(2019)といった、カンフーアクション映画やマーベル映画への出演経験もある俳優兼スタントマンのスコット・アドキンスが世界のアクションスターを紹介する番組「The Art of Action」では、スティーヴン・セガールやキアヌ・リーブス、トニー・ジャーといった、名だたる俳優に並んで紹介されており、現時点でインドの俳優で紹介されているのは、ヴィドゥユトのみです。
つまり、世界のアクション界隈では、ヴィドゥユトは前々から注目されていた俳優だったのです。
「ストリートファイター」の主演によって、今まで知られていなかった界隈にも名が知れ渡ることになります。ヴィドゥユトにとって、ハリウッドデビューは、逆に遅すぎたのかもしれません。










