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問題は「ライブ配信」にアリ?ゲームコミュニティが差別と決別するために考えるべきこと…

プロeスポーツプレイヤーによるライブ動画配信中の暴言が問題になっています。単なる個人の問題ではなく、eスポーツ業界全体が発展していくために解決すべき課題として、論点を挙げて考えてみたいと思います。

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今、eスポーツ選手の暴言が問題になっています。『鉄拳』シリーズのプロeスポーツプレイヤー・たぬかな選手は、ライブ配信中に背の低い男性を揶揄して「170はないと、正直人権ないんで」などと発言し、大きな問題となりました。結果的に彼女は、2022年2月16日にスポンサードされていたRed Bull Gamingから、そして2月17日に、所属するeスポーツプロチーム「CYCLOPS athlete gaming」から契約を解除されてしまいます。

また2022年5月2日には、『PUBG MOBILE』で活躍するSaRa選手が、所属するeスポーツプロチームの「REJECT」から2022年12月末までの選手活動停止、当該期間内の報酬全額カット、社会奉仕活動への参加といった処分を下されることに。SaRa選手はチームのライブ配信中に、配信していることに気がつかず、「なんでそこクリアリングするの、障害者やろマジで」と発言し、チームメイトに「SaRaさん、配信つけてるよ」と注意を受けました。これがやはり差別的発言として大きな問題となり、前述した本人への処分のほかに、所属するチームも『PUBG MOBILE』のプロeスポーツリーグであるPUBG MOBILE JAPAN LEAGUEから制裁金100万円の処分を受けています。

2つの出来事は、もちろん本人の問題が大きくありますが、eスポーツ業界が抱える問題、今後発展する為に解決するべき課題を浮き彫りにしたものでもあります。この記事では、これらの例を参考にしながら、業界全体が抱える課題として、いくつか論点をあげながら整理したいと思います。

■ゲームコミュニティにおけるスラングと匿名SNS

たぬなか選手が口にした「人権ない」という言葉は、ゲームのオンラインコミュニティーの中で目にすることがあるスラングです。強力なアイテムや、キャラクターなどを持っていないと、対戦でそもそも勝負の土俵に上がれていない、あるいはゲームを攻略する前提ができていない、というような意味で、「人権ない」と言う場合があります。

また、ゲームがうまくない人や、よく理解できていない人を指して、障害者、あるいは障害児の読みの後ろをとって“ガイジ”、知的障害者をさして“チショウ”、文字で書く場合に当て字で“池沼”などと表記する場合があります。

言うまでもなく、差別的な文脈でこのような言葉を使うべきではありません。ガイジ、池沼といった言葉は、言葉自体に侮蔑のニュアンスが込められていて、本来であればこの場に書くのも憚られるところですが、問題提起のためにあえて書かせていただきました。

ソーシャルゲームのプレイヤーが、クリアするのに必要なキャラクターを「人権キャラ」と呼ぶなど、「人権ない」はゲームと強く結びついている言葉ですが、オンラインで蔓延る差別のスラングは、必ずしもゲームが原因というわけではありません。どちらかと言えば、匿名でSNSやオンライン掲示板に投稿する人が、自分の身元が分からないから口汚いスラングを気軽に使う、という場面が多く、広がっていったものと思われます。ただしそれが、ゲームのオンラインコミュニティで使われていることも事実です。

■プロプレイヤーとしての責任と組織の教育

まず前提として、上記のような差別的な言葉は、匿名であれば言っていいというものではありません。しかし、プロのeスポーツプレイヤーであるからこそ社会的に大きな問題となった側面もあります。プロとして、企業のスポンサードを受けたり、どこかの団体に所属するということは、大きな責任を伴います。しかしその自覚がないまま活動しているプレイヤーが少なからずいるということが明らかになったと言えます。

もちろん、所属する団体の責任も問われます。選手の言動や態度がふさわしいものになるように、いわゆるコンプライアンスを徹底させる必要があります。しかもこれは、言ってはいけない言葉を避けるだけというような、表層的なものでは難しいと思われます。

■ライブ配信中に口が悪くなる問題

ほとんどの選手は、インタビューやコメントを求められるような場において、差別的な発言やスラングで受け答えをするようなことはないでしょう。これは簡単なことなのです。しかし、冒頭で紹介した事例では、ライブ配信中に問題発言が起きていました。

実は、ライブ配信中に口が悪くなるというのは、多くみられる現象です。同じプレイヤーの配信でも、編集した動画では丁寧にしゃべっているのに、ライブ配信でファンのコメントとやり取りしながらだと乱暴な言葉づかいというのはよくあることです。ライブ配信を後から編集した動画には、ライブ配信の切り抜きの為に口が悪くなっている、というような注釈が入っていることも珍しくありません。

取り繕っていない、生々しい人間性を露わにした配信というのは、ライブの醍醐味です。ゲームプレイだけでなく、人間的魅力にファンはついていきます。しかしそういった場でこそ、普段使っている言葉であったり、考えていることがポロッと顔を覗かせます。

またSaRa選手の例では、本人はライブ配信をしていませんでしたが、近くで配信をしていた他の選手の配信に、差別的な言葉が載って大きな問題となりました。

eスポーツプレイヤーにとってライブ配信は重要な活動です。だとすれば、ただゲームがうまいだけでは成立せず、プロの配信者としてしゃべれなければいけません。当然言っていいことと悪いことがあります。そして、プロの配信者たるには、普段からの心がけや振る舞いも大切であるということになります。

■eスポーツの発展のために文化を育まなければいけない

eスポーツはまだまだ発展途上の分野です。ゲームは遊びであって、それを真剣な競技と認めないという人もたくさんいるでしょう。より多くの人に興味を持ってもらって、楽しんでもらえるようになって欲しいのに、差別発言で注目されるのはとてもつまらないことです。eスポーツに懐疑的な人であれば、ひとつ、ふたつの暴言騒ぎで、eスポーツ全体に否定的な印象を持つこともあるでしょう。

筆者は子供が2人いますが、どちらも発達障害児です。定期的に病院に通い、上の子は小学生で特別支援学級に入っています。2人ともゲームが大好きです。いつか子供達がもしゲーム配信を見て「障害者かよ!」となじっている場面に遭遇したらと思うと、胸が痛くなります。筆者はゲームが好きですし、いろんなゲーム配信を見て知っているので、暴言問題が1つ2つ起きたことでeスポーツやゲーム全体に否定的になることはありませんが、それはむしろ特殊な例でしょう。

プロプレイヤーは、スポンサーや所属団体だけでなく、プレイしているゲームや、そのコミュニティ、ひいてはeスポーツそのものの未来を、1人1人が背負っているということを忘れてはいけません。1人のプロの活躍で、eスポーツ全体が注目を集める場合があるように、1人の心無い行動が業界全体を貶めることもあるのです。

そして願わくば、eスポーツ選手を応援する人、ゲームやその競技を愛する人は、一般のプレイヤーであっても、匿名であっても、差別的な発言をしないよう心がけ、ゲームのコミュニティ全体が当たり前に差別や偏見に満ちた表現で他人を貶す文化を嫌悪し、決別できるよう、願ってやみません。


《田下広夢》

毎週金曜ゲームイベントしてます 田下広夢

1984年5月、埼玉県生まれ。2006年からゲームを専門とするライターに。毎週金曜、ゲームを持ち寄って遊ぶイベント「ゲームルーム」開催、2022年で10周年を迎える。メギド72攻略ブログ「メギド部!」運営。イシイジロウ氏主催のゲームクリエイター人狼会所属。たまにゲーム業界解説でテレビやラジオなどに出演したり、YouTubeなどの人狼ゲーム配信にも登場。2021年からインサイドで執筆。

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