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「カチッて音が鳴るのが好きなんですよ」コントローラー製作メーカーが見たビデオゲームの35年

日本のビデオゲーム業界は、コンソールやアーケードで様々なコントローラーを生み出してきました。35年に渡り、さまざまな企業とコントローラーを開発してきたユニオン電子工業の磯脇康三氏から見た、業界の変化についてをうかがいました。

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日本のビデオゲーム業界では、コンソールやアーケードで様々なコントローラーを生み出してきました。

十字キーとボタンが配置されたオーソドックスなコントローラーから、より深まったゲームプレイができるように、ジョイスティックの搭載されたものへ進歩していったほか、飛行機や電車、時にはDJのターンテーブルを模したもののように、ゲームプレイの没入感を高めていくコントローラーも製作されました。歴史を振り返ってみると、多様なコントローラーが生み出されています。

そんなコントローラーを製作する側にとって、日本のビデオゲーム業界はどんなふうに映ってきたのでしょうか?今回Game*Sparkでは、過去35年以上に渡ってコントローラーを制作してきた、ユニオン電子工業の磯脇康三氏にお話をうかがいました。

バラエティ豊かなコントローラーを製作



ユニオン電子工業は、任天堂やセガ、ソニーといった大手をはじめとした、さまざまな企業と独自のコントローラーを生み出してきました。

本社にうかがうと、これまでに製作された代表的なコントローラーが用意されていました。創業してから、149機種に登るコントローラーを生産してきた歴史がそこにあったと言えるでしょう。磯脇氏はコントローラーひとつひとつを取り上げながら、製作当時の思い出を語りはじめます。


磯脇氏は主にセガと取引していました。実に30年以上に渡る今回、用意していただいたコントローラーの数々を見ても、80年代からのセガハードに付いたコントローラーが数多く見られます。

「これが我々がコントローラー業界に入って、初めて作ったのがセガさんのものなんですよ。全体的にセガさんとの仕事は多いですね。」まず磯脇氏は、最初期に関わったコントローラーとして、セガ・マークlllのジョイパッドについて解説します。キーパッドにジョイスティックが搭載されたものなど、その変遷について振り返ってくれました。

「やっぱりセガさんはアーケード出身なので、そもそもコンソールが出たばかりですから、みんなジョイスティックをつけたほうがいいという発想なんですよ。」

ユニオン電子工業が手掛けたコントローラーは、徐々に長方形から、手になじみやすいパッド型へと変わる。

その後、JALのファーストクラスでゲームプレイできたコントローラと同じデザインのコントローラをアメリカ任天堂・ヨーロッパ任天堂に「NES Max Controller」として360万台以上生産供給しました。

こちらは十時キーではなく、ジョイスティックに近いキーパッドであるほか、両手で握りやすい形状に変わっています。磯脇氏は時代が進むにつれ、コントローラーの概念が変わっていったことを語ります。「それまで、コントローラーは長方形が主でした。それが曲線を使った形状へと変わっていってパッドって概念が出てきたんですね。」と指摘しました。

コントローラーのデザイン曲線へと変わっていったヒントになったのは、なんと自動車の外形デザインだといいます

「1988年に日産からCIMAが販売されました。それまでの車は日産に限らず、他の会社も角ばったものだったんですね。それがCIMAが世に出てから、外形デザインがが丸みを帯びたものになったんです。その影響ですね。」と磯脇氏は語ります。

磯脇氏はサターンの兄弟機種ビクターの「Vサターン」用に制作したワイヤレスで遊べるコントローラーも解説します。「こちらは私のアイディアで、このワイヤレスコントローラーの背面に通常の電線のついたコントローラーを接続することで、2プレイで遊べるようになるんです。」磯脇氏は、企業から請け負ったさまざまなアイディアをコントローラー製作に投入していきました。

「マイコンBASICマガジン」などを出版していた電波新聞社との企画で「XE-1AP」も製作。当時メガドライブの『アフターバーナーll』などで優れた操作が可能だったとことです。

今の目で見ると、円形のパッドにジョイスティックが搭載されたデザインなど、後のXBOX360のコントローラーのようなデザインを早い段階で実現していたことに驚かされました。

「XE-1 ST2」を説明する磯脇氏。細やかな仕掛けがいくつもある。

それぞれのコントローラーに磯脇氏のこだわりがあります。メガドライブ用のジョイスティック「XE-1 ST2」では、一見オーソドックスに映りますが、細やかな仕掛けがあります。

「ボタンがあるところのツマミを回しますと、配置を変えることができるんですよ。その時カチカチと音が鳴るんです。これ、何の音か気づきませんか?」仕掛けのヒントになったのは、なんとカッターナイフで刃を出し入れするときの音だそうです。「こういうふうにカチッと音が鳴るのが好きなんですよ。」と磯脇氏は話しました。

「このボタンを動かす特許を、うちと電波新聞社さんで取っているんですよ(笑)。」とも、磯脇氏はにこやかに語っていました。

またジョイスティックを4方向と8方向の操作に変更させる機能も、とてもシンプルに実装してきたことを磯脇氏は説明します。「いまのスティックは、コンパネを外して中から切り替えなければならないんですが、 XE-1 ST2では外からツマミを回すだけで、簡単に切り替えることができるんです。」

シンプルながら、どのようにそのアイディアを思いついたかと言うと、こちらもまた意外なものでした。「昔、エレベーターの前に灰皿があったんですね。(蓋を)押せばパッと開くものでした。それが発想の原点なんです。」


ここに画像´
HAL研究所と製作した「スーパージョイスティック JB KING」四つのボタンを調整することができる。


そんな特許を利用したコントローラーを、なんとHAL研究所と製作していました。スーパーファミコン専用の「スーパージョイスティック JB KING」では、四つのボタンの位置をツマミで調整できる機能をつけています。

「任天堂の社長だった岩田聡さんが、まだHAL研究所で営業をやっていたころにJB KINGを作ったんですね。先ほどのボタンの位置を変える特許をHAL研究所さんも使いたいとおっしゃったので、「HAL研究所さんならいいか(笑)。」と許可しました。」と、磯脇氏は感慨深く振り返っていました。

「SHARP CZ-8NJ2 サイバースティック」はスティックの入れ替えも可能なコントローラー。右利き・左利きの人にも配慮した設計だという。

大規模なコントローラーについても、製作された背景が語られます。X68000用のコントローラー「SHARP CZ-8NJ2 サイバースティック」は操縦桿型のコントローラーで、大掛かりな仕掛けがいくつも施されています。

「これは非常に出来がいいんですよ。左右のスティックを交換できるようになっているんです。」磯脇氏は説明しながら、器用にふたつのスティックを取り外し、交換してみせます。「コントローラーの考え方としてはユニバーサルですね」と、当時からさまざまな人の利き手に合わせていたことを説明します。「左右のスティックを本体に装着するときカチャッとする音は一眼レフのレンズを装着する音からヒントを貰いました」

当時は一番高価なコントローラーでしたね。SHARPがツインファミコンを作っていたころに製作されました。」と磯脇氏は振り返ります。

「これを作ったときも面白い話があって、電波新聞社さんと仕事していたとき、「SHARPさんがコントローラを設計生産できる会社を探している」って話が出てきたんです。」当時、ユニオン電子工業ではSHARPと取引はなかったのですが、電波新聞さんに紹介されて、サンプルを何台も詰め込んだ大きなケースを引きずってシャープの栃木工場まで行ったそうです。

「サンプルをSHARPさんまで持っていって、丹念にコントローラーの説明をしていったら、全てサンプルの説明が終わらないのにSHARPさんが「わかりました!ユニオン電子工業さんに頼みますから!」と言ってくださったんです。」と、磯脇氏は思い出を語りました。

ユニオン電子工業が関わったコントローラーには、磯脇氏ならではの触れて面白い手触りや、開発した当時の日常にあるアイディアがいかんなく反映されています。


またメガドライブ関連では、純粋なコントローラーだけではなく、なんと「メガCDカラオケ」も製作していました。当時、多彩な展開をしていたセガに合わせ、磯脇氏も多様なコントローラーを開発していたのです。

『電車でGO』シリーズでのこだわり



ユニオン電子工業の製作するコントローラーならではの、手触りの面白さやゲームプレイの没入感を深める仕掛けは、特に『電車でGO!』シリーズで発揮されます。

オーソドックスな『電車でGO』コントローラーの中央にある、丸いくぼみにもこだわりが見られます。「これは電車の運転手さんが時計を入れられるスペースなんですね。やはり電車らしいデザインがあったほうがいいということで、こうなったんです。」と磯脇氏は語ります。

『電車でGO!』の新幹線版コントローラーでは、さらに仕掛けが施されます。磯脇氏は新幹線版にはさまざまなアイディアやこだわりを見せます。

「ゲーム中でインジケーターが画面に表示されるじゃないですか。でも、それだけじゃつまらないと思ったんです。コントローラーにもインジケーターが見えたほうが面白いということで、LEDを入れて、ゲーム中にこのインジケーターが動くんですよ。」

インジケーターの発想のもとになったのも、またしても意外なところからでした。「当時、たまたま中国でミーティングをしていたとき、エアコンを見たらインジケーターが表示されていて、リアルタイムで動いていたんですよ。それが興味深くて、エアコンを作った人に聞いたら、元セガ台湾責任者で知り合いの親戚だっていうんです。すぐ電話して「いま中国にいるんだよ!この仕掛けを安く使わせてよ!」って頼んだんです(笑)。」

『路面電車でGO!』のコントローラーでは、本物の路面電車のようにハンドルを外すことができる。

特にこだわりを見せたのは『電車でGO!旅情編』専用コントローラーのデザインです。路面電車をテーマとしており、コントローラーにおいてもその情感を反映させようとしたのです。「作品としても出来栄えが良いんですね」と、磯脇氏もその完成度を自負していました。

磯脇氏は路面電車の操縦を再現するために、ハンドルを木製にすることにこだわったそうです。「これもこだわりなんですよ。」そう言うと、なんと磯脇氏はハンドルを外しました。「路面電車で運転手さんが降りるとき、ハンドルを外して持って行くんです。」

ハンドルは木製で、電車にはめ込む部分をしっかりした金属にすることで、路面電車の運転手らしさを突き詰めていたのです。「TAITOさんとのやり取りでは、最初はプラスチック製になる予定でした。そこで「木製にしましょうよ!絶対、木製にするべきです!」と推したんです。「生産コストが高くなるだろう!」と言われたんですが、「大丈夫です!」と言いました。結局、高くなったんですが(笑)。」

「やっぱりありきたりなものより、なにか特徴があるほうがいいじゃないですか。そこを我々はやりたいんですね。」磯脇氏はユニオン電子工業のこだわりを語ってくれました。

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《葛西 祝》
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