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『エースコンバット3 エレクトロスフィア』発売20周年!フライトSTGに本格SFストーリーを導入し物議を醸した異色作に迫る【特集】

1999年5月27日にナムコ(現: バンダイナムコエンターテインメント)から発売されたフライトシューティングゲーム『エースコンバット3 エレクトロスフィア』は、2019年5月27日に20周年を迎えました。シリーズの特異点となった本作の内容を探っていきます。

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1999年5月27日にナムコ(現: バンダイナムコエンターテインメント)から発売されたフライトシューティングゲーム『エースコンバット3 エレクトロスフィア』は、2019年5月27日に20周年を迎えました。


『エースコンバット3』は、『エースコンバット2』が持っていた強いミリタリー色を引っ込めた作風で、SF設定とストーリーに重点を置いていました。そのため、発売当時はストーリー演出や世界観、オリジナル機体が評価される一方で、従来のファンから強い拒否反応が見られました。


本作が『エースコンバット』シリーズにおいて、2019年現在も異質な位置にいるのは確かなことでしょう。『エースコンバット7』でシリーズの世界観と時系列が決められた際に、『3』が「ストレンジリアル世界の2040年に位置する」と発表された時には、シリーズファンに衝撃が走ったと言っても過言ではありません。ここでは、シリーズの特異点となった『エースコンバット3』がどんなタイトルであるかを探っていきます。


『エースコンバット3 エレクトロスフィア』のあらすじは、国家という枠組みが崩れ企業がユージア大陸を支配した2040年を舞台に、巨大な多国籍複合企業「ゼネラルリソース」と先鋭的に科学技術を追い求める「ニューコム」が対立するなか、プレイヤーが所属する「UPEO」特別治安航空部隊「SARF」が両社の武力紛争を鎮圧するために戦いへ参加する……というものです。

なお本作のサブタイトル『エレクトロスフィア』は、ゲーム内の説明によると「electro(電気的な)sphere(粒子の集まる球体)の合成語」という意味が込められているのだそうです。


本格的なストーリーが追加された初めての『エースコンバット』


ナムコのアーケードゲーム『エアーコンバット22』からコンセプトを受け継いで誕生した『エースコンバット』は、続編の『エースコンバット2』でグラフィックやミッション数、登場機体数が大幅にグレードアップしたものの、ストーリーテリングに関しては未だ前作と変わらない規模でした。


『エースコンバット3』が発売された90年代末は、『ファイナルファンタジーVII』等のRPGの影響力が最も強く、アクションやシューティングなど様々なジャンルにも本格的なストーリーが盛り込まれるようになった時期です。ナムコもその例に漏れず、『エースコンバット』ブランドディレクターの河野一聡氏がアートディレクターとして開発に参加したレースゲーム『R4 RIDGE RACER TYPE 4』では、同シリーズで初めてストーリーが導入されました。


『R4 RIDGE RACER TYPE 4』の幕間シーン

『3』で世界観が大幅に変わり物語重視へ変わったことについては、「ナムコ公式ガイドブック エースコンバット3 エレクトロスフィア(発行: ナムコ)」巻末掲載のディレクター岩崎拓矢氏と脚本の佐藤大氏の対談によると、「ストーリー重視の姿勢を強めたまま前作との違いを大きく出すため近未来的なSF世界観になった」。

アニメーションとSF、そしてマルチエンディングで語られるシリーズ異色作


『エースコンバット3』では、前作から打って変わってストーリーを語るに必要な演出が本格的に導入されています。OPやニュース映像などを彩るアニメーションはその筆頭ですが、用語集やニュースを筆頭とした文字情報、カットシーン、日本語音声フルボイス、止め絵を多用した演出など、現在のシリーズまで続く要素もここで示されました。これらもシリーズの基本を左右した大きな転換点と言えるでしょう。ゲームシステムにおいても、オートパイロットや右スティックの視点移動、ミッションクリア後のリプレイ機能、特殊ミサイルなどの操作が確立されました。

20年前のタイトルだが『7』とほぼ同じ感覚で操作できる

世界情勢の変化やプレイヤーが影響を与えた出来事は、GBS/NVSなどのニュースとして報道される

ミッションの顛末や事件は、映像だけでなく「文字放送」の文章で説明される場合もある

キャンペーンの進行も他のシリーズとは異なっており、本作は「ひとつに帰結する最終的な種明かし」があるにせよ、マルチエンディングで構成されています。そのため、物語の伝え方も他のシリーズ作と異なり、『3』ではプレイヤーの“決断”が物語の流れを決定付ける要素として存在しているのです。

『3』の基本的なストーリーと言える「UPEO」ルートだけでなく、超国家企業に属する軍人・ディジョンの勧誘から始まる「ゼネラルリソース」ルート、スパイ嫌疑をかけられた「SARF」メンバーに手をかけることで進む「ニューコムルート」、そして両企業を裏切ることで派生していく武装蜂起集団「ウロボロス」ルート(2種類)の合計5つ、全52ミッションが用意されています(宇宙空間でのミッションもある)。敵対する各陣営に何らかの形で加入出来ることは、過去と現在の『エースコンバット』を見ても『3』にしかない要素です。

ミッション7のカットシーン。専用機を撃墜するか、しないかでUPEO/ニューコムルートへ分岐する。

『3』の戦場はダークブルーの空を抜け宇宙にまで及ぶ

また、本作は初期に「ポストサイバーパンクフライトシューティング」として企画されたことから、人間の電脳化(サブリメーション)やENSI規格を筆頭とした人機融合、テレイグジスタンス(兵器の遠隔操作)、企業が統治する世界、暗に隠されたAIの研究、ナノマシンなどのSF要素が導入されています。


タイトル画面や「データースワロー」などのイメージから分かる通り、本作のユーザーインターフェイスには流線的なデザインが多く盛り込まれています。使用しているフォントやゲームプレイ中に聞けるテクノ系BGMからも、「90年代後期のSF作品」らしいセンスが伺えることでしょう。いわゆる「蛍光色のネオンが怪しく光る大都市で、雨が降りしきる中、ゲイシャのホログラムが踊る」といったような(ある意味「ブレードランナー」的な)サイバーパンクらしさはありませんが、統一感のあるシンプルなデザインは本作の強い特徴のひとつです。


ヨーコは、電脳化(サブリメーション)に関する研究を行っていたが暗殺された。
サブリメーションされた被験者が物語の流れを作っている。

特に電脳化(サブリメーション)とX-49ナイトレーベンの存在は物語の主な流れを生み出しており、人類総電脳化を企むクーデター組織「ウロボロス」は、そのナイトレーベンを使って戦いを挑んできます。ストーリーテリングも他シリーズとは異なり、外部から報道される政治劇と登場人物の内面が主に描写され、クーデターへの誘いや個人の信条、現状への憂いなどがプレイヤーに語られることが一線を画しています。

レナとナイトレーベンのエピソードは止め絵で表現される。
まるで『04』や『X』の表現を先取りしているかのよう。

キースがナイトレーベンに挟まるシーンは特異なビジュアルと状況からネタにされてきた。ここでのキースは、プレイヤーとディジョンが仲間割れしている状況を見て戦闘に乱入し、ナイトレーベンとのヘッドオンを避けようとして翼の間に挟まってしまった。

本作のUIは全体的に洗練されていて世界観をよく表している。

『エースコンバット3』のSF要素が強いストーリーを書いたのは、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」や「交響詩篇エウレカセブン」などに脚本として参加した経験を持つ佐藤大氏です。よく知られている話として、アニメ「カウボーイビバップ」の第23話「ブレイン・スクラッチ」も同氏が脚本を担当しており、人間の電脳化を中心に据えた物語を描いています。

『エレクトロスフィア』は確かにある―『7』「灯台戦争」後の物語となった2040年の「ストレンジリアル」世界


『エースコンバット3』が正式に「ストレンジリアル」世界の時系列に組み込まれたことで、2010年の『5』、2015年の『6』、2019年の『7』で、本作へ繋げられる要素が少しだけ登場しています。『5』では、ADF-01ファルケンが姿を現すと共に『3』の戦闘機が搭載しているCOFFINシステムが登場。



『6』では、エストバキア軍のタンカーにゼネラルリソースのロゴが入ったコンテナが見られ、ミッション13の「グレースメリア解放」ではグランダーのコンテナと混載されています。



『7』では、エルジア側に所属するシュローデル博士の台詞にある「マーサ」という人物名と、ストライダー3の「イェーガー」が接続するポイントとして挙げられます。「マーサ」は、『3』登場人物の一人であるヨーコ・マーサ・イノウエと同一人物ではないかと示唆されています。

ヨーコは『7』の時点で20歳。

また、ストライダー隊3番機であるイェーガーの息子は、『3』の主要人物であるSARF所属パイロットのエーリッヒ・イェーガーのことを想像させます。

ストライダー3の息子ではないかと言われているエーリッヒ・イェーガーこと“エリック”は、『7』の「灯台戦争」の時点で3歳。

コレクターズエディションに付属している設定資料集「ACES at WAR A HISTORY 2019」114ページのコンセプトアートでは、ADF-11Fレーベンと共にサイモンとヨーコらしき人物の後ろ姿が描かれています。また2019年が舞台の『7』では、ゼネラルリソースとニューコムは登場しておらず、次の2020年代も(ゼネラルのDOE計画があるにせよ)ほぼ空白のままです。

ゲーム内CMでゼネラルリソースは事業の多様さを、ニューコムは科学の先進性をそれぞれアピールしている

2031年以降、ニューコムは拡大を続けていきますが、ゼネラルリソースとの対立を深めることになります。そして、2038年頃には軍事的な衝突が表面化。それら様々な出来事を経て『3』の2040年に至ります。また、2040年にはゼネラルとニューコムがユージア大陸を支配していても、ニュース映像や登場人物の台詞から人々にとっての「国家」という概念は完全に消え去っていないようです。


シリーズ異色作であり、再プレイが困難な『エースコンバット3』


『エースコンバット3 エレクトロスフィア』は、シリーズ3作品目して無線やカットシーンなどの演出、最新作にも続くストーリーテリングを生み出した作品でした。一方で、それ以前の『エースコンバット』のように、シンプルなストーリーを語るフライトSTGであることに魅力を感じていたユーザーからは、大きな反発がありました。

『3』がシリーズファンに受け入れられるまでには、『04』と『5』が発売されたことによって「物語を体験する『エースコンバット』」というプレイスタイルが確立し、「完全な過去作」という立ち位置に落ち着くための約5年間の歳月が必要でした。


『7』以降の世界が舞台となる『3』ですが、1998年のリリース以降はPS Storeでゲームアーカイブスとしての配信も無く、2019年の今遊ぶとするなら、オリジナルのPS版ディスクを用いて初代PS/PS2/PS3からプレイするしかないのが、非常に残念なところ。

『エースコンバット』シリーズの中でユニークでありながらも重要な作品であるため、本作の再リリースを待ち望む声は今後も見られることでしょう。『7』の特典として付属された『エースコンバット5』『エースコンバット6』のように、最新作へ「移植版」として付属するか、今後のシリーズで『3』の時代となる「本当の2040年」を何らかの形で描いて欲しいことを、切に願っています。



※ UPDATE(2019/6/3 10:11): 記事タイトルを訂正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございました。
《G.Suzuki》
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