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対照的なソニーと任天堂の打ち手【オールゲームニッポン 第31回】

角川ゲームス代表の安田善巳氏とゲームジャーナリストの平林久和氏による「オールゲームニッポン」。日本を切り口に、ゲーム業界を語ります。第31回は経歴詐称問題にはじまり、バーチャルリアリティと『Miitomo』という対照的なソニーと任天堂の打ち手について語ります。

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対照的なソニーと任天堂の打ち手【オールゲームニッポン 第31回】
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角川ゲームス代表の安田善巳氏とゲームジャーナリストの平林久和氏による「オールゲームニッポン」。日本を切り口に、ゲーム業界を語ります。第31回は経歴詐称問題にはじまり、バーチャルリアリティと『Miitomo』という対照的なソニーと任天堂の打ち手について語ります。



土本
 
3月はGDCがありPlayStation VRが発表されました。まずはこの話題でしょうか?

平林
 
バーチャルといえば、まずお話したかったのはショーン・マクアードル川上氏のことです。経歴がバーチャルでした。

安田
 
そっちですか?

平林
 
学歴詐称、そして整形というのはそう驚くほどのことではありませんでした。びっくりしたのは「ハーフじゃなかった」ということでした。私はすっかりだまされてしまいました。カタカナの名前がついているのに、純粋な日本人だなんて。なーんだ、ベニー松山と一緒じゃないか、と思いましたね(笑)。

安田
 
平林さんと仲良しの小説家、ベニー松山さん(笑)。

土本
 
VRの話題に移りたいですが、気になるので寄り道しますけど昔のゲーム雑誌の人たちは、どうしてカタカナのペンネームを使ったんでしょうかね? ベニー松山さんとかイザベラ永野さんとか。

平林
 
うーん、それはキャラづくりのためでしょうね。

土本
 
キャラづくりですか?

平林
 
はい。80年代のゲーム業界はまだ子供文化やサブカルの香りが強くて、大人がドーンと本名で飛び出していくのはなじまなかったんですね。親しみやすいキャラクターになったほうがいい……という雰囲気がありまして。それが原因で、ニックネームやカタカナ混じりのペンネームが多用されたんだと思います。かくいう私も、当時の編集長から命名されてヒラ坊と名乗ってました。そういえば今も当時と似たところはあって、マックスむらいさんの「マックス」もキャラづくりの一種だと思います。

土本
 
なるほどペンネームでキャラづくりですか。さて、ひとつ疑問が解けたところで本題ですがVRについてです。おふたりはどんな感想をお持ちでしたか?

安田
 
北米では499ドル(約6万円)の付属品付きのセット(PlayStation VR Launch Bundle)が、ほぼ即日完売だったとも聞きました。絶好調の滑り出しですね。日本でも今月のいろいろな報道を見る限り「世間の注目度は高い」と感じました。経済誌などゲーム以外のメディアもPlayStation VRのことを大々的に扱っていて、しかもどの記事も好感を持って書かれていた印象があります。

平林
 
なかにはVRの初体験された記者の方がかなり興奮気味に書かれた記事もありましたね。やはり、新型ハードの話はわかりやすいんでしょうね。



※PlayStation VR

安田
 
そうですね。特にここ数年間、スマホというハード、そしてスマホゲームの市場が急拡大したじゃないですか。となるとビジネスマンの習性で、次はどこでブームが起きるのか? この流れは次にどこに行くんだろう? と目配りをすることになります。見渡してみると、わかりやすいシンボルとしてVRがあった。これに期待してみたい。そんな心理も働いて、ある種の熱狂の中でVRは注目されているのかなと思います。

平林
 
まず、純粋な技術の話として。今のヘッドマウントディスプレイ型のVRってホントにすごい装置だと思っています。3DTVのような、今まで見てきた立体視系のハードとは別物です。胃が飛び出そうになったり心臓がバクバクしたり。視聴というよりは体験といっていいほどのパワーがあります。

土本
 
VRを体験して「酔う」という人もいるくらいですからね。

平林
 
認知心理学の世界では「人間は脳でモノを見る」などと言われることがあります。人間は目でモノを見ていない。目はあくまでもレンズにすぎない。レンズが網膜に映した情報を、脳が処理して人間の判断や感情は生まれているそうです。従来の立体視系ハードでは見た目を変えることができても、脳をだますことはできなかった。ところが最先端のVRは、脳をだませる域に達したといえます。ですから、VR初体験の人には相当なインパクトを与えることになります。言ってみれば、人はVRに一目惚れをするわけですが、問題はその先ですね。その脳はまた学習するので、いつか慣れてVRに驚かなくなってしまう。一瞬は楽しかったけど、わざわざ買うことはない……と言われないように市場を立ち上げていかなくてはいけませんね。

安田
 
その通りですね。数分間体験して楽しいだけではない、何度でも遊べるコンテンツをどうやってつくるのか? それをどうやって売っていくのか? この点はゲームプロデューサーの共通した課題ですね。あと、僕が気にしているのは女性の意見です。頭からディスプレイを被るということについて、女性は男性以上に抵抗感がありますからね。

土本
 
最近はゲーム以外のVRの活用例も増えてきましたね。たとえば報道の分野などです。ABCニュース、AP通信、ニューヨークタイムズなどがニュース映像をVRで提供すると発表しています。

安田
 
ヘッドマウントディスプレイを使わない映像はゲームのVRとは別物と考えていますが、女性を含む一般の人にVRという言葉を広める可能性がありますね。日本でNHKが特に力を入れていますよね。

土本
 
はい。先月からNHKオンラインで「360゜VRレポート」を提供しています。最近は360度カメラが発達していますから、生の映像を提供する報道とVRの相性は良さそうです。ところでVR関連以外で気になったことは何かありますか?

安田
 
平林さんが注目したのはアルファ碁(Alpha Go)じゃないですか?

平林
 
はい。インターネットで観戦していました。チェスはすでに人間よりもコンピュータが強い。将棋は互角かコンピュータ有利。けれども、囲碁でコンピュータが勝つのは難しくて「早くても10年先」と言われてきました。チェスは8×8、将棋は9×9マスですが、囲碁は盤面が広くて19×19マス。計算する範囲が広くて、1局の手順は10の360乗もあるそうです。そんな難解な囲碁でコンピュータが人間に勝ってしまった。正直言って予想外でした。



※アルファ碁と名人の対局

安田
 
アルファ碁の開発者は、昔、ゲームをつくっていた人だったんですよね?

土本
 
そうです。90年代に『テーマパーク』というゲームがありましたよね。

平林
 
ピーター・モリニューさんが東京ディズニーランドで遊んで思いついたという伝説もある、遊園地を経営するゲームです。

土本
 
あのゲームのエンジニア、デミス・ハサビスさんがアルファ碁の開発者です。『テーマパーク』の開発に参加したのは、なんと17歳のときだそうです。そののち、ロンドン大学で脳神経科学を研究して、イギリスで人工知能(AI)を研究・開発する会社を設立。その会社をグーグルが4億ドルで買収して、アルファ碁のプロジェクトが立ち上がったらしいですよ。

安田
 
人工知能が書いた小説が文学賞(星新一賞)の一次審査を通過したという話題もありました。

平林
 
こちらもゲーム研究でも有名な、公立はこだて未来大学の松原仁教授がプロジェクト統括をなさっています。

土本
 
目で映像を見るVRというテクノロジーが進化するいっぽうで、人工知能も進化する。ゲームに関連する技術が両極端な方向に進んでいますね。

平林
 
人工知能もそうですが、私は『Miitomo』を遊ぶたびに「あ、これは「VRの反対側の進化だ」と思います。画面の中に現実を封じ込めるのがVR。かたや画面の外側の人間関係という現実をいかしたまま、ゲームにしたのが『Miitomo』ではないか、と。

安田
 
画面の絵だけでゲームをつくらない。Miiをプラットフォームとして活用した、じつに任天堂らしい発想ですね。



※任天堂が初めてリリースしたアプリ『Miitomo』


平林
 
はい。プレイステーションが発売された頃、任天堂vsソニーと何かと対立の図式に置かれることが多かった両社ですが、私は「じつは対立していない」とよく言っていました。市場ではプレイステーションとNintendo64が競合関係にありましたが、ふたつの会社が目指すものは明らかに違っていたからです。時代が進んでも両社は「ライバル」と言われてきたわけですけれども、今年の3月。ソニーと任天堂。ふたつの企業はまったく別の道に進もうとしているな、なんてことをPlayStation VRと『Miitomo』を見比べてしみじみと感じました。



(次回配信は4月29日予定です)


■パーソナリティの紹介


安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『GOD WARS』『ルートレター』の開発に取り組む。



平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。
《土本学》
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