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【オールゲームニッポン】「古事記」を読んで日本の姿を考える(第3回)

前回の「国ってなんだ」という話から引き続いて、日本の原点に話は膨らんでいきます。日本最古の歴史書である「古事記」には日本の成り立ちが記されています。遥か昔の話、しかしそこには今の日本に繋がる、原点のような記述が沢山あるといいます。

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前回の「国ってなんだ」という話から引き続いて、日本の原点に話は膨らんでいきます。日本最古の歴史書である「古事記」には日本の成り立ちが記されています。遥か昔の話、しかしそこには今の日本に繋がる、原点のような記述が沢山あるといいます。毎週土曜日0時からお届けしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」、今回は古事記を読み解きます。

土本
 
前回、古事記の話題になったときに、平林さんがKindle版の鈴木三重吉さんが書いた『古事記物語』の話をされたので、チェックしてみたら、青空文庫収録作品で、無料で読めてしまうんですね。さっそくダウンロードしました。文章が平易で読みやすくて、古事記の入門書としてすごくいいと思いました。


平林
 
西洋社会・西洋文化を知るための攻略本が聖書だとすれば、日本社会・日本文化を知るための攻略本は古事記になるでしょう。日本人が古くから持っている価値観の源泉に触れることができます。古事記は、子供たちにも読んでほしいですね。ですが、現代の子供が読むには困ったこともあって……

土本
 
なんですか?

平林
 
意外とエロいです。

安田
 
ハハハー(笑)。

平林
 
古事記には、性的な描写がむちゃくちゃ多いです。大人になって改めて読んだらびっくりしました。

安田
 
たとえば、国産み神話は男神・イザナギと女神・イザナミが登場する、男女の交わりを描写した物語ですね。

平林
 
古事記の国産み神話……ちょっとネットで調べてみますね。……ありましたよ。国産み神話の場面で、イザナギはイザナミに向かってこう言います。古事記の原文をそのまま漢字で書くと「汝身者如何成」だそうです。現代語に訳すと「あなたの身体はどのようにできていますか?」となります。お医者さんごっこをしている子供の質問みたいです(笑)。

土本
 
ストレートですね。

平林
 
この質問に対して女のイザナミは「妾身層層鑄成 然未成處有一處在」と答えます。この訳文は「私の身体は十分に成長しましたが、成長していないところが一か所あります」となっています。

土本
 
成長していない一か所!

平林
 
すると、男のイザナギは何と言ったか。めったに読むことがないと思うので、この箇所も原文を紹介しますと「吾身亦層層鑄也 尚有凸餘處一 故以此吾身之餘處 刺塞汝身之未成處 為完美態而生國土 奈何」ですって。この訳は、「私の身体は成長したのだけれど、特に成長し過ぎたところが一か所あります。そこで、私の成長し過ぎたところで、あなたの成長していないところを刺してふさいで、国土を生みたいと思います。生むのはどうですか?」と、これまたストレートな申し込みをします。イザナミはOKと言って、「それならば天の御柱をまわって寝所で交わりをしましょう」という話になる。で、できたのが日本の国土でしたーという、なんとも豪快な物語です。

土本
 
あと、裸で踊って神様たちの宴会を盛り上げた天岩戸神話の女神、アメノウズメもいますよね。アメノウズメは昔からゲームによく出てくる神様でしたが、最近のモバイルゲームでも大人気です。『パズルアンドドラゴンズ』『神撃のバハムート』『ドラゴンポーカー』などにも登場します。

平林
 
いろんなゲームで人気ですよね、アメノウズメ。さっきはエロいなんて言っちゃいましたが、古事記に記録された日本の神話はどれもおおらかです。そこにはもちろん、戦い、いさかい、仲違い……各種のトラブルが書かれているんですが、その様子がギスギスしていない。アメノウズメの裸踊りのように、問題解決のしかたものどかな印象を受けます。

安田
 
相手を傷つけないで話し合いで決めようとするというのは、古事記をはじめとする日本神話の根底にある考え方ですね。対立するいっぽうの民族を滅ぼすようなことをしないのは、他の国にはない日本の特徴です。こうして国がまとまっていく姿は、僕自身がとても好きなところでもあります。

平林
 
比較しちゃいますが、聖書ってじつは残酷です。クリスマスの季節になると、愛や救いに満ちた新約聖書や賛美歌の一節を見聞きしますけど、旧約聖書にはけっこう残酷な描写があります。自分の娘を神の食欲のために丸焼きにした話。奴隷の話、拷問の話、死刑の話。死者の数まで記録された戦争の話などなど。旧約聖書のなかに列王紀という古代ユダヤの歴史書がありますが、そこでは今のイスラエルとシリアにも似た、果てしない憎しみの関係が描かれています。異教、異端をとにかく嫌うというか。

安田
 
国譲り神話に代表されるように、話し合いによって国をまとめてきた日本では、敵対した相手を恨み続けるようなことはしませんよね。勝者の価値観を敗者に無理矢理押しつけるようなこともしません。ときには、敵対していた相手方の信仰や生活習慣を認めることもして、国づくりをしてきました。そうすると多様性が生まれて、文化の幅が広がってきました。歌舞伎もアニメもロボットも日本文化とくくれてしまう。こうした、なんでもありの多様性というのは、じつに日本らしいと思います。

平林
 
仲間同士で争わないで話し合う。和を大事にする。これは日本人という民族が持っている精神的な美徳なんだーと語られることがありますが、そんな単純な話でしょうか。私は自然災害が多いことと関係あるかも? と考えているんですが‥‥。

安田
 
ああ、なるほど。

平林
 
大昔から日本人は他国から侵略を受けることはなかった。その点は恵まれています。けれども、地震、火山噴火、台風などの自然災害は多かった。こんなに自然の脅威が多いのだから、この土地に住んでいる人たちは、団結して助け合うしかないと思うんですね。フランスに住んでいる友人から聞いたのですが、パリという都市は有史以来一度も地震が起きたことがないらしい。日本ではどこでも、いつでも地震があって、火山の噴火もあって。この自然条件だと、国民は一致団結するしかないと思うんですね。あと天気図を見ていつも思うのですが、なんですか? あの台風の通り道。じつに不運な場所にあるのが日本列島。

土本
 
そうですね。

平林
 
ある部分を切り取って日本は良い国だ、と言えるわけですが、自然災害の視点で見ると世界でまれに見る条件が厳しい国土だと思うんですよ。

安田
 
おまけに、日本ときたら標高差が大きく地形が複雑で、半端ない離島数がありますから。生活は大変だけど、日本には世界も認める独自の海洋地形学的な生態系が存在しています。
ところで、また古事記に出てくる出雲神話の話になりますけど、ヤマタノオロチの伝説がありますよね。

平林
 
はい。

安田
 
年に一度、八つの頭と八本の尾を持った巨大な怪物がやって来て娘を食べてしまう。その体には苔ばかりか、杉や檜まで生えていて、長さは八つの谷をわたり、八つの山をこえるほど……と恐ろしい様子が描かれている。このヤマタノオロチは、今の島根県に流れる河川、斐伊川(いびがわ)とその支流で起きた水害をあらわしていると言われています。

土本
 
そうなんですか。

安田
 
はい。たびたび人々を困らせた水害をヤマタノオロチにたとえ、その治水事業をオロチ退治と考える説があります。スサノオは十拳剣(とつかのつるぎ)で酒に酔ったヤマタノオロチを斬ります。尻尾を斬り裂こうとしたときに、剣の刃が欠けてしまう。何事が起きたのかと思い、尻尾を割いてみると、一振りの大刀が出てきました。その刀は天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)と呼ばれるのですが、これは出雲地方に製鉄技術があったことを示しているとも言われてますね。

平林
 
おもしろいですねー。当時の災害と治水事業と製鉄技術を伝えているかもしれないヤマタノオロチ伝説なんですね。西洋でも東洋でもどこの国でもそうなんですが、古代では、川の氾濫をおさえて治水事業をする人は、権力者として民からあがめられる傾向ってありますよね。

安田
 
スサノオは天叢雲剣を天照大御神に献上して、その刀は草薙剣(くさなぎのつるぎ)とも呼ばれるようになりました。で、その剣は現在は名古屋市の熱田神宮に保存されています。日本の神話というのはフィクションではなくて、こうして現実とつながってくるのがユニークでおもしろい。興味がつきません。


草薙剣が保存されている熱田神宮

平林
 
日本のゲームユーザーって剣が好きで。明らかに銃よりも剣が好きなんですが、それって、こうした神話と関係があるんでしょうね。


(つづく)


■パーソナリティの紹介


安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。



平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。

《平林久和》
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