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【Indie Japan Rising】同人ゲームから全世界に羽ばたけ!『アスタブリード』開発者インタビュー

『アスタブリード』は同人ゲームサークルのえーでるわいすが開発したアクションシューティングゲーム。今回はサークル代表でゲームデザイン、プログラム担当のなる氏と背景、メカデザイン、シナリオ担当のこいち氏に話をうかがった。

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【Indie Japan Rising】同人ゲームから全世界に羽ばたけ!『アスタブリード』開発者インタビュー
  • 【Indie Japan Rising】同人ゲームから全世界に羽ばたけ!『アスタブリード』開発者インタビュー
国内のインディーゲーム開発者にインタビューを行う本企画。連載開始時に比べると国内のインディーゲームシーンは好転してきたと言える。BitSummitや東京ゲームショウのインディーコーナーといったイベントも増え、Steamから国内のゲームがリリースされることも珍しくなくなってきた。さらにはPS4やPS Vita、3DSやWii Uといったコンソールでもインディーゲームの環境が整ってきた。特に2014年は『Crimzon Clover WORLD IGNITION』、『REVOLVER360 RE:ACTOR』と同人シューティングゲームが相次いで世界進出している。


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そこで今回とりあげるのは、同人ゲームサークルのえーでるわいすのアクションシューティング『アスタブリード』だ。2013年12月31日のコミックマーケット85でのリリースを皮切りに、Playism、Steamと販路を広げてきた。視点が縦横奥とダイナミックに変化していくのが一番の特徴で、大量の敵を破壊する爽快さとロボットアニメのような演出もマッチしている。3Dで描かれたグラフィックスは同人ゲームの水準を超えて、商業シューティングゲームにも劣らないインパクトを与えた。海外でもメタスコアを86をマーク、控えめにいっても肯定的に受け入れられている。

今回はサークル代表でゲームデザインとプログラム担当のなる氏、背景、メカデザイン、シナリオ担当のこいち氏に話をうかがった。サークルの成り立ち、会社を辞めて独立を決意した経緯、開発における苦労、海外進出後の心境の変化などじっくりとお届けしたい。

オリジナル作品を求めて同人ゲームの世界へ



――今日はお二人で来ていただきありがとうございます。まずは経歴など簡単に自己紹介していただけますか?

なる:
僕はもともとプログラマーとしてゲーム会社に勤めていました。会社に入って1年目くらいから軽い気持ちで同人ゲームを作り始めました。その時は本格的なものを作る気はなかったのですが、いろいろ思うところがあり、『アスタブリード』の開発を始めるタイミングで会社を辞めました。現在はえーでるわいすの活動に集中しています。

――現在はえーでるわいすの活動がメインということですね。会社在籍時から個人で作りたい作品というものはあったのですか?

なる:
会社では主にアニメのキャラクターのゲームを作る仕事が多かったのです。オリジナル作品を作ったことはほとんどありませんでした。そのため一次創作をやってみたいという気持ちが強かったのです。同人ゲームは二次創作が多いのですが、僕にとっては自由に一次創作ができる場所だったのです。

――会社でではどんなジャンルのゲームを作っていました?

なる:
ほぼ格闘ゲーム。10本中8本が格闘ゲームでした。

――なるさん自身は格闘ゲーム好きですか?

なる:
本気のプレイヤーと対戦すると相手になりません(笑)。格闘ゲームは作るほうが好きです。


爽快なコンボが楽しい前作『花咲か妖精フリージア』。

――前作『花咲か妖精フリージア』も格闘ゲームの要素が強いですよね。必殺技やモーションを考えるのが好きなのですか?

なる:
それもそうですが、どちらかと言えば『デビルメイクライ』のようなソロプレイ用のアクションゲームが好きです。格闘ゲームのノウハウを他のジャンルへ活かしたい。

――なるほど。ではこいちさんお願いします。

こいち:
僕も趣味が高じてゲーム会社で働くようになりました。トータル10年弱で2社勤めています。2社目は根を下ろすつもりだったのですが、長年一緒にやってきたメインプログラマーが辞めてしまい、新しいプログラマーとゼロからの関係構築になるところでした。そこでどうしようかと悩んでいたとき、なるさんの独立についていこうと思いました。現在はえーでるわいすに集中しつつ、お金がないときは細かい仕事を受けたりしています。それでも最優先はえーでるわいすの活動なので、忙しくなったら他の仕事は断っています。

――こいちさんの会社での職種は何だったですか?

こいち:
いろいろやっていましたが、ひとつに絞るならば3Dの背景です。あとは小物作ったり、カメラワーク、ライティング。最後にいた会社ではアートディレクションもやっていました。『アスタブリード』では規模が小さいのでディレクションという感じではなく、ひたすらモデルを作っています。ただ手伝いを知り合いに頼んだりする部分は管理職っぽいです。

――ありがとうございます。ちなみに好きなゲームは?

こいち:
最近は『ウォッチドッグス』にハマっています。どちらかと言えば、洋ゲーをやることが多いです。あとはコンシューマゲームのRPGやアクションゲームが全般的に好きです。強い影響を受けたのは古い作品だと『タクティクスオウガ』や『メタルギア』などになります。『ファイナルファンタジー』シリーズなども昔はかなり遊んでいました。ただ影響を受けた作品はいっぱいあって絞り切れないですね(笑)。

――ありがとうございます。次にサークルの成り立ちを簡単にお話してもらえますか?今まで細かい作品を含めると6作品をリリースしていますね。

こいち:
最初の『花咲か妖精』はなるさんの個人作品に近いと思いますが……。

なる:
ノリはあまり変わらないですどね。えーでるわいす的には僕が勝手に作っているという感じなので(笑)。ひとりではできないことや苦手なことがたくさんあるので、できる人にお願いして、どんどんメンバーが集まってきた感じです。作品ごとに僕以外のメンバーは異なっています。


様々なところに『アスタブリード』との共通点が見られる『エーテルヴェイパー』。


――そのときにお声をかけた方は何のつながりですか?

なる:
エーテルヴェイパー』の時は学生時代の友達です。ただ制作が長引いたので、他のゲームも作りたくなったのが『花咲か妖精』。

こいち:
あれは2ちゃんねるのイベントでしたっけ?

なる:
2ちゃんねるの土日でゲームを作るイベントです。当時は結構盛り上がっていました。その後、『エーテルヴェイパー』でコミックマーケットに参加しました。体験版を何度か出した後、2007年の冬コミで完成版をリリースしています。

――以前からコミックマーケットや同人ゲームの世界とは関わりはありましたか?

なる:
渡辺製作所SITER SKAINTYPE-MOONなどのメジャー作品には触れて憧れていました。コミックマーケットは就職で上京してからの一般参加で1、2回行ってみて、「この場所でゲームを発表したいな」と思いました。

――それはやはり同人ゲームのサークルが盛り上がっていたからですか?

なる:
実際に現地へ行って会場の熱気と「机の向こう側」にいる人達に憧れを抱いたのです。



――なるほど。現在はえーでるわいすが同人ゲームを盛り上げるために参加サークルのPVをまとめていますよね。あのPVは一般参加者にとってもありがたいのですが、そういう活動はどうして始めたのですか?

なる:
あまりはっきり覚えていませんが、会社を辞めたときから始めました。

こいち:
2011年の震災の年からですね。

なる:
そのときは1、2年は本気でえーでるわいすに専念しようと思ったのです。本気でやる場合、えーでるわいすだけではなく、同人ゲーム界隈自体を盛り上げなければいけないと考えていました。PV自体はどのサークルも作っていますが、同じものを流用してみんなの手間がかからない形でまとめられないかと始めたのです。

――しかし自分たちでサークル参加して、さらにまとめ動画を作るというのは大変ではないですか?

なる:
まあ大変ですね(笑)。

――その後は同人ゲームとして作品をリリースしてきたわけですが、基本的にはなるさんが作りたいものを作ってきたわけですか?

なる:
『フリージア』まではそうです。『アスタブリード』についてはシューティングが作りたいというだけでした。中身に関してはコアメンバーが集まって話し合いました。というのは『アスタブリード』からはメンバーが固定してきたので、他のメンバーの賛同を得られる形で作りたいと思ったからです。

こいち:
そのほうがメンバーのモチベーションにもなります。

独立の道へ:ゲームを作っている感覚を求めて



――では『アスタブリード』以降のお話を聞かせてください。まず本作を作るタイミングでお二人は独立という道を歩まれることになったそうですが、そのきっかけはなんでしょうか?

なる:
僕は会社を辞めること自体が目的でした。とにかく会社が辞めたかったんです(笑)。理由はいろいろありますが、ゲームを作っている感覚がもうあまりなかったことが大きいです。

こいち:
管理職になったということもあるよね。

なる:
そうですね。開発規模がとても大きくなったのです。辞める直前に関わっていたゲームはPS3とXbox 360のマルチのタイトルでしたが、スタッフも100人を超えていました。仕事内容もゲームを作るというより、管理することになっていました。

――当時はどういう役職だったんですか?

なる:
会社では独自の名前で「○○リーダー」という感じです。実際にやっていたのはメインプログラマーです。パブリッシャー側からはディレクター的な仕事を求められていました。「コードを自分で書くのではなく、人を使うことを覚えてほしい」といった風に。でもそれが嫌だったんです。ですが実際にその業務は必要だし正しいと思います。ただ正しいと認めた瞬間に「あっ!辞めよう」って(笑)。

――なるほど(笑)。

なる:
そのとき同時に『フリージア』を作っていて、仕事が忙しい中でとても大変でした。でも『フリージア』はゲームを作っている感覚があったんですよ。コードも書けるし、ゲームデザインもできる。最後の方はこいちさんと密にやりとりをしていました。上がってきた素材に対して、こうしたほうが良いという風にやりとりして、どんどんゲームが良くなっていく。でも会社ではそういった感覚はまったくなかった(笑)。

――つまり会社での仕事とえーでるわいすでの活動を比べて、同人活動の方がゲームを作っている感覚が強かったということですか?

なる:
そうですね。どんどんバランスがえーでるわいすの方に傾いていきました。別の会社に転職することも考えましたが、とりあえず次の就職までに本気で同人活動をやってみようと思ったのです。

――なるほど。現在は同人活動が継続できているということですね。

なる:
ダメだったら別の会社を受けようとは思っていました。ありがたいことに意外とうまくいき、なんとかやっています。



――こいちさんも同じタイミングで辞めたということですが?

こいち:
少し遅れましたが、同じタイミングで独立しました。僕自身は同人でも会社でも自分がやりたいことができるならばどこでもよかった。会社では長年一緒にやってきたプログラマーが辞めてしまって、すごくやる気がなくなったのです。ちょうどその頃、なるさんから『フリージア』を手伝ってくれないかと頼まれました。それがとても楽しかったのです。一本のゲームを完成させることができたので、自分のチームを持つという意味ではえーでるわいすでやっていく方が手っ取り早いと感じました。またなるさんが独立して活動していくにしても、固定したグラフィッカーがいた方が良いという点に付け込んだという側面もあります(笑)。

――最初に参加したのは『フリージア』のときですか。

こいち:
そうですね。後半からの参加でした。最初は軽い気持ちで背景を手伝っただけです。会社も忙しい時期でしたが、1年かけて春夏秋冬をテーマにした背景作りました。その時は管理職で忙しかったので、休日を使ってコツコツと作りました。

――長年つきあってきたプログラマーが抜けたそうですが、やはりアーティストやグラフィッカーにとってはプログラマーとの連携は重要なのですか?

こいち:
重要ですね。結局のところグラフィッカーが出力できるものの上限をプログラマーが決定するわけです。意識的にも能力的にもそれ以上のことはグラフィッカーにはできません。また何かアイデアがあってもそれを実現できるのかはプログラマーによります。もちろん他のセクションも大事ですが、ゲームはあらゆるものがプログラムに集約されていきます。プログラマーとがっつり話し合えないと良い物は作れないと思うのです。

――つまり独立した動機は「この人と一緒にやっていきたい」という点?

こいち:
そうです。会社に残っても新しいプログラマーとゼロから関係を作っていく必要がありました。また僕もなるさんと同じく管理職になったのですが、どこかで手を動かしていたかった。僕の場合は仕事の単位は逆に細かくなっていきました。そうすると自分の思いをもって1つの仕事に集中することが難しくなってきました。数人のチームを手早く回していくのが重要で、管理職は速いサイクルで鉄火場に突っ込まれるような感じです。実際にそういった案件に関わりましたが、自分が欲しい技術を得るのは難しかった。えーでるわいすなら大体のことは自分たちでやらなければならない。主導権もあるし、好きなこともできる。

――なるほど。結果として二人ともえーでるわいすに集中することになったのですね。

難航したゲームデザイン、シューティングのレベルデザイン



――それから『アスタブリード』の開発が始まったわけですが、基本的には前作『エーテルヴェイパー』の延長線上にあったのですか?

なる:
そうです。ただ『エーテルヴェイパー』にも『フリージア』にも固定したグラフィッカーがいなかった。そこでこいちさんが入って来てくれたので、できることが広がったのです。『エーテルヴェイパー』ももっとしっかりと作りたいという気持ちはありました。

――『エーテルヴェイパー』も視点が変更するシューティングでしたが、『アスタブリード』でも同じエンジンを利用していますか?

なる:
基本的なエンジンは『フリージア』のものです。『エーテルヴェイパー』から流用しているものは何もありません。

こいち:
シューティングとアクションは共通性が多いですからね。

なる:
そうですね。シューティング自体がアクションの1つのジャンルだという考え方もできます。『アスタブリード』の場合はかなりアクション寄りです。剣やダッシュ攻撃の入力まわりは実際に『フリージア』とほとんど同じです。レバーを入れたダッシュ攻撃などには先行入力が成立するようにしてあります。

――他にシューティングを作った理由はありますか?

こいち:
アクションよりは大変ではないだろうと(笑)。

なる:
いろいろ勉強したいことがあったのです。例えばシェーダー。今のゲームグラフィクスにはシェーダーは欠かせません。『フリージア』を完成させたときに、シェーダーについてもっと勉強したくなりました。そしてそれほど規模が大きくないものをやりたかった。



――十分規模が大きいように思えますが(笑)。

なる:
大きいつもりはなかった(笑)。1年で終わらす予定でしたので。メンバーがメカを扱ったものがやりたいと言ったので、シェーダーの入門としては良かったと思います。またコンシューマーではもうシューティングはほとんど作られていません。演出を重視した作品というのも少ないので、わりと受け入れられるかなと思いました。でも規模が一番重要でした。会社を辞めてすぐに作り始めたので、うまくいくかどうかはわかりません。1年くらいやってうまくいかなかったら別のことを始めようと思っていました。なので、1年間で完成するものを選んだつもりです。

――でも1年で完成しなかったわけですよね。それはこのまま行けば、良いものができるという確信があったのですか?

なる:
いや、あの時は逆ですね。

こいち:
そうとうキツイ時期でしたね(笑)。

なる:
えーでるわいすで苦労した点は毎回あるんですが、『アスタブリード』はとにかくゲームとして面白くなかったのです。最初にやりたいコンセプトがどう足掻いても万人向けにはならないものでした。これを突き詰めると『鉄騎』みたいなゲームになる(笑)。

――(笑)。体験版でも4つのボタンにすべてに武器がアサインされていて、完成版に比べると複雑です。

なる:
ものすごく複雑、だけど使いこなすと楽しいというものになってしまいました。えーでるわいすのゲームは分かりやすいものを目指しているので、シンプルで楽しいものにしていきました。そのため、ラスト1年でゼロからゲームシステムを考えなおしたのです。ゲーム周りを相談出来る人がもうひとりいて、その人と相談しながら作っていきました。最終的な調整は3人で行い、「この要素はいる、いらない」と議論していきました。

――最初のコンセプトではもっと武器が多くてやれることが多かったのですか?

なる:
僕がそういうゲームが好きなのかもしれません。『デビルメイクライ』とか。

――なるほど。さすがにシューティングとしては操作が厳しい。

なる:
それ以前に純粋に面白くありませんでした(笑)。

こいち:
でも本当に作り直してよかったですよね。システムがちゃんとリブートできたのは大きかった。

なる:
もっと改良の余地はあると思いますが、最終的にはいいバランスになったと思います。演出とゲームと両方を捨てたくなかったので。

――開発後半でシステムを大幅にチェンジするのは怖くなかったですか?

なる:
最後の1年のところで変えるのはかなりの決断でした。モーション担当のKIRさんという方と2013年の新年会の時にケンカしました(笑)。みんなが和気あいあいとやっているところで、「あれ全然つまんないだけど、どうするつもりなの?」と問い詰められたのです。僕自身も面白いとは思っていませんでした。ただ1年半かけて形にしたものだった。そのまま作りきることもできたんですが。

こいち:
それから1月はなるさんが山にこもって修行って感じでしたよね(笑)。「精神と時の部屋」に篭って……。

なる:
1月から4月は暗黒期でした。一度、形になったものを作り直すわけですから。

――しかしながら、ゲームシステムの試行錯誤を繰り返しながらも、演出やカメラワーク部分は体験版からあまり変化していませんよね。



なる:
その点は『エーテルヴェイパー』から引き継いでいるので、迷いはありませんでした。ステージのデザインもまずはカメラワークから決めます。カメラが決まると映るものが決まるので、ステージ構成が決定されます。逆にカメラワークを変更するとゼロからやり直しになります。

――では、なるさんがカメラワークを決めた後、こいちさんがステージをデザインするのですか?

なる:
『アスタブリード』ではそれより先にストーリーを作りました。ストーリーは見せる必要はないですが、作るためには必要だと当時は思っていました。当時は(笑)。

こいち:
当時は(笑)。何をとっかかりにするかによりますね。システムがはっきり固まってなかったから、とりあえずストーリーを詰めていったという部分もあります。

なる:
まずストーリーがあり、このステージではここまでの話が展開されるというのが決定されました。そこで僕がとりあえずカメラワークをつけます。カメラをつけたらステージのデザインに入ってもらいました。敵配置などはカメラとステージができた段階で作りました。

――1面は海、2面はワープゲートと隕石地帯といった点はストーリー上で決まっていたんですか?

こいち:
そうですね。何面でこういう舞台というのはざっくり決めました。そこで起こりそうなことからステージを作っていった。

――カメラワークを決めるには、背景はモックなどを使用するのですか?

なる:
台と壁みたいなざっくりとしたものがあって、それでカメラを決める。カメラをつけるとしっかり見えるものが決まるので、そこをしっかりと描き込んでいく。

――カメラワークや演出は本当によく出来ていますよね。特に1面のカメラワークは本当に素晴らしい。あのカメラワークはアスタブリードのチュートリアルと演出を兼ねたものになっていますよね?

なる:
1面はなるべく全部の要素入れたかった。横スクロール、奥行きがあるスクロール、縦スクロールと。ただ逆向きのスクロールはいらないと言われました(笑)。逆向きは基本的に1面にしか登場しない。

――演出やカメラワークもストーリーに合わせて考えていったのですか?

なる:
そうです。絵コンテも作りました。カットシーンに関してはこいちさんが描いています。



こいち:
絵コンテといってもちゃんとしたものではなく、たたき台です。ゲームに落としこむと変わってしまう部分は多いので、ディテールは書き込み過ぎないようにしました。やってみると特に画角や配置の印象が変わったり、ゲームのつながりでうまくいかないところがあったりしました。ただ絵コンテがないと何を作ったらいいかわからなくなるので、ひと通り描きました。ゲーム中のカメラワークは最近の洋ゲーに近いスタイルです。ゲーム中でイベントが進行していきますが、そうなるとカメラワークはそれほど凝ったことはできません。

なる:
開発の初期段階からプレイヤーはゲーム中に常に自機を動かせるというのは決めていました。結果的にそれが制限として強かった。かっこいいカットシーンがあっても、これだと動かせないよねといった感じになるので。

――結果的にはプレイしていてシームレスで違和感なかったです。しかし、視点がここまで激しく変化するシューティングだとステージデザインは難しくありませんでしたか?

なる:
先人がどう考えていたのかはむしろ聞きたいですね。

こいち:
BitSummitの時に『パンツァードラグーン』の開発者にお会いしました。その方から「ステージどうやって作っているんですか?」と聞かれたんですよ。こっちが聞きたいわって(笑)。

――(笑)

こいち:
いろいろな事例を聞いているかぎり、やっぱり『斑鳩』式というかひとりで全部決めるのが一番良いという結論になります。

なる:
今回の場合は敵配置、ゲームデザイン、背景をすべて違う人間がやっています。これまでのシューティングの場合は同じ人がやっているのではないかと。

こいち:
その点、『アスタブリード』は良くも悪くも民主的なやり方でできたと思います。

ボイス演出でリアルタイムに描かれるストーリー



――他に『アスタブリード』の中でうまくいった点、苦労した点はありますか?

こいち:
人のパートなら褒められますが、自分のところは不満だらけです。自己評価は20点くらい(笑)。もっとやれるはずだし、やんなきゃいけなかった。制作の進め方も問題があり、スケジュールも破綻しました。また王道からあえて外れた部分も意外とうまくできなかったように感じています。シューティングにボリュームの重いストーリーをのせたり、ゲーム中に演出でストーリーを見せたりするというのは、これまで避けられたことだし、避けるだけの理由もあると身に沁みました。ただあえて挑戦した結果、いびつになった部分を好きだと言ってくれる人も結構いました。

――濃厚な演出やストーリー部分についてですか?

こいち:
そうですね。自分ではうまくいっていないと思っています。それでもお客さんが好きだと言ってくれました。

――ストーリー的には序盤が暗くて、後半は明るい展開ですよね。

こいち:
その雰囲気は僕の判断でいれたシナリオです。シューティングは鬱な話が好まれるというか、そういう話を好む人が作っている部分がありますよね(笑)。

――確かに(笑)。

こいち:
そのテイストは踏襲したかった。でも今回はシューティングに馴染みのない人にもプレイして欲しかったのです。だから見ようによってはすごく鬱だし、見ようによってはすごく明るい話にしたつもりです。エンディングまで見ると実はハッピーエンドにはなっていないかもしれない。そういった部分もプレイヤーに届いたのは良かったなと思います。

――ゲーム中は男性主人公と女の子が常にな掛け合いをしていますよね。最初からこういう掛け合いをボイスを入れるというアイデアはあったのですか?

こいち:
最初から決まっていました。理由はいろいろありますが、まず『フリージア』でボイスを入れるノウハウを獲得したから今回も入れようというのがひとつ。

なる:
シームレスな演出を目指していたからというのもあります。『エーテルヴェイパー』の6面でもゲーム中にずっと会話が流れるシーンがあったのです。でも、実際にやってみたらまったく読めないことがわかりました(笑)。そのため、演出上ボイスは必須だと。

――なるほど。シューティングでリアルタイムにテキストを読むのは無理がありますよね。ただ海外版のプレイヤーはちょっとキツそうですね。

なる:
わかってはいたんですが、さすがに海外版のボイスを入れるのは無理でした。

こいち:
ただボイスが無い分、功を奏したところもあります。

なる:
そうですね。シューティングは昔からストーリーは曖昧なもので、想像で補完するのが楽しみでした。それが英語版のプレイヤーの方がその効果が出ています。日本語がわからないので、ゲーム中はボイスは雰囲気です。そのためか日本よりも海外の人の方がストーリーの評価が高い。

――それは面白いですね。



こいち:
ボイスだけ聞くとつまらない物語に思えるんですよ。そのため背景を説明するドキュメントは必要かなと思って、ゲーム内で閲覧できる資料を駆け足で実装しました。能動的に物語を解釈する方はこれらの資料を読んで、会話シーンの台詞を理解できます。海外の方はそもそもボイスを聞けないので、能動的にストーリーを追ってくれました。当然そういう人の方が楽しめる内容になっているので、評価も高くなったのかなと。

――ちなみにボイスとシーンの同期はどうやってとっているんですか?

なる:
シーンとボイスはそんなにきっちり同期を取っていません。ここのシーンでこれだけの台詞があるといいうのが決まっていて、その尺に合わせてステージの長さを逆算しています。これもずっと苦労したのですが、ボイスをゲーム中に流すと、ステージがぜんぜん足りないですよ。僕からステージの尺を指定するんですが、僕はシューティングのステージ尺は1分半がベストだと思っています。そうすると僕が指定した尺では物語が表現しきれないと言われるんです。

こいち:
僕が未熟だったということもありますが、最初に決まったストーリーが大きすぎました。結果、最初に決まったプロットがカットされることも。

――あと今日、偶然ハイスコア動画を見ていたら気づいたのですが、ゲームの進行によって一部のキャラクターの台詞が変化する部分がありました。

なる:
2面だけそういう演出があります。ステージ中盤に登場するエストを早く倒せたらボイスが出ます。

――やはり隠し要素だったんですね!

なる:
そういう演出はもっと入れたかった。ただ大変でした。同人ゲームの『空飛ぶ赤いワイン樽』という作品でもボス戦で似たような演出があります。画面横でボスがずっとしゃべっているゲームなのですが、途中で倒すとしゃべっている途中だろと怒りながら死んでいく。その作品に少し影響されたというのはありますね。

海外でも同人ゲームは通用するか?



――『アスタブリード』をリリースしてから1年弱くらい経ちました。最初はコミックマーケット、次にPlayism、さらにSteamとどんどん販路を拡大してきました。自分たちのホームを超えて作品を届けてみてどうでしたか?

なる:
正直、最初はまった反応はありませんでした。シューティングというジャンルのハードルが予想以上に高かったのです(笑)。関わった人にはお礼としてゲームを差し上げたりするんですが、8割くらい人に「シューティングは苦手なんでやらないですよー」と返されます。でもイベントに出ると反響がありました。例えば、2013年の東京ゲームショウのインディーゲームのイベント。その時は舞台の裏で『アスタブリード』を展示していたんですが、そこで初めて知ったという人に声をかけられました。コミックマーケットはホームみたいな感覚ですが、それ以外のところで出展すると、全く違った層に触ってもらえます。

――今年は海外のイベントPax Eastにも行ったそうですね。

なる:
Paxはとても楽しかったです。基本的にはコミックマーケットと変わらないオタクな人たちが大量に押し寄せます。もう愛すべきオタクども(笑)。基本的にあのイベントはコミックマーケットと同じなんです。空気も雰囲気も全然変わらないし、気軽にプレイして面白いって言ってくれます。ただ日本以上にシューティングへの偏見というか、障壁が少ないというのはあります。知らないゲームがあると向こうの人はとりあえず触ってくれる。一番違う点はそこでした。誰も遊んでないと、とりあえず触るんですよ。

こいち:
日本では空いているところは逆に敬遠されますよね。むしろ列が並んでいるところに人が集まる。

――なるほど。そういう違いはあるかもしれませんね。

なる:
他には女性ユーザーが多かったのには驚かされました。コミケは場所や日によってかなり偏り男女比が異なります。『アスタブリード』を出したときのコミケの列は99%男(笑)。アスタブリードの向かいが歌い手さんのサークルでほぼ100%が女性。そういう風にはっきりと分かれています。動的同人ゲームの配置で女性の列を見たことがあるのは、『コープスパーティー』のサークルぐらいですね。それ以外ではほとんど女性は見ないです。

――東京ゲームショウやPax以外にもBitSummitにも出展していますよね。そういったイベントでは同人サークル以外のインディー開発者と交流する機会もあったと思います。それはどうでしたか?

なる:
実際に会って話すとみんな同じ人間です。立場やポジションが違うのでそれぞれ違うことをやっていますが、結局は作りたいものを作っているだけです。特に最近はNIGOROさんと交流する機会がありますが、いろんな意味でちゃんとした人たちだなと思います。

こいち:
ちゃんとした大人ですね(笑)。

なる:
本人たちは嫌がると思いますが、僕個人としては彼らは「同人・オブ・ザ同人」という感じなんですよ。

こいち:
普通は自分が主人公のゲームは作れないですよ。憧れですよね(笑)。


左からこいち氏となる氏。

――
そういったグローバルな場所で作品を発表することで何か創作や意識に変化はありましたか?

なる:
影響される部分はないですね。結局、日本人が日本人向けに作ったゲームを海外でリリースしていきたい。むしろそのままの方がいいと思っています。逆に海外の方が喜ぶと思って作ったゲームはそんなにウケないと思います。100万本売ろうというなら違うと思いますが、小規模であればそのままのほうが良い。向こうの人もそれを望んでいます。だから日本人向けの同人ゲームをこれからも作っていきたい。ただ以前よりも広く海外でリリースしたいと思うようになりました。ゲームの内容は変えませんが、販路を広げていきたい。実際に海の向こうのプレイヤーの顔を見て、その人たちに届けたいという気持ちが強くなったのです。

――
今はPS4の移植に取り組んでいますよね。進捗はいかがですか?

なる:
PS4は年末年始にはひと通り完成させます。そこから発売までどのくらいかかるかわからないですが、来年の春にはリリースしたいです。

――PS4には独自のアレンジモードもつけるそうですが。

なる:
ちょうど作っています。ちょっと規模が大きくなりすぎていて、もう少し小さくまとめる必要があります。シューティングなのでちょっと手をいれると全体が変わって、別なゲームになってしまうので大変ですね。

――こいちさんはPS4の方にも関わっていますか?

こいち:
来月から作業しなければいけないですね。PC版は720p向けに作っていますが、1080p向けに直したり、イラストも修正したりしています。

――『アスタブリード』以外の企画はどうですか?

なる:
企画はふくらんでいますが、まったく作業にとりかかっていません。まだ話し合っているだけですが、どんどん壮大になっています。

こいち:
先日、話した感じだと、どんどん温めすぎていて少し冷ました方がいい(笑)。まだ資料を集める段階ですね。

なる:
基本的には『フリージア』系のアクションゲームという予定です。より自由度が高いものになります。

――このあとイベントなどの予定はありますか?

なる:
今回は冬のコミックマーケットにも久しぶりに参加しません。ただまとめ動画はやりますよ!自分たちが参加しないからといって、やらないわけにはいかない(笑)。今はPS4の『アスタブリード』が優先でやっているので、他にイベントに参加する予定はありません。

――なるほど、ありがとうございました。PS4の完成と次回作、是非とも楽しみにしています。

記事提供元: Game*Spark
《今井晋》
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