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安田朗氏インタビュー後編 『∀ガンダム』で富野由悠季監督の神の御業を見た

安田朗氏に、『ガンダム Gのレコンギスタ』に続けて『∀ガンダム』と作品を通じての富野由悠季監督との仕事についても伺った。

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安田朗氏インタビュー後編 『∀ガンダム』で富野由悠季監督の神の御業を見た
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ガンダム新シリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』(以下『G-レコ』)が8月23日からの特別先行版の2週間限定劇場上映からスタートする。9月8日よりdアニメストアでその独占配信、2014年10月からはテレビシリーズが開始する。
そうしたなかで富野ガンダムの系譜があらためて注目されている。そのひとつが15年前に富野監督が手がけた『∀ガンダム』だ。『G-レコ』のモビルスーツ「G-セルフ」のデザインを手がけた安田朗氏は、『∀ガンダム』のキャラクターデザイン原案にも参加している。
安田朗氏に、『G-レコ』に続けて『∀ガンダム』と作品を通じての富野由悠季監督との仕事についても伺った。

『ガンダム Gのレコンギスタ』
http://www.g-reco.net
『∀ガンダム』
Blu-ray BoxI 2014年9月24日発売

■ 服を着たキャラクターをちゃんと描きたかった『∀ガンダム』

―安田さんがかかわったガンダム作品では、『∀ガンダム』も2014年にBlu‐ray Boxとして発売されます。富野ガンダムの系譜のなかでにも非常に重要な作品です。
当初『∀ガンダム』が発表された時に、ゲーム界のスーパースターである安田朗さんのキャラクターデザイン原案起用は、かなりファンに驚きを与えました。そもそもなぜ富野さんは安田さんをお誘いしたのですか?

安田朗さん(以下安田)
『機動戦士Vガンダム』が終わってから『ブレンパワード』まで、富野監督の作品づくりでは数年間空白時期があるのですが、その間に富野監督とゲーム業界が盛り上がっていたんです。富野監督がゲーム業界に打って出るぞみたいな気分もありつつ、それを踏まえて世の中を探ろうみたいな感じでした。
その時に僕が所属していたカプコンで、富野監督がカプコンのスタッフと話し合いたいという時があって、僕が立候補してミーティングに参加しました。僕が熱烈な富野信者であることが見抜かれたんだと思います(笑)。その時に「安田くんに何か仕事を頼みたい」と。ただそのときの話はメカニックだったんです。

―最初はメカニックだったのですか。

安田
メカニックをコンペでやろうという話でした。

―逆に「キャラクターでお願いします」と言われた時はどんな感じですか?

安田
ちょっと助かったな、と(笑)。メカは難しいですからね。しかもガンダムはメカの最高峰ですから。こんなブランドが高まったものに途中から参加するなんてという気持ちが当時はありました。

―そうしたなかで、キャラクターデザインの原案として大胆に自分の個性を出されました。素朴なイメージのキャラクターが出てきてファンを驚かせました。かなりチャレンジングだったと思います。

安田
僕的にはチャレンジングでしたね。それまでは格闘ゲームなどで、筋肉のあるキャラクターばかりを描いていましたから。でも、逆に言えば、筋肉で半裸の男ばかり描いていたので、服を着たキャラクターをちゃんと描きたかったんです。
『∀ガンダム』はファンタジーものじゃないですか。ファンタジーがすごく良いなと思って、さらっとした感じにならないかなと考えました。

―そのキャラクターをデザインされるなかで気をつけたことは、ありますか?

安田
気をつけたことは色々あります。まず富野監督の作品では『機動戦士Ζガンダム』以降、怒鳴り合いが増えていました。それがいいところではありますが、ギスギスしたセリフをもう少し柔らかいキャラでやれば、ギスギスが見えなくなるのではないかと思ったんです。

―同じドラマでもキャラクターを変えると少し印象が変わるみたいな感じでしょうか。

安田
僕はこのキャラクターで人殺しをやってほしかったんです(笑)。そしたら、『∀ガンダム』では全然人は死にませんでした(笑)。

―『∀ガンダム』は、そうした点でも富野監督作品のなかでもターニングポイントになっていますね。

安田
企画の途中まで残酷だったんですけどね。キエルは1話で死ぬはずでしたから。

■ 富野監督は面白がりたい人、予定調和だと駄目なんだと思います。

―先程、富野監督はあまりオーダーを出さないとお話ありましたが、『∀ガンダム』の時のキャラクターに関しても富野監督からもあんまりオーダーは出なかったんですか?

安田
オーダーが出る時は、僕が遅れている時ですね。作業が始まっている時にも出します。最初はヒントだけ言って、上がってきたものを背負投げする感じです(笑)。

―『∀ガンダム』の時の監督のヒントは何でしたか?

安田
『∀ガンダム』の時は、ヒントが全然分からず、完全に手探りでした。本当に分からなかった。主人公のロラン・セアックはどういう少年かというと「ホワイトドールという街にある巨大な像を掃除する男」と書いてある(笑)。
あ、思い出しました。ヒントはありました。初期の企画書に、これからの時代は『ゴレンジャー』でいえばグリーンみたいな人が主人公になるべきじゃないかと書いてありました。

―ピュアで少年っぽい感じですか?

安田
主人公は昔は熱血だったけど、これからはグリーンみたいな人が主人公じゃないかと。だから、どっちかというとキースのほうを主人公みたいな気持ちで描きました。

―ロランは本編で女装したりと中性的なイメージがあります。それも意識されましたか?

安田
それは「男と女、どっちでも見れるようなキャラクター」と言われたんです。ロランは苦労しました。

―これも印象的なのですが、ロランは褐色の肌で白い髪というのが非常に変わっています。もうひとり、グエンも褐色の肌で金髪、これも非常に変わったビジュアルです。そうした発想はどこから生まれたんですか?

安田
世界は一回は滅んでいるということですね。要はアメリカ大陸だけど、もともとブリテン島から着たアングロ・サクソンな人も金髪かもしれないけど、日差しが強いので何人かはメラニンが増えたんじゃないの? と思ってです。そうすれば、昔のガンダム世界とは違う人間たちが住んでいる感じが、出るかと思ったんです。

―キエルとディアナが、よく似た姿のキャラクターとして登場します。当初からキャラクターの入れ替わり、同じビジュアルだけど違う人という設定は決まっていましたか?

安田
最初はなかったんです。なぜかというと、キエルは「死ぬ」とありましたから。「キエル死ななくなったんですか?」「そうなんだよ」と言っていました。そのあとに、「とりかえばや(*)を考えた」という話になりました。
*平安時代後期の文学『とりかへばや物語』。よく似た姿の姉と弟が着物を替えて入れ替わるストーリー。

―入れ替わりは物語の主軸になっていますが、割と後から出てきたのですね。

安田
富野監督自身が作品を作る時に面白がりたい人だから、予定調和だと駄目なんだと思います。だから、例えば「予告に必ず風を入れる縛りにしたんだよ」と言っていましたからね。そういう楽しみがたぶん必要なんだと思います。

■ 『∀ガンダム』で富野監督の神の御業を見た

―『∀ガンダム』は放映時から尻上がり的に評価が高まっていて、今はすごく評価が高い作品だと思います。それは安田さんのキャラクターをはじめとした「癒し」がみんなに求められているということはありませんか?

安田
癒しが受け入れられたのかは分からないけど、『∀ガンダム』が持っているパワーに気づいたのではないでしょうか。
それと『∀ガンダム』はすべてのガンダムのエンドであるから、この企画を考えた富野監督はやっぱり神としか言いようがない。富野ガンダムという原作を別に広げた他人のものだったガンダム世界をも、全部自分のものにしてしまった(笑)。自分の要求とガンダムの終焉もちゃんと作って、ガンダムは最後は概念的に『∀ガンダム』で終わるという究極までいったわけです。

―『∀ガンダム』について、あらためて見るのであれば、何を見るべきだと思いますか?

安田
『∀ガンダム』で監督の神の御業を見てしまったものとして、神を見た人間はそれをどう表していいか分からない、そういう感じですよね。ガンダム世界に照らし合わせるとものすごく大切な作品です。

―富野監督の「神」は、どういった部分だったんですか?

安田
富野監督が天才的な何かを持っている感じではなくて、どちらかというと情念によって全ての物理的な法則が富野監督に集まってくる感じがします。
富野監督が行動することが、何か神を呼ぶ感じです。最初は「何言ってるんだ?」 ということが結構あるんですけど、10年経つといろんなことがわかってきて、「うわー!」となるんですよ。だっておかしいじゃないですか。富野監督は『∀ガンダム』の名前をつけてから、「∀」の記号に全肯定という意味を知ったんですよ。

―逆なんですね。

安田
「そうそう。これ全肯定という意味があるんだよ!」と言って。そんなことが多過ぎるんです。たぶん考えずに読みこむんですよね。未来想像センサーみたいなのがあるんです。

―本日はありがとうございました。 

『∀ガンダム』Blu-ray Box
Box1 2014年9月24日発売 32,000 円(税抜)
Box2 2014年12月254日発売 32,000 円(税抜)
《animeanime》
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