ADCの2日目に開催された「Evernote Case Study: Designing First Impression that Last」ではEvernote社のシニアプロダクトデザイナーのKara Hodecker氏とグロースプロダクトマネージャーのNaomi Pilosof氏が登壇し、Evernoteがこれまで学んだ5つのことが紹介されました。「Evernoteを使ってる人?」というHodecker氏の問い掛けには大半の人が手を上げ、どうやらファンで埋め尽くされたセッションは和やかな雰囲気が流れていました。
1.ユーザー教育には、「なぜ」と「どうやって」を提供する
Evernoteはデータをクラウドに保存して、様々なデバイスから環境を気にすることなく利用することのできる記録スペースです。筆者のようにパソコンあり、スマホあり、タブレットあり、という環境で、かつ物書き、という人間にはとても重宝するのですが、必ずしも前のめりなユーザーばかりではありません。広げていくためには「なぜEvernoteを使うのか」というストーリーが必要だとHodecker氏は言います。
Evernoteはシンプルなアプリケーションですが、その分、使い道は無限大です。メモを取る他に、撮影した写真を一緒に記録したレシピ帳として、他人と共有できる機能を使ってコラボレーションのために、日記帳として、気に入ったニュース記事を保存するために、全てをスキャンしてペーパーレスにするために、単にストレージとして・・・。こうした使い方を提示することで、使う理由をユーザーに与えるのです。
2.フィードバックはギフトのよう
ユーザーが望むことは製品を改善するヒントとなります。Evernote社では様々な形でユーザーテストを実施しているそうですが、Pilosof氏は「ユーザーが不都合に感じた部分は特に貴重」だと言い、サポートデスクでの応答の内容が製品開発にフィードバックされていると話しました。
不具合の改善だけでなく、今後にも繋がるようです。同氏は「単にサポートを行うだけでなく、どのようにして使われているかを吸い上げることで、今後の製品開発にも活かせる」と述べていました。サポートデスクを設置することは中小規模のデベロッパーにとっては負担にもなりそうですが、ユーザー満足度を上げることに+αの効果もありそうです。
3.手を差し伸べる
「お客様は神様」ではありませんが、Evernoteではユーザーが望むことを実現するという姿勢が強いようです。過去の機能改善もユーザーの声から行われたものがあるようです。また、有料版での新機能が追加されたような時は無償版のユーザーにもトライアル期間を設けて試すチャンスを与えるというようなことも行っているとのこと。常にユーザーに寄り添うというのが基本姿勢です。
4.シンプルに保つ(簡単なことではないが)
Evernoteには数え切れないほどの機能があります。しかし不思議と複雑さは感じません。会社全体として「シンプルさを保とうとする姿勢」の現れのようです。
プロダクトのみでなく、発信するメッセージでもシンプルを心がけているようです。公式サイトも長々とした製品説明はありません。ほぼ唯一の収益源となっている有料版の紹介ページも驚くほどシンプルで、勧誘しようとする姿勢すら見せません。しかしPilosof氏は「シンプルなメッセージが逆にユーザーの行動を促すこともあるのです」と述べていました。
5.ブランドを広げる
Evernoteから広がるエコシステムに対して同社は非常にオープンな姿勢です。Evernote APIを使えば、アプリ開発者はEvernoteのほぼ全ての情報にアクセスすることができます。
またオフラインでもEvernoteのブランドを広げる努力が行われています。スマートフォンケースのモレスキンやスタイラスではEvernoteブランドの商品が登場していっています。また、富士通グループのPFUでは小型スキャナーの「ScanSnap Evernote Edition」を販売しています。Evernoteのデザインに調和したコラボレーションモデルで、ワンプッシュでスキャンしデータをEvernoteに記録。「すべてを記録する」というEvernoteのコンセプトを体現するような商品です。こうした商品を通じてEvernoteは世界を広げようとしています。
約30分間のセッションで語られたのは、個々は特別ではない、でも全て実現するのは案外歯が折れるというようなレッスンでした。Hodecker氏も「正しくは"私達が学んだ"ではなく、"学び続けている"ことを紹介します」と話したように、彼らにとっても現在進行形の重要な5つの事のようでした。
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