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AppBankGames宮川氏が語る、iPhoneで実現した究極のゴルフゲーム『ダンジョン&ゴルフ』開発秘話

11月18日に開催されたオートデスク主催の「新次元ゲーム開発セミナー」で、AppBankGames社長の宮川善之氏は「ゲーム開発未経験者が世界市場に挑戦する方法」と題して講演を行いました。

ゲームビジネス その他
AppBankGames 宮川善之氏
  • AppBankGames 宮川善之氏
  • 鎌倉でAppBank村井氏に説得され覚悟を決めたという
  • Unityで開発された『ダンジョンズ&ゴルフ』
  • 良いゲームをたくさん作るには本気のクリエイターを育成する必要がある
  • 定番ゲームであれば作りやすいと判断
  • Unityなら簡単に作れるだろうと考えたが
  • 6週目で遊べるものが出来た
  • しかし、面白いものではなく悲観論が充満し始めたという
11月18日に開催されたオートデスク主催の「新次元ゲーム開発セミナー」で、AppBankGames社長の宮川善之氏は「ゲーム開発未経験者が世界市場に挑戦する方法」と題して講演を行いました。宮川氏は東京ゲームショウで発表された新作アプリ『ダンジョン&ゴルフ』の開発を振り返りつつ、リリースに向けての意気込みを語りました。

古くから(といっても、たかだか数年間ですが)のiPhoneアプリゲーマーなら、おそらく「ゼペット」という会社名の方が通りが良いであろう宮川氏。過去3年ちょっと、個人事業主としてアプリ開発を展開。中でも宇宙カジノがモチーフの『ポケットベガス』は、100万ダウンロードにも手が届くかという大ヒットを記録しました。

しかし、iPhoneアプリのニュースサイト「AppBank」などを展開するAppBank村井代表から、くどきにくどかれ、ついに開発スタジオ設立を決断。同社の驚異的な成長ぶりや、村井代表らの高いモチベーションに対して、「このままでは、いろんな意味で乗り遅れるのではないか」と思い至った宮川氏は、新たにグループ会社「AppBankGames」を設立し、スタッフ20名を雇用しての旗揚げを敢行します。

生き馬の目を抜くiPhoneアプリ市場で生き残るには、良質なゲームをたくさん作り続けるしかない→そのためには良質な人材を囲い込むしかない→しかしベンチャーでは、待っていても良い人材は来ない→新規プロジェクトを立ち上げて人材募集を行い、実践を通して育成するしかない・・・。賽は投げられたのです。

この時、宮川氏の脳裏にはすでに「ゴルフゲーム」が浮かんでいました。未経験者でもUnityなどの開発環境を駆使すればゲームは作れるが、斬新なゲームでは完成像がぶれるリスクがあります。なにより『アングリーバード』などと同じ土俵には乗れない。それよりも定番で長くランクインしている『レッツ!ゴルフ』と勝負だ・・・。この時の決断がいかに甘い物だったか、後で思い知ったと宮川氏は振り返りました。

「未経験者でもUnityなら簡単」「Terrainエディタ(Unityの地形をつくるエディタ)なら簡単にコースが量産できる」・・・。しかし、現実は茨の道でした。2012年2月に会社を設立し、開発をスタートして6週間後。なるほど、プロトタイプ版は完成しました。しかし処理が非常に重いうえに、「ゲームがつまらない、そして、どうすれば面白くなるかわからない」という悲観論に陥ってしまったのです。

処理が重いのは、何でもかんでも突っ込んだあげく、ドローコール(描画命令)が6000回にも及んだため。まだ最適化の余地は十分にありました。しかし、最終的にゲームがおもしろくなる兆しがなければ、モチベーションも上がりません。

ここで宮川氏が取った手法は「人気ゴルフゲームを研究して真似する」・・・ではなく、実際にゴルフを体験し、その面白さを分析することでした。社員総出で多摩川の河川敷に出かけていき、2時間たっぷりある昼休みを利用して、練習場でボールを打ち続ける日々がスタート。プロゴルファーのラウンドも見学に行きました。ゴルフコースの実地取材も敢行。その結果Terrainエディタでは、とてもではないがコースの雄大なうねり具合は出せないことが分かり、急遽追加のDCCツール導入を決定したそうです。

また、こうした取材を通して、社員全員がゴルフの面白さを理解していきました。「コースの適正な広さもわかってきた。それまでは10打くらいかけて、やっとティからホールに届くような、無茶なコースを平気でレイアウトしていた」(宮川氏)。なにしろ、それまでほとんどの社員がゴルフ未経験者だったのです。

こうなってくると、チームのモチベーションも俄然向上。毎朝最新のビルドを社員みんなでレビューをして、改善点をリストアップ。これらを一つずつ、丁寧につぶしていきました。改善点は最終的に16000点にものぼったといいます。また、この時期にアセットサーバの導入も決断。100MB単位でのビルドも数秒で共有できるため、チーム内での改善の頻度が俄然アップしました。

6月になって、ようやく実機上で遊べるモノができあがってきました。ここで同社は毎週テストプレイヤーを招いて、テストプレイを実施。少しでもテスターの顔が曇ると改良し、また翌週に別のテスターにプレイしてもらう、といったサイクルを繰り返しました。何十回も作り直しを重ね、マスターアップぎりぎりまで「全ボツ」が出たほどです。

もっとも、社員のモチベーションは非常に高く、「社長である自分が妥協したくても、社員がそれを許してくれない」という状態が続いたそうです。宮川氏はこれを「夢のような地獄・地獄のような夢の世界」と表現。またこれが実現できたのも、Unityの優れた開発環境のおかげだと強調しました。

そしてTGSでの発表会。その17時間前まで社員総出でiPhone5の発売を前に、ショップで行列を作っていたという宮川氏は、その場でAppBank村井代表に最新ビルドをプレイしてもらい、完成度に自信を深めたそうです。「誰が触っても30分ハマる。そして1時間、2時間と遊び続けてしまう」ものになったといいます。

今回使用した開発ツールは▽Unity(ゲームエンジン)▽Maya・MAX・Shade(DCCツール)▽Aperture Cutscene・NGUI・iTween(グラフィック関係)▽FinalCut(ムービー制作)▽Photon Network(ネットワークプレイ)--など。ネットには無料や低価格で使えるツールが大量にそろっているので、組み合わせで対外のことができると言います。

たとえば本作はシングルモードが存在しない、マルチプレイ専用のゴルフゲームとなっていますが、これもUnityの定番ライブラリ、Photon Networkのおかげ。「やり方について悩む前に、検索すれば何かがヒットする。そうしたら実装して、実際に動かしてレビューした方が早い。もうそんな時代」(宮川氏)。こんな風に道具はそろっているので、あとは仮説と検証を何度も繰り返す方が、最終的な完成度が高まるというわけです。

最後に宮川氏は「第二期生募集」と題して人材募集の告知を行いました。応募条件は自作の「ブロック崩し」を提出すること。ちなみに「第一期生」では「パチンコゲーム」でした。約80名の応募があり、そのうち20名を採用したわけですが、そのうちゲーム開発経験者は3名のみ。もっとも「未経験者ゆえに、作り込みが尋常ではなかった」ため、結果的にそうなったとのことです。

「ダンジョン&ゴルフ」のリリースを控えた今、未経験者だからといって世界を前に壁を感じている社員は一人もいない・・・。宮川氏はそう語ります。そして自分たちと一緒に、すごいゲームを作りましょうと呼びかけ、講演を締めくくりました。
《小野憲史》
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