人生にゲームをプラスするメディア

ゲーム以外にも広がるUDKの用途・・・「Unreal Japan News」第37回

本来は3Dゲームの作成に使用されるグラフィックス・ソフトウェアが、より優れたトレーニングツールやシミュレーションを低コストで作成するために活用される事例が増えています。

ゲームビジネス 市場
医者を演じる:アンリアル・エンジンを使って制作されたHumanSimという訓練用アプリケーションでは、看護師や医師が緊急対応のトレーニングを行うことが出来ます
  • 医者を演じる:アンリアル・エンジンを使って制作されたHumanSimという訓練用アプリケーションでは、看護師や医師が緊急対応のトレーニングを行うことが出来ます
  • HumanSim医療アプリケーションは、アンリアル・エンジンによって衣服や人間の生理機能の詳細をシミュレートします
本来は3Dゲームの作成に使用されるグラフィックス・ソフトウェアが、より優れたトレーニングツールやシミュレーションを低コストで作成するために活用される事例が増えています。

著者: Kevin Bullis
出典: Technology Review, published by MIT
November 9, 2011
http://www.technologyreview.com/business/39027/?a=f
和訳:河崎高之

ゲームエンジンと呼ばれるソフトウェアフレームワークは、これまではハイクオリティなシミュレーションを制作する資金的余裕を持たなかった企業にも新たなチャンスを提供しています。臨場感あふれる仮想世界を実現するために磨かれてきたゲームエンジンの技術により、救急救命士や消防士の訓練をより効果的かつ低コストに実施することが出来るようになりました。また、建築設計の分野でも、従来よりも大幅に進歩したレベルのディテールをクライアントにプレゼンすることが可能となっています。

米国ノースカロライナ州に本拠を置くEpic Gamesは、いわゆる"シリアスゲーム" 、つまりエンターテイメント以外の分野におけるゲーム技術の活用に関して、先行してきた企業の一つです。ゲームエンジンとは、ゲーム中の3D環境の描画や、サウンドコーディネーション、オブジェクトの当たり判定、プレイヤー間の相互作用といった機能を備えた統合型開発環境を意味します。ゲーム技術の非エンターテイメント利用を推進する団体、Serious Game Initiativeの共同設立者であるBen Sawyer氏によれば、全世界におけるゲームエンジンの市場規模は80億円から150億円に上ると見られています。

Epic Gamesが提供する「アンリアル・エンジン」は、『ギアーズ・オブ・ウォー』や『バットマン:アーカム・アサイラム』等といったベストセラーゲームの心臓部に使われていることで有名ですが、同じテクノロジーを使って災害下の都市を再現する試みがなされています。アンリアル・エンジンの活用により、災害の発生している街路を画面中に再現し、ユーザーがその中を歩きまわって、他のユーザーやキャラクターとの遭遇をシミュレートすることが簡単に行えるようになりました。

Epic Gamesの技術は、デューク大学医療センターや米・国立衛生研究所などのクライアントによって、医療研修プログラムを開発するためにも利用されています。例えば、救急研修のアプリケーションでは、ユーザーがシミュレートされた事故の被害者に近づいて質問をし、患者のバイタルサインを評価し、治療を施すことが出来ます。同時に、離れた所にいるインストラクターがユーザーのパフォーマンスをモニターして評価することが出来るのです。Applied Research Associatesの製品開発ディレクター、Jerry Heneghan氏は、この方法によって生徒がより速く学び、学んだことをより多く記憶出来ると述べています。また、教師がマネキンを使って行う従来の方法よりも、一度に多くの生徒を効率的に訓練することが可能となります。 「コストも削減できるし、多くの人間をより速く訓練出来るから、投資回収の速度も早まるんだ」とHeneghan氏は話します。


シミュレーションでの利用に視点を移しましょう。建築設計事務所であるHKS社は、アンリアル・エンジンを使ったヴァーチャル・リアリティ・シミュレーションにより、NFLダラス・カウボーイズの新たなスタジアムが2009年に完成される前に、カウボーイズのオウナーがスタジアムの内部を見てまわることを可能にしました。また、詳細は公表されていませんが、他の企業では街路の詳細なモデルや大型ビルの内装を精緻に再現することで、建築設計のビジュアライゼーションを緊急対応チームの訓練と組み合わせて利用しています。こういった訓練により、消防士がある特定の場所に出動する必要が生じた場合、どんな経験をすることになるのか、前もって学習することが可能となります。Epic GamesのJay Wilbur副社長は、「知らないビルに突入する時でも、何も分からない状態で入っていく訳ではなくなります」と話します。「どこにドアがあり、ドアの向こうはどうなっているか、あらかじめ知っておくことが出来るのです」


Epic Gamesの技術は、シリアスゲームの範囲をも更に超えた活用がなされています。「アンリアル・エンジン」のゲーム以外での最も一般的な利用方法は、ゲーム中のムービーシーンを制作するためのツールを利用したアニメーション映像制作でしょう。

ゲームエンジンのライセンスビジネスでは、エンジンを使ったゲームの売上の一部をロイヤリティとして受け取るビジネスモデルを基本としている事もあり、ゲームエンジン開発者の多くはゲーム以外の市場への進出に消極的でした。シリアスゲームは一般向けに広く販売されるものではなく、特定の必要性をもった少数の顧客しか興味を持ちませんし、アニメーションスタジオもゲームを販売するわけではありません。これらの市場は、ゲームビジネスに比べて、エンジン提供者にとって肥沃な市場には見えませんでした。Serious Game InitiativeのSawyer氏によれば、非ゲーム市場のユーザーと、エンジン提供者側、双方にとって意味のあるライセンス形態を初めて提供することで、新たな市場を開拓したのがEpic Gamesであると言います。

トレーニング用に石油掘削装置のシミュレーションを開発したいと思っている石油会社等の企業向けに、Epic Gamesは1開発者あたり年間2,500ドルのライセンスを提供しています。社内利用を行う分には、これ以外のライセンス費用は必要ありません(Epic Gamesは映像制作会社向けにも同様の条件をオファーしています)。販売目的で製品を開発したい企業には、契約時に99ドル、売上が5万ドルを超えた後は25%のロイヤリティというスキームも用意されています。商用利用を目的としない場合、UDKと呼ばれる無償公開版エンジンを無料でダウンロードして使用することも可能で、これまでに100万件を超えるダウンロードが行われています。

エンジン技術の次のステージは、「簡素化」がキーワードになるのかもしれません。プログラマーの力を借りずにトレーニングやシミュレーション用のアプリケーションを簡単に制作することが可能になれば、もっと多くの場でゲームテクノロジーが利用される機会が増えるでしょうから。
《土本学》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

ゲームビジネス アクセスランキング

  1. 【CEDEC 2008】ゲーム開発会社が海外パブリッシャーから開発を受注するには?

    【CEDEC 2008】ゲーム開発会社が海外パブリッシャーから開発を受注するには?

  2. 海外パブリッシャー向けの営業とは・・・IGDA日本グローカリゼーション部会 特別セミナー

    海外パブリッシャー向けの営業とは・・・IGDA日本グローカリゼーション部会 特別セミナー

  3. なぜ「アイカツ」のライブ映像は、ユーザーを魅了するのか…製作の裏側をサムライピクチャーズ谷口氏が語る

    なぜ「アイカツ」のライブ映像は、ユーザーを魅了するのか…製作の裏側をサムライピクチャーズ谷口氏が語る

  4. 『リズム天国』のプライズが登場―可愛くはない?

  5. 任天堂の山内相談役、京都大新病棟に70億寄付

  6. バンダイナムコグループ大幅に機構改革―BNGにはウェルネス事業部、人材開発推進準備室が新設

  7. GB版をリニューアル!FOMA『スターオーシャン ブルースフィア』配信

  8. 【CEDEC 2010】外国人が語る欧州言語向けローカライズの実情

  9. 【DEVELOPER’S TALK】「もうPS3には戻れない」と言わせたい、開発チームが挑んだゲームサウンド演出 PS4『龍が如く 維新!』インタビュー(後編)

  10. グラビアアイドル×VR=けしからん!パノラマ動画「VRガール」公開

アクセスランキングをもっと見る