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WORLD CLUB Champion Football を支える5つのAI −DiGRA JAPAN5月公開講座

5月29日、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の公開講座が東京大学で開催されました。今回のテーマはサッカーAI。電気通信大学の西野順二氏による、自律型ロボットによるサッカー競技「RoboCup」のAIについての講演と、セガの田邊雅彦氏による『WORLD CLUB Champion Football』のAIについての講演が行われました。

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5月29日、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の公開講座が東京大学で開催されました。今回のテーマはサッカーAI。電気通信大学の西野順二氏による、自律型ロボットによるサッカー競技「RoboCup」のAIについての講演と、セガの田邊雅彦氏による『WORLD CLUB Champion Football』のAIについての講演が行われました。



西野氏はファジィ理論を専門としている研究者で、RoboCupリーグには開始当初より参戦しています。RoboCupリーグは、自律型ロボットの国際的な競技会で、サッカー部門のほかレスキューやジュニア部門などがあり、今回講演で取り上げられたのはサッカーの2Dシミュレーションリーグ。サーバー上のサッカー場に対戦する2チームが接続して、2チームあわせて22台のコンピュータ上で動作するAIが試合をおこなうというものです。1台のコンピュータが1人の選手の制御を担当、サーバーから提供される周辺情報をもとにプレーを進めます。向いている方向や対象物との距離によって、サーバーから各プレイヤーに示される情報が限定されているため、不十分な情報をもとに各ロボットが他のロボットと協働しなければならないという難しさがあります。選手同士は声を掛け合いながら動けるものの、距離が遠いと声が伝わらないため、ボールや敵味方の状態を見ながら自分の判断でプレーしなければなりません。

RoboCupサッカーの2Dシミュレーションリーグが始まった当初は、周辺情報を取得して移動するので手一杯だったAIも、作り込みによる連携戦術の時期を経て、学習による戦術の獲得、探索型AI(囲碁や将棋のAIにあるような先の展開を読んでいくAI)の採用などが進み、最近では人間のチームのようにスペースを作ってプレーするようになっているとのことです。いくつかのチームがソースコードを公開したことで、進化がさらに加速したそうです。西野氏が未踏ソフトウェアプロジェクトで開発した「OZED」というシステムは、選手AIの行動をプログラムしていくツールで、「このあたりにボールがあるときにはシュートする」「このへんに敵がいるときはマークする」といったルール定義をファジィ理論によってスムーズに処理していけるのが特徴となっています。

続いてセガの田邊氏は、WCCFの試合展開をコントロールするAIについて講演をおこないました。WCCFは、カードを並べてフォーメーションを組み、他のプレイヤーやCOMと試合をおこなうアーケードゲームです。プレイヤーは配置と戦術操作のみ行い、細かな操作はほぼすべてAIがおこなうため、AIが非常に重要なゲームです。

WCCFのAIを設計する際のアプローチとして田邊氏は、「遊んでおもしろい」「要求仕様を満たす」「期限内に完成するもの」という3点とともに、実在選手が登場するゲームということで「強い戦術よりリアルな戦術」という判断もあったとのこと。

サッカーは展開が早いスポーツなため、そうした状況変化に対応可能なAIにする必要があったほか、WCCFは5分で1試合(リアルでは90分)が展開するため、18分の1の時間で「サッカーらしいプレイ感」を表現する必要があり、そこでも難しさがあったと語っています。単純に時間を18倍速にしたり、シュート成功率を18倍するわけにいかず、消極的なプレーを禁止したり、攻守バランスを変化させるといった手法を組み合わせることで「ふつうの時間の流れでサッカーを表現」できたとのことです。

WCCFで採用されたAIは、学習制御をおこなわない階層化されたエキスパートシステムで、「チームスタイル層(チームスタイルの選択。試合状況によって変化しない)」「タクティクス層(チームスタイルに基づきその瞬間のチーム戦術を選択)」「ロール層(戦術に基づいて個々の役割を決定)」「プレイ層(役割に基づいて行動を選択)」「振舞層(行動から振る舞いを選択)」の5階層で構成されているとのこと。各階層には独立した知識ベースと推論エンジンを持たせ、各層数百ずつのルールから構成されているといいます。エキスパートシステムを階層化したことでバランス調整を層ごとにできるようになり、分業化も可能としています。WCCFでは、100種類以上ある戦術がデザインされた強さの順に並ぶよう、AIの調整が行われているということで、学習を行わないという仕様には、ゲームならではの必要性も背景にあります。さらに、プレーに意外性や多様性が出るよう深みを持たせたり、チームの成長という要素を実現する上で、育成の進んでいない弱い時期のプレーがダメすぎに見えないようにという点にも注意が払われているとのことです。



今回の公開講座では、サッカーをプレーするAIという共通点で産と学の事例が示されましたが、産は魅せるAI、学は最適なAI(強いAI)という違いがよくわかる講演となっていました。

ゲーム開発者はユーザーに受け入れてもらえるものを作るべく動いており、ゲームが成立するならシンプルなスクリプトベースのものでも構わないのかもしれません。とはいえ、ゲーム開発者が複雑なことにチャレンジするときに、大学の蓄積しているさまざまな手法の知識は役に立ちそうですが、それを引き出すために、ゲーム開発者の側にも、ある程度のAIの知識が求められそうです。ゲーム開発では応答時間、使用可能なメモリやCPUリソースなど制約が多くあり、KILLZONEのように、ゲームに実装する前の先行研究と、実際のゲーム実装が大幅に違うものになることは十分あり得るでしょう。一方で、妥協できるところも多そう。キャラクタの特徴をAIだけで出す必要はなく、モデル形状やテクスチャ、モーションなどを変えればAIはそのままでいいケースもあるでしょう。

CEDECやGDCなど、ゲームのリリース後であれば発表をおこなう場もあり、こうした場で産と学が共同発表するといった可能性は十分にあると思われます。産学連携で効率的なAI開発がおこなわれるようになって、ゲームがおもしろくなることに期待したいですね。
《伊藤雅俊》
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