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Shoot It! - #054 警察はEスポーツでチームワークを学べ

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マルチ対戦のゲームマップとして考えてみてください。1人対8人のチームバトルを行います。刃物を持った凶悪犯(1人)が駅にやってくる。それを8人の警察官で捕まえます。マップは複線の線路とそれを挟むようにホームが2本。車両留置用線路が3、4本、駅舎はホームの上にある“橋上駅”というスタイル。改札の外の通路は左右それぞれがさらに分かれて階段で下りていく。これはチーム戦用のゲームのなかでも小さなマップだと言えます。凶悪犯は別の駅から携帯電話を発信したと解っているため、到着した列車から駅出口への脱出戦です。凶悪犯は付近が無警戒なら改札口から出ようとし、線路に降りて逃げようとはしません。凶悪犯側が駅エリアから脱出できたら勝ち、警察かそれを阻止すれば勝ちです。

警官側チームの視点で作戦を立ててみましょう。カウンターストライクのようなチーム戦ゲームの経験者ならすぐ解ることですが、これは圧倒的に8人の警官側チームが有利なルールです。チームリーダーは次のような配置にするでしょう。まずは改札内に2人。改札口がひとつですから、ここを通す時に倒せば勝利です。次に改札の外の通路の西口寄りに2人、東口寄りに2人を配置します。改札口を突破されたあとは脱出ルートが分岐していますから、その分岐の手前に2名ずつというわけです。これでもふたり余りますから、1人は監視モニターに貼り付きます。もうひとりは改札口外の中央で司令塔にします。

次に必要なアイテムを検討します。一般の通行人がいますから銃類は不可です。多少の不安はありますが、防御策として防弾チョッキを用意します。武器は柄の長い警棒がいいでしょう。そしてカラーボールも用意します。逃走したときにターゲットを特定するため、周囲の人々が早く異常に気付くためです。そして情報作戦。凶悪犯の似顔絵か写真、そして最近の髪型などの情報を入手。画像を受け取れる携帯電話。無線機はチーム戦では必須アイテムです。これで警察側の勝利は確実ではないでしょうか。

ただのゲーム好きがここまで考えられるというのに、2008年3月23日の常磐線荒川沖駅では警察側が敗北しました。まず配置がデタラメです。上りホームに1人。改札の内側と外側に1人ずつ。駅の外、西口ロータリー付近に2人、東口ロータリーの真ん中に1人、駅から直結したショッピングモール入り口に2人でした。上りホームの1人の役割も理解しがたいですが、ロータリーの真ん中の1名は何のためでしょうか。容疑者を見つけたとしても、バスやタクシーが行き交う車道を横断しなければ近づけません。事件はペテストリアンデッキで起きていますから、ロータリーからは何もできずに見ているだけだったと思われます。

手元の容疑者の写真は2年前の長髪。容疑者は短髪にしていました。ただし前日の昼頃に容疑者の友人が容疑者を目撃しており、容姿の情報は警察側にあったといいます。無線機は本部と連絡を取る警察側1人のみでした。これでは8人の連携など不可能です。きちんと連携できれば、改札口前の事件は想定外としても、その直後に駅の外で起きた惨劇は防げたはず。

不謹慎かもしれませんが、今回の事件をEスポーツにたとえれば「警察側チームの練習が足りない」のひとことに尽きます。前日に8人のメンバーが決まった時点で何度もシミュレーションをすべきでした。実際に動かなくても、机上で容疑者の行動を想定し、いくつかのパターンに合わせて、どのように動くべきかを決めるべきでした。警察署には柔道場や剣道場があるそうです。しかし剣道や柔道は1対1の勝負です。ゲームで言えば格闘ゲーム。決着が付くまで相手が逃げないというお約束の勝負です。しかし、実際に犯人と警官が1対1で戦った場合、もし警官が負けたら影響は甚大です。そのためにチームワークが必要なのです。

そこで提案です。警察はチーム対戦ゲームを使ってチームワークを強化してはいかがでしょうか。

世界でもっともプレイヤーが多いと言われる『カウンターストライク』は、テロ組織と対テロ特殊部隊のチーム戦ゲームです。私は日本予選や国際大会でカウンターストライクの試合をたくさん見てきました。トップクラスの戦いは見事なチームワークの連続です。攻撃側はマップに配置された建物やドア、通路などを検討し、侵攻ルートを決定する。防御側は複数のルートに対応できるような人員配置を工夫する。5人対5人の試合が多く、チームを2人と3人に分けたり、1人をおとりにして4人で敵の裏をかくという戦術もあります。限られた人数ですから采配が肝心です。『カウンターストライク』がただの射撃ゲームではなく「Eスポーツ」と認められている理由のひとつが、こうした「チームワーク」の要素です。5人対5人のチームワークがバスケットボールやフットボールの連係プレーに通じると、世界のプレーヤーが認めているわけです。

カウンターストライクの選手たちの鮮やかな連携プレイを見てきたせいか、荒川沖駅の警察官の動きが歯がゆく思えます。もちろんゲームと犯罪の現場は事情が違うでしょう。手先だけで動けるゲームと、生身の身体で容疑者を捕らえる現場は同質のものとしては語れません。それは重々承知の上で、やはり荒川沖の事件は作戦のレベルやアイテムの不備が問題だと考えられます。ゲームにしなくても、模造紙とペンでシミュレーションしてみれば、どんな情報が不足しているのか、どの要員配置がベストなのか解ったはずです。荒川沖事件でも相変わらず「凶悪犯がゲーム大会経験者だからゲームが悪い」という浅はかな論調が見受けられますが、そんなトンデモ論に向き合うよりも、ゲームが凶悪犯に立ち向かう方法を教えてくれるかもしれない、という可能性を検討すべきです。

ゲームのインタラクティブな要素、反復して何度でもチャレンジできる要素に注目した教育ソフトをシリアスゲームと呼びます。シリアスゲームとして脚光を浴びた作品としては、2005年に国連世界食糧計画が立案し、コナミが開発した『FOOD FORCE』があります。ニンテンドーDSで大ヒットした『脳トレ』に始まる知育ゲームもシリアスゲームと言えます。料理、ワイン、漢字、英語など、様々な知育ゲームがあります。

これらの“知識を学ぶゲーム”のほかに、様々な場面でどのように対処すべきか、という体験型シリアスゲームもあります。アメリカ陸軍は公式オンライン対戦ゲーム『アメリカズアーミー』を2002年から無料で配布しています。制作費用は700万ドルです。新兵志願者の減少対策として、陸軍を紹介する目的で作られました。実際の戦闘訓練とほぼ同じミッションをゲームで体験できます。軍だけでなく、ニューヨーク市消防局は、『Hazmat』というテロ発生時の防災活動をFPSライクに訓練するソフトをUnrealの改造ツールで開発しています。

米国はゲームをツールとしてとらえ、目的を持ってゲームにきちんと予算を投じている。
であれば、日本も治安維持に貢献するゲームに対して予算を立ててもいいと思います。

まあ、これもトンデモ論のひとつかもしれませんが。
《杉山淳一》

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